(日本国際音楽コンクールピアノ部門レポートその5〜1次予選第5日) 久島です。 第6回日本国際音楽コンクール、ピアノ部門の1次予選第5日(最終日) の感想です。1次の結果もあります。 本日の出場者は7名。以下各演奏者の感想を(演奏順)。 1. ショーン・ボトキン(アメリカ、26歳) 東洋系の顔立ちをしたアメリカ人。雰囲気がチャーリー・シーンに似てな くもない(似てないか)。彼は前回のこのコンクールにも出ていて、その ときは2次で落ちてしまったのだが、私はそれに納得がいかなかった(及 川浩治よりも良かったと思った)。今回は頑張って欲しいものである、と 思いつつ聞いていたのだが...。 最初のバッハはプレリュードがいまひとつ。フーガはまあまあ。モーツァ ルトはテンポが遅めで、多少ダレ気味。ショパンのOp.10-7もイマイチ。 音がよく聞こえてこない。残りのスクリャービンのOp.8-10とラフマニノフ 音の絵Op.39-1はまあまあ。 というわけで、前回わたしは彼を買いかぶり過ぎていたのかと思ってしま った。 2. ウィリアム・チェン(オーストラリア、23歳) 松尾貴史(キッチュ)似の中国系オーストラリア人である。 最初のモーツァルトは、くぐもった音で雰囲気が出ている。次のバッハは テンポといい、アーティキュレーションといい、グールドのコピーのよう なのであるが、それをするだけの技術が伴っていない。テンポが揺れるし ミスも目立つ。グールドの真似をするのはそれほど容易ではないというこ とか。ショパンはOp.25-11「木枯し」。これもテンポがやや揺れる(難し いところで遅くなる)し、キレもイマイチ。ドビュッシーの第3番「四度 のための」もあまりよくない。最後のラフマニノフ音の絵Op.39-5も、間 延びした感じである。 全体的には、よくない。 3. チョ・ジェヒョク(韓国、24歳) 彼は去年の第2回浜松国際コンクールに出ている。そのとき1次でバッハ の平均律第2巻第1番とベートーヴェンのソナタ第4番Op.7などで素晴 らしい演奏をしたのだが、なぜか1次で落ちてしまった。私は今でも納得 いかないのだが、今日の演奏を聞いてその思いを一段と強くした。 最初のモーツァルトから良い。スケールやアルペジオなどにキレがある。 次のショパンはOp.10-8。スピード感がある。その次のバッハではフーガ で1ケ所ミスしたほかは、2日目のイ・ヨンキュに迫る出来。生き生きと したところは浜松国際のときのバッハをホーフツとさせる。 スクリャービンのOp.8-10も素晴らしい出来。ショーン・ボトキンの演奏 よりも上である。最後のリスト超絶第6番「幻影」が圧巻である。感動で 震えが来てしまった(クライマックスのダブルオクターブでの急速下降の ところ)。19世紀のリスト自身のリサイタルで、御婦人方が感動のあま り失神するという気持ちがわかるような気がする。 というわけで、素晴らしい演奏であった。 4. ピョートル・ドミトリエフ(ロシア、21歳) 彼も去年の第2回浜松国際コンクールに出ている。そのときは実力未しと 思ったが、若いだけにどれだけ成長しているか楽しみである。 バッハは、プレリュードはあっさり、フーガがゆったりとしている。全体 的にはよい。音色に変化があればさらによいと思った。次のモーツァルト もよい。ショパンはOp.10-1。右手の1音1音が大きくはっきりで出ている ところがよい。むやみに速くせずに落ち着いたテンポをとっている。少し 少しルバートをし過ぎるところがなきにしもあらずだが。スクリャービン Op.42 -5もよいと思う。最後のリスト超絶第8番「狩」は、今回この曲を 弾いた中では一番の出来である(といっても4人しか弾いてないが)。音 が大きく迫力がある。ミスは多少あったが、跳躍のところもまずまず。 全体的には非常によい出来だ。浜松のときよりずっと成長している。 # 私の隣の人は、アメリカのヴァン・クライバーンコンクールを毎回見 # に行っていたそうだが(その人は数年前までアメリカのフォートワース # に住んでいたらしい)、そこでは彼のようにバリバリ弾く人が端から出 # て来るそうだ(タラソフが予選で落ちるぐらいだからな)。うらやまし # い。 5. バベッテ・ドルン(ドイツ、29歳) モーツァルトはなかなかよい。次のショパンOp.10-4は手堅いテンポ(やや 重いかも)。少しミスもあり、圧倒的な技巧を持つタイプでなない。バッハ はトリルが綺麗。プレリュードが特によい。残るドビュッシー第6番「8本 の指のための」とラフマニノフ音の絵Op.33-6も立派な演奏。 全体的には、音楽性もあり、悪くないのだが、インパクトに欠けるという ところ。 6. カルロ・グアイトーリ(イタリア、25歳) モーツァルトは少し雑なところもあるが、まあまあ。バッハはゆったりした テンポで、いわゆるロマンチックなバッハ。高音を叩きつけるのが少し気に なる。ショパンのOp.10-8はイマイチ。ドビュッシーの第11番「組み合わ されたアルペジオのための」は普通。少し雑か。最後のリスト超絶第10番 はルバートが多く、また例の冒頭音形の分離がよくない。 というわけで、全体的にはあまりよくない。 7. ラファエル・グエラ(メキシコ、32歳) 今回の最年長。頭も見事(失礼!)に禿げ上がっている。 バッハはプレリュードで止まりかける。フーガではバスの16分音符の音形 をスタカートにするのはよいのだが、安定感に欠ける。モーツァルトはよく 覚えていない。スクリャービン、ショパン、ドビュッシーはまあまあだが あまり印象に残っていない。 全体的には(風貌以外は)あまり印象に残っていない。 最後に、今日の中で、2次で是非また聴いてみたいと思ったのは 3. チョ・ジェヒョク 4. ピョートル・ドミトリエフ の2人。 全体として、予選5日間を聴きとおして、是非2次でまた聴きたいと思った のは以下の9人(ちなみに2次出場者数は決まっていないが、だいたい半分 弱が残る)。 