体操部物語  その3

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 今日の練習は、体育館じゃない日なんだけど美術室ではなくて、外で練習だって。ウチの学校は川沿いにあるので、その川の土手の原っぱで練習ということです。
 私は玄関の下駄箱の前で、同じ体操部の菅原まどかちゃんと話してた。
「ねえねえ、まどか。やっぱり裸足で行くのかなあ」と聞いた。
「まさか。外は靴はいていいんだよ」
「あ、そうなんだ」
 私とまどかは運動靴をはいて玄関を後にした。そして集合場所の土手へ向かった。
「あ、ヤバい。もうみんな集まってるよ!」
 体操部のみんなの姿が見えると、私たちはあわてて走っていった。

「こんにちは。よろしくお願いします!」
「遅かったね。ホームルーム?」と2年の新井さんにきかれた。
「はい。すいません」
「それはいいんだけど。靴脱いで」
 え?
 外では運動靴でもいいんじゃないの?
 あれ、よくみたら他の1年生みんな裸足だわ!
 う、うそー!
 外でも裸足で練習なのー。まどかのウソつき!
「は、はい」と返事。
 私とまどかは顔を見合わせながら、靴を脱いで裸足になったの。
 ちょっと土ぼこりのある乾いた土の土手で裸足になった。足の裏が土の温もりで気持ちいいが、やっぱり恥ずかしい。土ほこりが足を刺激する。土手の上はところどころ雑草が生えていて、雑草を足の裏で踏むとこれも少し気持ちよかった。
 いつものように準備運動。
 そしてその後は何をするのだろうか? 筋トレはイヤだー!
 3年の早川さんの指示は、
「1、2年生はロードワーク!」
「は、はい!」
 と、一斉に返事。
「じゃあ、1年生は私たちの後をついて走ってきて」
 と新井さん。
「はい!」

 そして緑色のジャージを着た2年生がみんな土手を走っていった。そのあとをついていくように、ブルマ姿の私たち1年生。土手の乾いた土の上を裸足で走っていきます。
 うわ!
 マジで恥ずかしい!
 土手を散歩している人たちがいっぱいいるよー!
 裸足で走っている私たちに対する視線がものすっごい気になる!
 もう私は視界をものすごく狭くして、真っ直ぐしか見ないように、周囲の人たちの視線を気にしないように気にしないように走っていった。
 走るたびに、土手のやや暖かくザラっとした感触が足に伝わる。裸足の恥ずかしさはちょっと気持ちいい感じもしますが……。
 しばらく土手を走っていくと、橋があるの。その橋を渡って向かい側へ。裸足から伝わる感触は、土からコンクリートに変わり、その感触の違い改めて裸足である恥ずかしさが感じられる。
 橋を渡って川の向かい岸に渡ると、今度は元の方向へと走っていく。そして学校の向かい側まできた。
 ここで別の部活動の1年生の女子が走っていた。彼女たちもブルマ姿だったけど、運動靴ははいてるよ。裸足でいるなんて私たちだけよ!
 彼女たちも私たちの姿を見てた。
 さらに私たちは進んで走っていくと、別の橋が見える。ここを渡って、元の学校がある方の岸へと戻る。そして学校へと戻っていき1周終わり。だいたい2kmぐらいかなあ。 はあ、やっと終わった!
 疲れた……。
「じゃあ、1年生はもう1周ね!」
 え!
 そんなあ!
 息をつく暇もなく、私たちはまた裸足で土手を走りはじめたのでした。
 このロードワークは雨の日以外は毎日のように行われたのです。

 3日後のことです。
 この日のロードワークは最悪でした。前日の夜から朝にかけて雨が降っていたのです。登校するころには雨はやんでいました。午後には晴れたのですがグラウンドはやや湿っていました。
 部活動は体育館の使えない日。しかもその日は美術も使えなかったのです。美術部がたまたま使う日だったんだって。
 土手の芝生での練習になったのです。芝生には露がついていて湿っていて冷たかったです。少しヒンヤリして気持ちいい感じ。で草葉の緑が香っていい匂い。  でもはじめはやはりロードワーク……。相変わらずのようにブルマで裸足で土手を走るの。
「今日は、1年生は3周! 2,3年生はそれまでバレーボールしよう!」
 と部長の早川さん。
 ウソ! 3周もすんのー!
 いやだなあ……。
「各自のペースで走るように。じゃあ、はじめ!」
「はい!」
 私たちは一斉に走りだした。

