(日本国際音楽コンクールピアノ部門レポートその8〜セミファイナル第1日) 久島です。 第6回日本国際音楽コンクール、ピアノ部門のセミファイナル第1日(11/20) のレポートです。 セミファイナルは各自が自由に選んだ曲でリサイタルプログラムを構成する。 ただし 1950年以降に作曲された作品を少なくとも1つ含んでいなければなら ない。時間は60以上70分以内。 セミファイナルの出場者は10名(審査は2日間にわたって行われる)。 本日の出場者は5名。以下各演奏者の感想を(演奏順)。 1. オラフ・ラネリ(イタリア) 2次ではベートーヴェンのソナタとブラームスのパガニーニ変奏曲で素晴らし い演奏を披露した彼である。 最初はショパンのソナタ第2番Op.35。ピアノ(KAWAI)のせいか、残響がどうも 多い。悪く言えば風呂場で聴いているような感じで、音の輪郭がはっきりしない。 別のピアノ(SteinwayかYAMAHA)を使って欲しい気がした。 演奏は、第2楽章で、和音で急速に上昇するところ(と言ってもわからないか) が、ペダル過多のせいか、レガートになっているところが少し違和感を感じたが、 まあ平均点というところ。2次の素晴らしい出来からすると少し不満である。 次はラヴェルの「夜のガスパール」。これも音の輪郭がはっきりしない。微温 的な感じ。ラヴェルでは、もっと硬質的なピアノの響きというか美しさを聴か せて欲しい。Steinwayで聴いてみたらまた印象が変ったかも。演奏の方は、スカ ルボでテンポがゆっくりめであるなど、それほどよいとは思えない。(速ければ よいというものではないが、遅めならそれなりに、細部まで神経の行き届いた緻 密な演奏をして欲しい。たとえばリフシッツのミラノ・ライブのように。) 次はベリオの「3つの牧歌」から 水のピアノ(1965)と火のピアノ(1989)。 これは初めて聴く曲だが、前衛的ではなく、わかりやすい曲である(拍が感じら れるし、調性もあるようだ)。ただ技巧的な曲ではなく、叙情的ではあるが、あ まりおもしろくない。それぞれ3分ぐらいの曲。審査員はやはり楽譜を見ながら 聴いている。 最後を締めくくるのは、リストの「ドン・ジョヴァンニ」の回想。これは立派 な演奏だった。スケールが大きいというわけではないが、真面目に弾いている。 去年の浜松国際コンクールで優勝したヴィクトル・リャードフが予選で弾いた 「ノルマ」の回想のような、鬼気迫るというか、まさにブラヴーラという演奏 からすると、少しもの足りない気もしないでもないが、ミスもほとんどなく(中 頃にある有名な両手の跳躍はすこしハズした気がするが)確実な演奏である。 演奏後はまたも拍手の嵐で、カーテンコールを要求するものまであった(出て来 なかったが)。 だが、私の印象では、最後で盛り返したものの、それまでの演奏はちょっと不満 である。 2. 南雲竜太郎(日本) 最初はハイドンのソナタ変ホ長調Hob.HVI-52。ややおとなしい、すっきりした演 奏。ダイナミックレンジが小さい気がした。フォルテのところでもあまり強打し ないのは、私には少し物足りない(好みでない)。 次はシューマンの交響的練習曲Op.13(遺作つき)。遺作をところどころに混ぜ ている。 # ちなみに私は遺作を全く入れない方が好き。遺作のところで流れが途切れてし # まう気がする。シューマンがわざわざ入れなかった(よい場所がなかった?) # のだから、入れなくてよいと思うのだが。 演奏の方はあまりよくない。少なからぬミスがあり、完成度が今一つ。第3練習 曲(右手がスタカートで分散和音的にを素早く動くやつ)では最初の方で右手の 音がよく出ていない(2回目はOKだったが)。また、第9練習曲(和音をスタカ ートで急速に弾くやつ)では音ヌケが多い。フィナーレでは派手に音をハズした。 2次の出来からすると、疲れ気味(or不調)なのかもしれない。 次はプーランクの主題と変奏(1951)。やはり初めて聴く曲で、完全な調性音楽、 ほとんどロマン派に近いという印象。10分弱くらいの曲で、結構技巧も使う。演 奏の出来はよくわからない。 最後はプロコフィエフのソナタ第7番Op.83。これもシューマンと同様、ミスが 多い。第1楽章の難所と思われる、2番目の急の部分(第1楽章は急-緩-急-緩 -急になっている)での急速な右手の和音での降下では音がはっきり出ていない。 第3楽章は落ち着いたテンポであるが、キレがイマイチ、最後の方はルバートが 多く、苦しそうである。