リスト 超絶技巧練習曲S.139(1851)
- オフチニコフ(EMI<88>)◎-○ ジャケット→
技巧、解釈、録音と三拍子そろっている。
特に解釈は正統の極みで奇をてらったところは全くない。個々の曲について言えば(その曲だけ入れたような盤で)もっと優れた演奏があるかもしれないが、どの曲をとっても欠点らしい欠点がなく、総合的にみれば一番お薦め。
(強いて言えば鬼火がやや弱く、これを横山盤あたりと入れ替えれば万全かも。ただ鬼火にしても他盤の多くと比べればまともな方。)
中でもマゼッパ、幻影、狩、夕べの調べが良い。
この曲集のリファレンス盤としてふさわしい。
- ゲキチ(Victor<92>)○-◎
出だしの前奏曲、2番、マゼッパあたりは解釈がかなり個性的で面白い(それ以降は割合普通になってくる)。全体的に表現の振幅が激しが、荒っぽいという感じではなく、細部までじっくり練っており(プレトニョフやポゴレリチタイプの演奏と言ったらいいか)、技巧も冴えている。全体的に速い部分はより速く、遅い部分はより遅くという感じだが、音楽性が豊かなのでゆっくりした部分でも弛緩したところがない。個性的演奏を求める人におすすめ。
- 横山幸雄(Sony<98>)○
鬼火が素晴しい。テンポが速くかつ重音部分でのタッチが安定していてぎこちないところが皆無。精緻という言葉が似合う。ショパンのOp.25-6も素晴しい出来だったが、こういう重音系や細かい動きの曲は彼の真骨頂という感じである(ただ左手がややおとなしいのがちょっと残念)。10番も左右交替音型がクリアで良い出来。
逆に夕べの調べのような連続和音系の曲は(解釈なのかもしれないが)ややもたついたというか足取りが重い感じのところがある。また音もやや硬い。
他にも表現がやや淡泊なところがあって、ここぞというところはもう少し派手にキメて、と思わないでもないが、全体的にはまずまず。
- L.ベルマン(Melodiya<63>)○
解釈は正統的で、技巧もオフチニコフよりさらにヴィルトゥオーゾ的というか豪快。特にダイナミックレンジが広い。録音がやや古いせいか、音が痩せているというかカンカンと金盥を叩くような音になっていて、音的な魅力に欠けるのが残念。そのせいか(個人的には)聴き疲れがする。
鬼火の前半終わりのところで重音ではなく単音で降りてくる(簡単な)方を弾いているのは珍しい。スピード感抜群の2番や、盛り上げ方が上手い幻影、冒頭の交互連打がクリアな10番が特によい。
これで録音が良ければなァ…という感じ。
- L.ベルマン(Melodiya<59>)○
有名な63年盤と比べると音が多少ボケ気味というかオフになっていて(というか63年録音がオン過ぎ)、音の迫力は減ったが、その分聴き疲れはしなくなった感じ。
演奏も音質の違いのせいか63年盤ほど豪快さを感じさせないが、それでも十分にヴィルトゥオーゾ的。
総合的に比べると(個人的には)一長一短というところ。
テンポ設定が63年盤と結構違っているものもあり、エロイカは最初はかなり遅めのテンポだが、終盤のダブルオクターヴのスピードは凄くなっている。
10番の冒頭音型のキレは相変わらず。
鬼火で単音下降の方を弾いているのも63年盤と同じである。
- ベレゾフスキー(Teldec<96>)○
ゲキチと同様、あるいはそれ以上に個性的。
通常思いきりアクセントを付けたりタメを作ったりするようなところをスッと通り過ぎたりして、肩透かしをくらうこともしばしば。
テンポ、表情(激しくなったり優しくなったり)等がよく変わるが、(シフラのような)いかにもといった感じではなく、むしろよい意味で意外性がある。
技巧的なキレもまずまず。
この1曲が特に良いというのではないが、全曲を通して聴いたときの面白さがある。
- デュシャーブル(EMI<98>)○
全体的にテンポがやたら速い。瞬間的なスピードと言うより、あまりタメを作らないでインテンポでどんどん先に進む感じ。緩徐系の曲はそれが激しく、夕べの調べ、回想などは演奏時間が他の人より2〜3分は短い。このCDは他に2つの伝説を入れているため収録時間を気にしているわけでもないだろうが(ちなみ2つの伝説もやっぱり速い)、せかせかしていると感じる人がいても不思議でない(私は個人的に速いテンポが好きなので気にならないが)。演奏はその速いテンポのマゼッパ、狩り、雪嵐などが面白い。鬼火ではベルマンと同様、単音で降りてくる方を弾いている。
- キーシン(RCA<95>)(5,8,10,11,12番のみ)○
5曲しか収録していないが、そのいずれもが、各曲を個別に聴き比べをしたとしてもベストを争うほどにレベルが高い。
