(浜松国際ピアノコンクールレポートその6〜3次予選第2日) 久島です。 浜松国際ピアノコンクールの3次予選第2日(11/20)の感想です(長文)。 3次の結果もあります。 本日の出場者は6名。以下演奏順に感想を(敬称略)。 43. オリヴァー・カーン(ドイツ) 2次のエチュードで強烈な印象を残したカーンだが、3次は渋めの曲が並ぶ。 最初はBeethovenのソナタ第4番だが、どうも期待していたほどよくない。技 術的にどうのということ言うより、音ギレが悪いというか、テヌート気味に なるというか、輪郭がぼやけるというか、そんな感じがする(あるいは残響 のせいか)。私としてはもっとキメるとこをピタッと決める、ハッキリクッ キリ系の方が好きなのだが。また、第2主題でテンポを落とすのも好みでな い。(グールドじゃないけど、Beethovenの初期の曲は、テンポがどうであれ 「リズムの推進力」を大事にしたい。)主題提示部の終わりの方の、半音階 で急速に駆け上がっていくところも(エコーのせいか)あまりクリアでない。 全体的に豊かな響きを重視しているようだが(この点でF.ケンプと対照的)、 でも音があまり輝いていない。第3楽章でも主部の最後の方で右手の急速な 動きのところがもう1つクリアでない(ここがいいところなのに…)。全体 的に彼はBeethoven向きでないのかと思ってしまった。 次はBergのソナタ。正直なところこの曲は何回聴いても面白さがわからない 曲なので、あまりコメントできない。 最後はBrahmsの4つのバラードOp.10から終わりの3曲。これはまあまあ。 やっぱり彼にはBrahmsが合っている感じがする(偏見かな)。ただOp.10-3 では右手の細かい動きがいま一つクリアでないようなところもあった。 全体的には2次でのエチュード3連発のような強烈なインパクトはなかった。 あるいはやや平凡だったかもしれない。個人的には、もっと技巧が前面に出 るような曲をやればいいと思うのだが、多分そういうのは好きじゃないんだ ろうな…。 44. オラフ=ジョン・ラネリ(イタリア) 最初はRachmaninovのソナタ第2番(改訂版)。模範的、あるいは優等生的で 悪くはないが、昨日のタラソフと比べると、第1楽章ではスケールが、第2 楽章では音の磨きが足りないような気もする(これはタラソフへのひいき目 かも)。 次はRavelの夜のガスパール。これは日本国際コンのときに聴いて少しがっか りした曲だが、それよりはよくなっていると思う(あるいはピアノが変わっ たからか)。それでも何か物足りない。どこと言って特に悪いところはない のだが、なにか予定調和的というか、エキセントリックなところに欠けるの かもしれない。スカルボではスピード感にも少し欠け、全体的に昨日のフォ ン・インの方が印象に残る。日本国際コンと今回とで2回聴いて、やっぱり この曲は彼には向いてないような気がした。 最後はBrahmsのパガニーニ変奏曲1&2巻。これも日本国際コンのときに弾 いて拍手喝采を浴びた曲だが、今回も素晴らしい。改めて感激した。何と言 ってもスピード感があり、しかもほとんどミスがない。私はこの曲が好きで CDを何枚も持っているが、それらと比べても、この曲の演奏ではトップレベ ルにあると思う。もし彼が入賞したらハイライトCDに入れるべき筆頭の曲だ ろう。(日本国際コンのときは惜しくも入らなかったが。)欲を言えば、細 部でもう少し精妙さがほしいところもあるが。 彼はSchumannのトッカータとかパガニーニ変奏曲とか、こういう(もろエチ ュード的な)曲を弾かせたらやっぱり凄い。 57. デニス・マツーエフ(イタリア) 最初はBeethovenのソナタ第3番。これは素晴らしい。第1楽章からかなり速 いテンポなのだがちゃんと弾けているし、メリハリもある。これはかなりの 技巧だ。ただ部分部分でテンポの揺れがあるのだが、これはテンポが走って いるのか意図的にやっているのかよくわからないところがある(多分後者)。 第3、4楽章も相当速いが、こちらはテンポの揺れは気にならない。1次で は、彼に古典派を弾かせるのは間違いだと言ったが、これは前言撤回だ。 次はLisztの「ダンテを読んで」。これもよい。ド迫力かつ音がきれだ。今回 のコンクールではこの曲をさんざん聴いたが、これが1番だと思う(この後 この曲を弾く人がいなくてよかった)。