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表紙目次>左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論4―

2006.12.8

無料ホームページ ブログ(blog)

左手で字を書くために
―レフティやすおの左利き私論 4―

左利き(左きき)の人、および左手を使う人のための
左手で字を書く
(左手書字・左手筆記・左手書き・LEFTHAND WRITING)
方法を考えるページです。


メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』(最新号はこちら)に掲載した
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ」その13,14を転載したものです

*引き続き、『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』に掲載した
≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」を転載した
「左手で字を書くために(その2)実技編」
をご覧ください。
(2009.4.24)

左利きの子左利きの子
今までの日本になかった種類の左利き本、左利きの子供のための教育保育のガイド本です。

左利きの子供が生活する上で、右利き仕様に偏った社会にどう対処すればよいのか、その生活上のアドヴァイスを試みた本です。

イギリスの左利き用品専門通販のスタッフによるもので、その経験を生かしたものといえるでしょう。

翻訳書ですので、日本とは状況の異なる点もあるかもしれません。
しかし、左利きの本質は変わりません。

左利きのお子さんを持つ親御さんの参考になるでしょう。
今まで気付かなったことも色々出てくると思います。

親御さんのみならず、教育・保育関係者の皆様にもぜひお読みいただきたい、と願っています。

また、一般の人々にとっても、身近な多様性の一つとしての左利きの人たちの存在について知るよい機会になると思います。

表紙にもありますように、この本によって社会の皆様方全員が、今まで以上に「左利きへの配慮と支援」といった見方を持って、左利きの子供たちに接していただけるようになれば、幸いです。

・『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第175号(No.175) 2009/4/11「親御さんへ速報!『左利きの子』教育・保育ガイド本」
・『レフティやすおのお茶でっせ』
4.23『左利きの子』(のための)教育・保育ガイド本
(2009.4.28)

巻末「参考資料」に、当サイト『左組通信』、およびメルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』が紹介されています。

本書で紹介している文房具やハサミについて―

たとえば、筆記用具については、「鉛筆グリップ」として紹介されているものでは、同等品として三角グリップや「もちかたくん」、「プニュグリップ」などを紹介しています。

万年筆は、一般用、ペリカンの子供用、カリグラフィー・セット。

ボールペンでは、59ページ左下の写真で「人間工学的」と紹介されている、「Stabilo's Move easy スタビロ・スムーブ・イージー」や、同ページ右上の「オフセットされたペン先」として紹介されている「ヨーロペンYOROPEN」も紹介済みです。

ハサミのページでは、右手用と左手用の違いも説明しています。

※『左組通信』
〈HPG3〉左手用/左利き(左きき)用はさみ・ハサミ・鋏コレクション
〈HPG6〉左手/左利き用文房具(筆記具・定規・その他)

その他の商品は、愛用品のページなどで紹介しています。
お箸のページも作っています。参考にどうぞ。

●書字について―

本書には、書字についてのアドヴァイスも掲載されています。

鉛筆の持ち方や、用紙の置き方など、こちらのページでの考察に共通するものがあると思います。
(2009.5.4)

●お知らせ●
 メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』で、
2008年2月より、月一連載(第3土曜日発行分掲載)
「左手書字の研究―実技編」を始めました。
 右手書字の特徴を良しとする現行規範に則った「美しい文字/きれいな文字」を
左手で書く方法を考えます。(2008.2.20)
第120号(No.120) 2008/2/16「左手書字の研究―実技編(1)はじめに」
・≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」..第三土曜日掲載
  (1)はじめに
「左手で字を書くために(その2)実技編」
にまとめました。 そちらも引き続きご覧ください。
(2009.4.24)

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(初出)2006.12.8(最終)2008.8.23

―目次―

↓ 字は右手で書くものか?
 <字は右手で書くもの>を検証する
 (左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ―その13―)
 (21号2006.2.25-35号6.24)

第21号(No.21) 2006/2/25「字は右手で書くものか?」
 字は右手で書くものか?
第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」
 (2)<字は右手で書くもの>を検証する《1》文字の歴史から考える―その1―
第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」
 (3)<字は右手で書くもの>を検証する《1》文字の歴史から考える―その2―
第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」
 (4)<字は右手で書くもの>を検証する《2》字は「書」 
第31号(No.31) 2006/5/27「<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字」
 (5)<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字
第33号(No.33) 2006/6/10「<字は右手で書くもの>を検証する《4》書字は万民の技術」
 (6)<字は右手で書くもの>を検証する《4》書字は万民の技術―その1―
第35号(No.35) 2006/6/24「書字は万民の技術―その2―」
 (7)<字は右手で書くもの>を検証する《4》書字は万民の技術―その2―

↓ 左手で字を書く・実践編
 左きき筆法の紹介、など
 (21号2006.2.25-27号4.22)

第21号(No.21) 2006/2/25「字は右手で書くものか?」
  1:正しい持ち方を身に付けよう
第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」
  1:正しい持ち方を身に付けよう(2)
第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」
  2:筆順(書き順)は?
第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」
  3:毛筆編―基本と左きき筆法
第31号(No.31) 2006/5/27「<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字」
  4:毛筆編―書家から見た左手書き
 ―欠落(31号分)がありましたので、補充しておきます。(2007.10.24)

↓ 左手で字を書くために
(左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ―その14―)

 左手書きの研究、など(38号7.8-68号2.10)

第38号(No.38) 2006/7/8「左手で字を書くために(1)」
 (1) 左手書き用ボールペン―ヨーロペン 
第40号(No.40) 2006/7/22「左手で字を書くために(2)」
 (2)左手書きの方法
第42号(No.42) 2006/8/5「左手で字を書くために(3)」
 (3)左手書きの問題点―横画における押し書き
第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)」
 (4)変換アダプターの試み
第46号(No.46) 2006/9/2「左手で字を書くために(5)」
 (5)未来の可能性―左手書き用文字
第48号(No.48) 2006/9/16「左手で字を書くために(6)」
 (6)小学校の書写の教科書
第51号(No.51) 2006/10/14「左手で字を書くために(7)」
 (7)左手書きの研究<1>
第55号(No.55) 2006/11/11「左手で字を書くために(8)」
 (8)左手書きの研究<2> 左手書きのパターンの分類
第59号(No.59) 2006/12/9「左手で字を書くために(9)」
 (9)左手書きの研究<3>第一期まとめ・総論
第64号(No.64) 2007/1/13「左手で字を書くために(10)」
 (10)左手書きの研究<4>第一期まとめ・実践編
第65号(No.65) 2007/1/20「私にとっての左利き活動(9)」
 ■レフティやすおの ( ..)φメモ■ 前号のこと:左手〜実践編
第68号(No.68) 2007/2/10「左手で字を書くために(11)&LYG2007」
 左手で字を書くために(11)左手書きの研究<4>第一期まとめ・特別編
 児童かきかた研究所所長、高嶋喩/著『だれでもできる幼児・児童の書き方指導(硬筆編)』を読んで

↓ その後の<左手書字>情報

・『お茶でっせ』記事:2007.7.26
 左手書字用お手本使用のネット書写塾
YouTubeで見る左利き筆法
(2007.9.28)
・『お茶でっせ』記事:
 左ききでは書道は無理ですか?:武田双雲『書愉道 双雲流自由書入門』から(2007.10.25)
・2008.7.30『女性自身』2008年8月12日号で左利き記事
 ―武田双雲氏が『左きき書道教本』を使って左利き書道を披露しています。(2008.8.23)
ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』【左手書字】カテゴリ記事
参照:
左手・左利き用文具の紹介ページ
左手書字(左手筆記/左手書き)に関する<左利きプチ・アンケート>
「左手で字を書くために(その2)実技編」
―≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」
 (『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』掲載)

(初出)2006.12.8(最終)2007.2.17

字は右手で書くものか?
<字は右手で書くもの>を検証する
(左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ―その13―)

第21号(No.21) 2006/2/25「字は右手で書くものか?」
  左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ―その13― 
字は右手で書くものか?
左利きの子供にとって、今でも一番の悩みになっている問題が、これでしょう。
字は右手で書くものだという習字の先生もいます。日本の文字は右手で書くように作られている、という人もいます。
やはり左利きでも、字は右手で書くべきなのでしょうか。

 ◆ 字は利き手で書く ◆

結論からいいますと、字は利き手で書くべきだ、というのが私の考えです。

今までこのメルマガでさんざん書いて来ましたように、利きというその人固有の性質を生かすのが、自然で正統な生き方です。
ですから、利き手を使うのが最善です。

利き手とは、使いやすい手のことです。
だからその手を使うのが、最も自然なことであり、最も効率的なことであり、最も能力を発揮できることなのです。

ほかに理由はありません。

右利きの人が右手を使って字を書くのも同じ理由からです。
ほかに理由はありません。

当然といえば、当然のことです。
本来は。

 ◆ 誤った常識―「字は右手で書くもの」 ◆

それでも、利きという性質を正しく理解していない場合、次のよう
な理由から右手指導をすすめるお習字の先生がいます。

「字は右手で書くほうがきれいに書けるので、初めて書く場合は右
手で始めましょう」

「日本の字は右手で書くようにできているので右手で書きましょう」

「左利きの子の場合、無理に右手を使わせると色々弊害が出ることがあるので、絵を描くとか他のことは左手を使うほうがいいのです
が、字を書くときだけは右手を使いましょう」

こういった先生には「字は右手で書くもの」というのは、誤った常識であり、単なる思い込みに過ぎない、と理解してもらわなければなりません。

私なりに考察した結果を次回以降、順々に説明してみます。
「字は右手で書くものだ」という考えがいかに誤解であるかを証明してみましょう。

(1)文字の歴史から考える
文字はその発明からおよそ五千年の歴史を持つといいます。漢字は
三千三百年といわれます。
その歴史を追いながら、文字が右手で書くものとして生まれたもの
ではない、という事実を示してみましょう。
右手で書くのに都合の良いように改良されてきた、というのが真実
です。

(2)字は「書」
日本人は字を「書」として認識しているのではないか、といわれて
います。
では、よい「書」とは何か、お習字とはよい「書」のためにあるの
か、そして、字は「書」でいいのか、といった根本から問題を考え
てみます。

(3)脳の働きと漢字
言語脳は左脳にあるので、左脳がつかさどる右手で字を書くのが都
合がよい、という考えがあります。
しかし、表意文字である漢字を扱うのは実は右脳ではないか、とい
う説もあります。
案外右脳がつかさどる左手で書くほうがいいのかもしれません。

(4)字を書くことは万民の技術
かつて字を書くというのは、一部のエリートのみに許された技術で
した。
しかし、今では、ごく一般的な日常生活に不可欠な基礎的技術とな
りました。
もはや特殊な書法にこだわるのではなく、いつでもどこでも誰でも
が使える技術にしなければなりません。
第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」
 (2)<字は右手で書くもの>を検証する
  《1》文字の歴史から考える―その1―

 … ホモ・サピエンス(現生人類)を特徴づけているのは、文字を書くことを基盤とするグローバルな社会である。文字を書くことは、かつてはわずか数千人だけが独占していた特殊な技能だったが、今日では、およそ六○億と言われる世界人口の約八十五パーセントが日常的に使っている。現代社会はすべて、文字を書くという柱礎の上に成立しているのである

  ―スティーヴン・ロジャー・フィッシャー『文字の歴史』
  A History of Writing, 2001 鈴木晶訳(研究社 2005年)

 ◆ 誤った常識―「字は右手で書くもの」 ◆

前回も書きましたように、世間でよく言われる「字は右手で書くもの」あるいは「字は右手で書くように作られた」というのは、誤った常識であり思い込みに過ぎないのです。

その点を、まずは文字の歴史から探(さぐ)って見ましょう。

 ◆ 世界最初の文字―楔形文字は縦書きだった ◆

文字の歴史はおよそ五千年といわれています。
世界最初の文字は、チグリス、ユーフラテス両大河の流域に広がる古代メソポタミア(現在のイラク)で発生しました。

最初は、簡単な絵文字(具体的なものの姿を記号化した象形文字)で、加工した葦の茎を使って粘土板に刻み付け、乾かすか焼いて仕上げるものでした。

最古の粘土板に残された記録は交易に関するものでした。

完全な文字は、紀元前3300年頃から紀元前2000年頃に栄えたシュメール文明において発明されました。

絵文字(象形文字)から音を表す文字(表音文字)に変化させたのです。


(余談ですが・・・、
今では否定されていますが、一時期の西洋人は、この流れを文字の「進化」と考えました。
この考えに沿って、日本でも明治以降、国語改革と称して、象形文字から作られた漢字を不合理な「遅れた文字」として、かな文字もしくはローマ字を採用すべしという考えが生まれました。
そして戦後の国語改革によって漢字の制限が行われました。
しかし、その後この改革は誤りであったと、当用漢字から常用漢字へというように、徐々に漢字を有効に活用しようという方向に変わって来ました。
 よかったよかった・・・)


この文字を刻む方向は、当初、上から下への縦書き(↓)でした。

引力に支配された地上で暮らす人間にとって、上から下への移動は絶対的な方向性を持っていました。
上下は、誰にとってもわかりやすい非可逆的な法則でした。

そして、この縦書きは右から左へ(←)と行換えされていました。
(日本語と同じ書記法。)

ただし「ハムラビ(ハンムラビ)法典石碑」(紀元前18世紀前半頃)文に見られるように権威ある文書や公文書では、その後も縦書きが重じられていました。
(この点も現代の日本とあまりかわりませんね。)

たぶん、粘土板へ刻み付けるときの作業性―左手で粘土板を持ち、あるいは押さえ、右手に葦の茎のペンを持ち、刻み付けてゆく場合、左端からよりも右端からの方が便利です―から、このような右から左への行換えによる縦書き書記法を取ったのではないでしょうか。

しかし、右利きの人が多数を占めている社会の中では、右手書きに都合のよい、もっと効率的な筆記法を考える人が現れたのでしょう
か。
その文字を刻む方向も当初の上から下への縦書き(↓)から、文字を90度回転させて、左から右への横書き(→)へと変化しました。

この葦の茎で刻み付けるときの始筆の際の楔形の刻み目(▽)を持つ文字は、楔形(くさびがた/せっけい)文字と呼ばれています。

 ◆ 文字の書記方向の違い ◆

ところで、このシュメールの楔形文字を祖先に持つとされる、その後の一連の中東・ヨーロッパ系の古代文字は、たとえば、エジプトのヒエロクリフでもその後の様々な文字でも、大半は初期には(後期に入っても公式文書では)上から下へ(↓)と記述していたといいます。

それが、いつの間にか右から左へ(←)と、横書きに文字を綴る方向が変わっていった。
(シュメールの楔形文字は左から右へ→でしたが。)

もしくは牛耕式という一筆書きのような、その都度行端で方向を変える方式(⊂、⊃)を取っていたり、様々な書記法を取るようになっていったといいます。

さらに、あるときからアラビア文字をのぞいて、ほとんどの言語の文字において書記方向が、左から右へ(→)と方向転換したのです。

これは、ひとつには、文字の書き方の違いによるものでしょう。

文字を書く書記法には、大きく分けて二通りあります。

ひとつは、刻む方法―石や粘土板、あるいは亀の甲羅や牛骨の表面に刃物や葦の茎を尖らせたものなどで文字を彫り込み、刻み付ける。

ふたつ目は、塗る方法―樹脂やインクや墨などをペンや筆につけて紙や竹・木の表面に塗りつけて書く。

刻み付ける場合はどうしてもある程度の力を必要とするので、引くより押す動きが都合がよいので、右利きの場合はどうしても右から
左に(←)刻むことになるのではないでしょうか。

その点塗る方法では、力はあまり必要でなく、手指で引く動作が主体になる左から右への方向(→)が都合がよいようです。

そこで、書記方法の変化が、こういう右手書きに都合のよい書記方向の変遷に影響を及ぼしていったのではないかと考えられます。

 ◆ 現代の西洋文字は左手書き用? ◆

しかし、現代のヨーロッパ諸言語の文字群は、書記方向こそ右手書きに都合のよいものになっていったものの、文字そのものは決して右手書きにふさわしいものとはいえないものです。

古代のギリシャ文字などは、たとえば(E)は(ヨ)のような形でした。こちらの方がよほど右手書きにはふさわしいものように感じます。

筆記体にしても、日本語のひらがなのような右回りの文字ではなく、左回りの回転方向を持つ文字が多いのです。

文字を綴ってゆく方向(書記方向 →)とその傾きの方向(/)のみが右利き用といってもいいのでないでしょうか。

そして、アラビア語では書記方向さえ、左利きに都合のよい、右から左(←)になっています。

これはどういうことなのでしょうか。
(文字学に詳しくない私にはわかりません。)

文字そのものは絵文字から象形文字へと進化しました。
ものの形をかたどったものを省略して作った、と考えられます。

当然、ものの形をとどめていますので、右手で書くといったことは
意識されていません。左右対称のものは左右対称に描かれています。
そのものをいかに端的に示すか、ということが一番に考慮されてい
ます。

そこから、表音記号へと省略が進んでいったのです。

記述の方向のような書記法・筆記法は、かなり早い段階で、右手書きにふさわしい書き方が工夫されていたようです。
(途中多少の混乱、混在期間はあるようですが。)

しかし、西洋のアルファベットに関しては、文字そのものが右手書きにふさわしいものになっているかどうか、は疑問だと思われます。

・・・

参考文献:
・『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
  鈴木晶訳(研究社 2005年)
・『本 期限と役割をさぐる』犬養道子
 (岩波ジュニア新書 2004年)
・『図説世界の歴史1 ―「歴史の始まり」と古代文明』
J・M・ロバーツ著/青柳正規監修/東眞理子訳(創元社 2002年)
第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」
 (3)<字は右手で書くもの>を検証する 
  《1》文字の歴史から考える―その2―
前回は、中東からヨーロッパに伝播し、現代のアルファベットにつながった古代の文字についてみてみました。

今回は、いよいよ私たちが日常使っている漢字について、その歴史を見てみましょう。

 ◆ 漢字の歴史は約3300年 ◆

中国で発見された最古のものは、紀元前1900年ごろから紀元前1600年ごろの文字になる前の段階のもの―絵文字もしくは文様―です。

紀元前1600年ごろから紀元前1000年ごろに栄えた、殷王朝後期の時代の遺跡の出土品の中に、亀の甲羅の腹の平たい部分や牛の肩甲骨の平たい部分に刻まれた文字が発見されています。

「甲骨文字」もしくは「甲骨文(こうこつぶん)」と呼ばれるものです。
硬い甲骨に刃物で刻み付けたもので、そのため、直線を基本にした字形のものでした。

次に現れるのは、「金文(きんぶん)」と呼ばれる、青銅器に刻まれた銘文でした。
その青銅器の故事来歴について書かれていました。
これは鋳型にあらかじめ作った文字の型を貼り付けて鋳込んで作られました。
あらかじめ牛の皮や粘土といったやわらかい素材に彫り付けた文字ですので、曲線を多用したやわらかいタッチの文字になっています。

これらは、ものの形を写した絵文字から発達した象形文字です。
直線と曲線というふうに、それぞれのタッチは異なっていますが、基本的には同じ文字です。

(このように漢字はその祖先以来変わることなく、字自体が意味を示す表意文字―より正確には、言葉そのものを示す表語文字―であり、欧米のアルファベットのような音を示す表意文字ではありません。)

 ◆ 文字は権力者の記録のための道具 ◆

文字は記録のために作られました。
神の啓示の記録、王の威光の記録、農耕の記録、交易の記録などです。

そのため文字を使う人は限られていました。
農耕の祭事、政治の行く末を決める神官や宗教関係者・学者、王侯貴族といった権力者や、国を治める上で様々な記録を必要とする役人、経済活動の記録のために必要とした交易商人といった人たちでした。

特に古代中国においては、神の領域に関する技術でもあり、一部の特権階級に属する人々のものとして、一般に広く普及させるというものではありませんでした。

 ◆ 速書用の文字―隷書 ◆

また、広い国土を持つ中国では、各地に生まれたそれぞれの国で微妙に異なる文字を使うようになっていました。

しかし、紀元前221年の秦の始皇帝による全国統一により、度量衡の単位とともに文字もまた権力者によって統一され、「小篆(しょうてん)」と呼ばれる文字が国家の正式な文字の形とされました。

ところがこれは、前時代の甲骨文字のような飾りの多い筆記に適した文字とは言えず、たぶんに王の権威を象徴するようなものでした。
そこで、事務処理作業の増えた役人が、速書用に利用したのが「隷書(れいしょ)」と呼ばれる字体でした。

ここで初めて現代の漢字に近い特徴が見られるようになってきました。
すなわち右手に持った筆使いによる書き癖のひとつである、横画の終筆部分における横に長く三角形状に伸ばした形―波磔(はたく)がそれです。

 ◆ 立身出世の道具に ◆

前漢(紀元前202年-8年)の時代になると、書記官などの役人登用のための文字の試験が行われるようになり、それまで支配者層の占有物であった文字は、一般庶民の立身出世の道具となりました。

もちろん実際に文字の読み書きができる人は一部の人たちだけでしたから、立身出世が可能だったわけです。

さらにこの漢代に、隷書の略体として草書や章草(しょうそう)、行書の基となる行押書(ぎょうおうしょ)などが生まれてきます。
これらはみな、速書優先の実用的な書体でした。

 ◆ 書聖・王羲之 ◆

今日一般的に用いられる漢字の書体は、楷書・行書・草書の三体です。

これらの書体は、のちに書聖と呼ばれた東晋(西暦四世紀)の王羲之(おう・ぎし 西暦307-365)という人物によって芸術として確立されたといわれています。

後に、南朝の梁(りょう)の武帝(502-549)は、王羲之の書をお手本とした「千字文」を作らせ、子弟のための習字の教科書とし、これを習わせました。
(日本でも伝来時期は不明ですが、平安後期以降、漢字の習得教育に用いられました。)

そして、唐(618-907)の第二代皇帝太宗(たいそう)は王羲之の書を愛し、王羲之の書を国家の標準書法としました。

さらに、この唐代には木版による印刷が普及し、印刷用書体に使われた楷書が広く普及してゆきます。

こうして今日見られるような書としての漢字が完成したのです。

 ◆ 書写材料としての紙の存在 ◆

また、書写材料としての「紙」の改良と普及がちょうどこの王羲之の活躍した時期にあたり、筆に墨を含ませて紙に書く、という筆記法がこの時に確立したのです。

書写材料とは、字を書くための用紙のことを言います。

その昔は先に書きましたように、中国では亀の甲羅や牛の肩甲骨といった甲骨に刃物で刻み付けたり、あるいは金属製の甕や容器に鋳込んだり、していました。

その後、中国には竹が多かったので、竹簡といって竹を細く板状にしたものの裏側を使ったり、竹のない地方では竹の替わりに木を用いたもの(木簡)に墨で書いていました。
これを紐で綴って巻物状にして本にしていたわけです。