本人もあまり満足していないようだ(おじぎのときの 表情から)。 全体的には、元気がなく、やや疲れ気味という印象である。 3. アヴィラム・レイヒェルト(イスラエル) 最初はシューベルトのソナタ第14番D.784。これは素晴らしい。音には優しさ というか温かみがあり、きれいでかつ力強さもある。まさにシューベルトの世 界である。ミスもなく、ほとんど完璧な出来栄えと言える。コンクールのハイラ イトCD(コンクールの入賞者の演奏を集めた2枚組のCDが毎回発売される)には、 是非この演奏を入れて欲しいと思った(もう入賞する気でいる)。 次の現代曲はF.グルダ(あのピアニストのグルダ)のプレリュードとフーガ (1969)。プレリュードの方は、バッハの平均律1巻のハ長調のプレリュードの パロディ(ジャズ風)という感じ。フーガの方はテーマが完全にジャズである。 演奏者ものっており、ジャズが好きと見た。演奏もよいと思う。 最後はプロコフィエフのソナタ第8番Op.84。これもかなりよい出来。第3楽章 の最後の部分(かなりの技巧を要する)はイン・テンポで押し通してほしいと思 ったが(オチニコフorガヴリーロフのCDのように)、アシュケナージのCDでも そうはなっていないのだから仕方無いところか。 全体的には、当然これまでの演奏者で最高の出来である。 4. 佐藤美香(日本) 最初はフランクの前奏曲、コラールとフーガ。相変わらずテクニックがしっかり していて、ミスがほとんどない(はやりサイボーグ?)。コラールの左手の交差 のときの腕の動きなど、安定感があって、ミスする気がしない(本当は1回ミス したけど。他の人はもっと危なっかしい感じがする)。しかし、なぜか音楽的感 動は少ない。盛り上がりが少ない感じである(あくまで私の印象)。 次はホリガーのエリス-3つの夜曲(1960)。これはまさに前衛的で、内部奏法も ある。私にはまったく理解できなかったと言っておこう。 # セミファイナルでバリバリの前衛的な曲を弾いたのは結局彼女だけであった。 最後はリストのロ短調ソナタ。これは佐藤嬢*にしては*ミスが多いと思った( 2、3個所以上あった)。しかし第3楽章(というのかな。フーガっぽいところ) では稀に見る安定感がある(ここはずっとスタカートで、音が抜けやすい)。音 は十分きれいであるので、後は音色の変化(または「心」のこもった演奏)を望 みたいところである(それでも今年の日本音楽コンクールでの野田君のような素 っ気なさはなかった)。 これで演奏が終ったわけであるが、ここまで約55分。60分以上という規定から はずれているような気がするが、どうなのだろう。演奏は悪くないのだが...。 5. 鈴木弘尚(日本) 最初はバッハのトッカータホ短調BWV.914。この曲で思い出したのだが、彼は実は 1年くらい前にNHK教育TVでやっていた「ピアノで名曲を」(講師:ヴェーラ・ ゴルノスターエヴァ)の第1回「バッハを弾く」で生徒としてた出ていた子で あった。そのときこの曲のレッスンをしていた。 # そのときの演奏がなかなかよかったので、ビデオををまだ残している。 演奏の方は、TVのレッスンを思い出してしまって(そのとき先生は、この曲と聖書 の、キリストの最後の晩餐や裁判での情景を結び付けていた)、客観的な判断が できないのであるが、少なくともフーガはよかった。 次はヒナステラのソナタ第1番(1952)。現代曲で初めての知っている曲である。 演奏はよい出来。前回優勝したシュー・ツォンを思い出させる(彼もこの曲で白 熱の演奏をした)。シュー・ツォンほどではないが。 次はシューベルトのソナタ第20番D.959。古典的な演奏で、すっきりしている。 緩急の幅をあまりとらず、ロマンチックという感じではない。第2楽章も、テン ポを正確に保って、それほど情感を込めない感じである(中間部は別)。第3楽 章ではもう少し軽さが欲しい。第4楽章ではわりと大きなミスをしたが、全体的 にはなかなかよいと思った。 最後はリストのハンガリー狂詩曲第12番。なかなか堂に入っている。情感をか なり込めており、リズムもよい(タメがある)。音に芯もあり、よいのだが、技 術が完璧とは言えない。最後の方のクライマックス(?)、右手が高音部で素早 く細かく動くところでのスムーズさというか、熟練度が少し足りないと思った( 音ヌケも多少あった)。 ****** 今日聴いたなかでは、なんといってもアヴィラム・レイヒェルトがよかった。 南雲竜太郎は不調。佐藤美香嬢は時間が少ないのが気になった。