 ああ、やっぱり!
 土手の土は雨のせいで、ちょっと湿ってるよー!
 裸足の感触はいつもと違う! 砂ホコリがなくて、ちょっとヒンヤリしてる。水分を含んでいるから土が柔らかくて、足の裏に付きやすそうで、なんかきたなーい感じ。ああヤダなあ……。
 走るごとに土が足に付いてるというのが、感じられるの……。きたない……。
 私は運動神経がトロくて足が遅いから、あっという間にみんなに遅れはじめた。
 ねえ、おいていかないでー!
 私だけが、おいてけぼりになってしまった。
 途中で下校中の小学生高学年ぐらいの男の子たち5人ほどとスレ違う。いつもはみんなで走っているから、まだしも今日は一人だけで、こんな恥ずかしいかっこで走ってるんだもん。いつもよりもっと恥ずかしいよー!
 視線を合わせないようにしなきゃ。
「あ、裸足で走ってるー! 室井、がんばれー!!」
 と一人の男の子が言う。それに続けて、残りの4人の男の子たちも
「がんばれ、室井! がんばれ、室井!」
 と大合唱。
 すっげームカツクー!!
 やめてくれー!
 体操着のゼッケンに書かれた私の名前を見てるのよ。
 もう赤面してしまったわ……。何も言い返せないほどの恥ずかしさで、逃げ出すように走っていった。
 すっごいはずかしー!
 その後にも、いろんな人とスレ違っていました。でももう、あまりの恥ずかしさにずーっと下を見るようにして、無心に走ってました。
「舞台の上では、観客を全て野菜と思うようにすれば緊張がほどける」というやつと同じように、人を気にしないように気にしないように……。
 ただひたすら無心に走りつづけていたのです。裸足から感じる湿った冷たい土の感触を感じながら……

 対岸から橋を渡り、こちらへ戻ってきてあと少しで1周目がおわりという所。
 うわ!
 ひどいよ、コレ……
 ここから先の100メートルぐらいの間の道は、まだ水たまりのままドロドロになってたのです。
 マジでここを裸足で走んのー!
 ちょっと勘弁してよ……
 走っていくと次第に、そのドロドロ道に近づいていく……
 ああ……
 もうすぐあの汚い道……
 そして、ついにドロドロの中へと入っていく!
 グニュ。
 という感覚が素足に伝わってきた。
 ついにこのドロンコ道の中に入ってしまった……
 走るたびにグニュグニュっという感覚が……。足の裏に柔らかいニュルッとした触感があり、また足の指と指の間をニュルニュルと泥が通って足の甲の方までくる。
 すごい汚いんだけど、触感はなんか気持ちいい。
 最初はすごくイヤだったんだけど、なんだか面白くなってきたよ。
 ニュルニュルっとした変な感じ……。なんかクセになりそう。一歩一歩、その裸足から感じる泥の感触を味わっていたの。
 気持ちいい!
 そしてやっと泥の道をぬけた。私の足の甲の半分ぐらいまでが泥に埋まってドロドロになってしまいました。

 元の学校の前まで来ると、土手の下の河原では先輩たちが楽しそうにバレーボールしてます。
 さて2周目のことです。
 同じように土手を1周して、さっきのドロンコ道まできました。
 あ、またドロンコ道だわ。
 グニュッ。
 うわ、きたなくてニュルニュルして気持ちいい……
 ドロンコ道に足を入れる前のウレシ恥ずかしい緊張感と、ニュルニュルした触感の気持ちよさを味わってた。
 走りながらも我を忘れてニュルニュル感を楽しんでいたその時に……
 ズルッ
 突然、私はニュルニュルした泥に足を滑らせてしまった!
 うわっ! 
 前のめりに体勢を崩してしまった。
 もうダメ!
 どんどん体が倒れていく……
 そして私は前のめりに転んでしまいました。
 ウッソー!
 ちょっとー、信じらんなーい!
 とっさに両手を前についたのですが、もう手遅れ。
 体の前半分は、つま先から胸あたりまでが全てドロンコになっちゃいました。ドロンコの中についた手ももうドロドロ……。
 真っ白い体育着が茶色く染まってしまいました。粒の粗いドロが体育着いちめんについて私の名前の書かれたゼッケンを隠しています。そして体育着からドロンコがしみこんで私の肌にまで感じられました。ブルマも前半分だけドロだらけ……。
 ドロンコは私の白い太ももとスネを、茶色い膜で包み込んでしまいました。足を交差させてすり合わせるとヌルヌルして気持ちいいのですが……。本当にきれーに茶色く足がドロンコだらけになっちゃったよ……
 腕も肘から下は泥だらけ……
 やだ…… 
 どうしよう!
 私は腕についた泥をお互いの手で拭き取りました。
 うわ、ヌルヌルする!
 そしてぬぐいとって捨てると、その泥の塊が地面に落ちてベタっと音をたてました。
 足の泥も手を使って拭いとりました。スベスベしてる……。
 とりあえず戻って着替えなきゃ……
 そして再び走りはじめました。
 泥を含んだ体操着は、走るごとにペタッペタッと肌にはりついては離れるの。
 そして泥で黒く染まってしまった私の両手。
 その両手を握ったり開いたり……。ベタベタする手の感触……。
 なんか本当にミジメな気分……。
 早くもどんなきゃ。
 あー、こんなところを人に見られなくないわ!  

