ラテン語文法と グノー第二ミサ 解釈と研究
フルトン男声合唱団 M・V
平成16年6月25日版
0.はじめに
練習は進んでいますか?
今回の曲はフルトンでは初めて、日本語でも英語でもない、ほとんどの方が全く未知の言語を歌詞とした曲ですね。なじみのない言葉では、どうしても歌詞を覚えにくいものです。
しかし、グノー第二ミサの歌詞であるラテン語は、私たちにとってそれほどなじみのない言葉ではないのです。ラテン語は西洋のいろいろな言語の源をなす言語です。ここに使われている言葉が、私たちの知っている言葉に関連があるとわかれば、歌詞も覚えやすくなり、曲の理解も進むのではないでしょうか。
ミサの歌詞の解説だけではなく、ラテン語の文法にも少し筆を進めてみたいと思います。また、インターネットのサイトで見つけたいろいろな雑学も読んでください。
0.1. ラテン語講座 「初めに名詞ありき」
「初めに言葉ありき」、ヨハネによる福音書の劈頭にある言葉です。未知の言語に接するときには、一番当たり前の言葉から接触してみましょう。一番当たり前の言葉、それは名詞でしょう。
「初めに名詞ありき」です。
英語の代名詞には Iーmy−me のように格変化がありましたね。主格、所有格、目的格。ドイツ語には1格から4格まで4つの格がありました。ラテン語の名詞には六つの格、すなはち変化の形があります。
一般的には最後の呼格は使われませんから、ラテン語の名詞には五つの格がある、という文章が多く見られます。ミサ曲というか宗教曲では、めたらやったら、主よ、神よ、キリスト様よと呼びかけています。ですから、普通のラテン語では見られない呼格もここに記載しておきます。
格 deus 神 dominus 主
主格 deus 神は dominus 主は
属格 dei 神の domini 主の
与格 deo 神に domino 主に
対格 deum 神を dominum 主を
奪格 deo 神によって domino 主によって
呼格 deus 神よ domine 主よ
このミサ曲の歌詞のなかに次のような言葉があります。
sanctus dominus DEUS 、agnus DEI 、 DEUM de DEO
大文字で書いた言葉は、すべて同じ言葉の活用形なのです。
ここで一服
京都工芸繊維大で西洋古典文学を教えられ、現在北白川幼稚園の園長先生をされている
山下 太郎先生のホームページで面白い文章を見つけました。音楽好きの方の雑学としてお読みください。
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さて、音楽用語の話題に戻ろう。先に触れた「メロディ(melody)」はギリシア語の「歌」(メローディア)に由来し 、「リズム(律動)」は「計測された動き」を意味するギリシア語リュトモスに遡る。
また、「合唱」のことを英語でコーラス(chorus)というが、この言葉はギリシア悲劇の合唱隊、すなわちコロスに起源を持つ。
ギリシア悲劇においては、舞台前に用意された半円形の場所で合唱隊(コロス)が台詞を述べたり舞を踊ったりしたが、この場所はギリシア語でオルケーストラ(orchestra)と呼ばれた。
この場所は、ローマ時代に入ると、元老院議員を初めとする賓客用の席として用いられるようになった。現代の英語において、orchestra が劇場の一階の観客席全体(特に一階前方の上等席)を意味する用例があるのは、このローマ時代の用例の名残といえる。
オーケストラがいわゆる管弦楽団を意味するようになったのは一八世紀の後半以降のことである。
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1.KYRIE
1.1.KYRIE
Kyrie eleison. Christe eleison. Kyrie eleison.