(この巻物を読むときに、右利きの人は、右から左に広げる方が都合がいいので、縦書きは読む側の立場から右から左に行換えするようになった、という説もあります。
もうひとつの説は、硬い甲骨に刻むときの、左手でものを押さえ右手で刻むという作業性の便利さから右から左へと刻んでいった、というものです。)

紀元前ニ、三百年ごろ、麻を原料にした紙が発明されますが、品質が悪く、保存性にも問題がありました。
また帛書といって絹を使うこともありましたが、これは高価であり、また保存性の点でも問題がありました。

そして今日の紙につながるものが生まれ、書写材量の王者になります。これはコンピューターの時代となった今に至るもその座を譲ることがありません。

そして、この紙と筆という筆記具の特性と右手筆記の特性が合致したところに、今日の漢字の書体が生まれたといえるでしょう。

 ◆ 毛筆の特性 ◆

晋代の紙の改良と普及、唐代における印刷の普及により、文字は急速に統一されたものになってゆきます。

そして、毛筆の右手書きの癖(特徴)である、起筆・収(終)筆―「ハネ」「トメ」「ハライ」を正式の書体と認定したこの時点から、左利き(左手書き)の人の悲劇が始まったのです。

結局、右手書きが正式な書の作法であり、左手書きは誤った書の作法である、という考えが確立されたというべきかもしれません。

 ◆ 右手書き文字の確立 ◆

すなわち右手書きの文字が確立したのは、東晋代の王羲之以降として、漢字の歴史3300年のうちの後半せいぜい1700年ぐらい、唐代の太宗以降とすれば、1300年ぐらいの歴史にすぎないのです。

漢字がまだ文字と認識できないような記号・文様の時代から数えれば、もっともっと短い歴史しか持ってはいないのです。

漢字もまた、絵文字として具体的な物の姿をかたどる象形文字として出発し、次第に筆による速書に都合のよい、右よりの文字に傾いてゆきました。

初めから右手書きを意識して作られた、というものではないということです。

漢字は、右手で速く書くために徐々に改良されてゆき、その右手書きの癖が芸術としての美の基準となり、やがて文字の標準となったのです。

文字の読み書きは、神に仕える権力者の占有物から立身出世の道具となりました。
しかし、その価値は依然変わることなく、エリートへの階段を登ることを許された人々のものであったのです。

この書法を身に付けることこそが、重大な価値を持つようになっていったのです。

 ◆ 不可欠の道具 ◆

日本においても、当初は王侯貴族に列する権力者の対外交流の道具でした。
そして、中国の仏教や儒教などの思想哲学、暦や科学技術、政治の制度などの優れた文物を知るための道具であり、治世のためのものになり、社会の発達とともに政治や経済の支配者層の必須の道具となっていったのです。

今日の高度に発達した人間社会では、文字の読み書きの能力はなにものにも変えがたい、絶対不可欠の道具となっているのです。

このように文字の読み書きが重要な要件となった時代にあっては、一部エリートによる独占物としての道具ではなく、万民の利用可能な道具に作り直す必要があるのかもしれません。

将来、文字はどのように変化して行くのでしょうか。


※参考文献:
・『漢字のはなし』阿辻哲次(岩波書店 岩波ジュニア新書 2003年)
・『漢字百話』白川静(中央公論社 中公新書 1978年)
・『漢字と中国人―文化史をよみとく―』大島正二
 (岩波書店 岩波新書 2003年)
・『マンガ 書の歴史 殷〜唐』魚住和晃編著・櫻あおい作画
 (講談社 2004年)
・『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
  鈴木晶訳(研究社 2005年)
・『本 期限と役割をさぐる』犬養道子
 (岩波書店 岩波ジュニア新書 2004年)
第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」
 (4)<字は右手で書くもの>を検証する
《2》字は「書」 
(2)字は「書」
日本人は字を「書」として認識しているのではないか、といわれています。
では、よい「書」とは何か、お習字とはよい「書」のためにあるのか、といった問題を考えてみます。

 ・・・

 文字は、人間社会に情報の伝達手段として発達し、数千年の歴史をもっている。…しかし、ただ単に符号としての文字にとどまらず、そこに美意識が加わり、書体や書風の違いとなって、文字の造形美をつくっているのである。

  ―河合仁(第7章・書道を学ぶ)
  『書道の知識百科』古谷稔・監修(主婦と生活社 1996年)



まずはじめに、日本語の文字について考えてみましょう。

 ◆ 日本語:世界一複雑な表記体系 ◆

日本語を表記する方法には、漢字・仮名文字(ひらがな・カタカナ)・ローマ字があります。

一般日常生活では、漢字かな交じり文といわれるように、主に漢字とひらがな、一部カタカナが使われています。そして、時に応じてアルファベットやその他の記号が使われます。

このように日本語は、言語学的には外来の表語表記(中国の漢字)と日本固有の表音表記(仮名文字)という二種の異なる表記システムが入り交じった非常にめずらしいもので、世界一複雑な表記体系を持っている、といわれています。

 ◆ 漢字から仮名文字へ ◆

漢字の伝来の時期が正確にはいつなのかは不明です。
一説には、1、2世紀ごろにはすでに伝わっていたともいわれています。

6世紀前半の飛鳥時代に仏教が伝来され、漢字はそれまでの支配者層の外交の道具から、それ以外の領域にも広がっていきました。

一方、5世紀頃から日本語を表すための万葉仮名(まんようがな)と呼ばれる表音文字(漢字の音のみを借りて代用している、万葉集に多く用いられているのでこう呼ばれる)が生まれ、平安時代には、そこからひらがなやカタカナへと進化していきました。

カタカナは、当初、仏典を読み下す際の補助用文字として、この万葉仮名の漢字の一部である、偏(へん)や旁(つくり)のみを取り、省略して作ったものです。
以後、漢文を読む際の補助として広く使われ、一般に男性が書く文章に使うということで、男手(おとこで)とも呼ばれました。

ひらがなは、万葉仮名の漢字の草書体をもとにして作られました。

今日のひらがなは、明治33年(1900)に発布された小学校令により一音一字に統一制定されたもので、それ以外にも同じ音を表す多くのひらがながありました。それらは今日では「変体仮名」と呼ばれ、古筆解読にはなくてはならない知識となっています。

また、平安時代には王朝女流文学が盛んとなり、そこでは女性が使う文字としてひらがなが用いられ、女手(おんなで)と呼ばれるようになりました。

ただし正確には、これらの女性も漢文の素養を持ち、カタカナも使えたのですが、その文字の形のたおやかさからひらがなをそう呼んだというのが本当のところのようです。

 ◆ 芸術としての文字 ◆

 中国と同じく、日本でも、書道は古くから偉大な芸術の一つであるが、(…)日本の書道においては、文学と視覚芸術が一つになっている。ローマ字では、逆立ちしてもこの芸術性は真似できない。審美性よりも読みやすさを優先する西洋のカリグラフィーの概念とは違い、中国や日本では、読みやすさよりも美しさが重要である(…)。東アジアにおいては、卓越した書を書く能力も、それを読み解く能力も、学問があるしるしである。このことからも、文字に対する東アジアの人びとの強い愛着を考えても、西洋人が考える文字の第一の目的はここでは逆転してしまう。

  『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
    鈴木晶訳(研究社 2005年)


 ◆ 魂・気持ち、教養・知性 ◆

テレビの「笑っていいとも」という番組で、3月まで「達筆王」という習字のコーナーがありました。
書家の森大衛先生が担当され、私もできる限り見ていました。

このときの採点のポイントには、字のうまい下手もさることながら、御題の言葉に沿った、その人の気持ちが文字にどれぐらい表現されているか、が考慮されていました。

書道というものはそういうものなのでしょう。
そして日本人は文字および書というものにそのような要素、個人の気持ちや感情、魂といったものを感じ、一方、知性や教養も感じ取っているように思います。

 ◆ 文字は書、書は人を表す ◆

日本人にとって文字というものは、何かを記録したり何かを伝えるための道具(手段)であるよりも、まず一番には、自分を示す(表現する)ための道具(目的)なのではないか。

文字は美しく端整なものがよい。
草書行書のような達筆であるかどうかはともかくとして、まずは見てくれがいかに優れているかどうかが大事なのではないか。

文字として人に読みやすいものであるよりも、いやそれだけではなく、それ以上に人にアピールする要素があるかどうかが大事なのではないか。

文字本来の役割である実用性だけを考えるならば、理解しやすい文字の形の正確さ、実用のレベルにふさわしいある程度のスピードで速書できる書きやすさ、といったものがあればいいのでしょう。

しかし、実際には、それ以上の自己表現として、美の要素をも求めているのです。

書としての文字には、その人の知性と教養に裏付けられた美意識を表している。
そういう風潮があるのではないでしょうか。

書は人である、といった考えもあります。

そこで文字が、書が、大切なものになってくるのではないでしょうか。

 ◆ 形式美 ◆

字を書くことは、教養を示すためであり、人に見せるためである。

そして、書いた字を見せることも大事だけれど、その過程こそが大切なものでもあるのでしょう。

いかに形式を踏んだものになっているか、その形式美が問題になっているのでしょう。

日本人にとって書としての字を書くという行為には、そういう意味合いがあり、そういう面からいうとき、左手書きは形式にそぐわないものとなるのでしょう。

右手で書くことによって生まれる独特の字形、そこにひとつの美の世界を見出し、書く人の人間としての修養の度合いを測る。
そういう意識が字を書くという行為の中に込められているように思われます。

日本の社会では、まだまだ形式に則った作法が重要な課題であり、書字もまた、人の価値を見定めるためにあるものなのでしょう。

しかし、形式はあくまで上辺の飾りであり、本質ではないはずなのですが…。

※参考文献:
・『書道の知識百科』古谷稔・監修(主婦と生活社 1996年)
・『書 理論と鑑賞論』明石春浦(同朋社 1990年)
・『漢字文化の成り立ちと展開』新川登亀男
 (山川出版社 日本史リブレット 2002年)
・『マンガ 書の歴史 殷〜唐』魚住和晃編著・櫻あおい作画
 (講談社 2004年)
・『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
  鈴木晶訳(研究社 2005年)
第31号(No.31) 2006/5/27「<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字」
 字は右手で書くものか?(5) <字は右手で書くもの>を検証する
《3》脳の働きと漢字
久しぶりにこの講座を再開します。

実は前回、書きそびれたこと、抜け落ちていたことなどがあります。
おさらいがてら、追記しておきましょう。

 ・・・

<字は右手で書くもの>を検証する《2》字は「書」

で、書きたかったことは―、

字というものは、本来は意思疎通や記録のための記号であり、読み取りやすく書きやすいものであれば、それでよい。
特に美意識に裏打ちされたものである必要はない。

にもかかわらず、日本では(あるいは中国でも)、美を重んじて、記号だけに終わらない要素を持ち込んでいる。

―という事実です。

その美意識の要素のひとつに、右手書きの毛筆の癖である、起筆・送筆・収筆の点画やはね・とめ・はらいなどがあります。


明朝体という印刷書体があります。

この書体の文字で、横画の棒を消しても、朧にその字を読み取ることができるそうです。
(『書と文字は面白い』石川九楊 新潮文庫 1993)

それは、うろこと呼ばれる横画の収筆部分の三角形▲が横画の存在をイメージさせるからです。
ないものがそこにさもあるように感じさせるから、字として認識できるわけです。

この辺に、字というものを認識する人間の脳の働きというものの不思議さを感じます。


今回は、(3)脳の働きと漢字 についてです。

 ・・・

角田: 漢字なんかは右半球じゃないかという説がありますし、私の実験でもスイッチのレベルでは、漢字は必ず非言語的に処理されます。
 ―角田忠信『右脳と左脳―脳センサーでさぐる意識下の世界―』
 (小学館ライブラリー 1992)

 「2・脳の機能と文化の異質性」(シンポジウム1975年12月13日)

*

 世界一般に、失読が起こるのは角回の障害とされている。角回というのは、角張った回転という意味で、回転というのは脳のシワ、溝と溝との間の平らな部分である。大脳皮質には、解剖学的にそういう名前をつけられた場所がある。そこの障害で、万国共通に失読が生じる。ただし日本人では、角回の障害で生じるのは、カナ失読だけである。われわれは漢字を、それとは別な大脳皮質の部位で読むらしい。 
 (養老 孟司『考えるヒト』

  石川九楊『縦に書け! 横書きが日本人を壊している』祥伝社
  (2005) 第二章「日本」とは「日本語」のことである>脳科学からもわかる日本語の特異性 から孫引

 ◆ 言語と運動の支配から見た書字 ◆

人間の大脳は大きく右と左に分かれていて、それぞれ分業してことの処理に当たっているといわれています。

その中で言語をつかさどる部位は、右利きの人の95%は脳の左半球にある、といわれています。
そして、左利きの人でも約70%は左半球にあり、残りの30%ほどの人では両方もしくは右半球にある、といわれています。

書字の運動の支配を言語脳と同じ脳半球で行う方が効率的だ、と考える説があります。

それゆえに、書字も言語脳でもある左脳が運動を支配する側、すなわち右手で行うのが、"言動"一致で効率的ではないか、というのです。
(人間の身体は、交叉または交差支配、あるいは反側支配といって、それぞれと反対側の脳半球が運動を支配しています。)

ところが、日本語における漢字は、右利きの人はじめ多くの人における言語脳といわれる左脳ではなく、図形を処理するといわれる右脳で処理しているのではないか、という説があります。

欧米の失読症の患者と違い日本の患者では、(表音文字である)かなは読めなくても漢字は読めるというのです。どうやら漢字は図形として右脳で処理しているためと考えられる、というのです。

これがひとつの根拠となっています。

漢字が図形として認識され右脳で処理されるのなら、これは右脳の支配する側、すなわち左手で扱う方がより効率的かもしれません。

 ◆ 失語症から見た言語と脳 ◆

失語症の研究から、言語の大脳局在論(言語活動に必要な機能がそれぞれの領域に分かれて存在するという考え)が論じられました。
その研究結果から、左脳に言語中枢があるということが判明しました。

右利きの人の失語症では、左脳損傷によるものが95%。
左利きの人を含めても、94%の人が左脳損傷で起きる、といわれます。

しかし、左利きの人では、40%が左脳、40%が左脳と右脳の両方、20%の人が右脳の損傷で失語症が生じる、とされています。

すなわち、左利きの人では、どちらの脳が傷ついても機能不全に陥る人がいるというわけです。

それゆえに、左利きの人では、失語症にかかる率が右利きの人より
高くなる、といえるそうです。
杉下守弘『言語と脳』第三章左利きの人の言語と脳 講談社学術文庫 2004)

どちらか一方の優位性を示す利きの存在という、左右の機能分化が適者生存の理屈に合っていることの証明になるように思います。

(以下、『言語と脳』による。)

 ◆ 書字の脳内メカニズム ◆

左脳に言語機能がある人では、右手で文字を書く場合は、「右手の運動をつかさどっている左運動領」へ「字を書くにはどうすればよいかという情報」が左側の特定部位を経由して伝達される。

同じく左手で文字を書く場合は、書字情報がこの部位を経由して、さらに二つの脳をつなぐ脳梁を通じて右脳にある「左手の運動をつかさどっている右運動領」へと伝達される。

このいずれかの場所で損傷があると、文字が書けない、失書が起きることになります。

 ◆ 仮名と易しい漢字には差がない ◆

日本語の文字は、欧米の言語の文字と違い、表音文字の仮名と表意文字の漢字という二種類があります。

そのため、日本語を話す失語症患者には、読みと書きで、漢字と仮名の成績に差が出るといわれています。

しかし、研究結果により大きなばらつきがあり、確実なことはいえませんでした。
それは仮名が清音だけなら46文字であるのに、漢字は通常使用するものだけで二千近くもあるからで、検査により、その仕様状況が大きく異なっていたからでした。

そこで、小学校二年生程度までの漢字46文字と仮名文字46文字で検査を行った結果、これら易しい日常よく使う漢字では、仮名とのあいだに差がないことが判明しました。

 ・・・

どうやら、最初の仮定―漢字は言語脳である左脳ではなく右脳で処理しているのではないか、という説は、怪しくなってきました。

ただ、これはあくまで易しい漢字―使用頻度の低い漢字に限ったことですので、難しい漢字では、また違った結果が現れるのかもしれません。

 ◆ むずかしい漢字を書いて覚える時の脳 ◆

ニンテンドーDSのゲーム「(もっと)脳を鍛える大人のDSトレーニング」でも有名な、川島隆太教授の著書に、『読み・書き・計算が子どもの脳を育てる』(祥伝社黄金文庫 2006)があります。

この本のなかに、むずかしい漢字を書いて覚えているときの機能性MRIで測定した、脳の血流を図式化した画像が紹介されています。
(同書 2章読み・書き・計算は「脳の全身運動」 図2−2)

それによると、右手で字を書いているにもかかわらず、言語脳であり右手の運動を支配する役割の左脳のみならず、右脳も活発に働いていることがわかります。

左脳とほぼ同じ部位が右脳でも活性化しているようです。

ただ、話す・聞く・読む・書く・計算するという行為の中で、測定機器の制約があるため、書くことの研究が一番遅れているそうで、くわしいことはまだよくわからないようです。

しかし、漢字を覚える際には、より多くの脳の部分を使って総合的に記憶する方が、効率的に覚えられるというのです。

そのため、ただ見て覚えるのではなく、実際に手を使って書いて覚える方法がベストだそうです。

 ◆ 左利きは左手書字がよい ◆

以上の脳と言語の関係を見ても、私が感じるのは、言語脳が左にある人でも、両脳にある人でも、右脳にある人でも、左利きなら左手で字を書くほうが良いだろう、ということです。

確かに右利きの人のように、言語も運動も両方とも同じ側に支配されているのなら、全く何の問題もなく、右手での書字が自然なこととなります。

しかし、左利きの人の場合には、右手で書くことが自然なこととはいえないでしょう。

半数以上の左利きの人は、言語の面で左脳優位になっているとしても、実際に字を書くという行為には、視覚や手の運動面など、言語以外の他の要素が含まれているからです。

言語脳が右脳や両脳にある人では、左手書きが、"言動"一致にあたります。
こちらの人では、左手書きが自然なのではないでしょうか。

現実には、左脳にある人、右脳が言語優位の人、両方の脳にある人など様々な人がいるのですから、そして、現状ではその違いがわからないわけですから、言語脳がどうということより、実際の各個人の利き手・利き側をこそ重んじるべきではないか、と考えます。

既成概念にこだわらず、できる限り自然な形で、ひとりひとりの才能を活かしてゆける、そういう書字の方法を具体的に考えてゆきたいものです。


※参考文献:
・『書と文字は面白い』石川九楊(新潮文庫 1993)
・『右脳と左脳―脳センサーでさぐる意識下の世界―』角田忠信
(小学館ライブラリー 1992)
・『考えるヒト』養老孟司(筑摩書房 ちくまプリマーブックス
1996)
・『縦に書け! 横書きが日本人を壊している』石川九楊
(祥伝社 2005)
・『言語と脳』杉下守弘(講談社学術文庫 2004)
・『読み・書き・計算が子どもの脳を育てる』川島隆太(祥伝社黄金文庫 2006)
第33号(No.33) 2006/6/10「書字は万民の技術」
 字は右手で書くものか?(6) <字は右手で書くもの>を検証する
   《4》書字は万民の技術―その1―
 かつて字を書くという技術は、一部のエリートのみに許されたものでした。
 しかし、今では、ごく一般的な日常生活に不可欠な基礎的技術となりました。
 もはや特殊な書法にこだわるのではなく、いつでもどこでも誰でもが使える技術にしなければなりません。

 ・・・

 …文字は学問をするための道具にて、たとへば家を建つるに槌・
 鋸の入用なるがごとし。…

   ―福沢諭吉『学問のすゝめ』第二編

 ・・・

21号から23、25、27、31号と5回にわたって書いてきました、この「字は右手で書くものか? <字は右手で書くもの>を検証する」ですが、いよいよ締めの段階になって来ました。

簡単におさらいしてみましょう。


■第21号(No.21) 2006/2/25「字は右手で書くものか?」■
―その13― 字は右手で書くものか?
「字は右手で書くものだ」という考えがいかに誤解であるかを証明してみましょう。


初回は、大見得を切りました。
二回目からは検証編です。
まずは、世界最初の文字から直接発達したアルファベット編。


■第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」■
 (2)<字は右手で書くもの>を検証する
  《1》文字の歴史から考える―その1―
記述の方向のような書記法・筆記法は、かなり早い段階で、右手書きにふさわしい書き方が工夫されていたようです。
しかし、西洋のアルファベットに関しては、文字そのものが右手書きにふさわしいものになっているかどうか、は疑問だと思われます。


そして、漢字編。


■第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」■
 (3)<字は右手で書くもの>を検証する 
  《1》文字の歴史から考える―その2―


今日のアルファベットの基となった、古代メソポタミアで発明された、楔形文字は五千数百年の昔に誕生した当初は、基本的に今の日本語と同じ上から下へ文字を綴り、右から左へと行が移ってゆく方式でした。
その後およそ千年あまりの後に90度左回りに横倒しされ、右手書きに都合のよい、左から右へ文字を綴り、上から下へ行を移る書き方になりました。

漢字もまた三千数百年の歴史を持っています。
始めのおよそ千年くらいのあいだに、文字を綴る方向や行換えの方向はそのままでしたが、その字形が右手書きにふさわしいものに変形されてゆきました。


ついで、日本での文字観、字は「書」について。


■第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」■
 (4)<字は右手で書くもの>を検証する
  《2》字は「書」

日本人にとって書としての字を書くという行為には、そういう意味合いがあり、そういう面からいうとき、左手書きは形式にそぐわないものとなるのでしょう。
右手で書くことによって生まれる独特の字形、そこにひとつの美の世界を見出し、書く人の人間としての修養の度合いを測る。
そういう意識が字を書くという行為の中に込められているように思われます。
日本の社会では、まだまだ形式に則った作法が重要な課題であり、書字もまた、人の価値を見定めるためにあるものなのでしょう。
しかし、形式はあくまで上辺の飾りであり、本質ではないはずなのですが…。


まだまだ日本では字を書くという行為は、その人の知性と教養を示す手段になっているようです。
実際に字を書くことが稀になってきた時代にあっても、同じことです。

就職では、手書きの履歴書が必要です。
実際に重要なのは、履歴書よりも、職務経歴書だったりするにもかかわらず…。


脳と言語の関係から、左利きの場合を見てみました。


■第31号(No.31) 2006/5/27「脳の働きと漢字」■
 (5)<字は右手で書くもの>を検証する
  《3》脳の働きと漢字

以上の脳と言語の関係を見ても、私が感じるのは、言語脳が左にある人でも、両脳にある人でも、右脳にある人でも、左利きなら左手で字を書くほうが良いだろう、ということです。
半数以上の左利きの人は、言語の面で左脳優位になっているとしても、実際に字を書くという行為には、視覚や手の運動面など、言語以外の他の要素が含まれているからです。
現実には、左脳にある人、右脳が言語優位の人、両方の脳にある人など様々な人がいるのですから、そして、現状ではその違いがわからないわけですから、言語脳がどうということより、実際の各個人の利き手・利き側をこそ重んじるべきではないか、と考えます。
既成概念にこだわらず、できる限り自然な形で、ひとりひとりの才能を活かしてゆける、そういう書字の方法を具体的に考えてゆきたいものです。