ただ最後の難所の跳躍部分はもっと leggieroに弾いた方がよかったかも(ノーミスなのはさすがだが)。 次のTchaikovskyは18の小品Op.72より瞑想曲。これは多分初めて聴く曲だが、 このリサイタルの中では箸休めみたいなものかな。 最後はProkofievのソナタ第7番。第1楽章はこれもかなり速いテンポ。この 曲は私は無機的というか、鋭く冷たく弾くのが好きなのだが、彼のはどちらか というと「熱く」演奏するタイプである。第1主題の8分音符もレガート気味 であるが、ここは'sepmre non legato'にしたいところ(私の趣味)。しかし 技巧はぬかりなく、展開部の急速な連続和音の下降のところも余裕がある。第 2楽章も速めのテンポでダイナミクスの幅が大きい。第3楽章もやはり速めの テンポで、ド迫力なのだが、響きが豊か過ぎるというか、もっとコントロール されたところを聴きたい気もする(この楽章もやっぱり冷たく機械的な演奏が 好みなので)。しかし最後までインテンポなのはえらい。とにかくスケールの 大きさを感じる。 全体的に、彼の演奏は底流にロマンティックなものが流れている感じがする。 でもBachや古典派、Prokofievなど弾くものによって少しは芸風を変えていっ た方がよいのではないかな、と思わないでもない(大きなお世話かな)。でも 技巧は卓越したものがあり、これまで大きなコンクールでの入賞歴は無いよう だが、彼の名前は覚えておく価値がありそうだ。 61. 三浦友理枝(日本) 3次(セミファイナル)ということで少しは派手な衣装で出るかと思ったら、 1, 2次と同じ高校生らしい青のワンピースで登場。 最初はFranckの前奏曲、コラールとフーガ。これは思っていたほど悪くない。 結構音楽的であるし、少なくとも2次で弾いたルシール・チョンより良い。コ ラールの交差する左手で弾かれるメロディーをもう少しデリケートにしたいな ど、まだまだ磨く余地はあるが。 次はChopinのバラード第4番。これはきのうのタラソフの演奏を聴いた後だけ に少し平板に聞こえる。出だしはなかなか音楽的だが、クライマックスになっ て技術的に難しくなると表現の幅がせまいというか弾くのが精一杯という感じ になってしまう。 次はProkofievのソナタ第3番。これもマツーエフの後だとさすがに響きが平 板な感じがする。技術的には破綻なく弾けているが。 次はScarlattiのソナタから5曲(K.27, K.113, K.11, K.141, K.24)。これ はちょっとイマイチ。いずれも大人しいというか微温的で、Scarlattiではも っとキレのある、溌剌とした演奏を望みたいところ。繰り返しはいずれも行わ なかったが、正直言ってそれでよかった。 最後はRachmaninovの編曲物を3つ。(しかし、こうやってプログラムを見て みると寄せ集めというか統一感がないという感じが免れない。まさかレパート リー大放出というわけではないだろうが…。)最初はMendelssohnの真夏の夜 の夢からスケルツォ。これは細かいパッセージでもう少しクリアさがほしい気 がする(はペダルまたはエコーのせいかもしれないが)。次はKreislerの愛の 悲しみ。これは(特に中間部で)表現がちょっとおとなしいか。最後はRimsky- Korsakovの熊蜂の飛行。これはこの3曲の中では1番よかった。右手の細かい 動きもよいが、左手も生きている。 全体的には健闘しているのだが、やはり60分のリサイタルをやるのはまだつら い感じがする。 64. ドミトリー・モロゾフ(ベラルーシ) 最初ステージに出てくるときの歩き方が妙にゆっくりというか足が重そうで、 こころなしか表情にも元気がない。彼には期待しているだけにちょっと心配。 最初はBachのパルティータ第2番。アーティキュレーション、強弱、相変わら ず表現力がある。特に左手がメチャクチャ生きており、グールドを彷彿とさせ る。実際、なにも知らずに聴いたらグールドだと思ってしまうかもしれない (と言ったら言い過ぎか)。ただシンフォニアではテンポが速くなってから一 瞬危ないところがあってヒヤっとした。繰り返しは基本的にしていなが、する ときは必ずアーティキュレーションを変えたり別の声部を強調したりして変化 をつけているのは基本とはいえさすが。