:主よ:憐れみたまえ :キリストよ
「主よ、あわれみたまえ。キリストよ、あわれみたまえ。主よ、あわれみたまえ。」
Kyrie 名詞 Kyrios :主 の呼格:呼びかける形:これはギリシャ語です。ラテン語ならば、Domine です。
Eleison 動詞 不定形はわかりません:憐れむ の命令形で、憐れみたまえ。やはりギリシャ語です。
後で出てくるmiserere と同じ。
Christe 言わずもがな、キリストよ、ということです。
ですから、 Kyrie Eleison
Christe Eleison は、ギリシャ語ですが
Domine miserere
Christe miserere と同じことになります。
三位一体というようなキリスト教の言葉も是あり、3X3回この言葉を詠います。昔は繰り返し繰り返し歌っていたそうです。そのことを、連祷というそうです。
このKYRIEはミサを始めるにあたっての開祭の曲として位置づけられています。
ということは、どういうことかというと、われわれの感覚で言うと、法事のはじめに、南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経、を何度も繰り返すようなものではないでしょうか。そして、その後に本題のお経、たとえば般若心経に入ってゆくようなものではないでしょうか。
この文章だけはギリシャ語です。GLORIA から後はすべてラテン語なのです。そういう役目を背負っているので、ラテン語よりも一つ古いギリシャ語を使うのでしょう。われわれ日本人も、仏事のお経には一、二時代前の漢文を使い、神事の祝詞も上代に溯るような言葉を使います。宗教には古い言葉のほうがありがたいのでしょう。ラテン語も古い言葉なのですが、出だしはもっと古いギリシャ語でありがたみを増しているのでしょうか。
1.2. ラテン語講座 ラテン語のアルファベット
ここからはラテン語の話です。KYRIEという言葉がラテン語とは違うとどうしてわかるのでしょう。
`K`と`Y`の文字が使われていることでわかるのです。ラテン語にKの文字はありません。あるとすれば他の言語由来です。そして古いラテン語にはJ、U、W、Y、Zもないのです。いわゆるアルファベットは21しかないのです。JはIでした。UとWはVだったのです。
Jesu Christe は IESV CHRISTE と書かれていました。Jは母音の前の子音的なIが分化したものなのです。Deusは DEVSでした。Uは子音の後のVが分化というか変化したものです。WもVから分かれました。また、KとGはラテン語ではCなのです。
YとZはギリシャ語を書く必要がありラテン語に入ってきました。
これらの過程を経て26字の英語のアルファベットが形成されたのです。
私のサインというか頭文字を書くときに、必ずM.V.と書いているのをご存知でしょうか。普通ならM.U.なのですが、上記の理由により、エエカッコシイで、M.V.としているのです。
1.3. ラテン語講座 ラテン語の発音
1.3.1 標準ラテン語の発音
ラテン語の発音について、山下太郎先生のホームページから引用させていただきます。*******************************************************************************************************
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上記をまとめて、羅和辞典の巻頭にある発音の項目を要約します。
一口にラテン語の発音といっても、時代によって変化があったので、時代を確定しないでそれを論じることは無意味である。現今、欧米各国で行われている発音には国によって多少の差違があって、未だ完全に一致していない。これは各国の国民性や歴史などさまざまなものが原因となっている。
ローマ文化の最盛期、西暦前50年頃のローマ市民の発音であったと推定される発音法を、歴史的あるいは標準的発音法として考えることが容易である。これは、欧米各国の言語学者、ラテン語学者が、採用しているものであって、やがてこれに統一されるであろう。
この発音法は至極容易である。
一言で言えば、現今行われているローマ字の発音にほとんど等しいのである。
また、ラテン語の発音に無音(silent)はないから、各字母にその発音をあてがって発音すればよい。字母の発音は一種類であり位置や綴り字の具合で発音が変わることはない。
この項目は、標準ラテン語の話であって、ミサ曲のラテン語は違います。次の項目でミサ曲のラテン語の発音について記載します。
1.3.2 ミサ曲ラテン語の発音
歌曲におけるラテン語は、後世、特にイタリア語の影響を大きく受けています。
和田 朗先生のホームページに、合唱におけるラテン語の発音について詳しく書いてあります。そこから少し引用させて頂きます。
まず、基本の母音の発音です。下記の内容は、前回の荒谷先生の練習の際にもご指摘頂いた事項ではないかと思いますので記載させていただきます。
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ラテン語の母音は A、E、I、O、U の5種類です.発音もほぼ日本語の「ア、エ、
イ、オ、ウ」と同じです.(中略)
さて発音ですが、先に書いた「ほぼ同じ」というのが曲者です.まるきり違えば、きっと注意を
払って練習するのでしょうが、似ているためにどうしてもカタカナを発音しているように聞えてし
まうのです.日本語とラテン語の決定的な違いは、あごの開きの大きさです.一般に日本語はあま
り口を動かさなくても構音できるため、私たちは発音器官(唇、舌など)を動かして(調整して)
言葉の音(おん)を作るという意識がありません.したがって発音器官を動かす筋肉はそれほど鍛
えられていませんから、自分ではかなり開いて発音しているつもりでも不充分なことが多いので
す.自分のあごや口がどこまで開くのか限界を試してみたり、鏡を見ながら発音したりなど、確認
しながら発音練習することが大切でしょう.