全曲盤なら文句なく最上位にランクされるべき出来。
全体的に表現の幅が広くかつ自然。いわゆるエチュード的な演奏になっておらず、表現したいものがまず先にあって、技巧はあくまでそれを実現する手段という感じ。
雪嵐や夕べの調べのクライマックスでの盛り上げ方はかなりのもの。狩りもスケールがでかい。
鬼火も相当速いテンポで、録音のせいか細かい音型が多少クリアに聞こえないところあるが、それでもこの技巧は横山盤と双璧だろう。
それにしてもここまで弾けるなら全曲入れてくれればいいのに。
個人的には彼のマゼッパを是非聴いてみたかった。
- Le Guay(Festival D'auvers<94>)○-△
他の曲はまあまあなのだが、鬼火が、よくこれで録音する気になったな(あるいはプロデューサーが許したな)という出来。重音部分がぎこちないことこの上ない。それ以外の曲は、たまにぎこちなさが顔を見せるところもあるがそれほど悪くない。全体的にオーソドクッスかつすっきりした解釈で、オフチニコフ盤のスケールをやや小さくしたような感じ。超絶の中ではやはり鬼火が鬼門なのかもしれない。
- Goerner(Cascavelle<99>L)○-△
オーソドックスな解釈で技巧的にもよくまとまっている。
ライヴだが瑕はほとんどなく、これで編集が全くないとしたらたいしたものである。
逆にライヴ特有の熱気や緊張感のようなものもあまり感じられず(いたって冷静)、
ライヴのせいか細部の完成度が完全でないところもあることを考えると(鬼火など)、スタジオ録音にした方がよかったのではという気もする。
マゼッパは最後の2/4拍子のところがかなりのスピードで、ライヴにしては天晴れという感じである。
- L.Simon(BIS<86>)△-○
勢いがある表現で、全体的にはまずまずなのだが、この盤も鬼火がネック。
Le Guayのようなたどたどしさはないが、右手の重音はかなり怪しいというか、実は弾けてないと言ってもよいかも。
Le Guayのようにテンポを遅くしてもなんとか正確に弾こうとするのに比べると、誤魔化しているようでさらに心証が悪い。
と言っても鬼火は極端に悪い例で、他の曲はそれほど悪くはないのだが、でも細部の詰めに関して多少雑っぽいところがあるのは否めない。
10番などは悪くない。
- シフラ(EMI<58>)△-○
指回りは確かに関心するところもあるし、歌心もあるのだが、例によってシフラ節というか、意味不明の突然の強打や加速など、いかにも俗受けを狙ったような表現が鼻につく。
これで音がもう少しきれいならよいのだが、録音が古いせいかタッチがやや乱暴。少なくとも洗練という感じではない(これが彼の特徴と言えばそれまでだが)。
それでもマゼッパは彼独特のテンポ設定とアゴーギクが面白い。
ただ終盤の山場とも言うべき2/4拍子の部分(ここでどこまでテンポを上げるのかと期待するところ)でえらくスローなテンポをとるのは肩透かしである(余裕こいてトリルなどの編曲も加えているようだが、逃げか?)。
それでも凡百のぬるま湯的演奏よりは聴く価値があるだろう。
- F.ケンプ(BIS<2001>)△-○
攻撃的というのか、表現に勢いがあり、特に強弱のつけ方が上手い。ただどこか大味。
多少勢い任せになるというか、弾き飛ばし気味になるところがある(2番の急速なパッセージなど)。
鬼火ももう一つタッチの安定感に欠ける(多少誤魔化し気味)。
実演ならば多少荒っぽさがあっても勢いや自発性が大切だが、録音であればもう少し細部の緻密さを大切にして磨きをかけて欲しいところ。
1番やマゼッパの終盤ようにスピード感がもうひとつの曲もある。逆にエロイカは盛り上がりでの加速がなかなかのもの。
狩や10番も出来が良い。
- カンパネラ(Nuova Era<88>)△-○
ペダルを抑制しているせいか乾いた音で強弱、緩急の幅が小さい。技巧的にも洗練されているとは言い難く、良くいえば真面目だが、悪くいえば面白みに欠ける。ヴィルトゥオーソ的演奏とは最も遠いところにある。特に緩徐系の曲は単調で退屈な感じが否めない。鬼火はLe Guayほどではないがぎこちない。ただマゼッパは迫力はないが歯切れがよくて(普通は主題の両手交互に弾くところがペダルでモコモコした演奏が多いのだがそれがなくて)面白い。10番も交互連打が明晰。その他にも解釈が普通とちょっと違うところがあって(本人はそんなつもりはないのだろうが)そこらへんが不思議な魅力となっている。
- アシュケナージ(Decca<70>)(1,2,3,5,8,10,11番のみ)△-○