 ・・・

第25号のラストを私は、以下のように結んでいます。

今日の高度に発達した人間社会では、文字の読み書きの能力はなにものにも変えがたい、絶対不可欠の道具となっているのです。
このように文字の読み書きが重要な要件となった時代にあっては、一部エリートによる独占物としての道具ではなく、万民の利用可能な道具に作り直す必要があるのかもしれません。
将来、文字はどのように変化して行くのでしょうか。

 ・・・

次回はいよいよ、大詰め。
さて、どのような結論が披露されますか。


※参考文献:
・『学問のすゝめ』福沢諭吉 伊藤正雄 校注(講談社学術文庫 2006)
第35号(No.35) 2006/6/24 「書字は万民の技術―その2―」
 字は右手で書くものか?(7) <字は右手で書くもの>を検証する
   《4》書字は万民の技術―その2―

 … 世界で最も複雑に見える文字をもつ国が、世界で最も技術的に進んだ国であるということは、全くの偶然ではないだろう。
  『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
    鈴木晶訳(研究社 2005年)


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 ◆ 文字―特権階級の所有物 ◆
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書字という行為は、その神聖さや高貴さ(時には、邪悪さ―中世ヨーロッパでは、そのくねくねした筆記字形から、文字の読み書きは魔法使いや悪魔の所行とされた―『文字の歴史』)、重要性の観点から、ひとつの技術として隔離され、一部の人のものとして伝えら
れたのです。

その技術を持つものは社会から一目置かれ、職を得、地位を与えられたのです。
当然その普及を積極的に押し進めようという考えは生まれてきません。

合格すれば誰もが公職を得られるという試験制度、中国の科挙の制度でも、実用をはるかに越える多種多様な文字の知識を要求されたようです。

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 ◆ 字を書くことは万民の技術 ◆
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何度も書きますように、かつて字を書くという技術は、限られた人にのみ許された技術でした。

はるか昔は、神官や僧侶のような宗教従事者や王侯貴族、学者や役人、交易商人や通商関係者といった人々およびその子弟のみに限られていました。

一般庶民には無縁のものでした。
それが徐々に広がりを見せ、近世以降一般庶民にも普及してゆきました。

日本では、江戸時代後半には寺子屋が急速に普及し、それにともなってほぼ二人に一人の人が読み書きできるようになっていたであろう、といわれています。
日本語には漢字と仮名があったことが有利に働いた部分もあるかもしれません。

根底には、製紙や木版印刷といった工業の技術に支えられ、さらに読み書き算盤を必要とする経済の発展が大きな要素としてあった、と思われます。
(ただし、男性と女性ではかなり状況は違っていたようです。女性の場合はひらがなを女手ともいうように、仮名の読み書きと多少の漢字に限定される場合もあったようです。)

今では書字の技術は、江戸時代以上に誰もが必要とする基礎的な技術となっています。

諸外国の現状を見ましても、その国家の経済力はその国民の識字率に比例するといわれています。

100年前、日露戦争で日本が大国ロシアを負かした背景には、この学問の力が大きく関わっていたとも、いわれています。
すなわち兵隊のレベルが違っていた。指揮官は優秀でも、それを支える平の兵隊に差があった。軍の命令を出す場合も、その都度声に出して伝えなければならなかった。文書で広く規律を守らせるとか作戦を浸透させるということができなかった、といわれています。
上官が倒された時点で敗走するしかなかったのです。

 ―――――――――
 ◆ 新時代の書字 ◆
 ―――――――――

このように現代を生きる上において最も大切な技術である書字を、私たちはいつまでも旧来の考えに囚われいるべきではない、と思います。

右手書きの特徴を活かした特定の書法のみをよしとするのでなく、誰にでも書ける方法を基本とするべきだろう、と私は考えます。

そういう意味で、字を書くという行為は基本的に使いやすい利き手で書けばよい、ということになります。

 ―――――――――――――――――――――
 ◆ 書字の規則を変えることはむずかしい ◆
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今まで見てきましたように、文字というものは、何万年という人類の歴史の中では、せいぜい数千年という、まだ比較的最近の発明です。

そのなかで、右手書きにふさわしいものに改良されるようになったのは、さらについ最近のことといわなければなりません。

しかし、結論として、文字は現時点から見ればかなり早い段階―実際には、文字が生まれてから千年ほどののち―に、その字形といい、綴りの方向といい、右手書きにふさわしい形に変形、改良された、といえます。

そして、文字がエリートの道具として普及するとともに、右手書きも作法として成立した、といえるでしょう。

このように手書き文字は、右利き・右手書きに都合のよい方向に進化して来た、というのが現実です。
そして、そこには、左利き・左手書きへの配慮といったものはうかがえません。

けれども、今やエリートの道具から一般庶民も使用する生活の道具となったのですから、それにふさわしいものに変わってゆくべきである、という考えもあってよいと思います。

とはいえ、文字の書き方を左手書きにふさわしいものに変えるというのは、現状ではむずかしいでしょう。

字体を多少変化させることは可能でしょう。
しかし、文字そのものや文字を綴る方向であるとかは、変えることはできないでしょう。

右利きの人は左横書き、左利きの人は右横書き、などとすることはできません。
あるいは右利きの人は横書き、左利きの人は縦書き、というわけにもいかないでしょう。
(日記や覚書など個人的に利用する文書ならいざ知らず。)

 ――――――――――――
 ◆ 手書き文字の改革 ◆
 ――――――――――――

現代はパソコンで文字を書く時代です。

文字の書き方も大きく変化してきました。
これからも様々な方式が生まれ、工夫されてゆくことと思います。

しかし、いかに機械化が進もうとも手書き文字が消え去ることはないでしょう。

それは人間にとっても最も手っ取り早いものだからです。
どんな時代、どんな環境にあっても通用するものだからです。
時間と場所を越えて人の意志と意思を伝えることができる最もシンプルな方法だからです。

このように重要な手書き文字を、私たちは新たな時代にふさわしい技術にしなければならないと思います。

冒頭の引用に示すように、日本人の優れた知能を結集して、新時代にふさわしい文字の書き方を工夫することが必要な時代になってきたのではないでしょうか。

しかし、これは一朝一夕にできることではありません。
千年の時を経て改良されたものを改めるには、それに相当するような経過を必要とするでしょう。

 ―――――――――――――――――――――
 ◆ 「押し」書きを「引き」書きに変換させるペン ◆
 ―――――――――――――――――――――

では、今私たちにできることは何か。

手書きの場合でも、道具によって書き方を工夫することができるのではないでしょうか。

道具を改良することで、左手書きでも右手書きのような動きになればいいのです。

左手書きの難点のひとつは、横画の線を書く場合です。

横画を書くとき、右手ならペンを左から右へ「引く」という、滑らかな動きになるのに対して、「押し」て書く、ぎこちない動きになるというところです。

では、その動きを変換させて、実際には左手で「押し」書きしていても、右手での「引き」書きになるように工夫すればよいのです。

私は、そんな筆記具が誕生する可能性がある、と考えています。
そんな可能性をイメージさせてくれた筆記具が、ヨーロペンです。

 ・・・

次週からは、「左手で字を書く:実践編」の続編をこのシリーズに移行して「左手で字を書くために」というタイトルでお話を進めてゆきます。

※参考文献:
・『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー
  鈴木晶訳(研究社 2005年)

※参考記事:
・『レフティやすおのお茶でっせ』2005.5.27
 勝手に左利き筆法になる?ヨーロペンYOROPEN
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/05/yoropen_1d0a.htm
・『レフティやすおの左組通信』左利きphoto gallery〈HPG6〉
 左手/左利き用文房具(筆記具・定規・その他)
http://homepage3.nifty.com/lefty-yasuo/hg.hph6.bungu.html
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◆左手で字を書く・実践編◆

第21号(No.21) 2006/2/25「字は右手で書くものか?」
  1:正しい持ち方を身に付けよう
まずは、硬筆、なかでも鉛筆の持ち方から見てゆきましょう。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 右利きの標準的な持ち方の裏返しでよい
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

左利きには右利きの場合とは異なる持ち方があるのでは、という意見があります。
それは、左手で書く場合、左から右に線を引こうとするとペン先を押すように移動させなければならないからです。
右手書きのときのように、文字通り線を「引く」書き方ができないからです。

たとえば、鉤形に手首を曲げて上のほうから回りこむようにして書く書き方があります。

しかしこれは、右利きの人にも稀に見られるもので、決して左利き特有ののものとはいえません。

記憶で書いて申し訳ないのですが、このような書き方は、元々右利きであったものが病理的成因によって利き手を変更された左利きの人に多く見られる特徴であり、右利きの人の場合はその逆の本来は左利きであったが病理的成因によって右利きに変更された人に見られるものである、という説を説く学者がいます。

私は、右利きの標準的な持ち方の裏返し―鏡に映った姿―鏡像でよいと考えています。

四十数年この書き方を実践していますが、特に問題になることはありませんでした。

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 三本指で保持する
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鉛筆(およびぺん=硬筆)の正しい持ち方とは、親指、人差指、中指の三本指でつまむように持つことです。

三本の指を使うことで鉛筆を自在に動かすことが可能になります。

鉛筆は通常六角形にできています。これも三本指使いに対応する形状なのです。

そして、三本指に対応する三角鉛筆というものがあります。

公文からは、太目の三角鉛筆のほかに、三角クレヨンというものも出ています。
鉛筆はまだ早いというお子さんでもこれで練習できます。

これを使うのがいちばん手っ取り早い方法です。

ほかに、この三本指に対応するグリップ(持ち方補助具)というものも出ています。
これを使ってみるのもいい方法でしょう。

以下の「お茶でっせ」記事を参考にしてください。


2005.8.25 鉛筆の正しい持ち方
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/08/post_f9e1.html
2005.8.20 鉛筆持ち方補助具(練習具)あれこれ 
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/08/post_3141.html
第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」
  1:正しい持ち方を身に付けよう(2)
前回は簡単に持ち方について書いてみました。
その後、ペン習字の本を少しのぞいてみましたので、自身の勉強のおさらいを兼ねてもう少し書いてみます。

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 鉛筆(ペン)の持ち方
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 :指の形:
手を軽く丸め、親指と中指で鉛筆(ペン)をはさみ、人差指の根元辺りと橋渡しする。
人差指を軽くそえ、三本指が三角形になるように軽く固定する。
箸の上の方の持ち方と同じです。

 :指の位置:
万年筆なら人差指をペンの先端から3−4センチぐらい上、鉛筆・ボールペンなどはペンの先端から3センチぐらい上の方を。
小指は軽く紙面にふれる。

書いているうちに持つ位置が下がってきたら、正しい位置に戻す。

親指が人差指より下がると、人差指が立ち、指先に力が入りすぎ、伸びやかな字が書けなくなる。
逆に、親指が上りすぎると、手のバランスが崩れ不安定になる。

 :角度:
万年筆は、紙面に対して45度前後に倒す。ペン先には決まった角度があり、それが45度に当たる。
鉛筆は、もう少し立てた60度ぐらい。
ボールペンは、さらに立てて、70度ぐらいで、ペン先のボールが転がる感じをつかむ。

三本指から渡した鉛筆(ペン)の軸を、人差指の第二関節から付根、さらに親指とのあいだぐらいまでの範囲内で動かす。

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 姿勢と用紙の位置
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姿勢は、背筋を伸ばして肩の力を抜き、上体をやや前に傾ける。

用紙の位置は、自分の身体の中心よりやや左側に寄せ、左腕を前に出して軽く肘を曲げ、そのまま自然に机の上に戻す。
そのときの手を置いた位置に来るようにします。

身体の正面でやや右下がりに斜めに置く方法、90度右に回転させた横向きで書く方法もあります。
特に毛筆の時にはこの横向きの方法は、右手書きと同じ筆の動きになり、書きやすくなります。

硬筆の場合は、左側に寄せる、あるいは斜めにする、その程度でよいのではないでしょうか。

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 左手書きと筆記具
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筆記具も注意が必要です。

左手書きの場合でも、横線は左から右へ(→)引きます。
書きやすいからといって逆に右から左へ(←)は引かないようにする必要があります。

これは、現状では「右手書きの癖」を標準字形としている(「美」とみなしている)ので、それらしい字を書くためには、これは必須事項です。

そのために左手書きの場合は、線を「引く」というより「押す」ように書かねばなりません。

そこで、どうしてもペン先は柔らかく、滑りのよいものが必要となります。

鉛筆は柔らかいBや2Bといったもの、もしくはHBが適当でしょう。

ボールペンでは、水性の細字のものは時にかすれたり、使いにくいものがあるようです。

万年筆は、一般的なものは、紙にひっかかたり突き刺さったりで、非常に使いにくいものです。
「左手・左利き用」としてペン先が加工された、特殊なものがあります。
それを使うと気持ちよく書くことができます。

外国製では、ジュニア用で千円前後で手に入るものがあります。
もちろん大人でも使えます。

国産品(の一般用)もありますが、一万円以上します。

 ・・・

参考文献:
・『NHK趣味入門 ペン習字』中山祐子
 (日本放送出版協会 1998年)
第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」
  2:筆順(書き順)は?

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 左手書きでも標準字形に見せる方法
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1・横棒は、左から右へ、やや右上がりに
2・筆順(書き順)に従う

これだけで、ほぼ標準字形に見えます。

筆順どおりに書くことは、字を覚える際の助けになります。

それだけでなく、正しい順番に書いてゆくことで、字形を標準の形に整えることができます。

現状では、右手書きの癖を標準の字形とし、正しく美しい文字の基準になっています。
そこで、この右手書きに則った順番を学び、まねることで標準の字形に整えることが可能になります。

これは右手でも左手でも同じです。

毛筆と違い、硬筆の場合は、ハネ・トメ・ハライといった筆ならではの終筆の形はあまり強調されません。

順番に書いてゆくことで筆勢が生まれ、そのなかで自然にハネ・トメ・ハライの形ができてきます。

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 目習いと手習い
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文字の書き方を学ぶときに大事なことはふたつあります。

ひとつは目習い。
文字通り目で習うこと。

正しい文字、きれいな文字とはどういうものかを知ることです。
お手本をしっかりと見て、その形を覚えること。

次に手習い。
実際に手で書いて習うこと。

お手本を見てその通りにまねて書くことです。
手で、身体で覚えさせるのです。

字を書くのも、スポーツと同じです。
頭の中にお手本を焼付け、そのイメージ通りに身体を動かすことです。

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 運動神経を優先しよう
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スポーツと同じですから、運動神経が大切になります。

道具がいかにその手に合っていようと、運動神経の通っていない手で扱うのでは、いい結果は生まれません。

仮に道具が手に合っていなくても、運動神経のできている利き手で扱う方が都合がいいのです。

道具に合わせた使い方を身に付けることができるようになります。
簡単に言えば、慣れるということです。

たとえば、昔は左手用のハサミがなく、私たちは使いにくいと思いつつも右手用のハサミを左手で使い続けて、それを使いこなすコツを身に付けたものです。

左利きでも右手で使うことを覚えた人もいます。
が、それは少数派でした。
右手使いになじむことができる人だけでした。

字を書くこともまた同じことです。

百歩譲って、日本の文字が右手用の道具であったとしても、左利きの人にとっては運動神経の通った利き手である、左手で扱うほうが都合がよいのです。
第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」
  3:毛筆編―基本と左きき筆法

私は習字や書道の先生ではありませんし、正式に習ったこともありません。当然、毛筆の技術といったものについて語る資格はありません。

しかし、硬筆の場合も同じですが、左手書きの左利きとして何十年か生きてきて、それなりに思うところがあります。

左手書きの書き方のコツといったものについて書くことはできるでしょう。

まずは、本から得た知識を以下に簡単に記しておきましょう。

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 姿勢
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毛筆の場合は、硬筆のときと違って、腕を使って身体全体でリズムを取って書く。

座って書く場合も、半紙全体を見渡せるように、へその位置より低い机を用意します。

机とのあいだにこぶしひとつぐらいを開け、背筋を伸ばして下腹に力を入れる。

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 腕の構え方・筆の持ち方
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 ―腕の構え方―
・懸腕法:腕を机と平行に、肘を上げた状態。腕が自由に動かせる。大筆で大字を書くのに適している。
・提腕法:肘から先を軽く机につけて書く。腕の動きを妨げないように軽く浮かす感じ。鉛筆の持ち方と同様だが、軸を立てて持つ。小筆で名前や中字・細字に適している。
・枕腕法:(右手で書く場合)左手を右手首の下に置き、枕のように使い、そのまま左手ごと動かす。右手首を支点とし、五指が自由に動かせる。小筆で細字を書くときに適している。

 ―筆の持ち方―
・単鉤(たんこう)法:筆の軸に人差指一本をかけ、親指とはさんで持ち、中指で支え、薬指小指は中指に添える。硬筆の持ち方と同じ、小字に適す。
・双鉤(そうこう)法:人差指と中指を軸にかけ、親指とはさんで持ち、薬指で支え、小指を薬指に添える。単鉤法より安定し、大字に適す。別名、撥鐙(はっとう)法。
・全鉤(ぜんこう)法:軸に人差指・中指・薬指をかけ、親指とはさんで持ち、小指は薬指に添える。
・そく管法:五本の指を集めて筆を執る。親指と他の四本の指の先で筆を持つ方法。
・握管法:掌で軸を握る持ち方。特別な大筆に適するが、それ以外には不向き。
・撮管法:五指でもって筆の上端からかぶせるようにつかむ。筆を縦横に揮うのに便利。

筆を持つ際の注意は、筆を握り締めないで、掌に空洞をもたせるようにする。
それと、筆の軸をまっすぐに立てる感じで持つ、ということでしょう。

ここまでが右利き用の構え方・持ち方の基本です。

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 左手書きの場合
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次に、応用として、左手書きの方法を探って見ましょう。

筆の持ち方は、先にあげたように右手の場合でも様々な持ち方があります。
左手でも基本的には同じですが、筆を持つ角度が微妙に違います。

左手書きの場合は、右手の持ち方に近い角度になるように、反対方向に倒し加減に持ちます。

これが大きなポイントです。

左手で鉛筆を持つときのように左方向に倒すと、書きづらくなります。
また、右手書きのような文字に近づきません。

次にお手本の位置です。

右手書きでは当然左側に置くことになります。
これはお手本を常に視界に入れて、見ながらまねて書けるように、という配慮からです。

そこで、左手書きでは、当然反対の右側に置きます。

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 腕の動きの方向と文字の向き
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右手で書く場合の腕の動きは、全体として、左上から右下へ(\)、となります。
すなわち、右腕を伸ばした状態から手元へ引き寄せる形に移動しま
す。

それに対して左手で書く場合は、右への横画は腕を伸ばしながら送筆することになります。
これでは動きが不自然になります。
右腕で書くときのような、すっと引く形にはなりません。

では、この腕を伸ばした状態から手元へ引き寄せる動きを左手で取ろうとすると、どうしても右上から左下(/)への動きとなります。

すなわち、この動きが左手で書くときの自然な動きといえます。

そこで、この動きで字を書くことができれば、右利きの人が右手で書く場合と同じ動きとなり、同じように書けるということになります。

こうして考え出された方法が、左きき筆法と呼ばれるものです。

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 左きき筆法
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1970年代、箱崎総一先生主宰の「左利き友の会」が考案した左利きのための書道の技法です。

用紙を上を右側、下を左側にと、90度右回りに横倒しにして置いて書く、という「横がき筆法」方法です。

こうすると、本来の横画が縦画に、縦画が右から左への横画に変換されます。

これなら、左腕の自然な動きで文字を書くことが可能になります。

実は、この種の変換は、すでに何千年も前の古代メソポタミアで実際に行われているのです。

前々回(*)の「《1》文字の歴史から考える―その1―」のなかでも書きましたように、古代メソポタミアで生まれた楔形文字は、当初は縦書きで右から左へ行換えする書式でした。

ところがあるときを境に、文字を90度左回りに回転させ、書記方向も左から右への横書きに変わりました。

この方が右手書きに便利だ、ということになったからでしょう。

楔形文字の場合は、文字とその書記方向そのものを変換したのですが、左利き筆法では用紙を変換させます。

実際に書くときには文字自体も向きを変えて書いているのですが、できたものは正立したものとなります。

左きき筆法についてくわしくは、フェリシモ出版の『左ききでいこう!』や同じくネットの「フェリシモ左ききカタログ」で購入できる『左きき友の会書道教本』\300 をご覧ください。

もしくは左利きサイト『クラブレフティ』でダイジェストが紹介されています。

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 斜めがき筆法・正座筆法
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お行儀が悪いと感じる人もいるかもしれません。
しかし、きれいに書きたいのか、書くことを楽しみたいのか、あるいは単に書の雰囲気を味わいたいのか、行儀作法の一環にすぎないのか、等々それぞれの目的によって考え方も変わって来ると思いま
す。

結果としてきれいな字を書ける、書を楽しめるのなら、それでいいような気もします。

習字として、字を覚えることを目的とするなら、正対して書くべきだ、ということになるのかもしれません。

そういう場合には、この左きき筆法に他の方法も出ています。

「斜めがき筆法」や「正座筆法」です。

「斜めがき筆法」はやや斜めにして書きます。
お手本も右側に並べて斜めに置きます。
これでもちょっとと思われる場合は、「正座筆法」があります。

これは用紙を左に寄せます。
お手本を右側に置き、その隣に用紙を置き、お手本を見ながら書きます。
これなら特に大きな違和感なく見てもらえるように思います。

 ・・・

使う手が異なるのですから、書き方にも違いが出てくるのは当たり前のことです。
その辺の感覚になじめるか、許容できるかどうかが、ひとつの分か
れ目になるように思います。

見た目の違和感にこだわらず、書く人が気持ちよく楽しみながらきれいな字が書ける、という点に力点を置いて考えて欲しいものです。

*参照:
第23号(No.23) 2006/3/25「字は右手で書くものか?(2)」
http://blog.mag2.com/m/log/0000171874/107094106?page=1#107094106
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲ ―その13― 字は
右手で書くものか?(2)<字は右手で書くもの>を検証する
 《1》文字の歴史から考える―その1―

※参考サイト:
・『クラブレフティ』> data file > 左きき筆法
http://homepage3.nifty.com/club-lefty/04/data-a01.htm
・フェリシモ dico > Left-handers > 左きき必読必携の書
http://www.felissimo.co.jp/dico/v1/cfm/products_list001.cfm?WK=1214&SMOD=2

※参考文献:
・『書道の知識百科』古谷稔・監修(主婦と生活社 1996年)
・『書 理論と鑑賞論』明石春浦(同朋社 1990年)
・『左ききでいこう!』フェリシモ左きき友の会・大路直哉編著 
 フェリシモ出版
第31号(No.31) 2006/5/27「<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字」
 4:毛筆編―書家から見た左手書き

* 京都新聞:一日一書


一日一書 2001年 4月6日

 子供の左手書きは早いうちに直すのが賢明。東アジアは書字中心言語。文字の規範が右手書きでできているため、左手書きでは一生不自由する。
 清朝・高鳳翰(こうほうかん)の草書体の「山」。左から水平に打ち込まれる第一画起筆。右へ引くのではなく押すために横筆部はゆれる。
 右手を痛めたための左手書きの例である。
(解説 石川九楊)
www.kyoto-np.co.jp/sho1/04/06.html

一日一書 2003年 9月3日

 揚州八怪・高鳳翰の「泰」。左手書きの書。文字の規範は筆順、非対称の字形共に右手に偏している。右手では容易に「引」ける横画を、左手では「押」し「送」らねばならない。そのため現行規範下での左臂書には、荒れと軋みが避けられない。
 左手書きは何等(なんら)悪くない。だが書字時たえず無自覚の緊張と違和感が強いられ、不利。
(解説 石川九楊)
www.kyoto-np.co.jp/sho/09/03.html

―この変化はどういうことでしょうか。
 読者の抗議での変節? 
 いいえ、きっと利き手というものについての認識が改まったのでしょう。
 うれしいことです。
 ただ、ここでも述べられているように、左手書きが現行の規範にあっては不利であるという事実は、しっかり心に留め置きたいものです。
 その上で、改善の方法を模索してゆくべきでしょう。

* 感動を与え続ける若き書の魔術師 書道家・武田双雲
筆と墨で世界平和を目指したい!



