企業を取り巻く環境が加速度的に変化している今日のビジネス社会においては、他社との競争上の優位を築くために、組織構成員の主体的判断に基づく的確で素早い行動が必要不可欠な要因となっている。特に、組織のフラット化やIT(情報技術)化が進展する現況を鑑みれば、いわゆるピラミッド型階層によって従業員を上意下達方式で統制するという従来のスタイルを踏襲していては、迅速な企業経営を実現するのは困難であるといわざるを得ない。そこで現在では、従業員の主体性や自発性を誘発させるために、
コーチング(coaching)という手法を導入して、大きな成功を収めている企業が出現している。
そもそもコーチングとは、スポーツの世界にそのルーツを見出せる。1970年代にティム・ギャルウェイというテニス指導者が提唱した概念であり、
指示命令型から質問型へ指導の方法をシフトさせることによって、プレーヤーの能力は向上するというものである。みずからの意思決定のみで苦難を乗り越える術を体得するには、
「プレーヤー自身が熟考したうえで問題解決に向けて実践する」という一連のプロセスが大きな意味をもつという論理である。コーチ(coach)の語源が「馬車」であることから、ある人間を目的地まで送り届けるということが含意されており、プレーヤーの目的を支援する人間を「コーチ」、そしてその指導方法を「コーチング」と呼ぶようになったのである。
こうしたコーチングのスキルは近年になって、スポーツの世界だけに留まらず、広くビジネスや健康管理など様々な局面で活用されている。アメリカにおいては、
経営幹部の高度なリーダーシップ能力を育成するための土壌作りとして、また
中間管理者に対しては、一般従業員との良好な関係性を構築するためのコミュニケーション能力の開発を目的として盛んに導入実施されている。実際にアメリカでは、コーチング技術を指導する経営コンサルティング会社がすでに多く設立されている状況からも、従業員の自発性を誘発し、動機づけを促すことは、企業の高業績にリンケージする戦略であるとして、ビジネス社会で市民権を得ているのである。
しかし、このコーチングという手法は、単に上司が部下に対して実施するためだけの手法ではない。現実の組織をみると、上司の恣意的な判断による部下への理不尽な要求が少なくない。このような状況下では、部下から上司へ提案するといった場面も想定でき、その際にコーチング技術を駆使したコミュニケーションスキルは非常に有益である。また、職務ストレスの解消といった側面からも、現在ではあらゆる従業員にメンター(支援者)としての役割が求められており、組織内の職位を問わずコーチングという概念が非常に重要になってきている。
日本企業もコーチングの導入によって飛躍的発展を遂げるケースが、今後ますます増加するであろう。
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