体操部物語  その5

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 部室の扉を開けると、外の景色を見る。
 その景色は、さっきこの部屋に入ってきた時と今とでは全く違う光景に見える。
 さっきと全く同じ光景なのに……。
 何が違うのか。それは私の周りの全てが、人だけでなく校舎や何げない柱や廊下までも、この私のレオタード姿を見つめているような感じがするの。
 やっぱりさっきとは違う世界。
 その別世界に、私は一歩一歩足を踏みいれていくの。
 私はさっきまでの一人の生徒ではないの。今これからは「レオタードを着た女」になっているよ。
 部室からコンクリート敷きの上に素足で下りる。さっき洗ったばかりの水分を含んだ裸足は、また敏感に足の裏の小さなホコリを感じてしまう。
 やっぱり洗った後だから、またまた汚く感じちゃう。小さなホコリがとっても気になるよ。せっかくキレイに洗ったのに……また汚れるなんて。
 部室の周辺はたまたま、今だーれもいないガランとした空間なの。
 でも……

 私は改めて自分のお腹を見てみる。青く光沢を放っている。そして腕を見てみる。華奢な腕をそのまんま包み込んでフィットしている……。
 そうよ、レオタード着てるのよ!
 本当に、世界中がつながっている空の下で、こんな恰好しているのよ!
 部室の中では、まだ初めて着た新鮮さと感動に酔いしれていたんだけど……。
 外で着るなんて!!
 めっちゃ恥ずかしい!!!
 だーれも見ていなくても、誰かが見ているようで周りの目を気にしてしまう。
 柱の陰。部室の陰。校舎の屋根の上。どこからか覗かれているような……。いやいや物までも私を見ている気がして……。
 私はもう、恥ずかしくて恥ずかしくて、とにかく誰にも見られないように祈りながら、体操部のみんなが練習している土手の方へと、早足でその裸足を向かわせた。

 ああ! はずかし!
 誰も見てなくたって、私自身が気にしちゃってるもん。
 自然と視界が狭く、あまり周囲の光景が目に入らないように遠くを遠くを見つめるようになる。
 彼方のほうだけを見るようにして……。
 しかしその視線の中に、やはりパールホワイトやコバルトブルーの光沢が目にチラチラと入ってくるの。
 レオタードを着てるってだけでも恥ずかしい! さらにこんな恰好で太陽の真下、みんなに見られるところでいるなんて!
 はやく、はやく皆のところに戻らなきゃ。少なくとも同じ体操部のメンバーのところならまだマシ。
 早足は次第に早くなっていきました。
 コンクリートの床から、今度は裏庭の地面の土へ。素足から感じる感覚が変わります。
 雨上がりの湿っぽい土の感覚がまた私の裸足を襲います。一度慣れてしまったんだけど、一回洗ったので……。
 せっかく洗った足がまた土で汚れちゃうよ。

 見ないように見ないようにしている視界の中に、誰かが入ってきました!
 うわ、ヤバ!
 もう私はそれを誰なのかも確認したくないので、とにかく視界から外してただまっすぐまっすぐ遠くの方だけを見てます。
 超ハズカシー!!
 たぶんその人は、私のこのレオタード姿を見ているんだろう! しかしその事実(?)を認めたくないから……
 あくまで私の中では、その事実を認めたくないので、とにかく見えてないフリして。ただひたすら早足にかけていきます。
 でもどんなに否定しようとも、誰かが私の事を見ている、少なくとも視線の中に入っていることは事実。
 頭ん中から消しさろうとしても全然ダメ!
 レオタード姿を人に見られるなんてえ!
 どうしよう!
 光沢を放っている私のレオタード姿。身体にフィットした衣装、足を全て剥き出して裸足で外を歩いている私! こんな私の姿を見ないで!

 あまりにも恥ずかしくて、少しずつスピードをあげて小走りで急ぐ。
 早くみんなのところに!
 校庭裏庭から、土手へと続く途中でのこと……
 私の視界のずっと先の中に写ったものは……
 ある男子の部活がみんなで土手をランニングしている!
 ランニングシャツの体操服姿だから1年生だ。
 どうしよう!
 まだこちらには気付いてないみたいだけど。
 このまま先に進んでいくと、思いっきり見られちゃうよ。
 こんな私の姿、見られたくないよ!
 かといってここでとまっていても、なんか誰かに見られていそうだし!
 ええい!
 もう先に進むしかないわ!!
 レオタード姿のまま、思いっきり裏庭から土手方面へと突っ走っていった。
 土手をつっきって、その土手の下の河原で練習している体操部のみんなの元へ!
 もう必死に必死に、何事も考えずに!
 レオタード着ている事も裸足でいることも忘れて……。いちもくさんに走っていく。
 しかし!
 バッドタイミング!
 ちょうど部活のランニング中の集団と、土手で交錯……
 私の目の前を、ランニング中の体操服の男の子たちが遮る形になってしまった!
 うわ!
 マジ!!
 みんなこっちを見てるよ!
 男の子たちは、じっとこちらを見るのではなくて、チラチラっと私のレオタードを気にするように見ていた……。
 私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて、下をうつむいてしまう。
 そしてその交錯したわずか5秒間。
 私は男の子たちの視線を浴びているのを感じながら、集団が通り過ぎるのを待った。
 そのわずか5秒間という瞬間。
 それはそれはとても長く感じられた……
 ひたすら走ることで忘れようとしていた事、私がレオタード姿で外を歩いていることを、こんな恥ずかしい恰好でいることを、改めて感じて恥ずかしくなった。
 ランニングの集団の最後尾が私の目の前から通り過ぎて、私はまた前へと進んでいく。その視界の中には体操部のみんなの姿が見える。
 しかし!
 私はやっぱり気になってしまって。
 やってしまった!
 あとでやらなきゃ良かったと思ってる……
 ついつい通り過ぎていったランニングしている男の子たちの方に目をやってしまったのだ。
 そしたら、男の子たちがみーんな私の方を振り向いて見ていたの!
 うわ!
 み、見ないで!!
 めっちゃ恥ずかしい!!
 私が見ているのに気付いて、男の子たちは目が合わさるのを気にして、またサッと前の方に視線を戻したみたい。
 も、もうイヤ……
 で、でもなんかこの視線を浴びる恥ずかしさが、なんか不思議な感じ……
 とっても恥ずかしいのに、その恥ずかしさはちょっと快感みたい。

 やっと体操部のみんなの元へと到着した。
 でも馴染みの皆なの前でレオタード姿でいるのって!!
 それもめちゃくちゃ恥ずかしいじゃん!


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