 日本語は基本的に右手で書くような字の構造になっていますが、左利きの人はどうしたらいいのでしょう。

 まったく気にする必要はありません。左利きの方は左手で書いていいんです。片岡鶴太郎さんは右利きなのに左手で書いています。右手で練習することも楽しめれば、なおよいでしょう。


 字に誇りをもてるというのが、じつにうらやましいかぎりです。社会人になりますと、何かとパーティに出席することが多く、そのとき受付で記帳するのがイヤでイヤで……。

 みなさん、それを言いますね。じつは根本的に根深いところがあって、日本人のほとんどの方が字にコンプレックスをもっている。それは英語も一緒かもしれないのですが、学校教育がコンプレックスを植えつける教育なんですね。基本的に字はうまくなければならないという妄想がありまして、字が下手な人はダメだとレッテルを貼る傾向があるんです。答えは一つだという教育に組みこんで、払い、留め、撥ね、書き順も含めてルールをがちがちに決めて、そのとおりに書かないと間違いであるとして、個性を消してしまっているんです。

MouRaトップページ> Click Japan(話題:インタビュー・トピック
ス) > ホットインタビューズ INDEX [vol.08]書道家:武田双雲氏
http://moura.jp/clickjapan/interviews/040421/index02.html

―この方は書家ではなく、書道家と名乗っておられます。
 自ら道を開いてゆきたいといった思いがあるからのようです。

 書道と日常的な書字とは違う、という考えもあるでしょう。
 しかし、書道―毛筆での書字としても、このような左手書きでよいという考えを広めてゆくことは大切なことだと思います。

 それが一般的な書字においても、左利きの子に右手書きを指導しようとする人たちの考えを変えさせることにつながると思います。

 残念ながら、現状ではまだまだ文字だけは右手で、という考えの持主が少なくありません。

 しかし、それが本当にその子にとってよいことかどうか、その辺の見極めこそが大事だと思います。


* 書法日本墨翠会 通信教育部 右書きと左書き 池宮元橋
 (カテゴリ: 元橋先生ブログ 投稿者: genkyou)

「私の子はギッチョなのですが、右手書きに直すことが出来ますか?」と尋ねてこられた。小学三年生の女の子と言われる。右手、左手書きの論議はさておき、小学三年生といえば、自我自立の芽生える時まで左手書きで過ごしてこられたのであるから、いまさら右手強制は当人にとって納得できないし、私も右手書きにしなくてはならない理由があるようには思えない。これらのことで尋ねられる方が案外多い。人は左右を自由自在に使いこなす能力を持っているのだから、今の状態で、鉛筆の正しい持ち方や筆順を正しく指導していけば、整った字が書くようになります。
 2,3歳の幼児であれば、右手書きにすることは容易であり、幼児も素直に直して行くようだ。時には右手書きの低学年の生徒も、左手書きのように、横画の線をギッチョ書きの様に右から左に押しつけて書く時があります。やはり人の左右は自由自在に使うのが自然なのかも知れないと思う。今回展示いたしました作品集は左、右書きの作品です。ご観賞いただければ幸いです。
http://genkyou.unite.ne.jp/index.php?itemid=23

―現実にこういう声が後を立たないようです。
 本当に子供のことを考えているのか、疑問に思ってしまうのは私だけでしょうか。

 小さいうちなら…という意見に関しては、身体全体を使う書道の場合は一概に否定しませんが、これもやはり子供の自然な姿で、と望まずにはいられません。
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左手で字を書くために
(左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ―その14―)

第38号(No.38) 2006/7/8「左手で字を書くために(1)」
  左手で字を書くために(1)
左手書き用ボールペン―ヨーロペン

 ユニークな形状と回転式グリップの機能を利用することで、左手書き(左利き)に都合のよい筆記具となりそうなヨーロペン。

 このペンの秘密から左手書きにふさわしいペンのあり方を考えます。

 まずは、その紹介から始めましょう。

 ―――――――――――――
 ◆ 「ヘ」の字型のペン ◆
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「ヨーロペン」yoropen とは、英国のコールズペン・カンパニーの“超未来筆記具”といわれる、ユニークな形状を持つペンで、ボールペンと鉛筆の芯をセットしたロケット・ペンシル・タイプとの二
種類があります。

特筆すべきはやはりその形状です。
従来のペンはすべからくペン先とペン軸が同軸になっていました。
手で持つ(指でつかむ)軸本体と同一延長線上にペン先がついていました。

(左手で持つ場合)──→ *軸の先にペン先
(右手で持つ場合なら ←──)

当然ペン先の角度と軸の角度は同じです。

ところが、このヨーロペンの形状は違います。

(左手で持つ場合)___/\ *「へ」の字の先がペン先

側面から見れば、ちょうど「へ」の字のように、角度を変えて軸の方から見れば「く」の字のようにも、見えます。

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 ◆ 手元を見やすくした形状 ◆
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筆記中に手元を明るく、筆記状態がよく見えるように、との考えで「へ」の字に曲げて空間を作っているのです。

この形状が、横書きの左手筆記の際に、筆記中に書いた後の文字をこすりにくくすることに役立っています。

パッケージの台紙裏面の説明書きの「特徴2」のなかに、

「左利きの人にとっては、筆記中に筆跡を手でこすり汚すことを避けることができます。」

と明記されています。

*YOROPENのホームページの「LEFT HANDED USERS」というところをクリックすると、ふつうのペンの場合は書いた字をこすって汚すが、ヨーロペンの場合は左手書きしてもテキストをこすらないよ、というアニメの説明が見られます。

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 ◆ 回転式のグリップの効果 ◆
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このペンは、ゴム状の柔らかいグリップ(親指、人差し指、中指に対応した三角形)がペン軸にかぶせてあります。

筆記時の指先の疲労を軽減し、またこのグリップを回転させることで自分のベストな位置に調整して持てるように工夫されています。

このグリップと「へ」の字に曲がったペン先の角度とがあいまって奇跡?を起こすのです!

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 ◆ 左利き筆法―右手書きに似せた筆使い ◆
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以前、◆左手で字を書く・実践編◆3:毛筆編―基本と左きき筆法 でも紹介しました、左利き筆法を思い出してください。

おさらいになりますが、説明を入れます。

1970年代、左利きの人たちの様々の苦労や悲惨な差別的状況を見かねた、精神科医の箱崎総一という方が自ら発起人となって左利き友の会を設立運営し、左利きの人のために努力されていました。
この会が左利きの人のために開発し、左手書きのためのお習字の方法としてまとめたものが『左きき書道教本』です。

*フェリシモ出版『左ききでいこう!』や大路直哉『見えざる左手』および氏のサイト「クラブレフティ」に説明ページがあります。

まず、筆の持ち方が違います。

普通に左手で鉛筆やペンを持つ場合は、水平方向から見ると左に傾いた「\」となります。
これで左から右に線を引こうとすると、ペン先を「引く」のではなく「押す」形になり、書きにくくなります。

(右手の場合ですと、「/」ですので、そのまま「引く」形になります。)

そこで、筆を右手で持つ時のように、やや右に傾けて持つ―「/」
こんな感じです。

こうすると、左から右に線を引く場合でも、文字通り「引く」感じになります。
しかし、これは慣れないとちょっと不安定です。

 ―――――――――――――――――――――
 ◆ 勝手に左利き筆法?になるヨーロペン ◆
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ところが、このヨーロペンの回転グリップと、この特殊な形状のペン先のおかげで、まるで「左利き筆法」のような書き方ができるのです。

ペン軸よりペン先の角度が大きいので、軸の角度を変えずに―すなわち持ち方を変えることなく、ペン先だけを限りなく垂直「|」に近い位置に変えることができるのです。

左利き筆法―右手書きに近い形で書けるようになります。

さらに、ペン軸に対しペン先を思い切って右に倒してみる―グリップを左に回す―と、さらに右手使いに近い方向にペン先の角度を変えることができます。

ペン軸とペン先の角度が違うこと、グリップを回転させて最良のポジションで持てることを利用し、ペン先だけを倒すことでこういう形に持ってゆくことが可能になります。

自分から見ると、左手に持つペンの方向は「/」左手前から右奥へ、もしくは「→」左から右へ、となります。

右手の場合はその逆の「\」右手前から左奥へ、もしくは「←」右から左へ、です。

このヨーロペンを使うと、「/」ではなく縦方向「↑」に近い前後の角度に変えることができます。

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 ◆ 自分のちょうどいい角度を塩梅する ◆
 ――――――――――――――――――――

グリップを左回りに回転させて、ペン先を右側に傾ける。上から見て逆「く」の字型「>」に(近く)します。

こうすると、左から押して書いているにもかかわらず、ペン先は勝手に「引く」形に動いてゆきます。

ただ、あまり傾けすぎるとボールの接触が少なくなり書けません。
そこで実際には少しだけ傾けて、ペン先が真っ直ぐになる前後の範囲が無難でしょう。

これでも、「押す」というより「横に引く」感じなので、使い心地は格段にアップします。

はじめ慣れるまでは角度を小さくして、徐々に角度をつけ、自分の限界を極めればよい、と思います。

 ―――――――――――――――――――――
 ◆ ヨーロペンは書く方向を自動変換する ◆
 ―――――――――――――――――――――

左利き筆法は、筆の持ち方以外に、紙の位置を変えます。

1・斜め45度右に傾ける、
2・90度直角に横倒しにする、
3・体のまん前でなく、中心から左側に置く、

という三つの方法があります。

横倒し法は極端な書き方ですが、横画「─」を「縦画「|」に、縦画「|」を右から左へ引く横画「─」に変換できます。

すなわち、左手書きの欠点である、横棒を「引く」作業が「押す」ことになる書きにくさを改善できる、非常に良い方法です。

そして、このヨーロペンも、ペン先を回転させることで力の方向を変えることができるのです。

左利き筆法に似た変換が可能で、手書き作業が非常に楽になる、と考えられます。

左利き筆法が使えて、書いた文字をこする心配もなく、確認もできる。
実に良いこと尽くめのペンの誕生です!

*お値段がかなりお高い(609円税込)のが難点です。
 通常のボールペンが百円前後から売っていることを考えると、ちょっと贅沢な気もします。替芯も高いそうです。

 ―――――――――――――――
 ◆ 書く方向を変換する装置 ◆
 ―――――――――――――――

以上、ヨーロペンを紹介しました。

これでお分かりのように、ヨーロペンの良さは、書く方向を変換させる点にあります。

正確に言うと、ペン先の方向を変える、ということです。

すなわち、左手書きの不便さを解消するには、このペン先の方向を変えればよい、ということになります。

もちろん、字の書く向きを変えるのが最も手っ取り早く、かつ絶対確実な「改善」方法ですが、現状ではそれは無理でしょう。

現行規範に則って、なおかつ左手書きに都合のよい方法を考えると、行き着く先はやはりこれだと思います。

 ・・・

 次回は、もう一度初めから左手書きについて検討してみましょう。


※参考サイト:
・「お茶でっせ」2005.05.27 
 勝手に左利き筆法になる?ヨーロペンYOROPEN
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/05/yoropen_1d0a.html
・YOROPENのホームページ(英語)
http://yoropen.colespenco.com/main.html
ABOUT > 4.LEFT HANDED USERS
・文マガ(2005/2/21-2/24)
2/22【新製品】英コールズペンカンパニーの超未来筆記具「Yoropen」
http://www.nichima.co.jp/contens/bre2-4.htm
・メルマガ『レフティサーブ』No.089 2005年06月07日号
http://blog.mag2.com/m/log/0000116367/106069577.html
・左利き系サイト『クラブレフティ』> data file > 左きき筆法
http://homepage3.nifty.com/club-lefty/04/data-a01.htm

※参考書籍:
・『左ききでいこう! 愛すべき21世紀の個性のために』
 フェリシモ左きき友の会 大路直哉/編著 フェリシモ出版
・『見えざる左手 ものいわぬ社会制度への提言』大路直哉 三五館
第40号(No.40) 2006/7/22「左手で字を書くために(2)」
  左手で字を書くために(2)
左手書きの方法
 左手書きにはいくつかの特徴があります。
 少し見ておきましょう。

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 ◆ 逆手―鉤型に曲げる書き方 ◆
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左利きに書き方の特徴と言われるものに、手を向こう側から回して鉤型に曲げて書く、逆手の書き方があります。
よく外国の人に見られます。

最新の左利き本『左ききのたみやさん。』の著者たみやともか氏は、
このタイプの字の書き方をしている、とあります。
(私はどうも苦手です。たまにそういう書き方をするときもないわけではないのですが、まずありません。)

八田武志・著『左ききの神経心理学』の「第5章左ききの脳機能/4.書字の方法と言語脳」のなかで、この逆手で字を書く人と順手で字を書く人に関する記述があります。

 ・・・

このタイプの書き方は、日本人では希少で、1700人中74人(0.046%)にすぎない、といいます。

しかし海外では顕著で、カナダでは左利きのうち33%、ドイツではもっと高くなる、という。
アメリカのブッシュ元大統領やクリントン前大統領もサインのときにこの書き方をしていたそうです。

この外国人と日本人の差は、手書きの際の線の運動が、アルファベットではカーブを描いてゆけばいいのに対して、日本語の場合は、漢字のように押したり引いたりの運動が混在するという、表記上の特性によるものだろう、といいます。

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 ◆ 言語脳と逆手・順手―Levyの仮説 ◆
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Levyという学者の説によると、逆手で字を書く人は言語脳が同側にあリ、順手で書く人は反対側にある、という。

逆手で書く左利き(左手書き)の人は、言語脳が手と同じ左側となり、順手で書く人は反対側の右脳になる、というのです。

確かに左利きは、言語脳が右利きの人と同じ左側にある人が多く(40-70%といわれる)、右(10-20%)もしくは左右にまたがる人(20-40%)が少数です。

そして、この逆手の書き方は少数ではありますが、右利きの人にも見られます。
Levyの説では、これらの人は言語脳が反対側の右利きということになります。
こういう言語脳を右側に持つ右利きの人も非常に少数ですが、存在する、といいます。

この説が正しければ、字の書き方からその人の言語機能の偏在がわかることになります。
が、残念ながら、この説を支持するような研究結果は得られていな
いそうです。

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 ◆ 左利きの順手と両側性転移の効果 ◆
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両手間の触空間知覚技能の転移を扱った、Parlow and Kinsbourneの研究によると、この順手と逆手の左利きの人のあいだに違いがある、という。

両側性転移とは、片手で何かの運動を学習すると、学習していない方の手でも学習したかのように初めて行うより成績がよくなる現象をいう。
通常、右手で学習したときの左手への転移効果が、その逆の場合より大きい、という。

ところが、左利きの逆手と右利きでは同じ方向性を示すが、順手の左利きではどのような方向性も示さなかった、という。

すなわち、順手と逆手の書字の様式の違いには、何らかの脳機能とのあいだに関係があるらしい、というのです。

 ・・・

書字ひとつ、その書き方ひとつとっても、脳の機能と複雑な関係があるようで、なかなか興味深いものがあります。

これらの調査結果を見ても、やはりむやみ勝手に利き手をあれこれするということは、問題があるようです。

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 ◆ 右上がり罫線の左利き用メモ用紙 ◆
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左利き筆法について何度か紹介してきました。

その中に、用紙の置き方を工夫する書き方があると紹介しました。
それぞれ書き方によって三種類ありました。
斜めがき・横がき・正座筆法です。

斜めがき筆法は、用紙を斜めに置く方法で、右側を下げて置きます。
用紙を右側に45度ぐらい傾けた書き方です。
横書きの場合なら、左上から右下へ \ 書いてゆく方法です。

右利きの人でも用紙を傾けて書くことがあります。これと同じですが、傾ける方向が違います。

ところが、逆に右上がりに罫線を引いた、左利き用のメモ用紙が作られていました。

『フェリシモ左ききカタログ』にある、「左きき友の会ナナメモ6穴リフィル」です。
メモ用紙というより、手帳用の用紙ですね。

 ・・・

「左で書い手帳」のリフィルです。
用紙も罫線も書きやすい斜め仕様です。

 ・・・

横書きのメモの罫線が、左下から右上の方向 / に伸びています。
右斜めに傾けて書けば、水平になる方向です。

ちょうど左利き筆法の斜めがきの逆の方向です。
これで、本当に左手書き(左利き)の人が書きやすいのでしょうか。

そうです、これは逆手で書く左手書き(左利き)の人用のものだったのです。

逆手で書く場合は、普通に斜めがき筆法ですと左上から右下へ \ 書いてゆくことになりますので、書いた上をこすってゆくことになります。
逆だと、そうはなりません。

フェリシモ左ききカタログのカトサンも、このタイプの書き方をするそうで、自分が書きやすいということでこの手帳を考案されたそうです。

 ・・・

※「左きき友の会左で書い手帳」
(手首「く」の字に曲げないで、手帳も真直ぐのまんまで、スケジュールいっぱい書いてチョー!)

〈カトサンのひと言〉
左で字を書く私は手首おもいっきり「く」の字に曲げて書いてます。
そうするかノートを斜めに置いて書くと書きやすい。「あ、私もそうなんよ」とか「○○ちゃんがそんな書き方やわ」と思った方もおられるでしょう。でね、手首「く」の字に曲げて書くかわりにノー
トの罫線を右上がりにしてみたのです。するとあまりにも書きやすいので、手帳を作りました。

 ・・・

左手書きと一口に言っても色々なパターンがあるようです。


※参考文献:
・『左ききの神経心理学』八田武志(医歯薬出版 1996年)
・『左ききのたみやさん。哀愁ただよう左きき爆笑エッセイ』
 たみやともか(宝島社 2006年)
(『レフティやすおの本屋』:左利きの本棚/研究書・実用書、
左利きの本棚/左利きの人)
http://myshop.7andy.jp/myshop/lefty-yasuonohonya

※参考サイト:
フェリシモ左ききカタログ
http://www.felissimo.co.jp/left/
フェリシモ dico > Left-handers > 左きき用文具
http://www.felissimo.co.jp/dico/v1/cfm/products_list001.cfm?WK=1216&SMOD=2
・左きき友の会左で書い手帳
・左きき友の会ナナメモ6穴リフィル
第42号(No.42) 2006/8/5「左手で字を書くために(3)」
  左手で字を書くために(3)
左手書きの問題点―横画における押し書き
 左手書きの際、横画が左からの押し書きになります。そこで様々な弊害が生まれてきます。
 これを解消するにはどうすればいいのでしょうか。
 その点を考えてみましょう。

 ・・・

前回は、左手書き(左手筆記)における逆手(手首を鉤型に曲げて書く)の書き方について考えてみました。
今回は、逆手でも順手でも同じだろうと考えられる、横画における押し書きについてふれてみます。

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 ◆ 現行規範での最上法:左利き筆法の用紙置換法 ◆
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結局、色々考えてみて横画の押し書き問題の解決には、現状では、左利き筆法における、用紙を置く際の角度を変える、斜め書き筆法や横書き筆法が、最上のものと考えられます。

要するに、ペンを押す方向で書くのをやめ、引く方向に変換させようという方法です。

用紙を真横に倒して書く、横書き筆法を使えば、左から右へ → の向きを、下 ↓ 向きに変換させることができます。

こうして押すのをやめて、縦におろす。
縦画は右から左へ ← 引くように変えるのです。

非常に滑らかに文字を書くことができます。

しかし、これは見た目が悪い、という批判を受ける可能性があります。
 
この見た目を気にする、という形式的な作法を重視する人には、この方法は致命的に映るようです。

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 ◆ アルファベットの曲線は左回り ◆
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漢字でも仮名文字でも横画、横に引く線は左から右へを書きます。
日本の文字に限らず、西洋の文字でも、左から右へと横に移動する書き方が標準です。

しかし、アルファベットの筆記体では、左回りの曲線が多用されます。
これは、傾きこそ右に倒れてゆきます ∠∠ が、基本的には左手書きに都合のいい回転方向ではないでしょうか。
横へ綴るときこそ押してゆくことになりますが、文字を書くこと自体は右上から左下へ /の曲線が多く(a,c,d,e...)、一概に左利きに不利とは言いがたいように思います。

右手書き(右手筆記)では、たとえば丸 ○ をつけるときなど、左下から右上 / の方に傾いた楕円を右回りに描くのが普通です。
左手書きでは、その逆で、右下から左上へ \ の傾きの左回りの楕円を描きます。

丸 ○ を見るだけで、その人が右利き(右手書き)か左利き(左手書き)かが一目でわかります。

そこで、やはり問題となるのは、横画です。

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 ◆ ペン習字 ◆
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左手書きに置いて、横画の押し書きが一番顕著に問題となるのは、習字でしょう。

