独断的数学関係読書録

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「リーマン予想の150年」黒川信重、岩波。(09.12.1)
  
 趣味と実益を兼ねて?複素解析関連の難問を時々横にらみしている。リーマン予想は学生時代からだから根が深い。真面目?にやりだしたのは近年で、2008年と、2009年に短い資料を作っている。今、ちらっと見てみると、何のことやら分からないが、交代ゼータ関数を2変数化(変数はsとx)すると、そのゼロ面は解析曲線Cになるが、Cと{x=1}との交わりがゼータ関数の自明でない零点となる、ということが分かっただけ。そのうち真面目に考えてみたい。リーマン予想を手がけるのが真面目かどうかは分からないけれど。
 この本の著者は、これからリーマン予想に向かう人に、Titchmarsh の "The theory of the Riemann zeta-function" を必読書として挙げている。私も、この第2版を持っているが、何が何やら。。。とにかく、無茶苦茶に計算だらけ。いずれにしても、私が出来るとすれば、2変数化しかあり得ないし、計算の無いやり方でしょうな。
 しかし、こういう難問を抱え込んでいると、人生が楽しいですわ。しかし本道(あくまでも私にとっての)に立ちふさがる高次元多様体の一意化の問題は専念してからもう2年近くになりますが、日暮れて道遠しの感がありますな。老人老いやすく学成りがたしですわ。はっはっは。
  


「複素関数」山口博史、朝倉書店、の5章:静電磁場のポテンシャル論。(09.11.14)
  
 研究が進まないので、息抜きに読んでみた。著者は研究仲間であるので、この手の話より難しい著者の講演をプロのゼミで度々聞いている。神戸大前期に、電気科の3回生に偏微分方程式を教えているが、関連があるかしらんということと、最近1回生の講義でもできるだけベクトル解析的な解釈を加えるようにしているため、読んでみた。1回生では偏微分でも重積分でも主として2変数関数で教える。変数の数が増えてもアナロジーがきくので。でも、物理工学的には、空間は普通3次元で、あと時間が入って4次元で(つまり3つの4変数関数からなる組である動ベクトル場で)考えるだろう。ここでは、ベクトル場の典型である電磁場を扱っているが、静電磁場であるので、3つの3変数関数の組である静ベクトル場を考え、基本的な理論を展開している。
 電磁気関係は物理的なことが先ず分かりたいので、色々本を買っている。この本は数学的なものであるが、物理的なことを知っている人には頭の整理ができると思う。数学でポテンシャル論という1ジャンルがあるが、物理とはちょっと離れているように思う。私はいつか物理もポテンシャル論もマスターして、コストゼロのエコ的な発電を夢見ている。私の構想している数学が形をなしてきたら、ぼちぼちとっかかりたいと思っているのだが。。。
 この本は応用数学基礎講座の一冊で、4章は岡の上空移行の原理を扱っている。応用数学にこの原理がどういう意味を持つかはよく知らないが、とにかく、ユニークな本であることは間違いない。
  


「シュタイン空間論」グラウエルトーレンメルト、宮嶋公夫訳、シュプリンガー。(09.10.1〜6)
  
 ドイツ語の初版を持っていたが、時期未だ、ということと、ドイツ語は斜め読みができないので、長らく机の上の本立てに、やはりドイツ語の同じ著者の「連接層」と並んでほこりをかぶっていた。今回日本語訳が出たので買って読み出したら面白い。要するに彼ら流のシュタイン空間論はほぼ完成している。触れていない部分もあるにはあるが。彼ら流というのは、つまりシュタイン空間とはパラコンパクト解析空間で定理Bが成立するもの、ということである。必要最小限の定義で、昔定義になっていたものは定理として導かれる。解析空間の定義も局所的に解析集合であるようなもので、定理Bも層のコホモロジーが消滅するという形で述べられる。まあ、代数的に扱われている傾向が強い。
  
 もちろんシュタイン空間ありき、で解析空間がどういう条件のもとにシュタイン空間になるかは触れていない。この問題は大問題で、岡潔が分岐リーマン域で探索して、グラウエルトなどがいろいろな怪奇現象を見つけて、ついに投げ出したといういわくつきの問題である。岡はC^n上の不分岐リーマン域で、藤田礼子は射影空間上の(それとは一致しない)不分岐リーマン域で擬凸状ならシュタインであることを示している。岡は分岐していても最初は似たようなことであろうと思っていたらしい。結局彼の愛用の解析的多面体で上空移行の原理を証明して終わっている。これから、解析空間は局所的に正規化できることが分かったのである。言い遅れたが、シュタイン空間は内分岐域として実現できる。
  
