ほの蒼い夕闇が、ゆっくりと空から地上へと染み込み始めていた。
細く浮かび上がり始めた月を背にして、キールは、苛立たしげな足取りで町外れへと続く道をたどっていた。
ガゼルが帰り、しばらくして夕刻の鐘が鳴り、そして門限の時刻が迫ってもメイは帰ってこなかった。それは、よくあることだと言えば言えたかもしれない。しかし──
(町外れだと?まったく──)
人里離れた方に、暗くなってから一人で向かうなど、男でも感心したことではない。
警備隊や騎士団が目を光らせているとはいえ、人の集まる都市には、また吹き溜まりに潜む者も多く集まるものなのだ。
キールは、ガゼルの話と、彼が示して見せた道筋を思い浮かべて、また小さく眉を寄せた。
(女一人で、こんな人気のないあたりに来る奴があるか)
気が変わって街中へ引き返してくれているなら、まだいいのだが。けれど、話のいきさつからして、そうはしていないような気がする。
キールは、周囲に目を配りながら、先へと足を急がせていた。まだほの明るい残照が残っているから、ライトの魔法を灯さなくてもなんとか人影は見て取れそうだ。
黙って歩き続けていると、頭の中には水底から浮かび上がってくる泡のように、さっきの会話の切れ端が浮かび上がってくる。
(……勝手に呼ばれたんだから、か───)
ガゼルの残した言葉をかみしめて、キールは唇を引き結んだ。
いつからか、初めの頃のように、「本当に帰れるんでしょーね?」と念を押すような言葉は口にしなくなったけれど、それでも、帰りたい気持ちが薄れているわけはないだろう。
「あたしの世界では、こうなんだよ」
嬉しそうに、当たり前のように、時にはぽつりと、メイは幾度自分の世界の話を口にしたことだろう。
「今日はねぇ、子供の日っていう祝日なの。元は端午の節句って、男の子のお祭りなんだけどさー、ま、でも、女の子もコミでいーよね。ほんとは、女の子専用のお祭りは3月にあるんだけどね、えへへ」
「こっちには七夕ってないんだ?うーんとね、ま、星のお祭りってとこかな。笹が見つかんないからさー、これで代用!これにね、願い事書いて枝に吊すの。ねーねー、キールも何か書いてよ?」
「もー、こっちには夏休みってないわけ?信じらんないわよ!あたしの世界じゃね、夏は学校はお休みなの!きっちり40日間、授業なんかないんだから。…え?そ、そりゃ、宿題はあったけどさぁ」
いつからだろう、彼女が自分の世界のことを語るたびに、胸の奥が、重く痛むようになったのは。
押し込めて、目を逸らせて、気づかないふりを続けていたけれど───
「メイを、帰さないでくれよ」
金色の瞳がまっすぐに告げた言葉。
「魔法作るの、やめてくれよ──俺、あいつにここにいて欲しいんだ」
キールは、耳の底から蘇ったその響きに、思わず足を緩めて目を閉じた。
誰よりも。
誰よりも、自分が言いたい言葉。
──誰に、それとも何に向かって?
『彼女を、帰さないでくれ』
『この世界に、とどめてくれ』
願えるのなら、祈れるのなら、それで叶うのなら。

『俺が、帰してやる』
幾度も口にした誓い。
『俺が、必ずお前を帰してやるから』
怒った顔に、真摯なまなざしに、そして涙をたたえた瞳に。
呼んだのが彼だから。そして、帰せるのも、彼しかいないだろうから───

(……言いたいのは、俺だ)
誰よりも、彼自身が願いたい言葉。
(………誰に言われるまでもない、俺が───)
けれど、誰よりも、彼だけは願うことのできない言葉。

それをまっすぐに、まるであっさりと口にしたあの騎士見習いに、彼は胸の奥が苦く沸き立つのを覚えたのだった。
邪気も打算もなく、ただひたむきな気持ちだけで向けられた金色の瞳。
怒る訳も、妬む理由もない。
けれど、その言葉をためらいなく口にできる、そのことだけで、彼はほんの一瞬だが目が眩むほどあの少年を憎悪した。
───理不尽だと、心底分かっているのに。
その底なしに苦い思いは、自分への絶望感の裏返しだと、気づいているのに。


