モノクロミュージカル映画 (4)

 マルクス兄弟の映画を音楽シーンだけについて思い出してみる、という邪道なページ。
 私は英語が聞き取れないので彼等の作品の面白さの一割も理解していないだろう。とはいっても、彼等の映画はミュージカルの形式を取っているし、まことにチャーミングなシリー・ソングの宝庫なのでそちらの方面だけについての雑感を少々。コメディについては詳しく述べている人々が沢山おられますのでそちらをご覧下さい。申し訳ありませんが、私にはメカジキとチョウザメ、陸橋とアヒルの区別がつきません。

ココナッツ  The Coconuts

1929米 監督 ロバート・フローリー ジョセフ・スタンリー 音楽 アーヴィング・バーリン 出演 マルクス兄弟(グルーチョ・チコ・ハーポ・ゼッポ) マーガレット・デュモン ケイ・フランシス


 マルクス兄弟の第一作目の映画。オープニングは白黒反転させたフィルムで踊る娘達を映す。「曲と詞、アーヴィング・バーリン」と出て大いに驚く。ブロードウェイで1925年に幕を開け276回の上演記録を作ったミュージカルコメディの映画化だそうだ。舞台の映画化、というと私などはロジャース&ハマーシュタイン2世の作品あたりを思い浮かべるけれど、トーキーごく初期の「リオ・リタ」「グッドニューズ」あたりもみな20年代の舞台の映画化なのですね。

 タイトルに続いて「フロリダ・バイ・ザ・シー」の曲に合わせお姉さん達が「浜辺での準備体操」をする。(「突貫勘太」もこの体操という手を群舞代わりに使っていた。一般人が大勢脚を出して踊る設定を作る事が難しかったのだろうか。)グルーチョが経営するリゾートホテルに務めるぴったりズボンのボーイ姿のお姉さん達はロビーで意味なく行進し、階段にずらりと座って手を叩き膝を打ってのダンス。ここらの演出は同年の「ブロードウェイメロディ」に比べて、バックステージ物でもないのに、なかなかみせる。

 しかしこの作品のカメラはなんと申しましょうか、当時批評家からは「舞台みたいに固定している」と言われたらしいが、踊りに関しては妙に下から煽るような角度でスカートの中と腰のラインを映すことに異常なこだわりをみせているような気がする。確かに舞台では絶対に見られない「映画的な」アングルであろう。(一番前の客席でも舞台との間にオーケストラボックスがあるから無理でしょうな)ところがこの困った撮影は後に「若草の頃」「ハーヴェイ・ガールズ」「略奪された7人の花嫁」その他沢山の有名なミュージカルを撮っているジョージ・フォルシーだと知ってまたも驚く。人に歴史あり。

 俯瞰撮影とかちょっとしたウエーブとかが入る所など、ダンスの演出にはバークリーと似た感じの所がある。彼の映画デビュー「フーピー」の前年の作品だと考えると画期的なのだろうか?しかし美女の俯瞰撮影はサイレント時代からあったかもしれない。ただこちらは同じような事をしても振り付けのキレや統一感がない。富豪の令嬢役のメアリー・イートンが「モンキー・ドゥードル・ドゥー」を披露するシーンなどはスカートをめくって大腿部をみせるためだけに踊らされているみたいで、彼女が気の毒に思えてくる。(翌年「フーピー」でスリット入りの短いスカートをはいて「ステットン」を踊ったエセル・シャタがダンサーとしての技をしっかりとみせて観客を魅了するのとは大違いである。)

 ひょっとしたら、トーキー初期のミュージカルのダンスシーンに対して、映画館に来る大多数の人々が何を求めていたか、ということが29年のこの作品にはストレートに現れているのだろうか。(舞台版の振り付けは「ショー・ボート」「オー・ケイ」「リオ・リタ」等、当時のヒット作を何本も手掛けたサミー・リーだが、映画は振り付けもダンスディレクターも別の人に替わっている。)