習字といっても、毛筆ばかりでなく、ペン習字というものがあります。

毛筆は今までにも散々書いてきましたので、お分かりのように、左利き筆法のように、書き方を工夫してなんとかできるかもしれません。

あるいは節を曲げて、腕や身体全体の動きで書く、大筆ぐらいは右手で書いて見る、ということも良いかもしれません。

しかし、ペン習字となるとどうでしょうか。
細かい文字は、やはり利き手で書きたいものです。
そのほうが圧倒的に書きやすいもの…。

ペン習字のペン使いも、その実は毛筆と同じだといいます。
毛筆がうまくなれば、ペン習字もうまくなるというのが、世間のお習字の先生の共通した見解です。

ペン習字というものは、やはり鉛筆のような、普通の書き方とは違う性質のようです。

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 ◆ ペン先が突き刺さる ◆
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私は、このペン習字で嫌な思い出があります。
中学に入ってからだったと思うのですが、ペン軸とペン先を使っての授業がありました。

最近はあまり見かけませんが、ペン軸に鉄のペン先を差し込んで、そのペン先をインク壜につけて字を書く、という道具がありました。
(インク壜にその都度つけずに使えるように、インクを内蔵させたのが、万年筆です。)

万年筆やボールペンが普及するまでは、皆このようにして字を書いていました。

ペン先の柔らかい万年筆でも、左手書きの場合は非常に書きづらいものです。
ところが、このペン先は鉄製ですので、弾力性にも限度があり、非常に硬く、なおかつ先がとがっています。

横画の線を引くべく、筆順どおりに左から右へと押してゆくと、紙に突き刺さってしまいます。
わら半紙で練習をしてゆくのですが、次々と破ってしまうばかりでした。

仕方なくペン先を浮かして、限りなくそのすきまを少なくして、インクの表面張力が破れて、紙の表面にインクが乗る、そのぎりぎりのところで勝負してゆきました。

早い話が、一画ずつ小さくそーっとはねるように書いてゆくのです。
インクを載せる感じです。
ちょうどマジックで布に文字を書くときのように、にじまないように、ひっかからないように書く、あの感覚です。

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 ◆ 左手・左利き用の万年筆 ◆
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私は今、イギリスの左利き専門店で購入した、左手書き用の万年筆を使用しています。

ペン先が / というふうにカットされています。
左方向45度ぐらいから書くときの、紙に接する角度にあわせてあるのです。

横に引くときは、横一の形になり、接触面が線状になり、抵抗が少なくなります。
縦に引くときはカット面が広く接触し、その分太い線になります。

これを使うと左手書きでもすべるようにペン先が移動して、非常に
書きやすく感じます。

今まで持っていた万年筆は、あらかじめペン先をギュッと押し付けて、軽くペン先を開くようにつぶしてから使っていました。

それでもインクが少なくなると度々ひっかかり、書きにくかったものです。

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 ◆ もっと画期的な方法は? ◆
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線を引く、という表現があるように、線はどのような筆記具を使うにしても、引く動作が一番抵抗が少なく、かつ、書いた後をこすって汚すこともないので、非常に都合がよいということです。

しかし、左手書きの場合、現行の文字の書き方の規範に則って行おうとすると、横画を引く書き方はできません。

そこで、最初にお話しましたように、この弱点を補う方法としては、左利き筆法によって、用紙の置き方を変えて、線を引く方向を変える変換法を使うのが、現状では一番よい方法でしょう。

しかし、もっと画期的な方法はないのでしょうか。
第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)」
  左手で字を書くために(4)
変換アダプターの試み
 用紙の置き方を変えて、線を引く方向を変える左利き筆法の変換法を使う以外に、押し書きを解消するもっと画期的な方法はないのでしょうか。ペン自体を工夫する方法もあるかもしれません。

 ・・・

左手書きの場合、現行の文字の書き方の規範に則って行おうとすると、横画は、左から右へ筆なりペンを「押す」ように進める書き方になり、右手で書く場合のように、「引く」書き方はできません。

左利き筆法によって、用紙の置き方を変えて、線を引く方向を変える変換法を用いるのが、現状では一番よい方法でしょう。

しかし、もっと画期的な方法はないのでしょうか。

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 ◆ フェリシモ左ききカタログ、カトサンの試み ◆
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フェリシモ出版『左ききでいこう!』(フェリシモ左きき友の会 大路直哉/編著)のカタログのページの末尾に「カトサンとコイケクンの左ききグッズ開発秘話と珍発明」というコーナーがあり、そ
のなかに、「その1 左で書ける筆」が紹介されています。(210p)

「アダプターと呼んでください」と、筆ペンにティッシュが貼り付けられたものを、コイケクンから渡されたカトサン。書きにくいというと、自分で作れといわれ、開発に着手―。
半年後に完成したものは、持ち手は左に傾いているのに、筆先は右に傾いているという代物。
しかも、上から見ると右回りにねじれていて、左手が書いた文字を隠さないようになっている、という。 

写真を見ていただければわかるのですが、これは持ち手部分から下が、逆「く」の字に曲がっています。「>」

左利き筆法で、筆先をやや右に倒して持つ方法を踏襲しています。普通に持ってもすでに右に倒れているわけです。

こういう筆なりアダプターを作れば、普通に字を書いても、筆(ペン)先は右手で持っている感覚で移動しますので、線を「引く」ことが可能になります。

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 ◆ ヨーロペンとの相似 ◆
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ここで思い出すのが、第38号(No.38) 2006/7/8「左手で字を書くために(1)」で、紹介した「ヨーロペンyoropen」です。

ヨーロペンを横に置いた姿は、以下のようになります。

(左手で持つ場合)___/\ *「へ」の字の先がペン先

これを立てた図が、このカトサンの開発になる筆とよく似た形状です。

この「へ」の字に曲がったペン先の角度と回転式グリップとの組み合わせで、左利き筆法に似た使い方ができる、とそのときに紹介しました。

 「ペン軸とペン先の角度が違うこと、グリップを回転させて最良のポジションで持てることを利用し、ペン先だけを倒すことで」

 「「/」ではなく縦方向「↑」に近い前後の角度に変えることができ」、線を「引く」ことが可能になるのです、と。

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 ◆ アダプターの可能性 ◆
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このヨーロペンを見たときに、私の中にひとつの記憶がうごめきました。

実はそれが、先のカトサンの開発された「左で書ける筆」だったのです。

その事実に気付いたのは、カトサンにアダプターの話を持ちかけたときでした。

ヨーロペンというユニークなものがあり、それにヒントを得てアダプターを試作しているが、どんなものだろうか、と問い合わせしてみました。

すると、実はこれこれです、とのお話だったのです。

いやあ、あらためて、フェリシモのこのお二人の仕事振りに感心いたしました。

ところで、このアダプターですが、はたして商品として成り立つものでしょうか。

たとえば、人の集まりでは記帳を求められることがあります。
たいていは筆ペンが用意されていて、それで書くことになります。
しかし、この筆ペン、慣れていないと意外に書き辛いものです。
ましてや左手で、となりますと自信がないという方も少なくないでしょう。

そんなとき、このアダプターの登場です。
やおらポケットから取り出したアダプターに筆ペンをセットする。
たちまちにして筆ペンは左利き筆法化し、左手でそのままスイスイと記帳…。

これは十分に商品価値があると思われます。

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 ◆ アダプター開発にご協力を ◆
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私が制作を試みた「左利き筆法変換アダプター」は、「クリップつき回転式グリップ・ペン軸」といったものです。

 ・クリップに筆記具を固定すると、自然な右手持ちの角度になっている
 ・回転式グリップで、自分の好みのホールディング位置を調整できる

このふたつの機能を持たせます。
これにより、左手での自然な持ち方であっても、筆先は自然な右手持ちの形に変換されるのです。

試作品を作りかけたのですが、なかなか素人にはできません。
どなたかご協力いただける方がいらっしゃれば、よろしくお願いいたします。

ヨーロペンの特許がどういうものであるのか、不勉強にして存じません。
抵触する部分があるかもしれませんが、ぜひ、商品化を実現したいものです。

フェリシモのカトサンによりますと、同社では規模的に製品化するのはむずかしいとのこと。

ここは専門の文具メーカーさんにお願いするしかないようです。

大阪にも、コクヨのようにユニバーサル・デザインに力を入れている文具事務用品メーカーや、クツワのように、左利き対応文具を発売しているメーカーもあります。
こういったメーカーさんに呼びかけてみたいと考えています。


※参考:
・第38号(No.38) 2006/7/8「左手で字を書くために(1)」
http://blog.mag2.com/m/log/0000171874/107461640.html

※参考書籍:
・『左ききでいこう! 愛すべき21世紀の個性のために』
 フェリシモ左きき友の会 大路直哉/編著 フェリシモ出版
第46号(No.46) 2006/9/2「左手で字を書くために(5)」
  左手で字を書くために(5)
未来の可能性―左手書き用文字
 来るべき将来において、左手書きにふさわしい文字が作られる可能性はあるのでしょうか。

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 ◆ 現行規範の書きにくいさ ◆
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前回までは、現行規範に則った文字の書き方を左手で行うための方法を見てきました。

しかし、ここでちょっと未来に思いをはせて、ひとつのフィクションとして左手用の文字の可能性について、検討してみたいと思います。

前回、第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)」の「■左利き子育て一口メモ■ 『松田道雄の安心育児』」のなかで、松田先生が、習字が正科になることに反対された話を紹介しました。

その理由は、「左手に筆をもつと、右ききに書きいい筆順はたいへん具合がわるいもの」で「筆順にしたがうためには、どうしても右手で筆をもたなばならない」から、ということでした。

このシリーズでも再三紹介してきましたように、左手で現行規範どおり文字を書こうとすると、横画を左から右 → へ「押す」ように書かねばならず、これが左手での文字を書きにくいものにしてい
ます。

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 ◆ ボールペンの構造 ◆
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ボールペンを使うときも、ボールの回転に伴うインクの出る位置と実際に字を書く接触面との間にずれが生じ、ボールペンを使いづらくしています。

●左手で左から→ _←\○↓\_ 

(__紙、\\ボールペンの傾き、○ボール、↓インクの出る方向、←インクの残る方向)

インクの出がいい場合、
ボールの回転に伴って上部から出たインクが、紙の表面に落ちる。
紙の表面に文字として残る以外に、ボール上面にインクがたまり、ぼた落ちとなる。
 \○↓\↑⇒↓ (余ったインクがたまり、落ちる) 

インクの出が悪い場合は、
ボールが口金の側面に当たってインクの出るすきまがなくなり、書けなくなる。
 \○⇔\ (間隔がなくなり、インクが出なくなる)


●右手で左から→ _←/○↓/_ 

(__紙、//ボールペンの傾き、○ボール、↓インクの出る方向、←インクの残る方向)

インクがボールの回転に伴い、口金とボールのすきまから紙面に落ち、文字が書ける。

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 ◆ 右から左へ引く ◆
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ではここで、大胆に発想を変えて、右利きの人が書くように横画を「引いて」書いてしまえばどうなるでしょうか。

すなわち、横画を右から左 ← に「引いて」しまうのです。

もちろん筆順(書き順)も違ってくるでしょう。

現実に私が字を書くとき―急いで書くときには、部分的ですが、けっこうこの方法をとっています。

「書」の字の「コ」の部分を書くときなど、一気に ⊃ と書いてしまいます。

いってみれば、これをもっと極端にしたものです。

ただちにこの方法をとると、いままで持っていた文字の形成感覚では裏向きの文字―鏡文字・鏡映文字になってしまいそうです。

かなりの混乱に陥りそうです。

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 ◆ 右文字左文字 ◆
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しかし、左手書きにふさわしい文字を生み出す可能性も全くないとはいえません。

文字としての記号の共通性さえ残れば―解読可能でさえあれば、そこにひとつの文字が生まれても不思議ではないと思います。

左手で書きやすく、右手で書くものとさほど変わらない形態を持つ文字、そういうものが発明される時代も来るかもしれません。

部分的な改良を加えてゆけば、現行の文字であっても、それらしい崩し方が生まれてくるかもしれません。

そして究極には、かつて右偏向性を持たなかった原始の文字記号が、右手書きにふさわしいものに変形されたように、左手書きに対応したそれなりの工夫がなされ、ひらがなとカタカナのように、右文字と左文字のようなものが生まれるかもしれません。

左利きの人―左手書きの人が増えてくれば、そういう可能性も否定できないような気がします。

アルファベットでも、筆記体と活字体、大文字と小文字を私たちは読み分けています。
実際に、これらをごちゃ混ぜに使った文字を書く人がいます。
文頭の始めだけにしろ、筆記体と活字体が交じっている人は少なくありません。

トイザラスは、日本では「トイザらス」と「ら」をひらがなで書きます。
英語では、TOYSRUSのRを裏文字(鏡映文字)で書いています。
私たちは、それでも何の違和感もなく見ています。
(最初こそ唖然としましたが、今ではそういうものだと思っています。)

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 ◆ 確実に減っている手書き文字 ◆
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現在、この文章はすべてパソコンで書いています。
下書きになるメモをシャープ・ペンシルで書くことはありますが、基本的に手書きすることはありません。

他に日常生活でも、仕事などでボールペンを使う以外には、読書メモをつけるのに万年筆を使っているぐらいです。

手書き文字の比率は、私たちのまわりを見渡しても、グッと減っているのでないでしょうか。

お店のポップで、いかにも手書き手作りのものがあります。
それをのぞいて、手書きでこれはというものに出会うことはホントに少なくなりました。

文書のみならず手紙の類も、仕事上のものも含めて私的なものでも、Eメールで済ませたりすることが多くなりました。
町内会の刷り物でも、パソコンを使ってプリント・アウトするのが当たり前になってきました。

手書きの機会は確実に少なくなっています。

学校時代を除くと、大人になって手書き文字を書くのは、そういう専門の仕事なり趣味を持つ人に限られてきた、といっても言い過ぎではないようです。

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 ◆ 手書き文字は芸術に ◆
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先ほどのポップの例のように、文字は、そういう意味では、記録のための技術であるよりも、鑑賞や自己表現目的の芸術になってきたのでしょうか。

そういう時代の文字は、単なる記号としての共通性よりも、個性が大事な要素になるかもしれません。

かつて流行った丸文字を思い出してください。
丸文字のなかには、大人には読めないような書き方をしたものも少なくありませんでした。
しかし、当事者には読める文字でした。

私もそのひとりですが、今でも草書行書の文字が読めない大人もいます。

人それぞれに応じた文字が生まれ、それが当たり前と認められるようになるかもしれません。

未来の人々は、右利きの人は右文字を、左利きの人は左文字を使っているのかもしれません。


追記(メルマガで紹介もれの参考文献・サイト)
※参考文献:
・『松田道雄の安心育児』松田道雄/著 小学館(1986年刊)
第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)」
 「■左利き子育て一口メモ■ 『松田道雄の安心育児』」

※参考サイト:
左利きの小ネタ > 左利き用のボールペン/「左利き用のボールペン」とは
http://homepage1.nifty.com/hidex/left/ballpen.html
第48号(No.48) 2006/9/16「左手で字を書くために(6)」
  左手で字を書くために(6)
小学校の書写の教科書
 以前、私の住む市の図書館で、市立小・中学校で採用している教科書の展示がありました。
 
 すべてを見る時間はありませんでしたので、特に興味のある小学校の「書写」の教科書のみ一年から六年まで見てきました。

 そのときに感じたことを書いてみます。

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 ◆ 子供にとって教科書は絶対的なもの ◆
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私自身の子供時代のことを思い返してもそうなのですが、子供にとっても大人にとっても教科書というのは、「絶対正しいのもの」という先入観があります。

教科書にもまちがいはある、と頭では理解していても、それはあってはならないこと、とも考えているものです。

教科書に書かれているかどうか、というのはそれほど大きな意味のあることです。

子供は教科書をお手本にする、といっても良いでしょう。

そして、教科書は先生でもあります。

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 ◆ ヴィジュアルな教科書 ◆
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私が見た小学生用の「書写」教科書は、

 東京書籍「新編新しい書写」

です。

ページを開くと見開きで、字を書くときの机の上の様子がイラストに描かれていました。

始めの授業ですから、「じをかくしせい」を身に付けよう、という学習です。

正しい姿勢から始めるのはよいことです。

絵を見ると、左側に左手の置く位置が示されています。
そして鉛筆を、右手で持つ写真が示されています。

ここまでは私も納得して見ていました。

昨今の教科書は、イラストをふんだんに使って、非常に視覚に訴える要素が増えています。

私が子供の頃にはほとんど見られなかった傾向です。

なぜこのようなヴィジュアルな教科書があるのかといえば、それは「百聞は一見如かず」だからです。

言葉で説明するよりも、早く、わかりやすいからです。
子供にもしっかりと伝わります。
一目で見るだけで理解できるからです。

字を書く姿勢のような身体的実技は、お手本を見るのが一番です。

しかし、…。

左手書きのお手本は見当たりません。

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 ◆ 右利き専用の教科書でよいのか ◆
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以下のサイトには、教科書について紹介されています。

小学校教科書・教材総合目録
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/kyozai2006/mokuroku-elm.htm

書写のページに進んで、「「新編 新しい書写」の基本方針」には、<確かな書写力が身につく教科書> とあります。

さらに、「(特色1)進んで学習しよう!」に、

  子どもたちが自ら進んで学習できる工夫を随所に凝らしています。

と、書かれています。

進んで学習できるように工夫してあるというには、私には「片手落ち」ではないか、と思えるのです。

さらに、サイトを見てみましょう。

教科書内容見本(1導入)子どもの意欲を引き出す巻頭教材
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text2004/sho-sho/sho-sho12.pdf

一年用の見本です。
「はじめの れんしゅう」というページです。

左手下の隅に、「●左利きの子ども用の手の置き方の図版は、教師用指導書に用意しています。」とあります。

問題としたいのはこの点です。

自ら進んで学習しようという子は、右手書きの子だけでしょうか。

子供が自ら進んで勉強できるように、というのなら、右手書きの例のみを示すのではなく、左手書きの例も示しておくべきではないでしょうか。

世の中には、少なくても、十人に一人ぐらいの割合での左利きの子がいます。

そして、今では左利きは個性として尊重しましょう、左利きの子は左手を使うのが自然なことです、と考えられています。

現に、教師用の指導書には図版を入れているというのなら、左利きの子のための図版が必要である、ということは理解されている、ということでしょう。

それでも、児童向けには不要、ということなのでしょうか。

一部の児童だけのために、そのようなスペースは避けない、ということでしょうか。

どうも合点がいきません。

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 ◆ 左利き(左手書き)の子にも配慮を ◆
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結果的に、この教科書には左利きの子供たちへの配慮が欠けています。

私は、たとえ一部であれ、無視される子供が存在する状況というのは問題がある、と考えます。

無視された子はさびしい思いをするのです。

この教科書では、左利きの子がそうです。

お手本がないことは、現実の問題としても、不便です。
きっと戸惑うことでしょう。
自分はどうしたらいいのだろう、と。

そのときに素直に質問できる子はいいでしょう。
指導書にある通り、先生にアドヴァイスを受けられるかもしれません。

しかし、口に出せない子もいます。

そのときに先生が適切な対応を取ってくださるかどうかはわかりません。

ケース・バイ・ケースのようです。
先生によって異なるようです。

ネットを調べていると、左利きの子の左手書きについて、非常に熱心に研究されている先生もいらっしゃるようです。

ただ、それらの工夫されている先生方の努力が、研究の成果として他の多くの先生方にも共有されたものになっているのかどうか、少し疑問です。

聞いたところでは、左利きの子のことはわからないから教えられない、と右手書きをすすめられた、という親御さんのお話もあります。

「人権」という言葉はむやみに使いたくないのですが、教育の機会の均等という点でも、ちょっと不思議な気がします。

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 ◆ 教科書にも左利き(左手書き)のお手本を ◆
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少しでいいのです。

全体の四分の一ぐらいのスペースを使っていただければ、ベストです。半ページぐらいで充分です。

しかし、贅沢はいいません。
比率からいっても、九分の一のスペースでもけっこうです。

左手で鉛筆を持つところ、右手の位置などのイラストを入れて欲しいと思います。

それで、左利きの子のお手本ができます。

低学年の場合、親御さんが教科書を見ながらお子さんに復習の手伝いをすることもあるでしょう。

そんな時、もしこのようなものがあれば、右利きの親御さんは大いに助かるでしょう。

ひとりも左利きがいない家庭に、突然、左利きの子が生まれるケースがあります。
そのとき、右利きの親御さんは悩みます。

どう教えたらよいのかわからない、という意見をよく耳にします。

左利きの親御さんでも、同じです。
何でも経験しているわけではありません。

教科書はそんな時のためにこそあるのではないでしょうか。

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 ◆ 当たり前のことが当たり前になる世の中に ◆
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私が実際に見たのは、この教科書だけです。

他の教科書ではどうなのか、また実際に現場ではどのような対応をされているのかは、存じません。

これだけでものをいうのは早計かもしれません。

しかし、過去の様々な経験から見て、他も押して知るべし、といっても過言ではないと考えています。

前号(第47号「私にとっての左利き活動(5)」)の「レフティやすおの左利き活動万歳」のなかで、野球やソフトボールの例を出しました。

学校で授業やクラブ活動等で実施されるとき、必ず左右の打席が用意されます。

実際に左打席で打つ子がいるかどうかに関わらず、です。

常識として、用意されるのが当たり前になっている、からです。
そういうものだという思い込みがあるからです。

然るに、…です。

当たり前のことが当たり前になっていない、肝心の教育の場で。

これが私の怒りです。

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 ◆ 公器としての役割 ◆
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以前読んだ産経新聞生活面のある編集長?氏のコラムによりますと、アメリカのテレビ・コマーシャルには、若者や美男美女だけでなく、中高年者や車椅子に乗った人なども登場するそうです。

それが日常的な社会のあり方だから、それを表しているのだろう、というのです。

それに引きかえわが国ではどうであろうか、と続けておられました。

誠にその通りです。

きれいなものを否定するつもりはありません。
CMが夢の現れであっても良いでしょう。

しかしそれだけしか見られない、というのは行き過ぎでしょう。
現実を忘れたところに真の繁栄はありません。

テレビというものの影響力を考えたとき、そこには当然ある種の配慮が必要になります。

それが社会の公器としての役割でしょう。

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 ◆ いろんな人がいることも教えて欲しい ◆
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教科書もまた同じです。
いやそれ以上に配慮が必要です。

無垢な子供たちにものを教える道具なのですから。

社会にはいろんな立場の人がいる、ということを教えるのも教育の役割であり、その手引きとなる教科書の役割でしょう。

それは単に社会科の教科書だけに任せるのではなく、どのような教科でも教えることができます。

「書写」の時間においては、左手で字を書く人もいる、という事実を教える好機となります。

機会を逃さず、何でも子供たちの教育に結びつけて欲しいものです。
それが本当の人間教育につながるのではないでしょうか。


※参考サイト:
・東書Eネット
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/enet/sitemap.htm
小学校 国語・書写
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/enetap/kyoka.php?gkbn=E&kkbn=KY&log=es_kokugo
総合目録
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/kyozai2006/mokuroku-elm.htm
内容解説資料
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text2004/sho-sho.htm
第51号(No.51) 2006/10/14「左手で字を書くために(7)」
  左手で字を書くために(7)
左手書きの研究<1>
 前回第48号「左手で字を書くために(6)」では、小学校の書写の教科書についてふれてみました。
 今回は、左利きの子供さんの左手筆記について研究されている人びとについて見てみましょう。

