(日本国際音楽コンクールピアノ部門レポートその4〜1次予選第4日) 久島です。 第6回日本国際音楽コンクール、ピアノ部門の1次予選第4日の感想です。 本日の出場者は12名。以下各演奏者の感想を(演奏順)。 1. ヴォイチェフ・スティシュ(ポーランド、21歳) バッハはテンポが速く、ストレートな表現。ペダルも使っていない。が、 あまりよくない。フーガでは少し危ないところも。モーツァルトは音が 少し無造作か。もっと音をよく聴いて欲しい。ショパンのOp10-4 はリズ ムが少し走る。ドビュッシーの第4番「六度のための」もイマイチ。 最後のラフマニノフ音の絵Op.39-9はミスも多く、ボロボロ寸前といった ところ。 全体的には、よくない。('93ルービンシュタインコンクール4位だそう だが。) 2. 鈴木弘尚(日本、17歳) 小柄で童顔。中学生と言っても通りそう(高校生だから当然か^^;)。 最初のバッハは明るく力強い。テンポも速く、プレリュードでは左手も good。フーガでは、多少ミスがあり、また高音をぶつけるところが気に なるが、全体的にはよい。 モーツァルトでは、中間部でテンポを落とすのが私の好みではない。 ショパンはOp.25-10。例によってソロリと始めるが、力強さがあり、ま あまあである。途中でよく聞こえない音もあったが。 次のドビュッシーは第3番「四度のための」。これはイマイチ。中間部 のクライマックス(かな?)、四度で急速に下降するところがもう一つ クリアでない。最後のラフマニノフ音の絵Op.39-6はよかった。力強い。 全体的には、まあまあというところか。 3. 鈴木謙一郎(日本、26歳) 彼は'91日本音楽コンクール第1位。このときは本選を見に行ったので 覚えているが、シューマンの交響的練習曲を遺作付きで演奏し、文句なし の1位(のように私には思えた)をとっている。遂に(万全を期してか な)国際コンクール登場である。 登場したときは、当時(および写真)より髪を短くして、ちょっと顔が変 わった印象を受ける。 最初のバッハは、テンポは速いが柔らかい音色。出来は普通か。次のモー ツァルトも普通。もうちょっと劇的な表現が欲しいような気もする。 次はドビュッシーは第6番「8本の指のための」。これもまあまあ。 その次のラフマニノフは音の絵Op.39-2。これはスローテンポな曲で、技 術的に難しいとは思えず、何の練習曲かと思ってしまう。1次予選では もっと技術をアッピールしないといけないのではないだろうか。 最後のショパンOp.25-10はよかった。例によってソロリと始めているが、 十分に迫力があり、中間部でも内声を浮かび上がらせていた。 全体的には(彼の実力を知ってるだけに)よいと思う。だがもう少し個 性を出して欲しかった。 4. 鈴木賢太(日本、27歳) バッハは強弱が不自然。プレリュードで引き直しもあった。トリルに元気 がない。モーツァルトもイマイチ。ショパンOp.10-8はまあまだが怪しい ところも。ラフマニノフ音の絵Op.39-5は叩き付けるなどデリカシーに欠け るし、もう少し表情付けが欲しい。 最後はスクリャービンのOp.8-12「悲愴」。前の曲と同じ雰囲気の曲で、し かも同じ調(ラフマニノフは「嬰ニ」でスクリャービンは「変ホ」だが) なので変化がつかず、選曲がよくない気がする(わざとそれを狙ったのか もしれないが)。演奏はまあまあだったが。 全体的にはよくない。 5. 高橋朋子(日本、23歳) バッハではフーガの内声がイマイチ出ていない。ミスも少しあった。モーツ ァルトも普通。というよりイマイチか。ショパンのOp.10-1はまずまずよか った。右手がクリアである。ドビュッシーの第7番「半音階のための」も 無難。最後のラフマニノフ音の絵Op.39-1は力強さに欠ける。この曲は彼女 向きではない気がした。 全体的にはあまり印象に残らない演奏だった。 6. 武田優美(日本、26歳) 濃紺のベルベットのワンピースで登場。なかなか似合っている。 バッハはペダルを十分に使い、ゆったりとしたロマンチックな演奏で、なか なかよい。モーツァルトもよい。音楽性が感じられる。次のドビュッシー第 2番「三度のための」も(あまり聴き慣れてない曲だが)よいと思う。ショ パンはOp.25-6(彼女は三度が得意なようだ)。これもよい。 最後はリストの超絶第8番「狩」。この曲により彼女の欠点が明らかになっ てしまった。音ヌケが悪いと言うか、音が芯から鳴っていない。また、ちゃ んと鳴っていない和音もある。ただし見せ場のオクターブの跳躍はテンポを 落とさずに(その前から落としていたという話もあるが)弾けていた。 最後のリストがなければかなりよい出来だったのだが...。(あるいは「鬼 火」のような曲にすればよかったのかも。ちゃんと弾ければの話だけど。) 7. 田中宏明(日本、25歳) バッハはこれまでで最も個性的だ。ジャズ風とでも言おうか(そういえば服装 も、黒いシャツに腕まくりなんかしている)、突然音が大きくなったり、速く なったり、フーガでは特定の声部を極端に強調したり、表情づけが激しい。 