 「アレクサンダー・ラグタイム・バンド」のヒットや「ジークフェルド・フォリーズ」ですでに有名だったはずのバーリンの曲も映画化にあたって3曲削られている。そのかわりに「私の夢が叶う時」が入ったが、やはり主役達が歌うナンバーを欠くせいか、彼にしてはこの映画はイマイチであったような気がする。というより、マルクス兄弟のパワーがバーリン様を霞ませてしまった、と考えた方がいいのであろうか? ミュージカルシーンはここではやはり添え物なのだろう。

けだもの組合  Animal Crackers  

1930米  監督 ヴィクター・ヒアマン 音楽 バート・カルマー ハリー・ルビー 出演 マルクス兄弟(グルーチョ、チコ、ハーポ、ゼッポ) マーガレット・デュモン

 資産家夫人が自宅でパーティを開き、探検家と秘書と楽士と教授の4人を招く。同時に披露されるはずの絵画が贋作にすり替えられる、という筋は大して問題ではないだろう。

 オープニングは執事を中心にずらりと召使いが並んで歌う「バトラーズ・ソング」。白銀時代のオペレッタの舞台の様な雰囲気で幕が開く。上流社会の人々がクラシカルに歌う中、探検家グルーチョが登場し、バーレスク風の「キャプテン・スポールディング万歳」が始まる。(ジミー・デュランテ主演の「ハリウッド・パーティ」もアフリカ帰りの探検家を迎えるパーティの話だったが、当時そういうことがハリウッドで流行ったのだろうか?)

 ここでグルーチョが膝をクネクネさせ、手のひらを上に向けてクルクル廻る例の踊りを披露する。同時期の他の映画でもこの膝を回すダンスが見られるので彼の専売、というわけではなかったのだろうが、今やグルーチョの物真似というとこれでしょう。グルーチョ、ゼッポのレシタティボもあって楽しい。
 
 とある目的のために絵をすり替える恋人達が歌う「ホワイ・アム・アイ・ソー・ロマンティック」はオープニングでも使われる軽くて楽しい曲だ。ハーポのハープ演奏もこの曲。チコはどこが出だしか終わりかわからない曲をピアノで弾く。

 この作品もブロードウエイの舞台の映画化だが「ココナッツ」に比べると何故か踊りはほとんどない。そのせいかThe Internet Movie Databaseではジャンルが「コメディ」1つだけだ。(「ココナッツ」と「我が輩はカモである」はコメディ/ミュージカルの2ジャンル)多分第一作目でコメディ部分の方が圧倒的に受けたからですかね。でも挿入歌は「ココナッツ」よりチャーミングに思える。

 踊りがなくて物足りない分はウッディ・アレンの映画「世界中がアイ・ラヴ・ユー」の中のフランス語版「キャプテン・スポールディング万歳」を見て補完。様々な作品の中のグルーチョの扮装をした12人のダンサーの群舞をワンショットで撮影した素敵なダンスシーンだ。

 ところで、この作品の作詞作曲を手掛けたのはバート・カルマーとハリー・ルビー。このコンビの伝記的映画、というのがフレッド・アステアとレッド・スケルトンが主演した「土曜は貴方に」だそうな。そんなに有名な人達だとは知らなかった。というより、知らない事だらけだ。教えてくれた先輩に感謝。


御冗談でショ Horse Feathers  

1932米 監督 ノーマン・Z・マクロード 音楽 バート・カルマー ハリー・ルビー 出演 マルクス兄弟(グルーチョ、チコ、ハーポ、ゼッポ) セルマ・トッド

 31年の「いんちき商売」Monkey Business はお約束のチコとハーポの演奏以外の音楽シーンはほとんどない。(兄弟4人がそれぞれがモーリス・シュバリエになりすます愉快なシーンはあるが)ところが翌年に作られた本作はなんと学園物で、結構楽しいミュージカルになっている。私はパラマウント5作の中で一番好きだ。