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 ◆ 書(道)家の意見 ◆
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第31号(No.31) 2006/5/27「<字は右手で書くもの>を検証する《3》脳の働きと漢字」に掲載した、「左手で字を書く・実践編 4:毛筆編―書家から見た左手書き」のなかで、ネットでひろった書(道)家諸氏の左手書きの書についての意見を紹介しました。


石川九楊氏の意見:
「文字の規範は筆順、非対称の字形共に右手に偏している。右手では容易に「引」ける横画を、左手では「押」し「送」らねばならない。そのため現行規範下での左臂書には、荒れと軋みが避けられない。
 左手書きは何等(なんら)悪くない。だが書字時たえず無自覚の緊張と違和感が強いられ、不利。」

『一日一書 2003年 9月3日』
http://www.kyoto-np.co.jp/sho/09/03.html

武田双雲氏の意見:
「まったく気にする必要はありません。左利きの方は左手で書いていいんです。片岡鶴太郎さんは右利きなのに左手で書いています。右手で練習することも楽しめれば、なおよいでしょう。」
『感動を与え続ける若き書の魔術師 書道家・武田双雲
 筆と墨で世界平和を目指したい!』

MouRaトップページ> Click Japan(話題:インタビュー・トピック
ス) > ホットインタビューズ INDEX [vol.08]書道家:武田双雲氏
http://moura.jp/clickjapan/interviews/040421/index02.html

池宮元橋氏の意見:
「私の子はギッチョなのですが、右手書きに直すことが出来ますか?」と尋ねてこられた。小学三年生の女の子と言われる。右手、左手書きの論議はさておき、小学三年生といえば、自我自立の芽生える時まで左手書きで過ごしてこられたのであるから、いまさら右手
強制は当人にとって納得できないし、私も右手書きにしなくてはならない理由があるようには思えない。これらのことで尋ねられる方が案外多い。人は左右を自由自在に使いこなす能力を持っているのだから、今の状態で、鉛筆の正しい持ち方や筆順を正しく指導していけば、整った字が書くようになります。
 2,3歳の幼児であれば、右手書きにすることは容易であり、幼児も素直に直して行くようだ。
時には右手書きの低学年の生徒も、左手書きのように、横画の線をギッチョ書きの様に右から左に押しつけて書く時があります。やはり人の左右は自由自在に使うのが自然なのかも知れないと思う。
今回展示いたしました作品集は左、右書きの作品です。ご観賞いただければ幸いです。

『書法日本墨翠会 通信教育部 右書きと左書き 池宮元橋
 (カテゴリ: 元橋先生ブログ 投稿者: genkyou)』

http://genkyou.unite.ne.jp/index.php?itemid=23

これらは基本的に毛筆書字についての意見です。
硬筆ではまた違った考え方があるかもしれません。

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 ◆ 押木秀樹「左利きと書字、そして書道」 ◆
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書字についての研究をされている押木秀樹教授のサイト『上越教育大学 押木研究室 手書き文字の科学』には、色々勉強になることが書かれています。

そのなかに、「左利きと書字、そして書道」(1996.12.10) と題するページがあります。

 ・・・

漢字の構造から見て、右手の方が有利ではないか、と書かれています。

その理由として、横画は左から右に引くが、「筆記具の角度から生ずる抵抗の差」、「お手本の字では、横画が右上がり」をあげています。

そしてこれらは、「硬筆筆記具であろうが毛筆筆記具であろうが、同じことだと思います。」


毛筆筆記具に限定した場合―

「楷書の始筆・起筆のかたちは「ヽ」の角度を持っている。これは、右手で自然に筆記具を持って紙面に置いたときの形と考えてよいでしょう。」

「左手で持った場合は、「/」の角度が自然であり、極めて書きにくいことが予測できます。」

 ・・・

これらについては、以前からこちらの連載でも考察してきました。

筆記用具の進歩・改良とともに、漢字が右手書きにふさわしい形に「改良」されてきたことは事実です。

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 ◆ 留学生における毛筆筆記練習の例 ◆
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次に、硬筆で漢字の練習を始めたばかりの非漢字文化圏からの留学生における毛筆筆記練習の例を挙げています。

「これまで一度も筆を持ったことがないという学生に、右手と左手の両方で書いてみてどちらが書きやすいかたずねたことがあります。
彼女は、筆記具・はさみ・ドライバー等々、ほとんどの項目において左利きでした。結果としては、右手の方が書きやすいとのことで、それ以後、右手で練習をしています。」

小中学校では、書道でなく書写といい、「日常の硬筆筆記の学習のためにあるという位置づけ」で、手本通りに書くことを指導するのでなく、「その子の字形感覚が向上すれば良いという考え方」だそうです。

「書きやすさからすると、上記の留学生のように使い慣れないとはいえ、右手の方が書きやすいということは十分にありそうです。」

高校では、高校芸術科書道は選択科目で、「本格的にやろうとする場合には、右に持たせることもある」。

「現在、私どもの大学院にいる学生は、箸は左利きですが、筆は右で持ちます。」

「一方、幼少から障害があって右手で持てないために、左手で筆を持つ著名な書家も存在します。」

これは、上に紹介した石川氏の『一日一書 2003年 9月3日』の清朝・高鳳翰(こうほうかん)や、以前『お茶でっせ』等で紹介した乾千恵氏などもそうです。

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 ◆ 硬筆筆記の場合と、氏の結論 ◆
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硬筆筆記具について―

「右手に矯正(?)するべきか、毛筆筆記具を持つときに右手にするべきか、、具体的な対策については、実は何の答えも用意できていません。」

「現場や父母の対応としては、最近右利きになおさせる場合が多いようです。投げるなどの力のいることなどはそのまま、書字だけを右にという指導です。」

「日本の(中国の)文字は、上記のようにかなり右利きに機能化されていますよね。それを、左手で書かせることはかえってストレスになるのではないか???、、ということだと思います。これも研究ではなく、経験的なことだと思います。」


結論としては―

「その子その子にあった方法で、無理のない程度に指導していくとしか、現在のところ方法はないように思えます。」

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 ◆ 現状では他に言葉がない ◆
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私の感想を述べてみますと―

まず、「最近右利きになおさせる場合が多い」―の<最近>の意味が不明です。
昔から「矯正」といって右手を使わせることはありました。
<最近>始まったことではありません。
昔から「字だけでも」というのが「親の願い」でした。

次に、「左手で書かせることはかえってストレスになるのではないか?」というのは、いかがでしょうか。

いかに右利き用に機能化されていようと、右手用を左手で使用する不便さよりも、非利き手を使う不便さの方が上回る、という考えもあるでしょう。
不得意な手を使うほうがストレスになる、という意見のほうが納得できるかもしれません。

現実に右手用のハサミを左手で使うことに慣れた人がたくさんいます。
これは右手で使うよりも左手のほうが「使いやすい」と感じているからでしょう。

字を書くことにおいても、ベストは左手用の道具―「字」―を使うことでしょう。
しかし、これは、「字」の持つ性質から言って、ちょっと身勝手すぎるかもしれません。

コミュニケーションの手段である限り、自分だけがわかるものでは意味がないからです。

これは、現状ではむずかしい問題、という結論になるようです。

押木教授の結論―個々に「無理のない程度に指導していく」というのは、現状では他に言葉がない、というところでしょう。

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 ◆ 本人が判断して決めることが正しい道 ◆
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正直に言って、既に十年近く「昔」に書かれた文章です。
2006(平成18)年の今現在の状況をストレートに反映したものとはいえません。

たとえば、前原勝矢・著『右利き・左利きの科学』(講談社ブルーバックス)を参考文献としてあげておられる点から見ても、ひとつの「色」をお持ちのようで、私はこの押木教授の意見には素直に賛成できません。


*『右利き・左利きの科学』では、「左手利きについて」の章で、感情的な心理的ストレスはあっても精神病の原因になるということはないので、「さほどの努力を必要としない程度のことであれば、郷に入ったら郷に従えという柔軟な姿勢を持ち」、右手使いに変更することを恐れるな、という考えを表明しています。

「さほどの努力を必要としない程度」という言葉が、またあいまいで、これをどう解釈するかで、また判断が違ってきます。

試してみるのは良いが、というレベルで考えるしかありません。

しかし、危険のリスクを負うよりは、本人に任せる、すなわち本人が問題ありと考え、自分の意志で使い手を変更しようとするまでは、親やまわりのものが無理にどうこうするべきではない、と私は考えます。

押木教授の留学生の例のように、本人が判断して決めることが正しい道だと思います。

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 ◆ 子どもたちの字を生かし伸ばす指導 ◆
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東書のサイトにある、押木教授の文章―

『書写における学ぶこと・習うこと(3) 書写の授業展開と学ぶこと 
─子どもたちの字を生かし伸ばす指導─』


「「手本中心型」の授業展開では,手本を目標としてとらえ,主として「習う」過程が中心であった。それに対して「学習者中心型」では,その時点における児童・生徒の文字をスタート地点とし,「学び」の段階をへて「習う」ことになる。子どもたちが,<手本の字だけが良い字,自分の字はダメな字>といった発想に陥ることなく,自分の字を認め,より良くするという発想に立つことが,何より重要であろう。」

「学習内容の理解という段階を設けることによって,仮に実際にはうまく表現できない児童・生徒であっても,「わかった」という成就感を得ることができるであろう。さらに,自己評価という意味では,「手本のようには書けない」といった認識ではなく,学習したことで「自分の字が良くなった」という認識により,次の学習への意欲にもつながっていくはずである。」

 ・・・

小中学校における「書写」が、「その子の字形感覚が向上」することを目的としたもので、お手本どおりに書くことを求めるものではない、とするならば、そして「自分の字を認め,より良くするという発想に立つ」ものならば、どちらの手で書くかということも、まったく問題とはならないのではないでしょうか。

まず最初に自分の字がある―というのであれば、右手用にできているから右手の方が書きやすいなどという前に、その子の使いやすい利き手で書いてよい、のではないでしょうか。

その上で、より読みやすい整った字形をめざし、「自分の字が良くな」るように学習してゆけばいい、ということになるはずです。

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 ◆ 文字を書くことは、学習の基本 ◆
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この文章のラストに、「point」として教授はこのように書いています。

「文字を書くことは,多くの学習活動の基本となる。文字を書く際に,気持ちよく書けるかどうかによって,学習活動の楽しさが左右されることもあろう。子どもたちには,自分の字に自信を持ち,書くことを楽しいものと感じてほしいものである。そのためには,子どもたちの字を生かし伸ばす指導と「学び」の視点とが重要ではないだろうか。」

私はこれこそ、重要なポイントだと思います。

文字を書くことは、学習の基本です。
文字を書くことが負担であれば、勉強も進みません。

親や先生方には、子供たちが自分の字に自信を持ち、書くのが楽しくなるような指導を心がけて欲しい、と思います。

そのために、左利き左手書きの子供たちにとって、より都合の良い書き方の研究を、ひとりでも多くの人に手がけて欲しい、と願っています。


※参考文献:
・『月人石 乾千恵の書の絵本』<こどものとも傑作集>
乾千恵/書 谷川俊太郎/文 川島敏生/写真 
福音館書店 2005年
―『レフティやすおの本屋 左利きの本棚/子供達へ』
http://myshop.7andy.jp/myshop/lefty-yasuonohonya?shelf_id=03
・前原勝矢・著『右利き・左利きの科学』講談社ブルーバックス
―『レフティやすおの本屋 左利きの本棚/研究書・実用書
http://myshop.7andy.jp/myshop/lefty-yasuonohonya

※参考サイト:
・『上越教育大学 押木研究室 手書き文字の科学
  -なぜこんなふうに書くのだろう?-
  -なぜと問いかける書写指導のために-』
http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/graphono/
・「左利きと書字、そして書道」 押木秀樹(1996.12.10)
http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/essay/hidari.htm
・「小・中学校 書写/ 書写における学ぶこと・習うこと(3)
書写の授業展開と学ぶこと─子どもたちの字を生かし伸ばす指導」
 上越教育大学助教授 押木秀樹
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/downloadfr1/htm/ckdf0452.htm
第55号(No.55) 2006/11/11「左手で字を書くために(8)」
  左手で字を書くために(8)
左手書きの研究<2> 左手書きのパターンの分類
 左手で字を書く場合、実際にどんな書き方をしているのでしょうか。
 いくつかの例を見ておきましょう。

 ・・・

 第48号「左手で字を書くために(6)」では、小学校の書写の教科書。前回は、左利きの子供さんの左手筆記について研究されている人びとについて見てみました。

 今回は少し話を戻して、実際の左手書字・左手筆記・左手書きの実例を探ってみましょう。

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 ◆ 左手書きのパターンの分類 ◆
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以前見た海外の左利きサイトには、左手で字を書く人たちの姿をあれこれ写した画像が掲載されていました。
実にさまざまな姿勢と持ち方が披露されていました。

日本にはこのようなサイトはまずないのではないでしょうか。
(私のサイトで実現してみるべきでしょう。
ご協力いただける方は、ぜひ名乗りを上げてください。
お待ちしています。)

以前こちらのコーナーでも紹介した、手首を鍵形に曲げる書き方もそのひとつでした。

以下、用紙の配置や手首の型、持ち方などを私なりに分類してみま
した。

<用紙の配置と手の型による分類>

(1)順手型:
・(A)紙を真っ直ぐに置く―標準形
・(B)紙を右側に傾けて置く―右斜め形
・(C)紙を右側に90度横倒しにする―右横形

(2)鉤の手(逆手、フックhook)型:
・(A)紙を真っ直ぐに置く―標準形
・(B)紙を左側に傾けて置く―左斜め形
・(C)紙を左側に90度横倒しにする―左横形

<筆記具の持ち方による分類>
・(イ)左倒し保持―標準形
・(ロ)垂直保持―垂直型
・(ハ)右倒し保持―左利き筆法?型


以上おおざっぱな分類です。
これらを単純に組み合わせますと、3×3×3=27
27通りの書き方があることになります。

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 ◆ それぞれの特徴 ◆
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それぞれを簡単に説明します。

まず<用紙の配置と手の型による分類>(1)順手型から、

(A)紙を真っ直ぐに置く―標準型:
 右手の書き方の標準形と同じものの鏡像になります。

(B)紙を右側に傾けて置く―右斜め形:
 以前からよくお話している、よく見かける標準形の変形。
 少し書きやすく感じる人が多いのでは。

(C)紙を右側に90度横倒しにする―右横形:
 さらに一段進んだ形、ちょっと極端な変形。

次が、(2)鉤の手(逆手、フックhook)型、

(A)紙を真っ直ぐに置く―標準形:
 手のみ鉤の手型のパターン。 

(B)紙を左側に傾けて置く―左斜め形:
 少し傾けて書きやすさを求めるパターン。

(C)紙を左側に90度横倒しにする―左横形:
 さらにもう一段押しすすめた形。


今度は、ペンや鉛筆などの持ち方の違いに着目した分類です。

<筆記具の持ち方による分類>
(イ)左倒し保持―標準形:
 通常の三本指で持ち、親指と人差指の第二関節までの間の部分に持たせかけるような、よくあるパターンの持ち方です。
 筆記具の種類により、立て加減に持つ場合(ボールペン)と、寝かせ加減に持つ場合(ペン、鉛筆など)があります。
 ペン先が向こう側に向く。

(ロ)垂直保持―垂直型:
 ペンを真っ直ぐに立てるように持つパターン。

(ハ)右倒し保持―左利き筆法?型:
 正確には、ペンを向こう側から手前へ向けるように傾ける。
 ペン先が手前側に来る。
 日本ハムの小笠原選手のバッティング・フォームの感じ?。
 手前から見ると、左利き筆法のように、心持ち右に傾く。
 鉤の手型の書き方をする人に比較的よく見られる。

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 ◆ 左手書きの研究は進んでいない? ◆
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実際には、これらが微妙に組み合わせられて使われています。

同じ人でも、その時その時、その場その場で、状況により筆記具により、使い方を変えているでしょう。

書いているうちにも疲れ具合などで変化することもあるでしょう。


では、どのような書き方・持ち方が、左手書きに最も効率的で書きやすいものなのでしょうか。

どうもそういう具体的な実験結果を示すデータは、まだないようです。
左手書きの研究は、そのような段階まで進んでいないように思われます。

海外には、左利きの子供に対するティーチングの本やブックレットがいくつも出ています。

私の手元にある二冊のブックレットを見てみましょう。

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 ◆ 左利きの子のための英語版ブックレット ◆
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これらは、十数年前にイギリスの左利き専門店 Anything lefthanded より通販で購入したものです。


(1)"Teaching left-handed children"―親や先生向けの左利きの子供が直面する問題についてのアドヴァイスを示す

(2)"Helping left-handed children enjoy handwriting"―左利きの子供のための手書き書字(ハンド・ライティング)の練習の仕方を示す、左手書き用のペンマンシップのくわしい版?


以上の本から書字に関する部分をのぞいてみますと、ほぼ左利き筆法で紹介されているような事柄が示されているようです。

用紙の配置は、右に傾ける・倒す、あるいは用紙を真っ直ぐに置いて書くときは体の中心より左側に置く、といったこと。

筆記具の選定は、左利き用に作られた万年筆を使う、あるいはボールペンなどを使う。

―等々のアドヴァイスです。

ここでお詫びです。
私の英語の読解能力が低く、詳しい紹介ができません。
この辺でご勘弁ください。

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 ◆ 左利きのための教科書や実用書を ◆
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他にも海外には、左利きの子のために書いた左利きの本がいくつかあります。
今回改めて Anything left handed のサイトをみると、ビデオも出ています。

また、左利きの人のためのギター教本や編み物教本といったものも出ています。

日本でも、これらの教科書的な実用書は十分商品価値がある、と思います。

今日本で公刊されている、左利きのためのこのような本といえば、通販のフェリシモの左利きのカタログ Left-handaersから出ている、

(1)『左きき友の会 書道教本(復刻版)』
(2)『左きき友の会 編み物教室(入門編)あみぐるみ(減らし目、増やし目)』

ぐらいではないでしょうか。

ネットの時代―ロング・テールが売れる時代だからこそ、左利きのためのこういう本も生き残れる時代だと思うのですが…。

ぜひ、左利きのためのティーチングの本が出版されることを望みます。


※参考文献:
"Teaching left-handed children" Margaret M. Clark (Hodder& Stoughton)
"Helping left-handed children enjoy handwriting" Ruth Fagg (Anything left handed ltd)


※参考サイト:
・Anything left handed
http://www.anythingleft-handed.co.uk/
Home > Left Handed Books & Videos
http://www.anythingleft-handed.co.uk/acatalog/books_videos.html
> Left Handed Children's Books
http://www.anythingleft-handed.co.uk/acatalog/childrens_books.html
・フェリシモの左利きのカタログ
dico > Left-handers > 左きき必読必携の書
http://www.felissimo.co.jp/dico/v1/cfm/products_list001.cfm?WK=1214&SMOD=2

第59号(No.59) 2006/12/9「左手で字を書くために(9)」
 左手で字を書くために(9)
左手書きの研究<3>第一期まとめ・総論
 左手書字に関しましては、過去2シリーズ延べ19回、「―その13―字は右手で書くものか?」7回、その間平行して「左手で字を書く・実践編」4回、そして、今の「―その14―左手で字を書くために」が、前回まで8回、都合10ヶ月近くに渡って連載してきました。
 改めて総ざらいをしておきます。 

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 ◆ 字を書く技術は学問の基礎 ◆
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 …文字は学問をするための道具にて、たとへば家を建つるに槌・鋸の入用なるがごとし。…
   ―福沢諭吉『学問のすゝめ』第二編


 … ホモ・サピエンス(現生人類)を特徴づけているのは、文字を書くことを基盤とするグローバルな社会である。文字を書くことは、かつてはわずか数千人だけが独占していた特殊な技能だったが、今日では、およそ六○億と言われる世界人口の約八十五パーセントが日常的に使っている。現代社会はすべて、文字を書くという柱礎の上に成立しているのである
  ―スティーヴン・ロジャー・フィッシャー『文字の歴史』
   A History of Writing, 2001 鈴木晶訳(研究社 2005年)

多くの人が言うように、文字を書くという技術は、現代では人間が人間らしい生活を営む上で不可欠の技術となっています。

現実に諸外国の識字率は、そのまま経済発展の指数と重なります。

また、識字率の低い国々では、国民一人一人の所得の差にもつながっています。

これはわが国においても同様です。
テレビ・ドラマ「おしん」に描かれたように、過去の歴史を見渡せばわかることであり、今も変わらぬ原則です。

現代においては、まず文字の獲得が人生必須の条件となります。

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 ◆ 非利き手筆記は学業に影響するリスクがある ◆
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第2号(No.2) 2005.10.8「はじめの一歩」掲載の「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ * このシリーズについて・・・」で紹介しました、
『手の五○○万年史―手と脳と言語はいかに結びついたか』
 フランク・ウィルソン/著 藤野邦夫/訳 古賀祥子/訳(新評論 2005.8刊 原著1998刊)
「8章 右手には左手がしたばかりのことがわかる」の冒頭に登場する男性の話は、考えさせられます。

幼少時、左利きであることに気付いた父親により、右手を使うことを指導された彼は、字は拙く、学業も振るいませんでした。
しかし、右手のケガを機に利き手である左手を使うことを許されると、瞬く間に字を書くことをマスターし、成績も急速に改善されます。ところが転校先の先生から再び「矯正」指導を受けることになり、またしても学業不振に陥ります。
上級学校に上る頃には、精神的にも学業の点でも疎外感と挫折感に陥り、家出する。そのときある先生が、原因は左利きにあると判断し、再「矯正」に取り組みます。しかしもはや彼は訓練の時期を逸し、その利き手は本来の器用さを取り戻せず、どちらの手も使えるが不器用なその場しのぎの両手使いになってしまいます。


左利きの子供たちのなかには、今も非利き手である右手を使うことを指導される子供がいます。

彼らのうち、特に強度の左利きを示す子供(特に男子が多い)にとって、これはまさに拷問にも等しい仕打ちとなります。

先の男性のように、単に利き手の器用さといった問題だけでなく、学力にも悪影響を与える可能性もあります。

発達障害(特に学習障害)と疑われる子供さんの中には、このような事例もあるのではないか、と私は推測しています。

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 ◆ 文字は右手書きにふさわしいものに変化した ◆
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「その13―字は右手で書くものか?<字は右手で書くもの>を検証する」のシリーズで見てきましたように、文字というものはその発生初期においては象形文字として発達し、ものの形をなぞることが優先され、右手で書くための便宜は全くみられません。