ベルマン盤ほどひどくはないが、これも音が痩せた感じで録音があまりよくない。演奏も鬼火、10番は非常に良いのだが、2番は多少もたついた感じで、風景、夕べの調べも少し単調というかだらだらした印象を受ける。狩りも少しのんびりしたところがある。
- A.パール(Arte Nova<99>)△
誠実というか堅実ではあるが、技術的に何かもう少し突き抜けたところが欲しい。ゆるいというか微温的。
ここぞというところのキレやスピード、メリハリがもっと欲しいところ。
解釈的には奇を衒ったとこらがなく、非常にオーソドックスなのだが、その分他盤と違う特徴というか面白みに欠ける。
廉価盤であり、この曲を知りたいと思う人が初めて買うには実はそれほど悪くないのかもしれないが。
- J.スワン(Agora<95>)△
デッドな録音のせいか、あるいはペダルを抑制しているせいか、タッチにやや潤いがたりない。
スケールやアルペジオ等で粒の揃いがもうひとつで、速い走句などやや勢いにまかせた雑な感じになっている。
ちょっとしたミスというか、スタジオ録音なのになぜ録り直さなかったのだろうと思う箇所もある。
鬼火は若い頃のライヴでは素晴しい演奏を残しているのに、このスタジオ録音ではその面影がほとんどないのが残念である。
- アラウ(Philips<76>)△
録音のせいもあるだろうが、多分ペダルのせいで音がかなり厚ぼったい。
響き過剰と言う感じ。しかも音の重心が低音方向にあり、テンポも遅めなのでモッサリした感じ。キレというものがほとんど感じられない。
よく言えば重厚でおおらかということだが、個人的には単にだらしなく聴こえる。(オケ好きの人などはひょっとしたらこういう音が好きなのかもしれない…。)
鬼火は出だしの半音階上行がまるでスローモーションを見ているかのよう。
- ボレット(Ensayo<70>)△
なんとものんびりした超絶技巧練習曲。まるでジェット機の時代にプロペラ機で飛んでいるよう。一時代前の演奏という感じがしてしまう(と言っても70年の録音だからベルマンより後なんだけど)。一応リスト弾きと言われているボレットだが、この曲集に関してはその良さはあまり見えてこない。
ゆったりしている分、音を十分に鳴らすことは長けており、あくせくしたところがないがいいのかもしれないが。技巧のキレはもうひとつで、鬼火などは少し苦しそう。
- ボレット(Decca<85>)×
70年の録音よりさらに遅いテンポ。初めは解釈かと思って聴いていたが、マゼッパまでこうも遅いと、単に速く弾けないだけとしか思えない。まあ、最盛期を過ぎたときの演奏だからしかたないのかもしれないが。1回試聴しただけ。
未記入盤
- シフラ(Hungaroton<54,56>)(3,4,5,6,7,10,11番のみ)
- 小菅優(Sony<2002>)
- Oldenburg(Brilliant Classics<90>)
- 上野真(Octavia<2003>)
- シャマユウ(Sony<2005>L)(ブログ記事)
- クルティシェフ(Orfeo<2007>)(ブログ記事)
各曲の演奏時間(ピンクは最短、黄色は最長のもの)
| 奏者 | I | II | III | IV | V | VI | VII | VIII | IX | X | XI | XII
|
|---|
| オフニチコフ | 0:59 | 2:07 | 5:32 | 7:31 | 4:08 | 5:34 | 5:14 | 4:55 | 9:20 | 4:29 | 8:55 | 5:14
|
| ゲキチ | 0:52 | 2:16 | 5:35 | 8:34 | 3:52 | 5:52 | 4:59 | 5:29 | 11:01 | 4:47 | 10:06 | 5:29
|
| 横山幸雄 | 1:03 | 2:06 | 4:41 | 7:30 | 3:19 | 5:20 | 4:53 | 5:10 | 10:21 | 4:19 | 9:09 | 5:26
|
| L.ベルマン<63> | 0:52 | 1:52 | 5:29 | 7:10 | 3:46 | 5:29 | 4:39 | 4:41 | 9:31 | 4:05 | 9:41 | 5:07
|
| L.ベルマン<59> | 1:00 | 1:48 | 5:39 | 7:28 | 3:27 | 5:43 | 5:17 | 4:36 | 9:42 | 4:13 | 9:25 | 5:01
|