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子音の発音が違うのです。まず、和田 朗先生のホームページから、合唱におけるラテン語発音(和田先生も書かれているように、これはイタリア語の発音に準じた“ローマ式”発音です。)の中で、子音についての説明を載せておきます。
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<子音 1>
子音は、明瞭に発音されるべきですが、そのことによってそれに続く母音を、明るくはっきり際立たせることができます。また、ラテン語は前へ前へと流れる性質を持っていますが、明確で強い子音は母音に跳躍感を与え、言葉を生き生きとさせます。その意味でも、子音の発音の仕方には、充分注意を払う価値があります。
基本的にラテン語のローマ式発音はイタリア語の発音に準じますので、イタリア語の子音の発音の仕方で解説していきます。
<文字の通り発音する子音>
ラテン字母は全部で25文字で、英語のアルファベットに比べて "W" が無い分1文字少なくなっていますが、他はまったく同じです。母音を表わす "A E I O U Y" の6文字以外の19文字は子音を表わします。子音のうち、その文字の通りに発音するのは、 "B D F J K L M N P Q R V Z" の13文字です。これらは、他の子音字と結びついて特殊な発音をしたり、後続する母音によって発音が変わったりという変化がありません。これ以外の、"C G H S T X"
の6文字は、場合によって発音が変化しますので、その規則について扱いたいと思います。
<状況によって発音が変化する子音の規則>
"C G H S T X" がこれにあたります。一般的な発音と、どのような場合に発音が変化するかを覚えましょう。
また2つの文字で1つの子音を表わすものがありますので、最後にそれについて確認します。
C 一般的には [k] の発音です。明母音("E I")の前に来た時のみ変化し、その時は、英語の“chair” と同じ子音になります。
G 一般的には [ g ] の発音です。明母音の前に来た時のみ変化し、英語の“jam”と同じ子音になります。
S 一般的には [ s ] の発音です。母音にはさまれた時のみ軟化され [ z ] となります。
X 一般的には [ ks ] の発音です。 "E" と母音にはさまれた時のみ軟化され [ gz ] となります。
なお、 EXH+母音 EXS+母音も同様に [ gz ] となり、 "H" や "S" は発音されません。
T 一般的には [ t ] の発音です。 "TI" に母音が続く場合に [ tsi] となります。
ただし、 "TI" の前に "S X T" がある場合は一般的な発音です。
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和田 朗先生のホームページに、ミサ通常文の合唱における発音が、国際発音記号で記載されています。その中から、標準ラテン語の発音でないものについてカタカナで記載しておきます。和田先生は、正しいラテン語の発音を教えておられますから、カタカナにすると、叱られるかもしれません。しかし、フルトンのわれわれにはカタカナが必要でしょう。
2.GLORIA
Gloria in Excelsis deo.
:エクシェルシス
Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.
:オミニブス
Laudamus te. Benedicimus te. Adoramus te. Glorificamus te
:ベネディチムス
Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.
:アジムス :マーニャ
Domine Deus . Rex caelestis. Deus Pater omnipotens.