それが古代メソポタミアのシュメール文明の楔形文字でも、中国の漢字であれ、その発生から千年ぐらいをすぎたあたりから、右手書きにふさわしい「改良」が加えられます。

楔形文字は、それまでの右から左へ改行する縦書きから、90度左回りに文字ごと横倒しとなり、今の欧米の文字表記同様の左から右への横書きへと変貌します。

漢字においても、右手書きの速書の結果、右手書きの癖を内在した字形である「隷書」へと変化してゆきます。

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 ◆ 文字は右手用にできているとは言い切れない ◆
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仮に文字が右手書きにふさわしい道具となったとしても、では右手書きなら全く不都合がないのかというと、これは違うようです。

きれいな字を書きたければ右手で書きましょう、という習字の先生がいます。
しかし、右手できれいな字が書けるのなら、どうしてそのような学校や塾の類がこんなにあるのでしょうか。
より美しくということだけではないように思います。

右手用の道具を右手で使って、なおうまく使いこなせないとすれば、それは道具の機能が不十分だからでしょう。

逆説的にいえば、すなわち文字は右手で書くようにできている、とは言い切れないのではないでしょうか。

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 ◆ 左「利き」の性質―右手用の道具でも左手で使う ◆
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話を戻して、百歩譲って右手用の道具であったとしましょう。
そして、それを右利きの人が使うのは、ベストマッチです。

しかし、左利きの人が右手で使うことがベストマッチになるでしょうか。

左利きというのは、右利きの人が右手を得意とするように、左手を得意とする人です。

たとえば刃物類などを左利きの人はどう使っているでしょうか。

刃物というのは、利き手にマッチするように作られているものがほとんどです。
しかし、片刃の和庖丁などは右手用を左手で使うことはまず不可能です。しかし、西洋包丁など偏りの少ない庖丁やナイフの類では、右手が使える度合の高い左利きの人は別にして、ほとんどの左利きの人は左手で使います。
ハサミなどでもそうです。

右手用の道具でも、左手で使うことが多いのです。

これが「利き」というものの性質です。

すなわち、文字が右手用の道具であり、右手に優しいものであったとしても、左利きの人にとっては、それだけの理由では右手を使う方が便利だ、とはいえないのです。

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 ◆ 運動神経を優先しよう ◆
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第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」掲載の「左手で字を書く・実践編2:筆順(書き順)は? 運動神経を優先しよう」のなかで、こう書いています。

 ・・・

スポーツと同じですから、運動神経が大切になります。

道具がいかにその手に合っていようと、運動神経の通っていない手で扱うのでは、いい結果は生まれません。

仮に道具が手に合っていなくても、運動神経のできている利き手で扱う方が都合がいいのです。

道具に合わせた使い方を身に付けることができるようになります。
簡単に言えば、慣れるということです。

たとえば、昔は左手用のハサミがなく、私たちは使いにくいと思いつつも右手用のハサミを左手で使い続けて、それを使いこなすコツを身に付けたものです。

左利きでも右手で使うことを覚えた人もいます。
が、それは少数派でした。
右手使いになじむことができる人だけでした。

字を書くこともまた同じことです。

百歩譲って、日本の文字が右手用の道具であったとしても、左利きの人にとっては運動神経の通った利き手である、左手で扱うほうが都合がよいのです。


 ――――――――――――――――――――――――――
 ◆ 右利きが右手で左利きが左手で書くのが自然の姿 ◆
 ――――――――――――――――――――――――――

左利きでは字は書けない、という人もいます。
左利きは毛筆は使えない、と考える人もいます。

しかし、これは間違いです。

今まで見てきましたように、全くといえば、語弊があるかもしれま
せん。
しかし、ほとんど問題はありません。

先人によって研究されています。

それが『左ききでいこう!』(フェリシモ左きき友の会・大路直哉/編著 フェリシモ出版)や『見えざる左手』(大路直哉/著 三五館)などで紹介されている、旧・左利き友の会によって開発された「左利き筆法」というものです。

それを十分習得すれば、全く問題なく書くことができます。

見た目が悪いと否定する人もいます。
しかし、それはおかしい。

人の顔は十人十色、誰も人の顔を否定することはできません。
もちろん、ぱっと見のいい顔もあれば、とっつきの悪い顔もあります。
それこそ個性です。

それを否定しては差別になります。
そのような考えは偏見です。

字を書くことも同じではないでしょうか。
もちろんわざと醜くする必要はありません。
しかし自然な姿であれば、それでよいのではないでしょうか。

からだの法則に従い、自然な姿勢で書いているのなら問題はありません。

それが右利きが右手で書き、左利きが左手で書くということです。

 ―――――――――――――――
 ◆ 旧来の考えに囚われない ◆
 ―――――――――――――――

このように現代を生きる上において最も大切な技術である書字を、私たちはいつまでも旧来の考えに囚われているべきではない、と思います。

右手書きの特徴を活かした特定の書法のみをよしとするのでなく、誰にでも書ける方法を基本とするべきだろう、と私は考えます。

そういう意味で、字を書くという行為は基本的に使いやすい利き手で書けばよい、ということになります。


とはいえ、文字の書き方を左手書きにふさわしいものに変えるというのは、現状ではむずかしいでしょう。

 第35号(No.35) 2006/6/24「書字は万民の技術―その2―」
 ―その13― 字は右手で書くものか?(7)
 <字は右手で書くもの>を検証する《4》
 書字は万民の技術―その2―
           
                          ...より

 ――――――――――――――――――――――
 ◆ 右利き流に合わせた左利き用の改良型を ◆
 ――――――――――――――――――――――

左利きには、左利きにふさわしい文字の書き方がある、と考える人がいます。
右利きの書き方に準ずるのではなく、左利きにふさわしい書き方を開発するべきだという人もいます。

第25号(No.25) 2006/4/8「字は右手で書くものか?(3)」掲載の「(3)<字は右手で書くもの>を検証する《1》文字の歴史から考える―その2―」のラストを私は、以下のように結んでいます。


今日の高度に発達した人間社会では、文字の読み書きの能力はなにものにも変えがたい、絶対不可欠の道具となっているのです。
このように文字の読み書きが重要な要件となった時代にあっては、一部エリートによる独占物としての道具ではなく、万民の利用可能な道具に作り直す必要があるのかもしれません。
将来、文字はどのように変化して行くのでしょうか。


しかし、現実はまだ右利き流が主流であり、学校でも右利き式の学習法が執り行われています。

すべての面において左利きの権利が確立されていない過渡期にある、こういう現実の中では、右利き流に合わせた左利き用の改良型で対応してゆかざるを得ないと考えます。

そこで次回は、私の提案として「私なりの左利きの書き方」を「実践編」としてまとめてみます。


※参考文献:
『学問のすゝめ』福沢諭吉/著 伊藤正雄/校注 (講談社学術文庫 2006)
『文字の歴史』スティーヴン・ロジャー・フィッシャー/著  鈴木晶/訳(研究社 2005年)
『手の五○○万年史―手と脳と言語はいかに結びついたか』
 フランク・ウィルソン/著 藤野邦夫/訳 古賀祥子/訳
 (新評論 2005.8刊 原著1998刊)
『左ききでいこう!』フェリシモ左きき友の会・大路直哉編著 フェリシモ出版
『見えざる左手』大路直哉/著 三五館

―『レフティやすおの本屋』左利きの本棚/研究書・実用書
http://myshop.7andy.jp/myshop/lefty-yasuonohonya


※参考サイト:
・『クラブレフティ』> data file > 左きき筆法
http://homepage3.nifty.com/club-lefty/04/data-a01.htm
・フェリシモ dico > Left-handers > 左きき必読必携の書
http://www.felissimo.co.jp/dico/v1/cfm/products_list001.cfm?WK=1214&SMOD=2


*『レフティやすおの左組通信』
 左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論4―
http://homepage3.nifty.com/lefty-yasuo/hg.siron04.lhw.html
(メルマガ連載の「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ」その13,14、左手で字を書く・実践編 を転載収録したもの)


 次回の予定は→
 「―その14― 左手で字を書くために(10)
左手書きの研究<4>第一期まとめ・実践編(予定)」
第64号(No.64) 2007/1/13
 左手で字を書くために(10)
左手書きの研究<4>第一期まとめ・実践編
 一年間に及んだ、左手書字に関する考察の総決算ともいうべき、左手で字を書く方法の実践編。
 現状では最も合理的と思われる私なりの左手書字の方法をまとめます。

 ・・・

… 痙攣したみたいに体を強張らせて手首を内側に曲げる書き方をするのか、紙のほうを信じられない角度に傾けるか。あるいは、いたって普通の右利き的な姿勢でペンと紙を持って書くかだ。最後のタイプはめったにお目にかかれない。そういう人は、たぶん小学校
のとき先生がものすごく厳しくて、しかも教え上手だったのであろう。

    ― デイヴィッド・ウォルマン/著 梶山あゆみ/訳
   『「左利き」は天才? 利き手をめぐる脳と進化の謎』

   「第1章左利きは特別か」(日本経済新聞社 2006年刊) 

 ◆ 硬筆左手書字の一私案 ◆

右手での文字の書き方に関しましては、「かきかた研究所」なるものが存在するように、既に一定の方法が確立しているようです。

しかし、残念ながら左手書字、少なくとも日本語の文字の左手筆記に関しましては、いまだそのような方法は確立していません。

少なくとも硬筆筆記に関しましては、そのような状況です。

幸いなことに、毛筆筆記に関しましては、左利き友の会による「左利き筆法」というものがあります。
硬筆筆記もそれに準じる方法があるようですが、明確なものはないようです。

そこで、ひとつの試みとして、私の40数年に及ぶ書字生活のなかから考え出した方法をここに明記し、そのたたき台とすることに致しました。

あくまでも一素人による私案であります。
できますればその道の専門家のご意見をお伺いしたいところです。

 ◆ 右手書きの癖を標準字形とする現行規範 ◆

まず始めに、現在の状況を申しますと、日本語の文字の筆記に関しましては、今までにも見てきましたように、あくまでも右手書きによる書き癖をよしとする字形を持って、標準とし、現行規範としています。

その標準字形の書き方のために最もふさわしい方法が、「正しい書き方」として確立されているのです。

標準字形を書くために最もふさわしい硬筆筆記具(以下、鉛筆・ボールペンも含めて「ペン」と総称します)の持ち方や腕および手の位置などが、そこでは既定されています。

しかし、それはあくまでも「右手で書く場合の正しい書き方」です。

では、左手書字では、どうすればいいのでしょうか。


残念ながら、現状では右手で書くこの現行規範に則って教育現場でも文字を書く、書写の教育が行われています。

そのため、真に左手書きが認められ、それに適した文字の書き方が普及するまでは、左利きの人たちも、この現行規範にそった方向で文字を書くことを要求されます。

従ってここでも、現行規範の範囲内の文字を、左手で書く方法を考えています。

 ◆ 「標準字形に近い文字」を左手で書くための原則 ◆

はじめに結論として、左手でも現行規範に則った「標準字形に近い文字」を書くための原則を挙げておきます。

 ・・・

左手では上手な字は書けないとする、書き方の権威氏に敬意を表して、ここでは、あえて「標準字形に近い文字」という遠慮した言い方をしておきます。

右手で書く標準字形と「全く同じ」ものを書くのは、非常に難しいと思われます。
どうしてもタッチの違いが出てくるでしょう。
顕微鏡レベルで測れば、同じものは書けないでしょう。

しかし一見しただけでは判別できないぐらいの文字は、十分書けると思います。
その程度なら十分誤差の範囲として「認定」されるでしょう。

 ・・・

大枠としての[原則]―

 1・横画は、左から右へ
 2・筆順(書き順)は、標準的な書き方で


なんと言っても、横画は左から右へ。
引きやすいからと、勝手に右から左に書かない。

筆順も我流でなく、一般的に通用する順番を守る。
実際には、文字により書体により順番が異なるものもあります。
絶対のものはありませんが、標準とされるものを守りましょう。

ひとに聞いた話では、この二点を守らないと、ニンテンドーDSの「脳トレ」ゲーム・ソフトなどでも「×」となるそうです。
ということは、学校の試験などでも「×」とされる可能性が大です。


次に、

 3・起筆の打ち込みは、「ヽ」の形に(左上から右下へ)
 4・横画は、心持右上がりに
 5・終筆の「とめ」も、「ヽ」の形に(左上から右下へ)


右手書きの癖を取り入れましょう。


さらに、

 6・文字は、一区切りを一息に書く
 7・画数の多いものも、かたまりごとに書く


文字は一区切りずつ書くことで、まとまりが出てきます。

できれば一文字ずつではなく、ひとつの語句や文章といったある固まりごとに一息に書く方が良いのです。

日本語は元々縦書きします。
そして、ひらがななどは縦に続けて書いていたものです。

基本的に日本の文字は、そのように書くほうが文字らしくなります。

一字ずつ書く場合も、一文字は一息に書く。

画数の多い漢字も偏なり旁なり、ひとかたまりを一筆書きするように一息に書きます。
すると筆勢が出て文字らしいまとまりが生まれます。

これを守るだけで、それらしい字―「標準字形に近い文字」になると思います。

 ◆ 用紙、手の位置 ◆

以下、具体的な書き方やペンの持ち方を見て行きましょう。

基本的にここでは順手の持ち方をします。

 ・・・

左手書きの場合、右手書きの標準的な順手の裏返しである「順手」以外に、「鉤の手」型(逆手、フック型)の手の構えがあります。

どちらかというと、外国の人に多い持ち方で、これは横文字筆記の際に都合の良い書き方である、といわれています。

日本でも横書きが増えている昨今、もう一度検証してみる必要があります。
私も横書きの際にそれに近い書き方をする場合もあります。

これはまた後ほど検討します。

 ・・・

まず、姿勢や手の位置、用紙の置き方について―、

これは、ずばり右手書きの鏡像でいいでしょう。
そのまま裏返しにします。


手は、いったん腕を伸ばして自然に机の上に戻した位置です。
紙を押さえる右手は、心持手元に引き、肘はつかない。


用紙は、縦書きの場合、右手書きの裏返しの位置に来るように置きますと、からだの中心から大きく左に寄ります。

見た目が悪いと思われるかもしれません。
しかし、これは書きやすさを重視した「正しい位置」です。

行が進むにつれて腕を移動させるのではなく、用紙の位置を移動させるようにしましょう。


他に、右手書きの場合でもありますが、やや用紙を傾ける書き方があります。

左手書きの場合は、右に傾けると少し書きやすくなります。
(鉤の手型では、逆の左傾きが書きやすいようです。)

極端な例は、左利き筆法における「横がき筆法」です。
右回りに90度傾けて、真横に倒します。
これで、書字方向を転換させ、横画の押し書きを縦方向に変えるわけです。


最後に、ペンを持つ左手は、てのひらを広げたときの扇の要に当たる位置―てのひらの角の部分を支点に、曲げた指の小指と薬指の第一関節から下の部分が軽く紙面にふれます。

左手書きでの横書きの際に、この部分が汚れる人は正しい書き方をしているといえます。

一方、てのひらの側面全体が汚れる人は、垂直方向の手の角度が左に倒れすぎていることになります。

 ◆ 右手書きより寝かせ気味にペンを持つ ◆

ペンの持ち方―、

右手書きの持ち方と少し異なります。

右手の「正しい持ち方」では、ペンは立て気味に、紙面に対し垂直方向に60度ぐらいといわれます。


私の経験によりますと、左手の持ち方では、もう少し寝かせ気味にします。

親指、人差指、中指の三本指で保持するのは同じです。

右手の正しい持ち方では、ペン軸を人差指にそわせるように、第二関節と第三関節のあいだ辺りに持たせかけて安定させます。


しかし、私の左手書きの場合は、もう少し親指側に回り込ませ、人差指の付根から親指とのあいだ辺りの位置で加減します。

こうしますと、紙面との角度も小さくなり(寝かせ気味)、上から見たときのペン軸とからだの中心線との角度が、より小さくなり、ペンは縦(│)方向に近くなります。

これは、ペンを左から右に動かす横画を書く動作をよりスムーズにするためです。

こうすると、横画を押し書きする(ペン先を紙に突き刺すように押しつける)のではなく、ペン先を横に滑らせるような形になり、抵抗が少なくなり、書きやすくなります。

この辺のペン軸の位置の加減で、書き方がかなり改善されスムーズになる、と思います。

 ◆ 目習い手習いで書字の才能を ◆

手書き文字には、絶対的な「正しい」形はありません。
字形や書体はそれぞれ微妙に異なります。

あとは「目習い」―お手本を見て、字のバランスを頭に刻みつけ、「手習い」―何度も書いて身体で覚えるしかありません。

右手書きの場合と同じです。
左手書きも、注意するところを注意して練習を重ねるだけです。

一番大切なことは、文字のバランスだそうです。
それなりにバランスが取れていれば、個々の線の長短などはさほど問題ではないようです。

運動神経の発達した、得意な手である利き手の力を有効に使って、「右手書きに近い文字」を書き、「左手でも文字が書ける」ことを示しましょう―未来の子供たちのために。

誰からも左手書きが認められる日が来るまでは、現行規範内で―。

 ◆ 左手書き独特の方法がある ◆

以上のように、左手書きでも、基本的には右手書きの場合と同じようなスタイルでよいとは思いますが、微細な点で右手書きとは異なった、左手書き独特の方法が必要になるのではないでしょうか。

これは、右手用の道具(文字)を左手で扱うために起こる違いであって、なんら不思議なことではありません。


たとえば、ハサミを例にとって見ましょう。

右手用のハサミは、右手で使うときに自然な動きで切れるようになっています。
左手用は左手の自然な動きに合わせて作られています。

そこで、右手用のハサミを左手で使うことに慣れてしまった人は、左手用のハサミが使いにくいといいます。

右手用のハサミを左手で使うときの力の入れ方と、左手用のハサミを左手で使う時の力の入れ方は、方向が全く逆になるのです。

右手用のハサミを左手で使うには、右手で使うときのような方向に力をかけなければ使い物にならないのです。

すなわち、右手の鏡像のような使い方―すなわち左手の自然な動きに応じた力の入れ方では、刃がかみ合わず、切れないということになります。

そこで、右手用のハサミを左手で使うためには、独特の力の入れ方を身に付けなければなりません。

同じことが、書字においても言えるのではないでしょうか。

左手書字には、右手書字とは異なった左手書字独特の方法があるのです。

 ◆ 横書きには「鉤の手」型が有効か? ◆

左手書字について、横書きでは、「鉤の手」型(逆手、フック型)が有効ではないか、と思われる節があります。

はじめのほうでも書きましたように、外国の人が横文字を書く際にこの書き方をする例を何度か見たことがあります。

私自身も時に、それに近い書き方を横書きの際に使う場合もあります。

ただこれは人による傾向で、右手書きの人にも稀に見受けられる書き方です。
左利きの人だけの特徴とは限りません。

この書き方も基本的には、横画の動きをスムーズにさせるために、横に滑らせるように書く書き方です。

ひとつの性質として、そのような手首を巻く「鉤の手型」の書き方をする人もある、と認識しておくのが良いかと思います。

特に薦めるというものではありませんが、かといって否定的に考えるのも誤りです。

左手書字の方法が確立していない状況では、ひとつの書き方として今後、くわしく検討してゆく必要がある書き方だと思います。

 ◆ 左手書字の方法を確立しよう ◆

従来、左手書きの方法が検討されてこなかったのは、なぜでしょうか。

それは、文字は右手で書くものだ、という固定観念から、左手では字は書けない、という「常識」が生まれ、左手書字の具体的な研究に踏み出そうとしなかったからにすぎません。

右手書きになじんだ人のなかには、左手書きの方法を考える暇があれば、右手で練習する方がよっぽど手っ取り早い、と考える人もいます。

しかし、これはやはり誤りだろうと思うのです。

これでは、いつまでたっても個人が努力を余儀なくされます。
そして、その手に成功の報酬を得られるのは、右手書きになじめる人だけです。
なじめない人は常に負け犬として惨めに生きてゆかなければならなくなります。

そこまで行かなくとも、少なくとも、無駄な時間をすごすことになります。
さらにその上、各々が自分自身で左手書きの方法を自己流に開発してゆかなければなりません。
これもまた無駄な時間を費やす行為です。

誰もが無駄な時間を省けるために教育というものがあるのです。
知識や技術の継承とは、そういうものなのです。

一日でも早く左手書字の方法が確立されることを願ってやみません。

 ◆ 「鉛筆の正しい持ち方」からの変化 ◆

2005年5月25日、ブログ『お茶でっせ』に「鉛筆の正しい持ち方」という記事を書いています。

そのなかで私は「特別な持ち方を考える必要はないと思います。」と書きました。
今回も、基本的には、大きな変更はありません。

ただ一点異なっているのは、「ペン軸を持たせかける位置」です。

今回は、この位置を少し変えました。

「右手書きの正しい持ち方」とされる、
(人差指の第二関節から第三関節のあいだ) 
→ (人差指の付根辺りから親指寄りのあいだ)

それに伴い、
「右手書きの場合よりも、ペンを寝かせて持つ」、
「ペンの方向をより縦方向(│)、身体の中心線と平行に近づける」
ように変更しています。

この点だけ最後に強調しておきます。

 ・・・

今回で、「左手書きの研究<4>第一期まとめ」を終了とする予定でした。

しかし、年末に図書館で、児童かきかた研究所所長・高嶋喩/著『だれでもできる幼児・児童の書き方指導(硬筆編)』あゆみ出版(1994年刊)という本を見つけました。

以前から気になっていたこの研究所、並びにそのその所長自らの著作における左手書字に対する考えにつきまして、左利きの私の観点から少し書いておきます。

また一回伸びてしまいますが、どうしてもまとめの最終回に当たって一言述べずにはいられません。ご了承ください。


―<左利き筆法>についての資料―
※参考文献:
『左ききでいこう! 愛すべき21世紀の個性のために』
 フェリシモ左きき友の会 大路直哉/編著 フェリシモ出版
『見えざる左手 ものいわぬ社会制度への提言』大路直哉
 三五館

※参考サイト:
・左利き系サイト『クラブレフティ』> data file > 左きき筆法
http://homepage3.nifty.com/club-lefty/04/data-a01.htm
・フェリシモ dico > Left-handers > 左きき必読必携の書
『左きき友の会 書道教本(復刻版)』
http://www.felissimo.co.jp/dico/v1/cfm/products_list001.cfm?WK=1214&SMOD=2