| ベレゾフスキー | 0:43 | 2:21 | 4:03 | 6:33 | 3:24 | 5:52 | 4:31 | 5:00 | 9:25 | 4:22 | 9:20 | 4:50
|
| デュシャーブル | 0:46 | 2:12 | 3:58 | 6:24 | 3:29 | 5:04 | 4:51 | 4:28 | 7:45 | 3:54 | 7:32 | 4:55
|
| キーシン | | | | | 3:14 | | | 4:42 | | 4:51 | 9:03 | 4:50
|
| Le Guay | 0:51 | 2:17 | 3:56 | 7:45 | 3:54 | 5:17 | 5:06 | 5:07 | 9:50 | 4:36 | 8:56 | 5:18
|
| N.Goerner | 0:55 | 2:09 | 4:21 | 7:17 | 3:41 | 5:48 | 4:31 | 4:56 | 9:24 | 4:53 | 8:41 | 5:20
|
| L.Simon | 0:47 | 2:13 | 5:04 | 7:47 | 3:41 | 5:19 | 4:45 | 5:20 | 9:45 | 4:20 | 9:37 | 5:26
|
| シフラ<58> | 0:48 | 2:03 | 5:15 | 7:20 | 3:59 | 4:49 | 5:01 | 5:32 | 9:01 | 5:09 | 10:10 | 4:35
|
| F.ケンプ | 0:50 | 2:02 | 5:00 | 7:54 | 3:38 | 5:45 | 5:19 | 4:55 | 11:32 | 4:11 | 8:55 | 5:21
|
| M.カンパネラ | 0:51 | 2:19 | 5:06 | 7:38 | 4:09 | 5:44 | 5:07 | 5:18 | 11:01 | 4:27 | 9:03 | 5:52
|
| アシュケナージ | 0:51 | 2:09 | 5:50 | | 3:36 | | | 5:14 | | 4:47 | 10:50 |
|
| A.パール | 0:59 | 2:28 | 4:47 | 8:23 | 4:09 | 6:32 | 4:47 | 5:50 | 10:55 | 5:03 | 9:30 | 6:11
|
| J.スワン | 0:48 | 2:18 | 4:17 | 7:09 | 3:38 | 4:32 | 4:41 | 5:04 | 10:02 | 4:25 | 8:41 | 5:22
|
| アラウ | 1:02 | 2:13 | 4:12 | 7:32 | 4:17 | 5:58 | 4:47 | 5:01 | 10:53 | 4:41 | 8:45 | 5:57
|
| ボレット<70> | 1:00 | 2:45 | 4:40 | 8:05 | 4:10 | 5:45 | 5:14 | 6:17 | 10:55 | 5:03 | 10:18 | 5:23
|
| ボレット<85> | 1:02 | 2:56 | 4:48 | 8:55 | 4:31 | 6:21 | 5:29 | 6:29 | 10:52 | 5:29 | 10:42 | 6:04
|
| シフラ<54,56> | | | 6:17 | 6:41 | 3:57 | 5:48 | 5:23 | | | 5:30 | 12:14 |
|
| 小菅優 | 0:51 | 2:07 | 4:35 | 7:13 | 3:48 | 5:17 | 4:48 | 5:02 | 9:57 | 4:31 | 9:43 | 5:31
|
| Oldenburg | 1:09 | 2:18 | 4:15 | 8:15 | 3:42 | 6:19 | 5:15 | 5:14 | 11:38 | 4:18 | 10:22 | 5:09
|
| 上野真 | 0:56 | 2:21 | 4:34 | 7:24 | 3:59 | 5:14 | 4:37 | 5:10 | 10:01 | 4:51 | 9:05 | 5:14
|
| シャマユウ | 0:53 | 2:18 | 4:45 | 7:51 | 3:50 | 5:35 | 5:00 | 5:32 | 9:29 | 4:51 | 8:32 | 5:50
|
| クルティシェフ | 0:50 | 2:03 | 5:18 | 7:02 | 3:29 | 5:23 | 4:52 | 4:46 | 10:44 | 4:25 | 9:02 | 5:09
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