(日本国際音楽コンクールピアノ部門レポートその3〜1次予選第3日) 久島です。 第6回日本国際音楽コンクール、ピアノ部門の1次予選第3日の感想です。 本日の出場者は10名。以下各演奏者の感想を(演奏順)。 1. クリスティアン・ニクレス(ルーマニア、30歳) バッハのプレリュードは右手と左手が対等に鳴っている。フーガもまあ まあ。モーツァルトはミスタッチが少し目立った。ショパンのOp25- 10はペダルが過剰であるが、手の動きはスムーズ。ドビュッシーの第5番 「オクターブのための」はピアノが芯から鳴っていない。スクリャービン のOp.8-2には私にはよくわからない曲。 全体的にはあまり記憶に残っていない。 2. ニャムスレン・トゥメナンサン(モンゴル、20歳) エメラルドグリーンのドレスで登場。可愛らしい顔をしており、中学生だ といっても通用するかもしれない。しかし演奏の方も幼かった。 バッハは非常にゆっくりとしたテンポで、トリルなどの装飾音をまるで32 分音符で音符割りしていれているように入れる。子供っぽいけど新鮮な感 じはする。ペダルも一切使っていない。ただ、各声部を弾き分けるところ まではいっていない。 モーツァルトも同じような調子でテンポはゆっくりなのだが、さすがにメ リハリに欠ける。ショパンのOp10-8は、出だしのトリルをゆっくりと、し かも長くやったのがおもしろいが、音がやや弱い。ラフマニノフの音の絵 Op.39-6もゆっくりしたテンポで、かつペダルが少ないので、普段はよく 聞こえない音形もよくわかるというおもしろさはある。最後のドビュッシ ーは第7番「半音階のための」。これは少し技術に無理があった感じで、 聴いていて危なっかしい。 全体的には、新鮮さは評価できるが、技術的にはまだまだといったところ である。 # 彼女はその後、客席(私の3つ隣くらい)に来て後の演奏を見ていた # (もちろん着替えて)。 彼我の差を感じたのではないかな。 3. ピ・キョンスン(韓国、25歳) 黒いワンピースで登場。写真よりきれいである。 モーツァルトはテンポがややスローだったが、バッハはよい。フーガで左 手の16分音符の音形を意識的にノンレガートで弾いているところは好感 が持てる。 次のリストは超絶第12番「吹雪」。始まってしばらくして止まってしま い、弾き直すがやっぱりだめで、別のところから引き直すが、なんとそれ はもう終わりの方であった。途中を大幅カットしてしまったのである。中 頃の技術的見せ場ほとん弾かなかったということであり、これは大幅減点 は免れない。音はきれいそうだったので、非常に残念である。 気を取り直してショパンのOp.25-4。これはよい。あまり動揺はなさそうで ある。最後はラフマニノフの音の絵Op.39-9。これもまあまあであった。 全体的には決して悪くないのが、やはりリストの大幅カットが痛い。 4. マルケータ・ポスピーシロヴァ(チェコ、28歳) ステンドグラスのような派手なブラウスに黒のパンツ姿で登場。 バッハは速いテンポ。フーガでは対主題(主題が出てくるときに必ずそれに 伴って表れるテーマ)をこれまでで一番目立たせるように弾いており、また アーティキュレーションもよく考えている。完成度を高めれば最高のバッハ になりそう。意欲的である。 モーツァルトもメリハリ・表現意欲がある。ただし指がそれについていって ないところがある。 ショパンはOp.10-4。これはまずかった。右手と左手が交互に速い走句を弾く のだが、右手のときとと左手のときとで明らかにテンポが違ってしまう(右 手の方が走る)。最後のラフマニノフの音の絵Op.39-5は、テンポがややスロ ー。フォルテで叩きつけるに弾くのでデリカシーに欠ける。 全体としては、表現意欲があるのだが技術がそれに伴っていないという感じ。 5. ジュリアン・カンタン(フランス、20歳) バッハはペダルを一切使わず(足を床にどっかと付けている)すっきりあっ さりしている。フーガはグールド並みの速いテンポをとるがミスはなく、よ い出来。プレリュードのアーティキュレーションも的確。 次のショパンはOp.10-1。これもまずまず。例によって最後の方の1往復を 軽いノンレガートで弾いている(これが流行りなのか)。清潔な演奏といっ た感じ。モーツァルトも速めのテンポであっさりしている。 残るスクリャービンOp.42-5とリストの超絶第10番もよい。音がきれい( ちなみにYAMAHA)で技術も確かである。 全体的には、品があるというか、筋がよいというか、(偏見かもしれないが) フランス的明晰性とでも言おうか(やや覚めているところなど)。前回入賞 した同じくフランスのパスカル・ゴダールに似た雰囲気である。とにかく 今日いままで聴いた中では一番である。 (ちなみに彼は'94チャイコフスキーコンクールのディプロマ。) 6. アヴィラム・レイフェルト(イスラエル、24歳) バッハは細かな表情付けがあり、うまい(最高に近い)。モーツァルトも よい。(よい演奏は悪い演奏より説明するのが難しいと思う今日このごろ。) 