 私は、解析空間は(相対境界のない)解析的分岐域をチャートとするような、多様体の自然な一般化であるもので考えている。とりあえずは2次元では擬凸状域(定義が問題ではあるが)、正則凸状域、正則域の3者の関係について考えてみたい。2次元多様体でもすでに問題なのであるが。まあ、手が着くのは1〜2年先でしょうな。
  


「1次元代数的特異点とディンキン図形」卜部東介、遊星社。(09.9.25〜30)
  
 この本は複素1次元の代数的集合(2次元の中の)の特異点をミルナ−の方法によって調べている。もちろん特殊な例だけだが、それで十分なのだ。普通既約な場合はリーマン面になるのだが、その上の消滅サイクルというもの(特異点でつぶれてしまう)の交わり方を図式化すると、リー群の方で基本的なディンキン図形というもので記述される。リー群のディンキン図形とは何で、何で特異点のタイプによって色んなディンキン図形が出現するのかは私には分からない。特異点とリー群のディンキン図形は今のところあんまり関係無いものということになっているらしい。
  
 私がこの本を読んで有り難かったのは、{xy=c、cは複素数を動く}というまあいうと複素平面上のファイバー空間でc=0の時は{x=0}と{y=0}と分解し、cが0でないときは既約な面(C^* と同型)の扱いに困っていたのであるが、(0,0)を中心とする超球から、同じく(0,0)を中心とする小さな超球をくりぬいて、ファイバー空間をそこへ制限すると、ファイバーが2つの円環の位相的に自明な空間になるということが、直感的に良く分かったこと。
  
 それから特異点を持った一般なファイバー空間を皆さんがディンキン図形で何やらごちゃごちゃやっているのに目見当がついたこと。そのうちすましてディンキン図形を使った論文を書けたら御の字だ。どうもいけそうな感じがする。
  


「複素多様体講義」チャーン、シュプリンガー。(09.9.13〜24)
  
 複素多様体には閉じたものと開いたものとがあるが、閉じたものについては小平邦彦流の調和積分論と言われる、まあ言うとポテンシャル論を基礎に置くものがあるが、この本は英文の本の題名ではwithout potential theoryとなっている。方法は微分幾何である。それでどこまで出来るかであるが、この本は入門講義であるし、読んでみてあんまり理解できなかったが、結局、曲率というもので説明出来るものが中心になると思われる。開いた複素多様体ではまあ、スタイン多様体が主な研究対象になると思うが、それはヘルマンダ−によって偏微分方程式の方法(いわばポテンシャル論的に)で大体の道がつくられ、中野茂男によって、ヘルマンダ−の方法を元に微分幾何的に閉じたものと開いたものとが統一的に弱1完備多様体として扱われた。
  
 私は、多変数複素解析をやろうとしていて、解析空間に関することをA4で75枚ほどになる準備資料を作っているが、今のところその時期にあらず、ということで全て複素多様体のカテゴリーで研究をやっている。多様体論での結果が解析空間にはあてはまらない、という常識もあるにはあるが、私は多様体の理論を特別な場合として含むというような原理があるはずであると思っている。それが何かは分からないのであるが、常にそれを念頭に置いて、多様体でやっている。まあ、2〜3年先に解析空間を扱うようになれば御の字である。微分幾何的な方法は解析空間では原理的に通用しないはずであるが、まあ研究というものをあんまり理屈っぽく考えるのはいかが、ということでぼつぼつ一通りは見ておきたいと思っている。
  
 この本については、ベクトルバンドル、その特別な場合のラインバンドルについて多少なじみが出てきたという程度しか収穫はなかった。またそのうちに再読したいと思っている。私のように、遅れてやってきた人間には、あっちにふらふら、こっちにふらふらとハシゴしながら少しずつ勉強すること、研究に必要になったときに具体的なものから一般論を推測しながら定理を使わして貰うことによって意味を知る、といった風である。日暮れて道通し、なのであるが飲尿によって80歳まで研究できるはずと思っているので、ぼちぼちやりますわ。
  