 まずは大学の学長になったグルーチョの「なんでも反対」のナンバー。グルーチョお得意の膝クネ踊りも入るし、教授会のメンバーとの絡みもよい。特に中年以上の男性群舞というもの自体が少ないので、このナンバーは今見ても意外に新鮮に映った。(この教授達は円陣を作った時に一応シャッフル・ステップをみせてくれるようだ)
 
 「誰もがアイ・ラヴ・ユーと言う」のナンバーは兄弟4人がそれぞれ別の場面で歌詞を変え、個性に合わせてソロで歌う。(ハーポは口笛とハープだが)やはり付け足しのような若いカップルに歌のパートをまかせるよりも、本来の主役達が歌う方がミュージカルとしては自然だし、この曲自体、メロディも詩も愛らしくてよい。W・アレンが自分の作品に使いたくなるのも無理はない。

 音楽は「けだもの組合」と同じカルマーとルビーのコンビ。バーリン様よりマルクス兄弟との相性は絶対によさそう。深みはなくても軽みが身上。この作品では二人は音楽だけでなく原作と脚本にも参加している。


我輩はカモである Duck Soup

1933米 監督 レオ・マッケリー 音楽 バート・カルマー ハリー・ルビー 出演 マルクス兄弟(グルーチョ、チコ、ハーポ、ゼッポ)マーガレット・デュモン ルイス・カルハーン

 29年の「ココナッツ」からこの頃までマルクス兄弟の映画は毎年作られている。順に見ていくと、ミュージカル映画の演出が急速に進歩しているのがわかって楽しい。この作品と同年に作られたのはワーナーの「42番街」「ゴールドディガース」「フットライトパレード」RKOの「空中レビュー時代」MGMの「ダンシング・レディ」「虹の都へ」。すでに百花繚乱である。

 さて、名作の誉れ高い「我が輩はカモである」だが、架空の小国、というのを舞台にするとどうしてもヨーロッパを想定せねばならぬためか、音楽シーンはややオペレッタ風か。(グルーチョを迎える"His Excellency is Due'"のナンバーは廉価版「ロザリー」という感もちょっとする)この後のグルーチョがとんでもない政策を早口で述べる"Just Wait Till I Get through With It" は彼の歌も踊りもテンポが良く面白い。このナンバーをみると彼が後に「ミカド」のココ役を演じた、というのも納得できる。
 
 有名な"The Country's Going to War "はパラマウントとしてはなかなか大がかりなナンバー。ソロを歌う人物と群集の映像の切り換えとか、突然ストップモーションを擬したりとか、カメラもメリハリがきいている。皆が手をひらひらさせる所とかバンジョーを弾いたりする所とかはミンストレル・ショーっぽい雰囲気もある。歌っている題材が題材だけにヒステリックというか、躁状態に盛り上がる演出も上手いと思う。惜しむらくは、特殊な状況の曲なので、その後スタンダードにならない、という事だろうか。

 この作品も音楽はカルマーとルビーのコンビ。脚本も担当している。(資料によっては脚色がこの二人で脚本がアーサー・シークマン &ナット・ペリンとあるが、素の台詞とギャグの分担か?)

 この5本でパラマウントとの契約が終わり、マルクス兄弟はMGMに移るがこの際、ゼッポがグループを抜ける。いなくてもいい存在のように言われることもあるが、「いんちき商売」や「御冗談でショ」を見る限りでは、「金と力に縁のないのっぺりした二枚目」というポジションで甘い歌を歌っていればそれなりに良かったのではないだろうか。もしも彼が最後まで異能の三兄弟に付き合って出演していたら、今世紀になって「やっぱりゼッポがいてのマルクス兄弟でしたなあ」と地味キャラ好みの人々に評価されたかもしれない。


HOME INDEX