:チェレスティス
Domine Fili unigenite, Jesu Christe
:ウニジェニテ :イエーズ
Domine Deus, Agnus Dei, Filius Patris
:アーニュス
Qui tollis peccata mundi, miserere nobis
:ミゼレレ
Qui tollis peccata mundi, suscipe deprecationem nostrum
:スーシペ
Qui sedes ad dexteram patris , miserere nobis
:ミゼレレ
Quoniam tu solus sanctus. Tu solus Dominus
Tu solus altissimus, Jesu christe.
:イエーズ
Cum Sancto Spiritu in gloria Dei Patris Credo in unum Deum.
3.CREDO
Patrem omnipotentem, factorem caeli et terrae , visibilium omnium et invisibilium
:チェーリ :ヴィジビリウム :インヴィジビリウム
Et in unum Dominum Jesu Christum . Filium Dei unigenitum.
:イエーズ :ウニジェニトゥム
Et ex Patre natum ante omnia saecula.
:セクラ
Deum de Deo lumen de lumine , Deum verum de Deo vero
Genitum, non factum. onsubstantialem Patri: per quem omnia facta sunt.
:ジェニトゥム
Qui propter nos homines, et propter nostram salutem. descendit de caelis
:オミネス :デシェーンディト :チェリス
Et incarnatus est de Spiritu Sancto ex Maria Virgine Et homo factus est
:ヴィルジネ :オモ
Crucifixus etiam pro nobis : sub Pontio Pilato. passus, et sepultus est.
:クルーチフィクスス
Et resurrexit tertia die, secundum Scripturas
:レズルレクシット
Et ascendit in caelum: sedet ad dexteram Patris
:アシェーンディット :チェルム
Et iterum venturus est cum gloria judicare vivos et mortuos
cujus regni non erit finis
:レニュイ
Et in Spiritum Sanctum, Dominum et vivificantem qui ex Patre Filioque procedit
:プロチェーディット
Qui cum Patre et Filio simul adoratur,et conglorificatur qui locutus est per Prophetas
:プロフェータス
Et unam sanctam catholicam et apostolicam Ecclesiam
:エックレジアム
Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum
Et expecto resurrectionem mortuorum Et vitam venturi saeculi
:レズルレクチオーネム
:セクリ
4.SANCTUS
Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Sabaoth.
Pleni sunt caeli et terra gloria tua
:チェリ
Hosanna in excelsis
:オザンナ
5.O SALUTARIS HOSTIA
O salutaris hostia, quae caeli pandis ostium.
:チェリ
Bella premunt hostilia、da robur fer auxilium
:オスチリア
6.AGNUS DEI
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: miserere nobis
:アーニュス :ミゼレレ
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: dona nobis pacem
:アーニュス :パーチェム
2.GLORIA
以下、ラテン語のすべての歌詞について下記のような形で説明します。
凡例
まず、ラテン語の歌詞を記載します Credo in unum Deum
次に逐語訳を記載します :信じる :〜に対して :一つ :神を
その次の「」内の文章は公定訳(1967年版「公会議における主日のミサ典礼書」による)です。
「我は信ず、唯一の神」
その下に、すべての単語について品詞分解をし、その後、派生語、私たちの身の回りに通じる言葉などについて説明します。
Credo 動詞 credo:信じる の1人称単数現在
単語 品詞 不定形:意味 活用形 の順に並べて説明します
2.1. GLORIAその1
Gloria in Excelsis deo.
:栄光 :高いところ :神
Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.