「工学基礎 ラプラス変換とZ変換」原島博、堀洋一、数理工学社。(09.9.12〜16)
  
 後期フーリエ解析(神戸大)の講義はフーリエ級数・変換とラプラス変換とから成っている。フーリエの方は去年講義ノートを作り直したが、ラプラスの方を今年は作り直すつもりである。フーリエの方は工学的には電気・機械的にはスペアナ(スペクトルアナリシス)などに多用される。もちろん数学的には偏微分方程式などの解法に使われるのであるが。ラプラスの方は最近まで演算子法の数学的根拠みたいなもので、微分方程式を解く機械くらいに思っていたが、どうも電気回路や制御工学の方で多用するらしい。そこで、この本をネタ本にしようと思った次第。ただし、今までの講義ノートの骨格は変わらない。ついでに言っておくとZ変換はラプラス変換が連続的な時間における微分方程式を扱うのに対して、離散的な時間における差分方程式を扱うのに対応している。講義ではフーリエの方で、サンプリング定理を最後に説明するのであるが、要するにそれはディジタル信号処理に関する定理であるが、Z変換もディジタルシステムを扱うもので、電気・機械の人は多用するらしいが、シラバスには入ってないし、ちょっと触れる程度にする。フーリエとラプラスをよく理解しておけば何てことはない。講義もその種の学科ではあるのではないか、よく知らないけど。
  
 不思議と言えば不思議、当たり前と言えば当たり前なのであるが、フーリエもラプラスもワットによる蒸気機関に関係している。ワットの蒸気機関はイギリスに始まった産業革命の原動力になり、織機など軽工業に革命を起こした。産業革命は、次は重工業で、その次は原子力の利用で革命が起こっている。そして今、IT革命の最中なのであるが、またフーリエやラプラスがお役に立っている。もともとフーリエという人が自ら実験法則に基づいて数学的に熱方程式を導き、フーリエ級数(三角級数のこと)を使って解いたわけである(その辺のことは講義でやる)が、それは蒸気機関がしばしば加熱によって故障するという工学的要請があったのである。ラプラスの方であるが、要するに蒸気機関の回転数を制御するために、遠心調速機というものが考えらたのであるが、これが今言うフィードバックシステムで、未来の状態を入力だけでなく、現在の状態(たとえば現在の回転速度)も加味して制御しようというわけである。まあ近頃耐震制御に使われているダッシュポット的なもの。これを表現すると定数係数の微分方程式になり、ラプラス変換でやるといとも簡単に解ける(演算子法的に)わけ。もっとも蒸気機関の制御は遠心調速機では不十分で、その後様々な制御システムが考えられたのであるが。
  
 フーリエの方は実関数の範囲内でやれないことはないのであるが、ラプラス変換の原関数は初めから複素関数で、それにラプラス変換を施した像関数も実部が原関数の増加指数(それは実数)より大な右半平面で正則である関数である。右半平面で正則といってもその残りの部分はめちゃくちゃで何も分からないかというとそうではない。大概は所々極を持つ程度で、それはシステムの安定性などに関係するらしい。ラプラス変換はフーリエ変換をうまいこといくように、ちょっといじっただけで、親類のようなものであり、だからフーリエ解析として一緒に教えるのであろうが、ちょっといじったのが大いに有り難いことになっている。微分方程式を解く時、全体をラプラス変換すると像関数が簡単に求まるのはフーリエ変換とそう変わらないのであるが、元の関数に戻すためにラプラスの逆変換をやるが、大概公式の組み合わせで簡単に出てくるのである。私は教科書、ノート、その他何でも持ち込み可なので満点続出かと思いきや、それがそうでもない。教え方が悪いのか、試験直前の講義でやるところから出題するために練習不足なのであろうか。
  


「双曲幾何学への招待」谷口雅彦、奥村善英、培風館。(09.9.1〜9.11)
  