 やっと学校前に戻ってきた。
 そして河原の方へ降りていき
「すいませーん……着替えていいですかあ?」
 その声に気付いた先輩たちは、ドロンコの私の姿を皆、一斉に笑った。
 ああ、恥ずかしい!
 もうバカバカ。あまりのミジメさに嘆く私。
「アハハ! 室井さん、どうしたの?」
「ちょっと滑ってしまって……。着替えてもいいですか……」
「ああ、そうねえ。じゃあシャワーを浴びて着替えよっか」と新井さん。
「はい……」
 私は新井さんに連れられて、まず校舎裏の水道へいく。そこで簡単に身体の泥を落とした。
 茶色く染まった私の足から、泥が落ちて元の白いキレイな肌が見えた。
 ああ、もうズブ濡れ!
 泥を落とした代わりに、体操着もブルマもビショビショに濡れちゃった。
 泥は落ちたけど、やっぱりシミついてしまった……
「じゃあ部室いってタオルかなんか持ってこようか」
 と新井さんは私を部室へと連れていった。
 部室は体育館の裏にプレハブ建てで立っている。そのプレハブにいくつもの部室が入っているの。部室といっても、狭いからほとんど物置代わりね。先輩たちは、自分の荷物などを置いてたりするけど、私たち一年生は使用禁止なんです。
「はい、タオル貸してあげるわ」
 新井さんは部室に置いてある自分のバッグからタオルを取り出して、私に手渡してくれた。
「あ、どうもありがとうございます!」
 私は借りたタオルで、ビショ濡れになった全身を拭いた。
 なんだかやけに、タオルがあたたかくふっくらという感じがしたの。それは新井さんのやさしさからだよね。
「じゃあシャワー室にいってらっしゃい。えーとねえ、じゃあシャワーの帰りは着替えどうしようかなあ…………。あ、じゃこれ着ていいよ!」
 新井さんはそう言うと、自分の着ている緑色のジャージ上下をスルスルと脱いでいき、体操着とブルマ姿になる。胸には新井と書かれた名札が書かれてる。そして私にジャージを手渡してくれた。
「あ、いいんですか! どうもありがとうございます!」
 なんて親切な先輩なんだろう!
 もうウレシー!
 本当に優しい人だわ。
「シャワーを浴びたら、それ着てここに戻ってきて。待ってるから」
「はい。じゃあ行ってきます!」

 私は部室のすぐ近くにあるシャワー室へ。誰もいないみたい。
 ズブ濡れで茶色いシミのついた汚い体操着とブルマ、そして下着を脱いでシャワーを浴びた。
 うわあ、気持ちいい!
 スッキリしたあ。ようやく手足や身体から洗い残した泥のジャリジャリした感覚から開放された。
 あったかーい。
 は、でもまだ部活中なのよね。すっきりしてもまた部活やらないとは……。
 すっかり開放感にひたってしまったが、まだ終わってなかったんだー。
 朝起きて「今日は休み」と勘違いしたけど、実は学校行く日だったと分かるとショックなんだけど、それと同じ気分ね。
 シャワーを終えて、私は下着をつけずに裸のままで、その上から新井さんから借りたして汚れた体操着や下着を持って部室に帰る。

「お待たせしましたあ」
「あ、帰ってきた!」
「すいません、着替えのジャージを教室まで取りにいきたいんですけど、いいですかあ?」
「え、いかなくていいよ!」
「はあ……。じゃあ今日はこのジャージ借りてていいんですか?」
「え? そうしたら私の着るものないじゃない? 1年はジャージ禁止。着替えはコレよ!」
 と新井さんは着替えを見せてくれた。
 ゲゲ!
 コ、コレはレオタード!

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