:地 :平和 :人々 :善き :志(意)を持つ
「いと高き所では神に栄光、地には善意の人に平和がありますように」が公定訳です。
gloria 名詞 gloria:栄光 の単数主格
in 前置詞 〜において 奪格支配
excelsis 名詞 excelsum:高所、高位、天 の複数奪格という変化形というか活用形です。
Deo 名詞 Deus:神 の単数与格
et 接続詞 :そして
terra 名詞 terra:地、地球、陸地 の単数奪格
pax 名詞 pax:平和 単数主格、
この形からはわかりにくいかもしれませんが、英語の peace:平和の語源です。最後の KYRIE に pax の単数対格の活用形で pacem という語が出てきます。 pacem であれば peace との関連が明白でしょう。
hominibus 名詞:homo、人を意味し、この言葉から human が出てきています。複数与格
bonae 形容詞: bonus: 善い 女性属格の活用形です。
これを日本語読みしてください。そうです。ボーナスです。いいことなのです。ボーナスの語源はこのラテン語なのです。
voluntatis 名詞 voluntas:意思、意向、覚悟 単数属格
すぐにわかりますね。ボランティア、はこの言葉から出てきています。ラテン語でも voluntarie は任意にという副詞、voluntarius が任意な、自発的なという形容詞です。
こうしてみると、 pax から以下は日本語になっている言葉ばかりなのですね。
pax. hominibus bonae- voluntatis
:ピース :ヒューマン :ボーナス :ボランティア
平和 人間的 いいこと 文字通り
Deo、 hominibus, が与格であることから 神に、人にということがわかります。gloria, pax は主格であり、栄光は、平和は、という意味になります。inという前置詞は〜においてという意味では、続く言葉に奪格を要求します。ですから、excelsis,、terraは奪格なのです。
,bonae-voluntatis、これらは属格でありその直前の hominibus を修飾しています。
これらの格、すなはち活用を見ると
栄光は、いと高きところで、神に そして、地では 平和は 善き志の人に とわかるのです。
とにかく語順はでたらめなのですが、ちゃんと意味がわかるしかけがあるのです。
この意味で善意の人の解釈なのですが、キリスト教ですから、キリスト教の神の教えに従順な人という意味らしいのです。ですから、キリスト教の教えに従順な人々の満ちあふれる地には平和を、という意味になるのです。
ですから、アラブ人の地に平和は決して祈っていないようです。
2.2. ラテン語講座 ラテン語の語順
日本語に直すと下記の二つの文章の対比となります。
天には神に栄光
地には人に平和、
上記のように、対応する言葉が同じ所に並ぶのが日本語では普通です。ラテン語の歌詞をそのように並べると
Gloria in Excelsis deo
:栄光 :いと高きところ、すなわち、天 :神
Pax in terra hominibus
:平和 :地 :人
となります。
逆に、歌詞の「Groria in Excelsis deo. Et in terra pax hominibus」をそのままの語順で並べると
栄光は天なる神
地には平和を人々へ
不自然です。これで意味が通じているのか、ということなのですが、ラテン語ではこれで問題ないのです。ラテン語は一つ一つの言葉、名詞、動詞、形容詞が語尾変化を行いその役割を示します。語順は特に意味をもたないのです。あたかも、日本語の名詞に助詞がついてその役割を示すようなものです。
英語で Tom loved you. と、 You loved Tom. では全く意味が異なります。
日本語では 「トムは君を好き」、でも、「君をトムは好き」、でも、「トムは好き、君を」でもすべて意味が通じますね。ラテン語はそれに似ています。言葉の格変化、すなはち活用により単語が文章の中の位置と意味を獲得するのです。
2.3. GLORIA その2 と ラテン語講座 動詞の活用
次の文章は、同じ形のものが四つ並びます。この文章はラテン語の動詞の形を理解するのにわかりやすい文章です。
まず、下記の動詞の活用表をご覧ください。
直説法とか能動とかにはこだわらないでください。普通の現在形です。
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直説法能動現在:amo_(第一変化動詞)の活用 |
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単数 |
複数 |
|
一人称 |
am-o_ 私は愛する |
ama_-mus 私達は愛する |
|
アモー |
アマームス |
|
|
二人称 |
Ama_-s あなたは愛する |
ama_-tis あなた達は愛する |
|
アマース |
アマーティス |
|
|
三人称 |
ama_-t あなたは愛する |
ama_-nt あなた達は愛する |
|
アマト |
アマント |
|
ラテン語の文章に、代名詞の主語はありません。動詞の活用の中で主語の1,2,3人称、単数、複数がわるのです。
上記の amo それだけで 私は愛する。 I love 、Ich liebe、になるのです。
Laudamus を見てください。これは誉める、laudoの活用形です。活用表と照らし合わせてすぐわかるように、1人称複数現在形です。ですから 一語で 私たちは誉める、なのです。
Laudamus te. Benedicimus te. Adoramus te. Glorificamus te
:我らは誉める :あなたを :我らは祝福する :我らは崇拝する :我らは頌徳する
「われらは主をほめ、主をたたえ、主をおがみ、主をあがめ」
te は2人称単数の代名詞 tu :英語なら you ですね:の対格、:英語で言えば目的格です。
(人称代名詞については次回というか次ページにおいて説明します。)
となればもおなじことがおわかりでしょう。
benedicimus 動詞 benedico:祝福する 1人称複数現在形
adoramus. 動詞 adoro:崇拝する 1人称複数現在形
glorificamus 動詞 glorifico:頌徳する 1人称複数現在形
今回、ここから先が大切です。
laudamus が一つの言葉です。
らうだーーーーと歌って、次に休んでというか一呼吸いれて むすて と歌っていませんか?