でもミスはない。日本人にもこういう演奏者が現れたかと感慨深かった。 モーツァルトはさらに個性的。強弱、テンポの変化が大きく、ユニークであ る。完全な様式違反だとは思うが。 次のショパンのOp.10-10は、ちょっと危ないところもあったがまあまあ。彼は こんな曲でも個性を出そうとしている。次のスクリャービンOp.8-2は例によっ てよくわからないが、多分よい。最後のリスト超絶第10番もまずまず。出だ しもクッキリしている。彼は個性だけでなく技巧もあることがわかった(圧倒 的というわけではないが)。 全体的にはやはりユニークさが印象に残った。 8. 安田正昭(日本、28歳) 長身で、ちょっと船木一夫に似ている(「私の隣の人」談)。 バッハは、プレリュードはまあまあだが、トリルのハマり具合がいまひとつ。 フーガはテンポが少し揺れる感じがした。モーツァルトは平凡。右手が三度で 急速に上昇していくところのキレがイマイチ。ショパンのOp.10-10はまあまあ。 しかし例によって右手の上昇下降パターンの部分はやはりダメ(ここがちゃん とクリアに弾けている人がいないのはなぜ?)。ドビュッシーは第3番「四度 のための」。やはり中間部で四度での急速下降がよくない。 最後はリストの超絶第4番「マゼッパ」。これはまずまずである。少しミスが あり、素晴らしいという出来ではないが、今回唯一のマゼッパが見られただけ で満足である。 # マゼッパの出来では、2、3年前の日本音楽コンクールの予選で塚田聖子 # (だったかな。名前はいいかげん)が見せた演奏の方がずっと上だった。 全体的にはあまりよくないと思った。 9. リサ・ユイ(カナダ、20歳) 東洋系のカナダ人である。可愛らしい顔をしている。 バッハのプレリュードはすっきりして、テンポもアーティキュレーションも ピッタリという感じ。フーガはテンポが走りそうになり、少し危なっかしい。 モーツァルトは普通。ショパンのOp.25-6「木枯し」はテンポが重く、キレと スピードがもっと欲しいところ。 続くラフマニノフは音の絵Op.33-6。軽いラフマニノフもいいのかもと思った。 最後のリスト超絶第10番は、健闘はしていたがスピード・力強さともいま ひとつ。途中で弾き直しもあった。 全体的にははやりまだまだという感じだが、最後の御辞儀でにっこり微笑んで いたのが可愛らしくて印象に残った。 10. クリストファー・ツォン(アメリカ、25歳) 名前でわかるように、中国系のアメリカ人である。 最初のモーツァルトはなかなか聴かせる。音楽性がある。次のバッハのプレ リュードでは、途中でスタカートにしたり、いろいろと変化をつけている。 フーガも、テンポは速い(グールドなみ)けど、アーティキュレーションに 変化をつけている。 続くリストの超絶第5番「鬼火」は、テンポが速い。多少音が聞こえない ところもあるが、これだけ速ければ仕方ないというか、もう少しテンポを 落としてもよいのでは、という感じ。でもそれを除けば演奏は非常によい。 # ちなみに演奏後、私の隣の人が本人に話を聞いたところ、ここのSteinway # (彼はSteinwayを選択)のアクションが気に入らない(奥に綿が入って # いるような感じ)と言っていたそうだ。 次のショパンOp.10-12「革命」も速めのテンポ。これもよいのだが、もう 少しテンポを落としてくっきり弾いた方がよいかと思った。最後のラフマ ニノフ音の絵Op.39-9は適当なテンポで力強い。 全体的には技巧と音楽性を兼ね備えたタイプで、よいと思う。 11. ジョヴァンニ・アウレッタ(イタリア、27歳) 目元がアンディ・ガルシアにちょっと似ている。 最初のモーツァルトは、やるな、と思わせる演奏。余裕を感じさせる。バッハ もゆったりとしたプレリュードでまずまず。フーガもまあまあ。 次のショパンはOp.25-10。今日は3人これを弾いたが、その中では一番迫力が あった。リストの超絶第10番もよい。出だしの和音の分離が最初は悪かった がその後は完璧。最後のラフマニノフ音の絵Op.33-6は、これまで聴いたこの 曲の演奏の中で最高によい。メリハリがある。 全体的には今後かなり期待できそうだ。 12. エルヴェ・ビヨー(フランス、31歳) モーツァルト、バッハはまあまあ(こればっかだな^^;)。ただしフーガでは 少し危ないところがあった。ショパンのOp.25-4は良い出来。ドビュッシーの 第9番「反復音のための」は、最初、反復音がクリアに分離よく出ていなか ったが、その後は(アクションの調子を掴んだか)とてもよい。最後のスクリ ャービンOp.42-5は力強さがあってよい。ピアノがよく鳴っている。 全体的にはまずまずといったところ。ピアノを鳴らすのがうまい。 総評として最後に、今日の中で、2次で是非また聴いてみたいと思ったのは 10. クリストファー・ツォン 11. ジョヴァンニ・アウレッタ の2人。エルヴェ・ビヨーがそれに次ぐといったところ。日本人は数が多 い割に(田中宏昭を除いて)個性に乏しい。