(日本国際音楽コンクールピアノ部門レポートその6〜2次予選第1日) 久島です。 第6回日本国際音楽コンクール、ピアノ部門の2次予選第1日のレポート です。 2次予選の課題曲は (1) ベートーヴェン:任意のソナタ1曲 (2) (委嘱作品)一柳彗:ピアノのための想像の風景 (3) 以下の作曲家のソナタ以外の作品を1曲または複数曲 メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、フランク、ブラームス、 スクリャービン、ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフ (本当はもう少し細かい曲指定があるけども省略) で、50分以内にまとめる。 # リストがはずされているのが不満。 当日会場に行ってみると、2次が楽しみだと思っていた演奏者のうちの一人 であるジュリアン・カンタンが、なんと指の痛みのため欠場という知らせ。 ショック!。これで以降の興味がまた1〜2割減ってしまった感じ。 本日の出場者は7名。以下各演奏者の感想を(演奏順)。 1. キム・キョンクン(韓国、19歳) 1次予選では指の動きがよかったが、音楽性では疑問を持ってしまった彼で ある。最初はベートーヴェンの「熱情」ソナタOp.57。ベーゼンドルファ ーの骨太で時代楽器のような響きがなかなかベートーヴェンに合っている。 第1楽章ではトリルの決まり方が今ひとつか。もう少し丁寧さが欲しいとこ ろ。第2楽章は音があまりきれいでない。第3楽章は、コーダで低音部の和 音を2つ強打するところの音が充実している。全体的には迫力はまあまあだ が、完成度がイマイチという印象。音の出し方が無造作な(よく言えば神経 質でない)ように感じた。 次はブラームスの、パガニーニの主題による変奏曲第1巻Op.35-I。これは 多少のミスはあるがよい出来である。オクターブを含む和音の響きが力強い (この曲は彼向きだ)。最後の第14変奏とコーダで少しミスが目立ったの が惜しい。 次はショパンのバラード第1番Op.23。これはあまりよくない。技巧だけが 目立ってしまって、曲としての感動が薄い気がした。ミスもやや多い。( ちなみに前の2曲では曲の後に拍手が入ったが(コンクールでは普通、途中 で拍手は入れない)、この曲の後ではなかった。) 最後は、委嘱作品の一柳彗の「ピアノのための想像の風景」。はっきり言っ て、私にはよくわからない曲(もちろん今日初めて聴く)。前衛的(もう前 衛でないのかな)でformless、技術的な見せ場もなく、審査員は何を基準に 評価するのだろう。まさか楽譜通りに弾いてるかチェックするわけではない だろうが(審査員は楽譜を見ながら聴いている)。で、一応印象だけを述べ ると、ベーゼンドルファーは高音の響きがあまりきれいでなく、現代曲には 向いてない気がした。演奏の方はよくわからない。 全体的には、1次と同じ印象である。 2. 小林由佳(日本、24歳) 最初はベートーヴェンのソナタ第32番Op.111。第1楽章はいまひとつ。 和音に力強さが足りず、あまり魅力的でない。手があまり大きくないせいか、 音に余裕が感じられないのである。また、左手の細かい動きも今一つである。 第2楽章はよい。丁寧で音がきれいである。 次は一柳彗の「ピアノのための想像の風景」。よくわからない曲ではあるが、 キムに比べなめらかさがあるという印象。多分彼より上ではないか。 # 一柳彗のこの曲については、私はほとんどコメント不能であるので、 # 以降の演奏者についてはコメントしないことにします(^^)。 次はショパンの幻想ポロネーズOp.61。この曲は少し苦手であるが(ポロネ ーズの中の最高峰であるらしいが)、平凡な演奏という印象。技術的なキレ もいまひとつである。 最後はスクリャービンの幻想曲ロ短調Op.28。これはなかなかよいと思った (私はスクリャービンにはあまり詳しくないが)。 全体的にはやはり、「いまひとつ」である。 3. 小杉真二(日本、25歳) 一柳彗の委嘱作品に続いて、ベートーヴェンのソナタ第26番「告別」Op. 81a。1次では、テクニックがいま一つであるという印象であったが、2次で もそれを払拭するには至らなかった。技巧に少し不安がある。もう少し安定 感が欲しい。第1楽章のポイントである、スタカートでの右手の和音の急速 な上昇のところは一応弾けていたが...(ここはプロでもあいまいになること が多い)。また、表現意欲はある。 最後はラヴェルの夜のガスパール。オンディーヌは途中で引き直しをした ように見えたが、気のせいかも。