---

※参考文献:
『「左利き」は天才? 利き手をめぐる脳と進化の謎』
 デイヴィッド・ウォルマン/著 梶山あゆみ/訳
 日本経済新聞社(2006年刊)
http://www.amazon.co.jp/dp/4532165628/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『だれでもできる幼児・児童の書き方指導(硬筆編)』
 児童かきかた研究所所長・高嶋喩/著 あゆみ出版(1994年刊)


※参考サイト:
『お茶でっせ』2005.8.25記事「鉛筆の正しい持ち方」
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/08/post_f9e1.html


*前回:第59号(No.59) 2006/12/9「左手で字を書くために(9)」
  ―その14― 左手で字を書くために(9)
左手書きの研究<3>第一期まとめ・総論
http://blog.mag2.com/m/log/0000171874/108013984.html



 次回の予定は→
 「―その14― 左手で字を書くために(11)
左手書きの研究<4>第一期まとめ・特別編(予定)」

  ◆左手で字を書く・実践編◆シリーズの続編に当たります。
(「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ」は、第二土曜日掲載。
次回は、2月第二週発行の第68号に掲載の予定です。)
第65号(No.65) 2007/1/20「私にとっての左利き活動(9)」
 ■レフティやすおの ( ..)φメモ■ 前号のこと:左手〜実践編
前号の「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ/―その14―左手で字を書くために(10)左手書きの研究<4>第一期まとめ・実践編」について、少し訂正といいますか、補足をしておきます。

(詳細の説明は、来月発行の次回掲載時に改めて行います。)
ここでは簡単にメモ書きに留めます。

前回紹介したペンを寝かせて持つ書き方では、ボールペンの場合、書けないケースがある、という指摘がありました。

一般に右手書きでも、ボールペンの場合は、鉛筆よりも立てて書くのが良い、とされています。
紙面との角度は、鉛筆では60度であるのに対し、ボールペンでは80度ぐらいが良い、といわれています。

文具メーカーZEBRAのホームページにある「ボールペンのしくみ」のページの「書く仕組みについて」の項に、こう書かれています。

「いつまでも快適な書き味を持続するためには、筆記時にボールにかかる力を受座が正しく支えられるような筆記角度、すなわち60度〜90度で筆記するのが理想的です。/ また、あまり寝かせて書くと、ボール保持部のカシメが紙面に当たってかすれたり、磨耗しボ
ールがとび出す原因にもなります。このような書き方は避けてください。」

左手書きの場合も、ボールペンの場合は構造的にいうと、立て加減のほうが良いようです。

ただ、商品によっては構造が微妙に異なり、寝かせる書き方ができるものもあります。(あまり薦められないようですが。)

要は、横画を左から右に書く際に、いかに抵抗を少なくするかが問題であり、この抵抗が少なければ良いのです。

ボールペンの場合、インクの出方の良いものであれば、さほど角度にこだわらなくてもよい、という結論になりそうです。

この辺のところは、各自個人個人で、商品との相性など見比べながら工夫されるのが良いと思われます。

※ ZEBRA > お客様相談室 > ボールペン「ボールペンのしくみ」
http://zebra.zebra.co.jp/ball1.html

第68号(No.68) 2007/2/10「左手で字を書くために(11)&LYG2007」
 左手で字を書くために(11)
左手書きの研究<4>第一期まとめ・特別編
  児童かきかた研究所所長、高嶋喩/著『だれでもできる幼児・
  児童の書き方指導(硬筆編)』を読んで
本編に入る前に、前回の「左手で字を書くために(10)左手書きの研究<4>第一期まとめ・実践編」の追記を―。

翌週の第65号のなかで補足を書いておきました。

※ 参照:
第65号(No.65) 2007/1/20「私にとっての左利き活動(9)」
「レフティやすおの ( ..)φメモ/前号のこと:左手〜実践編」
http://blog.mag2.com/m/log/0000171874/108154248.html



ボールペンの場合、私の紹介した持ち方―通常よりも筆記具を寝かせて持つ書き方では、インクが出にくくなり文字が書けないケースもある、と判明しました。

一般に右手書きでも、ボールペンの場合は、鉛筆よりも立てて書くのが良いとされ、ペン軸と紙面との角度は、鉛筆では60度が適正とされるのに対し、ボールペンでは少し立てて80度ぐらいが良いとされています。

文具メーカーZEBRAのホームページにある説明を紹介しました。
 ZEBRA > お客様相談室 > ボールペン「ボールペンのしくみ」
http://zebra.zebra.co.jp/ball1.html


左手書きの場合も、ボールペンの場合は構造的にいうと、立て加減で書く方が良いのですが、商品によっては、寝かせる書き方ができるものもあります。(メーカーとしては、薦められないようです。)

要は、横画を左から右に書く際に、いかに抵抗を少なくするかが問題であり、この抵抗が少なければ良いのです。

ボールペンの場合、インクの出方の良いものであれば、さほど角度にこだわらなくてもよい、という結論になりそうです。

この辺のところは、各自個人個人で、商品との相性など見比べながら工夫されるのが良いと思われます。

私は最近は、万年筆を常用しています。もちろん左利きタイプのもので、このようなペンの場合は、寝かせ加減のほうがうまく書けるようです。


 児童かきかた研究所所長・高嶋喩/著『だれでもできる幼児・児
 童の書き方指導(硬筆編)』
あゆみ出版(1994年刊)を読んで

 ・・・

「1章−6 左手では字は上手に書けない/(1)字を書くときは右手で!」

「すべての文字は、右手で書くようにできています。とくに、日本の文字は右手で書かないと、上手に書けません。左手で書く人が、上手に書けないのはあたりまえです。こんなわかりきったことが、現在では通用しません。親も子も左書きのままでよいと言いはっています。
昔の教師は強制的に右手で書くように指導したものです。しかも、なんら問題は起きませんでした。こともあろうに心理学者までが矯正しないほうがよいと言いはるご時勢です。世界中の教師や親たちが悩みの種だというくらい未解決な問題だと思われるのに、それを結論づけられるほどの具体的なデータを心理学者は持ち合わせていないと思い
ます(外国の文献によるものが多いようです)。一方、ある心理学者は正しく鉛筆や箸を持ったときの脳への刺激を十としたら、まともでないときは六か七しか働かないと言っています。一般論とすれば、おそらく左手の場合を想定しておられないと思います。箸はいざ知らず、鉛筆を左手で持ったときの大脳の働きは、三か四ぐらいでしょう。それは、左手で文字を書いたときの書きづらさを考えると当然のように思います。」
(80-81p)

 ◆ 右手書字しか認めない「児童かきかた研究所」 ◆

初めてこの研究所の名前を目にしたのは、サイト活動を始めようとした四、五年前、トンボ鉛筆の持ち方補助具「もちかたくん」のパッケージに印刷されたものでした。

一体ここはどういうところなんだろう、と興味を持ちました。
左手でもきれいな文字を書ける方法も研究しているのだろうか。
私は、胸ワクワクで、大いに期待したものでした。

当時、ネットで調べて得られた情報によりますと、この研究所では、字は右手でしか書けないように作られている、左手では上手な字は書けない、という立場からの見解を表明していました。

当然、左利きでも文字は右手で書きましょう、と教えていました。

左手でもきれいな文字が書ける方法を研究しているところではありませんでした。
私の期待はあっさりと裏切られました。

 ◆ 左手用「もちかたくん」には推薦の文字はない ◆

「もちかたくん」には、左手用も出ていますが、こちらの製品には、この「児童かきかた研究所推薦」の文字は印刷されていません。

これは先に紹介しましたように、この研究所では、左手での書字を認めていないからです。

同社からは、「はしのおけいこ」という箸使いを練習する器具も出ています。

こちらの製品は、反転させれば左手でも使えるタイプで、この研究所の推薦の文字が印刷されています。

これは、この研究所が左手箸は認めているからです。
(くわしくは、↓のサイトで確認してください。)

※ 参照:
トンボ鉛筆 > トンボの知育文具シリーズ KODOMONO
(きれいな字の魅力/えんぴつの正しい持ち方/商品紹介)
http://www.tombow.com/kodomono/index.html

 ◆ 日本で左手書字が少なかった理由 ◆

「日本では欧米に比べて、左手で文字を書く人がはるかに少ないのは、日本の文字が右手でないと上手に書けないからです。」(82p)

著者は、本書の中でこう書いていますが、これは、箸使いとの類似性が大きな要素である、と私は考えます。

箸を持った状態から下の一本を抜いた形が、鉛筆の持ち方と同じになります。
こういう共通性から、箸使いを厳しく指導したことが筆使いにも影響したもの、と考えるのがより自然でしょう。

そもそも書字というものは、今までこのメルマガで見てきましたように、元々は一部のエリートにのみ許された技術でした。

一方、箸使いは、かなり早い時期から一般庶民にも普及したものです。

 ◆ なぜ左手では上手に文字が書けないか ◆

「なぜ左手では上手に文字が書けないか」について、文字を上手に書く条件として四つの項目を挙げて説明しています。

1)正しい鉛筆の持ち方
2)筆記具を自由自在に動かせる運筆練習を計画的に継続して行う
3)手本をよく見て書く習慣をつける
4)正しい書き順で書く

このうちの「一番大切な正しく鉛筆を持って書くという条件が、左手では不可能なのです。」(81p)
そのために、左手では上手に書けないのだ、といいます。

横画では、右手ですと、てのひらの角を支点にして手首の関節だけで / こういう右上がりの角度に書ける。

一方、左手では、てのひらの角を支点に線を引こうとすると \ こういう右下がりになってしまうため、これを右上がりにするためには、腕ごと動かさなければならない、というのです。

これは確かに事実でしょう。

しかし、そのためにこそ、左手書きの工夫を必要とするのです。
(たとえば、紙を斜めに置く、といったことです。)


どうも最初の前提がまちがっているために、結論が違ってきているような気がします。

 文字は右手で書くように作られている
  ↓
 右手で書く動きは、左手ではできない
  ↓
 左手では文字は書けない

これが著者の信じている仮説です。

しかし、本当の事実は―少なくとも、私の信じている仮説では、

「左手では、右手で書くようには書けない」です。

 ◆ 右手用の道具を左手で使う工夫が必要 ◆

文字が右手用の道具であるとすれば、それを左手で使う際に、右手と同じように使おうとすれば、無理があるのは当然です。

そこで工夫が必要なのです。

実際に私たち左利きの人では、昔は右手用のハサミしかありませんでしたから、これを使えるようにするために、二つの方法を考え出してきました。

ひとつは、素直に右手で使う方法。
これは、右手が比較的使えるタイプの人で有効でした。

さほど右手が使えない人では、左手で使う方法を経験的に身に付けました。
切るときに、右手の動きをそのまま(反転させず)に左手で再現する方法です。

右手用は、左手用とは刃のかみ合わせが左右逆になっているので、これを動かすときに、左手の自然な動きとは逆の方向に動かすようにするわけです。

書字の際も、左手で書くときは、基本的には右手で操ったときの筆の動きをそのまま(反転させず)に動かせばよい、という理屈になります。

要するに、右手に持った筆の動きを左手で再現できればよいのです。

実際には、左右変換アダプターのようなものを作らない限り、それはむずかしいので、右手書きに近い結果を演出すればよい、ということになります。

 ◆ 結果だけで他人の書きづらさが分かるか? ◆

「... 一般に左ききの子が右手で書くのは書きづらいように思いがちですが、子どもの書いた文字から判断しますと、書きづらいとは思えません。」
(「1章(2)左ききの幼児を右手で書かせた指導例」83p)

結果だけから、経過がどれぐらいわかるものでしょうか。
ましてや本人が書きやすいかどうかを、他人が判断できるものでしょうか。
私は疑問だと思いますが…。

先に言いましたように、左手書きでも右手書きに近い(真似た)結果を出せればよいのだと思います。

結果だけ見ていても何ともいえません。

 ◆ 必要な訓練と時間かどうか? ◆

「(3)左利きを右手でも書けるようにする方法」(85p)で、左利きの子供への指導法を書いています。

幼児でも15日間かけて訓練すれば…、という方法が示されています。
その後、成功例として、小学1年生のお母さんの話が出てきます。
熱心なお母さんで、一ヶ月二ヶ月と訓練の成果を届けてくる…。

私は、このような訓練と時間が本当に必要なものかどうか、大いに疑問です。

もちろん右手書きでも、きれいな字を書きたいと努力するのですから、書き方練習自体を否定するものではありません。

しかし、利き手に対応した適切な方法で練習すれば、右手でも左手でも全く問題はなく、基本的に同じことだ、と思うのです。

少なくとも非利き手を使う場合は、手指の基本的な動かし方からマスターしなければならず、余計な時間が当然必要になるでしょう。

それが本当に必要な時間と努力なのかどうか、を考えるべきでしょう。

 ◆ 未来につながる本当に必要な努力を! ◆

個人個人に成功するかどうか分からない努力を課するのではなく、誰でもが確実にできる方法をみんなで考え実践するほうが、より建設的で未来のためになる―次代につながる有意義なことだ、と私は考えます。

今一番大切なことは、左利きの子にも左手できちんとした文字が書ける、そういう方法を確立することでしょう。

今、そういう確立した方法がないのは、箱崎総一氏と左利き友の会以外に、そういう左手書きにふさわしい方法をきちんと研究する人がいなかったからにすぎません。

国語や書写の先生、書家・書道家といわれる人たちの怠慢以外のなにものでもありません。

そしてそのような怠慢を生んだ元凶は、文字は右手で書くものだとか、左手使いは…といった偏った(あるいは誤った)見方・考え方にあります。

そういう誤った考え方を導くもののひとつが―

 ◆ 「矯正」という言葉について ◆

『AERA』という週刊誌で「レフティー」という連載記事が出ていることは、既にこのメルマガのニュースでも紹介しました。

第66号(No.66) 2007/1/27「<左利きプチ・アンケート>第37回」
 ◎左利きニュース◎ 『AERA』連載記事&『なぜヒトの脳だ〜』
http://blog.mag2.com/m/log/0000171874/108179020.html


ブログの記事にも書きました。

1.24『AERA』2007年1月29日号の左利き記事
1.26『AERA』左利き記事(2)―右利き偏向について
1.30『AERA』左利き記事(3)―「利き手は変えられる」の発想?
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/


その際、「矯正」や「直す」といった価値判断を含む言葉(共に、欠点を正す、正常な状態に戻す、という「マイナスをプラスに変える」というニュアンスの言葉です)を使い続ける限り、左利きに対する偏見や差別をなくすことはできない、といったことを書きました。

少なくとも、左利きに対するマイナスのイメージを払拭することはできないでしょう。

本書の中で、著者はこう書いています。
「私は、左ききの子が文字を書くときだけ右手で書くことを「矯正する」という不適切なことばを使わないように心がけています。便宜上、「書くときは右手を使う」と言います。左ききを矯正するということは、主に左手を使っていた動作をすべて右手に変えることを意味します。」(1章−6−(1) 81p)

著者は、無条件に右手を使うことを薦めているわけではありません。
書字だけです。

ただ、右手で字を書くように指導することは「矯正」に当たらない、という判断を下したいがために、あえて書字のみ「矯正」という言葉の枠からはずしている、という見方もできなくはありません。

しかし、「不適切なことば」という表現で、一応、左利きにおいて「矯正」という言葉の使用を認めない方針を示しているとも解釈できますので、『AERA』の「レフティー」記事的な右利き偏重思想?とは一線を画している、と考えられます。

この点は評価しておきたいと思います。

 ◆ 冒頭の引用文について ◆

あえて、いきなり長文の引用を掲げました。
全くふれずにいると、黙認していると思われても困りますので、最後にふれておきます。
正直、反論するのもバカバカしくなるような論理です。

「こんなわかりきったことが、現在では通用しません。」

―そっくりそのまま、それはこっちのせりふだぜ、といいたくなります。

「昔の教師は強制的に右手で書くように指導したものです。しかも、なんら問題は起きませんでした。」

―本当にその通りなら、このような問題は当の昔に自然淘汰されて解決しています。

実際に問題が起きているからこそ、いつまでも「世界中の教師や親たちが悩みの種」としているわけです。

ネット上には、多くの「矯正」経験者が「矯正」の不当性を訴えています。
「矯正」成功者を自認する人たちのあいだでも、様々な弊害を訴える発言が為されています。

その一方で、左手使いに反対する人があとを絶たないだけでなく、それらの人たちが頑強に右手使いへの変更の正当性を訴え、世の親御さんたちを惑わせている、というのが現状です。

もちろん100%諸手を上げて「矯正」賛成、「矯正」されてよかった、しかも全く問題は起きていないという方もいます。

しかし、問題があるという人も少なくないのです。

両極端の結果が示されている、というのが現実です。
この現実を踏まえて考える必要があるのです。

「鉛筆を左手で持ったときの大脳の働きは、三か四ぐらいでしょう。」

―何を持ってこのような意見が生まれるのか理解できません。

私もこのメルマガでは、反対の立場の人から見れば、偏ったと判断されるような意見を述べていますが、それなりに裏付けとなり得る確証を示すように努力しています。

もう少し論理的な納得の行く意見を述べて欲しいものです。

 ◆ 左手で書く方法の研究を! ◆

「左手で文字を書いたときの書きづらさ」

―とありますが、実際に日常左手で文字を書いていない人に、何が理解できるのか分かりません。

外から見て「書きづらい」と思うのは自由ですが、それは単に主観にすぎません。

左手で文字が書きづらいのは、左手で文字を書く方法をきちんと教えられていないこと、左手で文字を書く環境が整えられていないことに原因があります。

私はこれらの条件さえ整えることができれば、左手であろうと右手であろうと全く問題なく、誰もがきちんとした文字を書けるようになると確信しています。

そのためにも、「書き方研究所」を名乗るのであれば、右手左手に関わらず、きちんとした文字が書ける方法を研究していただきたいと思います。

右手で書く方法は確立されているようなので、次はぜひ、左手でも上手に文字が書ける方法を研究していただければ、と心から願っています。


※参考文献:
『だれでもできる幼児・児童の書き方指導(硬筆編)』高嶋喩/著
 あゆみ出版(1994年刊)
『AERA』[1月29日号] 2007年1月22日(月曜日)発売
 アエラネット/レフティー(1)−子どもの左利き、直す?直さ ない?
『AERA』[2月5日号]  2007年1月29日(月曜日)発売
 アエラネット/レフティー(2)−採用条件は「右利き」!の会 社直撃
『AERA』[2月12日号]  2007年2月5日(月曜日)発売
 アエラネット/レフティー(3)−右利き女は左利き男に惹かれ る?


※参考サイト:
児童かきかた研究所
http://www.yubix.co.jp/jido.html
・asahi.com:朝日新聞関西ニュース:朝日わくわくネット
 鉛筆の持ち方見直してみませんか (2006.4.21更新) 
http://www.asahi.com/kansai/wakuwaku/info0419-03.html
・トンボ鉛筆 > トンボの知育文具シリーズ KODOMONO
(きれいな字の魅力/えんぴつの正しい持ち方/商品紹介)
http://www.tombow.com/kodomono/index.html
アエラネット
http://www.aera-net.jp/



 次回の予定は→
 「―その15― 左利き子育て相談の疑問(1)両手が使えるようになるといいね(予定)」

 ようやく新しいテーマに入ります。
 ネットの子育て相談を中心に、その疑問点を探って見ます。


  ◆左手で字を書く・実践編◆シリーズの続編に当たります。
(「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ」は、第二土曜日掲載。
次回は、3月第二週発行の第72号に掲載の予定です。)


 このシリーズ「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ」は、ウェブログ「レフティやすおのお茶でっせ」で始めた、左利きのお子さんをお持ちの親御さんへの左利きの問題にどう対処すべきかについての独断的アドヴァイス、および提案です。
 既発表分は、「その6」まで「レフティやすおの左利き私論3」
として、『レフティやすおの左組通信』に掲載しています。
http://homepage3.nifty.com/lefty-yasuo/hg.siron03.html
「その7」以降はメルマガのバックナンバーから閲覧できます。

 左手書字に関する考察「―その13―字は右手で書くものか?」
「左手で字を書く・実践編」及び「―その14―左手で字を書くために」は、『―左組通信』「左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論4―」にまとめています。
http://homepage3.nifty.com/lefty-yasuo/hg.siron04.lhw.html
※参照:
左手・左利き用文具のページ
左利きphoto gallery〈HPG6〉左手/左利き用文房具(筆記具・定規・その他)
筆記具(万年筆、ボールペン、シャープペンシル、フェルトペン、鉛筆)
・定規/ものさし(直定規、三角定規)・鉛筆削り(手持ち)
・バインダー・電卓・ノート・メモ帳・アドレス帳―を紹介しています。

左手書字(左手筆記/左手書き)に関する<左利きプチ・アンケート>
第7回 04.8.15 左利きでも字は右手で書くべきか?
第29回 06.6.4 左手での毛筆(習字/書道)は是か非か?
・第55回 書字は右手左手どちらですか?

 関連アンケート
第32回 06.8.27 非利き手使い指導を受けたことがありますか
第43回 07.7.29 タレントさんの左手使いは気になりますか

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その後の<左手書字>情報

(初出)2007.9.28(最終)2008.23
・『お茶でっせ』記事:
 2007.7.26 左手書字用お手本使用のネット書写塾
―左手書字の小学生向けの、左手で書いてもお手本がかくれない『手本右版』を用意したネット書写塾があるという。

・YouTubeで見る左利き筆法
―以下のリンクから動画のサービスYouTubeで、左利き筆法に取り組む様子が見られます。
用紙を横倒しにして置いて書く「横書き筆法」と斜めにおいて書く「斜め書き筆法」の2種紹介されています。
他に、用紙を身体の中心の左側寄りに真っ直ぐに置く方法があります。

 「左筆法 横書き筆法
 「左筆法 斜め書き筆法

―<左利き筆法>に関しましては、上欄の
「左手で字を書く・実践編」の以下の記事をご参照ください。
 ↓
 第27号(No.27) 2006/4/22「字は右手で書くものか?(4)」
  3:毛筆編―基本と左きき筆法
(2007.9.28)

・ 『お茶でっせ』記事:
2007.10.25 左ききでは書道は無理ですか?:武田双雲『書愉道 双雲流自由書入門』から
―書道家・武田双雲の著書『書愉道 双雲流自由書入門』(池田書店2005刊)<ここが知りたい! 双雲流「書道Q&A」>119pより、左利き書道についての意見の紹介。他、公式ブログ記事の尼僧の左手の書のことなど。
(2007.10.26)
2008.7.30 『女性自身』2008年8月12日号で左利き記事
 ―武田双雲氏が『左きき書道教本』を使って左利き書道を披露しています。(2008.8.23)

* 『お茶でっせ』【左手書字】カテゴリ
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「ランキンレビュー/雑学/右利きが左利きより多いのはなぜ?
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※参照:2009.1.15記事
速報!『モノ・マガジン』2009年2月2日号左利きグッズ大図鑑

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※参照:2009.3.9記事
左利きを直す必要はない-親野智可等『父親のための親力養成塾』第45回

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