 以前に落書き帳に書いたが、朝一番に30分〜1時間位、数学関連書の読書をすることにした。やり始めて、これは良い習慣だと思った。若いときに専門外の読みたい本を買って未だに読めてない本も多い。頭書の本は10年以上前に買ってから棚晒しであった。  私は小林双曲幾何の研究もやっているので、内容的にかなり近い関係にある。どう近いかというと、小林擬距離は任意次元の任意の複素多様体に対して定義される。多少真面目に言うと、2点間の距離は、単位円板からその多様体への正則写像のchainを考えて、まあ言うと、2点を結ぶ幾つかの単位円板の像でつないだ、つまり折れ曲線みたいなものを多様体上で考えて(1つ1つの曲線分は単位円板内の線分に対応している)、その折れ曲線の距離を単位円板に戻した折れ線の各線分をポアンカレ計量で測って和をとって、あらゆるchainの下極限をとるのである。だからだ、と言っても分からないかもしれないのでもうちょっと説明する。
  
 ポアンカレは非ユークリッド幾何を単位円板において構成した。非ユークリッド幾何には楕円的(球面幾何はそう。三角形の内角の和>π。平行線は2点で交わる。直線とはスイカを真っ二つに切ったときに出来るが如き大円である。球面幾何は飛行機の航路を決めるのに使われたりする。出来るだけ最短距離にしたいため)なものと双曲的なものに分かれる。ポアンカレのは双曲的非ユークリッド幾何で、直線は単位円板内の半径色々の円弧で単位円周と直交するものとする。中心を通る普通の意味での直線は半径∞の円弧で円周と直交するから双曲幾何の直線である。円周上の点を中心、半径1の円弧も直線である。この意味での3本の直線で囲まれた三角形の内角の和<π。直線外の点を通る平行線は無数にある。高校のユークリッド幾何でおなじみの三角比などの公式にでてきた三角関数は双曲的三角関数に取って代わって、似たような公式がある。ついでに言うと三角関数や双曲的三角関数を複素変数にすると、非常に近しいものであることが分かる。
  
 で、そのポアンカレ計量というのは、曲線に沿って積分すると、曲線の長さがでるのであるが、単位円板内の2点間の距離は測地線における距離で、その測地線というのは2点を通るあらゆる曲線の距離の下極限を実現する曲線、つまり最短コースで、それは双曲的直線になる。そりゃそうですわな。そうならなきゃぁ〜話が進みませんわ。だから小林擬距離(擬距離というのは多様体上の異なる2点が距離0となりうるからである。そこで退化しているという)は単位円板における双曲幾何を写像で持ち上げて、さらにそのchainで貼り合わせるという方法によって高次元の任意の多様体にものの見事に双曲幾何を導入し、1変数関数論のピカールの定理の原理をうまく説明し、それを高次元化することに貢献し、今なお豊富に問題を提供している。
  
 1次元の多様体(リーマン面)では小林双曲的(退化集合無し)か全ての点で退化するかのどちらかであるが、4種類のリーマン面を除けば、あとは全て小林双曲的である。そして、その時は、小林双曲計量とポアンカレ双曲計量とは一致する。ちょっと話がアバウトになった。元々はじめから相当アバウトではあるが。
 高次元の場合は双曲的多様体はかなり多くの多様体をカバーしていると思うが、1次元のようにはっきりとこんなもん、といえるようにはなっていない。私の言う概双曲的(解析的な少ない集合でしか退化しない)多様体ならひょっとしたら、こんなもん、というのが言えるかもしれない。Griffithsの定理によると、たとえば射影的代数多様体から適当に代数的集合を除くと双曲的になる。2次元射影平面なら任意の4本の曲線を除くと、もうあと一本をうまくとって除けば双曲的になる。直線など単純でないものを除くと双曲的になるように除く本数は当然減るであろう。
  
 ちょっと我田引水的になったが、頭書の本では双曲的な多角形のタイル貼りに関して詳しく書いてあり、たとえば長方形の対辺を同一視したらトーラス(ドーナツの表面、あるいは別の言い方をすると穴が1つの浮き輪)が出来るように、一般に尖点のある穴が幾つかあいた浮き輪で浮き輪のゴムが破れている所が幾つかできる。尖点もないバスケットボールのゴムの破れが3つあるものは、その破れを引っ張るとパンツになる。ただし用足しの部分は無し。トーラスを作るのに2つの生成元からなる自由加群(ラティス)が絡んでいたように、この場合はフックス群というものが関係する。
  
 気が付いたことがまたあれば、その都度書き加えていくつもりである。間違いなどご指摘頂ければ幸甚です。
  

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