

「みちよちゃん、これを洋服にしてみたら?」と今は亡き伯母が差し出した反物の色と柄、そして地紋のほどこされた布の風合いに、私はたちまち魅了されてしまった.
「もう古くて、わざわざ頼んで作ってもらってもすぐ切れてしまうだろうから、もったいないかねえ・・・若いときには好きでよく着たものさ。もとはあんたの曾おばあさんの喪服だったんだよ」と、語る伯母はその時84歳、今から約10年前のことだった。
えっ?喪服なら黒かったのでしょう?と不審に思ってたずねる私に、伯母は昔は白い喪服を着たんだよ、それを私が母から貰い受けて、好きな柄に染めてもらってね・・・・曾祖母が着ていたものならば、江戸時代か明治初期に織られたものだろう、100年以上たっているにちがいない。その布を伯母は無造作に私の肩にかけて眺め、「よく似合うよ」と言った。それが、和布としての着物との出会いだった。
その反物をツーピースに仕立ててもらった。出来上がったものは、私にとって特別なものになった。曾祖母のものであり、祖母にわたり、伯母が愛し、最後に姪である私に伝わってきて、姿をかえてここにこうして私を彩ってくれる一枚として出現したのであるから、これにはほかの洋服とはまったく違うなにかがあった。
たいていの仕事を持つと同時に家庭の主婦である女がそうであるように、少し疲れていた私をその服はやわらかくつつみ励まし慰めてくれた、といったら大袈裟だろうか?幾人かの女とともに生きつづけてきた古い生地のおもてをそっとさわっているうちに、私の血族のものという思いをこえ、日本の女性たちをつつみ、まもり、いろどってきた衣装の命が、私の中に静かに流れ込んでくるように思えた。