キールは、短く頭を振ると、また足を運び始めた。
並木はだんだんまばらになってきた。夕日を受けて地上に長く引いていた影も、薄れて夕闇に溶けこみ始めている。
黄昏時、木々も空気も道も、全てが深く蒼く染まって、一体に溶けこんでゆくような不思議な一瞬。
キールは、ちらりと空を見上げる。
(そろそろ、ライトを灯さないと無理か)
そう思いかけた時、ふと彼の瞳は道を逸れて傍らの土手の方へ向けられた。
なぜそうしたか、蒼く沈み、ものみなすべての輪郭が溶け出すその空気の中で、さらに青い色を纏った少女の姿をなぜ見いだせたのか、彼にも分からなかった。
(………メイ?)
道を少し下りた川岸の土手に、小さくうずくまる姿。
確かに彼女だと、見た瞬間に分かった。
とっさに踏み出しかけて―――立ち止まる。
彼は僅かにためらってから、ひとまず短く呪文を唱えて魔法の明かりを生み出し、ふわりと彼女の方へ滑らせた。
不意に生まれた影に驚いたように、メイが顔を上げた。弾かれたように光源の方を――キールの方を振り向く。夢の中のようにゆらりと、少女は立ち上がった。

膝を抱えて、水面を見つめていたメイは、いつしか何も考えなくなって、ただひたすらぼうっとそこに座り続けていた。
水が、ゆらゆらと流れてゆく。視界の中で、それだけが動き続ける。
いつの間にか夕闇の帳が下り始めているのも、意識の端でぼんやりと認めているだけだった。内側も外側もなくなって、黄昏の蒼い空気に正体なく溶けこんでゆくような時間。
不意に、自分の足下にさっと影が生まれて、メイは瞳を瞬かせた。蒼い夕闇がすいと退いて、白い光と灰色の影が足下に浮かび上がる。
メイは、光のくる方を振り向いた。白く、けれどまぶしくはない淡い光が少し上に浮かんでいた。見慣れた輝き――魔導の光。
その輝きの向こうに、これも見慣れた姿が立っている。
メイは、光に導かれるように、ふらりと立ち上がった。キールが、道を離れて、川岸の方へ下りてくる。
(キール)
口の中で呟いて、メイは彼の方へ歩き出した。一度動き出した足は、いつの間にか速まって、数歩の後にはメイは駆け出していた。
彼の前で立ち止まるつもりだった。
(こんなところまで探しにきてくれたんだ)
だから、怒られても仕方ないから、立ち止まって、彼の顔を見上げて、まずはおとなしく怒鳴られて――
けれど、淡い光の輪の向こうのキールの瞳に浮かんでいたのは、いつもの不機嫌な表情だけではなかった。
気遣うような、どこか柔らかな、夕闇の影の落ちたその色――
その色を見て取った時――メイは、我知らず最後の一息の距離を、止まらずに駆け抜けていた。

ぶつかるような勢いで胸元に流れ込んできた栗色の髪を、キールは息をのんで見下ろした。
「…………っ…!」
一瞬、なにも声にならない。
頭の中が真っ白になって、呼吸が止まる。
けれど、微かにしゃくり上げる声が耳に入った時――そんな高揚は、ぱたりと抜け落ちていった。
メイは、泣くつもりなどなかった。キールに抱きつくつもりがなかったのと同じように。
けれど、気づいたら彼の胸にしがみついていて――そうして、さっきは一粒こぼしただけでおさめていた涙が、今度は溢れてくるのを止めることができなかった。
吸い込んだ息が、しゃくり上げる吐息に変わる。頬を伝い落ちる涙の感覚が、ぼんやりと麻痺し始めていた感情をまた揺すぶりだしていた。
(キールっ…)
胸の中で彼の名を呼びながら、しがみつく指に力を込める。