スカルボは、悪くはないのだが、やはりCD等 で聴き慣れている名演に比べると完成度が低い(当たり前か)。また、この 曲は日本音楽コンクールで毎年といっていいほど聴かされているが、そこで の演奏に比べてもさほどいいという感じはしない。普通と言うところか(平 凡と言うにはかわいそう)。 4. コヴァーチ・クリスタ(ハンガリー、25歳) 1次のリストで佳演をしたクリスタ嬢。2次ではリストが弾けないので残念 であろう。委嘱作品の後、ベートーヴェンのソナタ第26番「告別」。第 1楽章はイマイチ。例の和音の上昇のところがあまりクリアでない。第3楽 章はまあまあ。 次はブラームスの奇想曲嬰ヘ短調Op.76-1。この曲はよく知らないので省略。 次はショパンのバラード第1番Op.23。これはまずまずである。途中の右手の オクターブの急速上昇のところはよかったが、最後のクライマックス方で少 しミスがあった。 最後はショパンのアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズOp.22。こ れもまあまあである。音がきれいで(ちなみにピアノはYAMAHA)、ポロネー ズのリズムも決まっている。強いて言えば、途中、短調になったところの左 手のオクターブをもっとバリバリ弾くのが私の好みであるが(ワイセンベル クのように)。 全体的には、悪くはないといった感じである。強く推すほどでもないが。 5. オラフ・ラネリ(イタリア、24歳) 最初はベートーヴェンのソナタ第3番Op.2-3。彼は1次ではそれほどよい とは思わなかったが、これを聴いて認識を改める必要があると思ったほど素 晴らしい演奏であった。冒頭の三度のトリルもきれいに決まり(プロなら当 然か)それ以後もほとんどミスらしいミスがない。個性はそれほど出ていな いが、音楽性はあり、技術も確かで余裕が感じられる。 途中に委嘱作品を挾んで、最後のブラームスのパガニーニの主題による変奏 曲第1&2巻Op.35-I,II。これは最初のベートーヴェンに輪をかけて良い。 技術が完璧な上に緩徐変奏では音楽性も出ている。第1巻が終わると休みな くすぐ第2巻へ。第2巻の途中あたりからは固唾を飲んで見ていたが、終っ たとたんに拍手の嵐。彼は技巧で勝負するタイプではなく、音楽性や個性で 勝負するタイプだと思っていたが、とんだ思い違いで、実際は大したテクニ シャンである。 これまでの演奏者の出来からして、これで彼が2次を通過しなかったら、聴 衆が黙っちゃいないという感じである。 6. 南雲竜太郎(日本、27歳) 最初に委嘱作品の後、ベートーヴェンのソナタ第30番Op.109。まずまず 立派な演奏である。次はメンデルスゾーンの厳格な変奏曲Op.54。これも真面 目な演奏で、よいと思う(彼の演奏は一言で言って真面目なので、このよう な曲は合っている)。最後はバルトークの、ハンガリー農民の歌による即興 曲Op.20。この曲はあまり聴き慣れていなかったのでよくわからないが、多分 よいのであろう。 # バルトークでも、組曲Op.14か「戸外にて」なら結構好きなのだが...。 # (バルトークはこれらとエレジーOp.8bの4曲のどれかから選ぶことにな # っている)。 全体的には、真面目で立派だと思うのだが、もう少し自由や個性が欲しいと ころ。 7. アヴィラム・レイヒェルト(イスラエル、24歳) 本日一番期待していた演奏者である。1次では、(この調子なら)ファイナ ル進出も固いと思わせたが、2次ではどうであろうか...。 ベートーヴェンはソナタ第30番Op.109。音が柔らかく、曲に合っている。 第2楽章では、途中まで、各変奏の繰り返しを全部行っていたので、いいの かなと思ってしまった(規定では繰り返しは原則として行わないことになっ ている)。あと、少しミスが気になる。数は多くないのだが、肝心のところ で音を完全にハズすことがあって、ドキドキしながら聴いていた(彼には是 非、上に行ってほしいと思っていたので)。でも全体的には南雲君より上だ と思う。 次はフランクの、前奏曲、コラールとフーガ。実はこの曲は聴き慣れていな いので、あまりはっきりしたことは言えないのだが、雰囲気はよいと思った。 全体的には、よいと思うのだが、1次ほど断言できないのがつらいところで ある。 最後に、今日聴いた中でセミファイナルに進んで欲しいと思ったのは、 5. オラフ・ラネリ 7. アヴィラム・レイヒェルト の二人。オラフ・ラネリは2次で完全に認識を改めた。アヴィラム・レイ ヒェルトは1次の強烈な印象がまだ残っている。