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夜明け前(えびの高原にて) 週末のためか、早朝にもかかわらず、かなりの登山者の姿を見かけた。

 今年、鹿児島地方は五月の連休前よりすっきりとしない天候が続いた。2週間前に一度、天気予報の「午後より天気は回復に向かう」の言葉を信じ、霧島縦走を試みた。韓国岳山頂で一時間ほど待機したものの、高千穂峰あたりを被った雲は深く棚引き、晴れる気配もなく、やむなく下山した。暖冬の影響でミヤマキリシマの開花が十日ほど早まっているらしい。例年なら5月の中旬から6月の初旬にかけて見頃を迎えるのだが、地元の新聞は「今年の開花のピークは終わった」と報じている。好天が予想される今日は5月最後の週末。えびの高原ビジターセンター前の駐車場に車を置いて、午前6時、徐に登頂を開始する。
 早朝のためやや肌寒く感じたが、歩き出すと同時に体は温まり、いい感じになってきた。ミヤマキリシマの状態もそれほど悪くない。殊に上の方はまだ蕾の状態のものも多く、期待がもてる。低木の森林を抜け、4号目あたりからはハルリンドウの花を見かけるようになる。五号目で少し休憩をとる。やがて曙光が麓一面に広がり、彼方に甑岳、栗野岳を見渡せ、申し分ない。8号目を過ぎると傾斜が緩くなり、視界に笹原が広がりはじめると頂上は間近い。

左:ミヤマキリシマ ツツジ科の半常緑低木。久重山、阿蘇山、霧島山など、九州の山々に分布。花びらは5つ。5〜6月に開花。
中:フモトスミレ スミレ科の多年草で、本州以西に分布。4〜5月に花が咲く。丈は8cmほどで、花の色は白。
右:ハルリンドウ リンドウ科の2年草で、本州以西に分布。春の代表的な草花の一つ。花の色は濃い青紫から白っぽいものまである。

霧島屋久国立公園について
 昭和9年3月16日に日本で最初の国立公園に指定され、鹿児島と宮崎両県にまたがる火山群からなる霧島地域、桜島・指宿・佐多岬からなる錦江湾地域、そして屋久島地域に分けられる。総面積は54,833ha、年間の利用者数は1,300万人に及ぶ。霧島地域は20もの火山と10の火口湖からなり、シイ・カシ・アカマツを中心とした自然林、ミヤマキリシマ、ノカイドウなどの貴重な花々が自生する。錦江湾地域では桜島が活発な火山活動を続け、海中では様々なサンゴの群生を確認できる。世界自然遺産に登録され、世界的にも貴重な自然が残されている屋久島地域は、九州最高峰の宮之浦岳をはじめとした峰々、縄文杉などの屋久杉、そしてヤクザル、ヤクシカなどの野生動物を観察することができる。

左:韓国岳山頂 霧島の峰々の壮大な展望が迫ってくる。快晴に恵まれ、高千穂峰の山肌がくっきりと眼に映る。熟年のご夫婦が記念撮影をしていた。昨日は高千穂峰に、一昨日は開聞岳に登ったとのこと。
中:韓国岳火口 鹿児島県側から見た韓国岳の山頂は緩々な曲線を描いているように見えるが、いざ頂上に立つと、大きくえぐられた火口跡が顔をのぞかせている。ちょうど猪苗代湖側からみた磐梯山と、檜原湖側からみたそれとの違いに似ている。
右:山頂より大浪池を望む 上部左側に桜島の頂が見える。中高年層を中心にした登山ブームのことは知ってはいたが、女性の多いことには驚かされる。ある初老の男性と少し話をした。金曜日に鹿児島に飛行機で到着、翌日は高千穂登山、今日は霧島縦走を楽しみ、夕方の便で帰るという。脱帽。

自然環境の保護について
 毎年、霧島地域ではシーズン前に鹿児島と宮崎の森林管理署を中心とした協議会が開かれ、出席者から国立公園内で自然公園法に定められた植物採取禁止を無視した高山植物の盗採が報告されている。えびの高原ではノカイドウの枝が折られ、また登山道ではミヤマキリシマが掘り起されているのが見つかった。その他食用に野草を採取する人などが跡を絶たないらしい。自然公園法では国立公園の特別保護地区や特別地域での高山植物等の採取を原則的に禁止しており、違反者は6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されることとなっている。
 禁止域内で野草を採取する登山者の場合、自分の行為が法律に違反しているという認識は希薄であろう。実際、韓国岳登山口周辺では、景観を配慮してのことかと思うが、注意を促す案内板を見ることはなかった。一方で法律を盾に取締を強化し、違反者を減らすことができたとしても、公園利用者に自発的な自然保護の意識が芽生えるとは思えない。諸外国の例に倣って利用者に軽易な利用料を負担してもらうのも選択肢として考えてよいと思う。これを財源に利用者への啓蒙活動の機会をつくり、また公園内での盗掘やゴミ捨てのパトロールに関わる人件費等に充てることが考えられる。いずれにしても自治体ごとのゴミの分別回収と同じように、時間と手間をかけて問題に取り組まない限り、利用者のモラルの向上は望めないだろう。

左:高千穂峰とミヤマキリシマ 韓国岳山頂よりしばらく先に進むと、写真撮影に熱中する愛好家の姿を見かける。大判のカメラをセッティングし、露出計を何度もチェックしている。高千穂峰とミヤマキリシマの組合せはやはりこの時季ならではのもの。それにしても、その峙った山容と可憐な花のコントラストに言葉を失う。ちなみに、高千穂峰の手前の大きな火口をのぞかせているのが新燃岳、一番手前が獅子戸岳。
中:獅子戸岳登攀 韓国からの下りは谷間に近づくにつれて、岩場から粘土質の路面に変わってきた。前日までの雨の影響で足元はかなり滑りやすく、わずかな段差にもかなり神経を使う。傾斜がフラットになると暫く草原を進むことになる。野鳥のさえずりに気持ちが癒される。ジョージ・ウィンストンのピアノの音色が似合いそうなエバーグリーンの世界が広がる。やがて露出した大岩が視界に入り出すと、獅子戸岳の登りが始まる。
右:獅子戸岳山頂 韓国岳よりしばらく縦走を共にした男性とのカメラ談義に話が弾む。中判、一眼レフと色々使ってみて、現在はコンタックスのT2が非常に気に入っているとのこと。新燃岳のコバルトブルーの火口湖を見るのを楽しみにしているそうである。

左:新燃岳方面からの登山者 反対方向からの縦走は徐々に越える山の標高が増すので、少しつらいかもしれない。
中:ニガナ 高さ20〜50cmの多年草で、4月から7月にかけて花を咲かせる。ほぼ日本全土に分布。茎の部分から出る乳白色の汁が苦いので、この名がついた。
右:コガクウツギ 平野から山地にかけて広く分布。5月下旬から6月中旬にかけて花を咲かせる。高さは1mくらい。


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JUNE/23/2002/NO.5