いけませんよ。
言葉の面から言うと`むす`と`て`で切る方が正しいのです。まず、不可能ですから試みないように。
たった二つの言葉、なんとかーーーむす て。が一つの文章なのです。
主語のわかる動詞と目的語を備えた文章なのです。覚えておいてください。
2.4.ラテン語講座 人称代名詞
今回は人称代名詞の変化をみておきましょう。
|
|
1人称 単数 |
1人称 複数 |
2人称 単数 |
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|
英語 |
I |
we |
You |
|
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主格 |
ego |
nos |
Tu |
〜は |
|
属格 |
mei |
nostrum |
Tui |
|
|
与格 |
mihi |
nobis |
Tibi |
〜に |
|
対格 |
me |
nos |
Te |
〜を |
|
奪格 |
me |
nobis |
Te |
|
|
|
|
|
|
|
英語の I にあたる言葉が ego です。日本語になっていますね。エゴ、エゴイズムのエゴです。
ミサでは相手が神様です。お祈りをするこちら側は通常複数です。ですからミサ通常文では、I:わたくし:の活用形はほとんど出てきません。ほとんどがwe:わたしたち:の活用形です。
われわれ八百万の神をいだく大和民族とは異なります、キリスト教では神様は一人です。ですから、神様、すなわち、あなたである2人称は単数のみです。
この曲の中でもこの曲の中では
nobis :わたしたちを tibi :あなたに te :あなたを が出てきます。
これらの格変化の中でも、与格、対格は英語で言えば目的格にあたります。となると、属格は所有格にあたるのだろう思われますが、ちがうのです。英語のmyやyourにあたる言葉は、
meus :わたしの tuus :あなたの という形容詞がありこれが変化して名詞にくっつくのです。
確かに、my ball わたしのボール、英文法で慣れきっているので、myは代名詞です。が、よくみれば、myはballの性質を語っている形容詞ですよね。
2.5. GLORIA その3
Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.
:感謝 :私たちはします :あなたに :〜のために :偉大な :栄光 :あなたの
「主の大いなる栄光のゆえに感謝したてまつる」
gratias 名詞 gratia :感謝 気に入ること 友情 複数対格です。
この言葉は 行うと意味の動詞 agoといつもくっついています。 gratias ago という熟語を形成して感謝するになるのです。
スペイン語かなんかで、ありがとうはグラシアスですよね。ここからきています。
agimus 動詞 ago :導く、動かす、 一人称複数現在です。
前回のらうだーーーむす、あどらーーーーむす、と同じですね。わたしたちが感謝するのです。その相手はtibi 、あなたに です。
tibi 代名詞 二人称単数与格
propter 前置詞 :〜のゆえに、〜のために、〜の近くに 対格支配
magnam 形容詞 magnus : 大きい、偉大な 女性対格
magnam 日本語のマグナム、何ですか、皆さんビールは高いからとこれに替えて飲んでいるでしょう。あの商品名も出所はここです。世界史でマグナ・カルタというのを覚えていませんか?大憲章ですがマグナが大、カルタが憲章です。
なお、カルタはドイツ語のカルテ、英語のチャートです。
gloriam 名詞 gloria : 栄光、 単数対格 前置詞 propterに支配され、対格になっています。
tuam 先に述べた英語の所有格にあたる所有の形容詞 tuus :あなたの、の女性対格
Domine Deus . Rex caelestis. Deus Pater omnipotens.
