360度評価制度

 わが国の伝統的な人事労務管理慣行であったはずの終身雇用制や年功序列制が、もはや形骸化しているのは周知の事実である。その背景としては数々の要因が介在しているが、昨今の成果・能力主義人事の浸透が端的に示しているように、やはり仕事の成果に対する評価と、インセンティブ(報酬)の与え方が問題になっていることに帰せられよう。
 ところで、概念上は人事評価と業績評価は一線を画するといえる。つまり、人事評価とは労働者の職務業績、職務遂行能力、勤務態度、適正、経験などを総合的に評価することである。一方、業績評価とは人事評価の中心ではあるものの、そのひとつの要素である業績そのものを評価することである。しかしながら、現実の日本企業においては、業績のみを以ってして人事評価を実施し、処遇を行うといったケースが後を絶たない。当然そこには、職場の潤滑油として貴重な役割を演じている労働者の存在意義は認められるはずもないであろう。不況による企業側と労働者側との歪みが、このようなところでも見受けられるのである。そこで、このような現状への打開策として、以下では近年注目を浴びている360度評価制度という最新の人事評価手法を紹介したい。
 米国で開発されたこの360度評価制度は、ひとりの労働者を複数のステークホルダー(利害関係者)が評価するという多面評価方式にその特徴がある。上司のみならず、部下や同僚、そして顧客やサプライヤーなど、組織のあらゆる角度から評価活動を行うため、単なる業績評価に終始することなく、より精緻に労働者の姿を浮き彫りにすることができる。
従来の日本企業の人事評価の特質として指摘されてきたことに、制度の閉鎖性が強く透明度が低い、さらに評価そのものが主観的で恣意的になり易く客観性が欠落するということがある。このような課題を克服するために、オープンで公平公正な360度評価制度の積極的活用が望まれているのである。
 さらにまた、労働者にとって多面的角度からの評価を受けるということは、みずからの職務における強みと弱みの識別が容易になり、自己啓発意欲が湧いてくるということも考えられる。理不尽なリストラへの対抗策として、常に就業能力を高める努力をすることが求められている昨今では、労使双方にとって有効な人事評価手法であるといえる。  ただし、360度評価制度を導入する際の留意点としては、@複数の労働者が評価活動に参加するに際しては評価者訓練が必要になってくる、A導入の目的を明確にして全社に浸透させる、B不可視的な個人資質のみならず職務遂行上で不可欠なスキルや客観的に観察可能な行動を評価する、C評価者の匿名性を慎重に確保する、D評価結果のフィードバックを重視する、といった5点が挙げられよう。  人事評価を適切に行うことによって企業の根幹である労働者を動機づけ、生産性を高めるという視点が、混迷を極める日本経済にあっては今後ますます必要であろう。
   


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