これに安定性が加われば完璧である。 実際、終曲(ジーグ)でもちょっと危ないところがあった。 次はBeethovenのソナタ第30番。第1楽章、弱音の美しさは相変わらずだ。 (そう言えばグールドも弱音の美しさが評判だったな…。)第3楽章はかなり ゆったりしたテンポだが、考え抜かれた表現という感じがする。その昔、コロ ンビアレコードのディレクターがグールドのリサイタルを1回聴いただけで翌 日契約を申し込んだという話があったが、そんな話をふと思い出した。 次はProkofievの束の間の幻影から第1,3,5,7,10,11,17番。あまり詳しくない 曲なのではっきり言えないが、繊細な感じのする演奏。 最後はProkofievのソナタ第3番。かなりゆったりとしたテンポ(三浦さんよ り遅いだろう)。しかし(私がもうモロゾフにハマっているせいか)すべて音 楽的に聞こえる。実は今までこの曲は技術的には面白いけど、内容的には支離 滅裂という感じを持っていたのだが、彼の演奏を聴いくと何となく「わかった」 気になる。一言でいえば説得力があるということか。 全体的には、音楽性に関しては彼は並はずれた才能であると言わざるを得ない。 ただ、今回のステージを聴いて初めて技術的な脆弱性を少し感じた。しかしこ れはきっと今日体調が悪かったせいかもしれない(そう信じたい)。 72. 大崎結真(日本) 彼女も1次と同じ膝上丈のワンピースで登場である。 最初はHaydnのソナタ第52番。キレがいま一つだし、メリハリにもやや欠ける。 今日は調子が悪いのか、指が転ぶなど心証の悪いミスも目についた(指回りは 万全だと思っていたが…)。これから難曲が続くのに、大丈夫かと少し不安に なった。 次はLisztのスペイン狂詩曲。これも2次で見せたようなキレがない。さすが に技術的に破綻するようなことはないが、ミスも結構ある。(この後、いった んステージを出たのだが、なかなか現れず、ひょっとして今の2曲の出来がよ くなかったんでショックだったのかと思ってしまった。でも出てくるときはニ コニコしてたので、考えすぎか…。) 次はSchubertの即興曲Op.90-3。これは一言で言ってもっと歌って欲しい。ほ とんど歌がない感じである。 最後はRavelのラ・ヴァルス。これはまずまずか。でもリズムにもっと洒落っ 気というかエスプリが欲しい。表現もちょっとおとなしい(この曲は思い切り ド派手にやるべき曲じゃないかな)。でも最後のおじぎのときはニコニコして いたから、本人もまずまずだと思っていたかな。 *** というわけで3次をすべて聴き終わった。3次を聴いて、ファイナルを聴きた いと思ったのは以下の7人。   セルゲイ・タラソフ   レム・ウラシン   アレッシオ・バックス   フレデリック・ケンプ   オラフ=ジョン・ラネリ   デニス・マツーエフ   ドミトリー・モロゾフ 実際にファイナルに進むのは6人ということなので、誰か一人落とすとしたら、 2次の印象があまり良くなかったバックスに涙を飲んでもらうか…。 で、実際のファイナル出場者は次の6人。   セルゲイ・タラソフ   レム・ウラシン   アレッシオ・バックス   フレデリック・ケンプ   オリヴァー・カーン   大崎結真 う〜ん、1日目はすべて入ったが、2日目は全滅であった。まあ、カーンも2 次ではすばらしい出来だったのでいいか。それにモロゾフは客観的に見れば3 次では結構危ないところがあった(これは後でテープを聴いてみるとわかる) ので、まあ仕方ないのかもしれない(体調のせいであると信じたいが)。しか し、ラネリは日本国際コンでコンチェルトを聴いたことがあるのでまあいいと して、マツーエフが落ちたのは残念だった。ファイナルでは彼とタラソフのチ ャイコン対決が見られると思ったのだが…(タラソフも相手にとって不足はな いだろう)。大崎さんが入ったのは政治的なものを感じないでもない(彼女は 中村紘子に師事している)。 その後、小耳にはさんだところによると、タラソフは3次で弾いたとき体調不 良だったらしい(真偽のほどは不明)。言われて見れば確かに2次ほどはよく なかった気もするし、テープを聴いてみると交響的練習曲などでタラソフにし ては結構ミスがある(私はアバタもエクボ状態であまり気が付かなかったが)。 モロゾフはどうだったのだろう…。