次のリストの超絶第7番「英雄」もすばらしい。音の大きさ、美しさ、表情 の付け方、ちょっと非の打ちどころがないといった感じ。この曲を、単なる 技術のひけらかしではなく、本当に音楽作品として表現しているところが すごい。リストのエチュード賞があったら彼にあげたいところ。あえて欲を 言えば(前言に反するが)例のダブルオクターブでテーマを弾くところでは、 タメを作らないで(クリスタ・コヴァーチ嬢のように)ストレートに一気 に弾くのが私の好み。 スクリャービンのOp.8-4はよく知らない曲だが、よかったのだろう。 最後のショパンOp.25-10も非常によい。彼は身体も大きいが手も大きそうで、 このような曲は得意だろう。これも敢えてよくを言えば、この曲は出だしを ソロリとゆっくり始めて、それからすぐにトップスピードにもっていくので はなく(そういう人がほとんど)、(ポリーニのように)いきなりトップス ピードで始めるのが私の好みであるが。 全体として、この調子を維持できれば(それが結構むずかしい)、ファイナ ル進出は固いという出来であった。 7. ミルコ・ロヴェレッリ(イタリア、24歳) 最初のモーツァルトは、テンポが速いがよい。バッハはプレリュードで左手 がよく歌っている。フーガでは左手をスタカートで弾くところがよいが、多 多ミス(音ヌケ、ハズシ)があった。 ショパンのOp.10-4は多少クリアでないところがある。ラフマニノフは今回 初めて音の絵ではなく、前奏曲のOp.23-5。前奏曲の中でも有名なこの曲は 私も好きなのだが、演奏もまずます。力強さがあった。 最後はリストの超絶第8番「狩」。これもよかった。例の右手のオクターブ での跳躍も(多少テンポを落としたが)OK。 全体的にはまあまあといったところ。 8. 佐藤美香(日本、22歳) 彼女は4年前の第1回浜松国際コンクールに出場しており、そのときはセミ ファイナルまで行っている(といっても1次の次がセミファイナルだった けど)。そのときリストのピアノソナタを一所懸命弾いていたことが記憶に 残っている(去年の日本音楽コンクールでも入賞しているけど)。 最初のバッハはゆっくりしたプレリュード。左手が、右手ほど神経が行き届い てない感じ。フーガでは左手をノンレガートで弾くところがよいが、対主題 があまり出ていない(バッハについては聴き方がだいぶ厳しくなってきた^^)。 でも全体としてはまあまあ。 モーツァルトもよい。ミスがない。ショパンのOp.25-6もよい。 リストの超絶第12番「吹雪」では、1音だけ小指をはずしたが、後はほぼ 完璧に近い(この曲を1音もはずさずに弾くのはかなり難しいと思う)。 最後はドビュッシーの第12番「和音のための」。これもよかった。スピー ドと力強さがある。 全体としては技術が優れていることがよくわかる。ただ、「技術は優れてい るが、伝えるものがない日本人演奏者」という海外での風評をふと思い出 してしまったことも確かである。 9. アレクサンダル・セルダール(ユーゴスラビア、28歳) いきなりスクリャービンのOp.8-12「悲愴」を弾きはじめて、どぎもを抜か れる。演奏の方は、少々ミスがあったけど、まずまず。 次はバッハ。騒々しい(失礼)曲から一転して静かなプレリュードが流れる という、その落差がとても新鮮(なかなか考えている^^)。プレリュードで はほとんどすべてノンレガートで弾き、おもしろい。が、途中で止まってし まい、少し前から引き直した。これは痛い。フーガはよかった。 次のモーツァルトはよい。これまでの中でもっともダイナミックレンジが広 く、「聴かせる」演奏である。次のドビュッシー第11番「組み合わされた アルペジオのための」はまあまあ。最後のショパンOp.10-4はテンポが速く 多少クリアでないところがあったが、まずまずである。 全体的には個性的な演奏をするタイプである。 10. ジャンパオロ・ストゥアーニ(イタリア、30歳) 彼も4年前の第1回浜松国際コンクールに入賞しており、なかなかいい演奏 を聴かせてくれた。どのように成長しているか楽しみである。 最初のモーツァルトは普通。1ケ所ミスがあった。次ぎはラフマニノフの音 の絵Op.39-1。低音の強打がやけに耳につくのはピアノ(KAWAI)のせいか。 それに比べて高音のヌケがイマイチよくない。全体的にはよい。 次はバッハ(派手な曲の後にバッハを持ってくるのは手かもしれない)。プ レリュードでは左手がよく聞こえない。フーガも同様。また1ケ所ちょっと 怪しいところがあった。ドビュッシーの第11番「組み合わされたアルペジオ のための」は普通。最後のショパンOp.10-8は軽やかだがよく聞こえないとこ ろがある。 というわけで、全体的には不満な出来で、正直いって少し失望した(あるいは 私の耳が肥えたのかもしれないが^^)。 最後に、今日の中で、2次で是非また聴いてみたいと思ったのは 5. ジュリアン・カンタン 6. アヴィラム・レイフェルト の2人。ミルコ・ロヴェレッリがそれに次ぐといったところ。佐藤美香の 技術、アレクサンダル・セルダールの個性も悪くない。