:主よ :神よ :王 :天の :神よ :父よ :全能の
「神なる主、天の王、全能の父なる神よ」
この文章は、手を替え品を替え呼び方を変えて、あなたなる神様にヨイショする文章ですから、ややこしいところはありません。
Domine 名詞 Dominus :主 単数呼格です。
呼格について; Blutus :ブルータス ユリウス・カエサルというかジュリアス・シーザーを暗殺した人の名前です。
この呼格はBlute になります。「ブルータスよお前もか」という暗殺に際しての有名な言葉があります。このとき「ブルータスよ」と呼びかける形になります。ですから、カエサルというかシーザーは 「ET TE BLUTE」 と呼びかけたと思われるのです。「ET TE BRUTUS」 ではないでしょう。
Deus 名詞 deus :神 の単数呼格。 これは主格と同じ形です。
Rex 名詞 rex :王 単数呼格でしょう
caelestis 形容詞 caelestis :天界の、空の、神の 男性単数呼格
名詞形がcaelum です。後で出てくる caeli et terrae これは天と地です。
Pater 名詞 pater : 父、 単数呼格
説明の必要もないでしょう 英語 Father の祖先です。PAPA、パパという言葉の中のP音は、この時代のなごりなのです。
omnipotens 形容詞 omnipotens : 全能の 男性単数呼格
この語は二つの部分に分かれます。omni と potens です。omni はすべてのという意味です。potensですが勢力のある、力のある、という意味です。
英語のpotential, ポテンシャルはここから来ています。
omni ではなく 否定の意味を持つim が前について力がないという形はどうなるでしょう。
(否定は in- ですが p の前なので im- になります。)
impotens
はい、そうです。
Domine Fili unigenite, Jesu Christe
:主よ :息子 :ひとりっ子 :イエス キリスト
「主なる御ひとり子。イエスキリストよ」
Domine 名詞 Dominus : 主 単数呼格です。
Fili 名詞 filius:子 単数属格です。
この子はイエスキリストという特別な子ですから、文中であるにもかかわらず、大文字で書かれています。
unigenite 形容詞 unigenitus :(神の)ひとり子として生まれた とすると、活用形がわかりません。
名詞 unigenitus :ひとりっ子(=キリスト) の単数呼格 と考えるといいのですが、それならば大文字で始まるべきなのです。 ここはよくわかりません。
Jesu Christe :言わずもがな。名詞 Jesu Christus : イエスキリストさんの呼格です。
2.6. ラテン語講座 数詞
|
数 |
名前 |
読み方 |
意味 |
数 |
名前 |
読み方 |
意味 |
|
0 |
nihil |
ニヒル |
0 |
6 |
sex |
セクス |
6 |
|
1 |
unus |
ウヌス |
1 |
7 |
septem |
セプテム |
7 |
|
2 |
duo |
ドゥオ |
2 |
8 |
octo |
オクト |
8 |
|
3 |
tres |
トレス |
3 |
9 |
novem |
ノヴェム |
9 |
|
4 |
quattuor |
クアットゥオル |
4 |
10 |
decem |
デケム |
10 |
|
5 |
quinque |
クインクエ |
5 |
|
|||
フランス語の1,2,3 はアン、ドゥー、トロワ 《キャンディーズ、僕はミキちゃんが好きでした》ですね。
このラテン語の1.2.3はアン、ドゥー、トロワのお父さんです。
0が nihil ニヒル、ニヒリズム:虚無主義、ニヒリスト:虚無主義者です。
1が unus ですね。 uni とか unum とかがつくと 一という数に関わりのある言葉になるのです。英語だと unー は〜できないという不能を表す接頭語ですが、ラテン語の場合、まず unを見たら一という数です。
2,3,4,5 を見てください。デュェット、トリオ、クヮルテット、クィンテットですね。
8 の octo です。 octopus な