人物Aが男性であるとき
休憩室でコーヒーを飲んでいると、同僚が話しかけてきた。
「よお、ちょっと面白い話があるんだが」
顔を見た途端、いつだったか他の者に注意されたことを思い出した。油断していると、新しい恋人とのノロケ話を延々聞かされるらしい。
「なんだよ、俺がノロケ話なんかするかよ。面白いパズルを耳にしたから、教えてやろうと思ったのに」
それなら話は別だ。僕は空いている椅子を勧めた。
「弁護士事務所に務めてる若いヤツから聞いたんだがな、こういう問題なんだ……人物Aは男性である。では、私の性別は?」
コーヒーを啜る。続きを待ったが、同僚はなにも続けようとはしなかった。
「これだけだよ」
おいおい、なんだそれは。それだけじゃ、どう論理的に考えても答えをだすのは無理だ。その若いヤツとやらは、他になにも言わなかったのか?
「言わなかった。ハハ、無理もない、俺も最初はとまどったさ。しかしな、本当にこれだけでフェアに解けるんだ。いや、フェアに解けるということ自体がこのパズルの条件かな」
ピンと来た。
問題文の中で、性別が明らかなのは人物Aだけだ。答えをだすには「私」とAの関係を明らかにするしかない。しかし「私」がAの妻だとか息子だとかいった情報はなにも無い。
情報が無いなら、最もシンプルな関係だと解釈するしかない。すなわち「A=私」だ。
つまり、意図的に「私」は自分のことを人物Aとして他人のように話している、そういう状況での文章だ。論理的に考えても答えはだせないが、フェアな解決が可能だということを前提にするなら、そう解釈してやるしかない。
なるほど、わかった。Aと「私」は同一人物なんだから、男性だ。
「だろ? 俺もそう思ったんだ。それ以外に答えはないよな?」
顔をしかめながらも、同僚の顔は喜悦に満ちていた。
「それなのに彼女ときたらさ……」
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