ドミトリ・クリヴォノス イ・ヨンキュ 水村さおり ジュリアン・カンタン アヴィラム・レイヒィルト クリストファー・ツォン ジョヴァンニ・アウレッタ チェ・ジェヒョク ピョートル・ドミトリエフ さらに以下の人もまあまあだと思った。 アーグレ・ヤヌリャヴィチューテ  コヴァーチ・クリスタ 中井恒仁 中尾純 ミルコ・ロヴェレッリ  佐藤美香 アレクサンダル・セルダール 鈴木謙一郎 田中弘昭 エルヴェ・ビヨー そして実際の結果は.... 以下の20人が1次予選突破。 キム・キョンクォン 小林由佳 小杉真二 コヴァーチ・クリスタ オラフ・ラネリ 南雲竜太郎 ジュリアン・カンタン アヴィラム・レイヒィルト ミルコ・ロヴェレッリ   佐藤美香 鈴木弘尚 安田正昭 クリストファー・ツォン ジョヴァンニ・アウレッタ エルヴェ・ビヨー  ショーン・ボトキン チェ・ジェヒョク ピョートル・ドミトリエフ バベッテ・ドルン カルロ・グアイトーリ なんということか、 ドミトリ・クリヴォノス イ・ヨンキュ 水村さおり の3人が落ちてしまった。残念というか納得いかないというか、これで以降 の興味が2、3割減ってしまったという感じである。「どうしてこの人が...」 と思える人が通っているのに(敢えて誰とは言わないが)。でもそれが コンクールというものなんでしょう。 # 怒って審査員をやめてしまう人もいる位だから...。 気を取り直して、1次の課題曲であるエチュードの選択状況の傾向を見てみると、 選択者数 ラフマニノフ 29 ドビュッシー 26 リスト 23 スクリャービン 16 バルトーク 0 ストラヴィンスキー  0 で、ラフマニノフが1位となった。上位4者はけっこう拮抗している。バルト ークとストラヴィンスキーは0だがこれはもっともだと思う。ストラヴィ ンスキーのエチュードはかなりマイナーだし、バルトークのエチュードは私も 聴いたことがない。 次に細かい曲の選択傾向だが、まずショパンは次のようになる。 (なお、選択できない曲ははじめから除いている。) 前回(1992) 今回(1995) -------------------------------------------- Op.10- 1 4 8 - 2 2 0 - 4 5 8 - 5 4 2 - 7 2 1 - 8 8 7 -10 3 5 -11 0 1 -12 1 1 Op.25- 2 0 0 - 3 0 0 - 4 1 1 - 5 3 0 - 6 5 5 - 8 0 1 - 9 1 0 -10 5 5 -11 8 2 -------------------------------------------- 52 47 傾向としては、偏りが大きくなったことが言える。Op.10-1,4,8,10、 Op.25-6,10に人気があるようである。比較的難しい曲が選ばれるように なったのかな。ただしOp.10-2が今回0になってしまったけど(この曲の まともな演奏を実演で聴いたことがないので、是非次回は弾いてほしい ものである)。またOp.25-11(木枯し)が減ったのも今回の傾向である。 Op.10-1は難易度の割に聴きばえがするので、狙い目かもしれない。 次はリストの傾向。 前回(1992) 今回(1995) -------------------------------------------- 2 1 0 4「マゼッパ」 1 1 5「鬼火」 7 1 6「幻影」 1 1 7「英雄」 3 2 8「狩」 4 4 9「回想」 0 0 10 14 11 12「吹雪」 5 3 -------------------------------------------- 36 23 とうわけで、今回の第10番への集中は明らかである。鬼火は激減して しまった。第10番にどうしてこうも人気があるのかは私にはよくわから ない。また全体的にリストの選択者が減ってしまった(悲しい;_;)。 次はドビュッシーの傾向。 前回(1992) 今回(1995) -------------------------------------------- 1「5本の指」 1 3 2「三度」 0 1 3「四度」 0 5 4「六度」 0 1 5「オクターブ」 3 3 6「8本の指」 1 3 7「半音階」 1 3 8「装飾音」 1 0 9「反復音」 0 1 10「対比」 0 0 11「アルペジオ」 0 3 12「和音」 5 3 -------------------------------------------- 12 26 リストが減った分はドビュッシーが増えたようだ。割と分散しているのが ドビュッシーのエチュードの傾向(どの曲も出来がいいのだろう)。四度 の選択者が急に増えた感じがした。 次はラフマニノフ。 前回(1992) 今回(1995) -------------------------------------------- Op.33- 6 3 3 Op.39- 1 5 8 - 2 0 1 - 3 2 1 - 4 0 0 - 5 7 5 - 6 2 3 - 7 2 1 - 8 1 0 - 9 7 5 その他 5 2 -------------------------------------------- 34 29 予選を聴いていたときはOp.39-1,5,9に集中していたような印象があった が、確かにそうである。 最後はスクリャービン。 前回(1992) 今回(1995) -------------------------------------------- Op.8 - 2 0 3 - 4 0 1 -10 2 3 -12 5 4 Op.42- 5 7 5 その他 8 0 -------------------------------------------- 22 16 スクリャービンのエチュードは結構たくさんあるが、選ばれるのは少数で ある。今回は5曲に固まっている。 というわけで、選択曲の傾向分析は以上。 今後は2次予選のレポートもする予定です。