キールは、胸に寄り添ったメイの身体が、微かに震えているのを感じていた。
(――――まさか、なにか)
見つけるのが、遅かったのか―― 一瞬、全身を凍らせたそんな懸念は、どこも乱れていないメイの身なりを見て取って、少し拭い去られる。
見つけたら、叱ろうと思っていた。こんな物寂しい方へ女一人で、しかも夕方になってから来るなんて、不用心にもほどがある。怒鳴って、すぐに引きずって帰らなくてはと思っていた。けれど――
胸にしがみついて泣きじゃくる彼女に、いつもの小言がどうしてもでてこない。
(メイ)
名を呼ぶだけのことが、どうしてもできない。
彼は、しがみつかれた姿勢のそのまま、そこで棒立ちになっていた。
幾度も幾度もためらってから、ようやくのことで低く彼女の名を呼ぶ。
「…………メイ」
メイの肩が、ぴくんと揺れた。
「…………おい…」
顔を伏せたまま、メイがふるふると首を振る。
いやいやをしているような仕草だが、何をイヤだと言いたいのか、彼には分からない。
「……あの、な――」
キールの声を遮るように、メイはもう一度首を振った。そうして、掠れるような声が、途切れ途切れに囁くのがキールの耳に届く。
「…あんた、保護者、なんだからっ…たまには、胸くらい貸して、よっ…」
その声の切ない響きに、キールは口を噤む。
メイは、キールの影に隠れようとでもするかのように、堅く彼にしがみついている。
その指が、彼の肩掛けを握りしめているのを見下ろして、キールは微かに瞳を細めた。
――――背に、腕を回して抱きしめたら。
胸の中に、この華奢な身体を抱きしめて――――告げることができたら。
わき上がる想いから、懸命に意識を逸らせる。
あの騎士見習いに、帰りたいのだと告げて、ここまで走ってきたメイ。
夕闇の中で、一人で座り込んでいたメイ。
「保護者」の自分に、すがりついて泣きじゃくるメイ。
(――――帰り、たいんだな)
いつからか、それを思い起こす度に胸のどこかが切り裂かれるように痛む。
けれど帰りたくて、故郷を思って、涙を流している少女に、どうしてそれが告げられるだろう。
キールは、もう一度、さんざんためらってから、そっと両手をメイの肩に乗せた。
力を込めずに、軽く触れるように。
ちいさく、メイの肩が揺れる。
うつむいたままの、柔らかな栗色の髪に、キールは低い声を紡ぎ出す。
せめて、自分にできる、一番の慰めの言葉を。
「…………帰して、やるから」
ふっ、と、メイの呼吸が止まる。
「……俺が、必ず、帰してやるから」
口に出して誓う度に、彼の心は、どこかが削り取られてゆくように痛むけれど。
「信じろよ、大丈夫だから―――きっと帰してやる」
自分がメイにしてやれることは、それしかないから。
彼女が、一番望むことは、それだから。

メイは、キールの胸に額を押しつけたまま、肩掛けをつかんだ指に力を込めた。
肩に触れたキールの手が暖かい。
普段の怒鳴り声や小言じゃなくて、約束をくれるその声は、いつもよりずっと優しい。
――――けれど。
(帰したい?)
優しいから、その言葉は彼の真心だと思うから。
(あたしなんか、早く帰したい?)
自分をほんとうに案じてくれているのだと、そう思えるから。
(帰っちゃうほうが、いい?)
どうしても、そうは問えない。
いつも、一番近くで自分を見ていてくれるキール。
表には出さないけれど、すごく責任を感じてくれているキール。
無理をしすぎるほど無理をして、研究に打ち込んでいるキール。
(帰したい、んだよね)
責任があるから、義務だからと、必死で帰そうとしてくれている。
それは、不器用な彼の精一杯の優しさだし、誠意の現れなのだ。
それは分かっている。けれど、感情はそれでは納得しようとしない。
―――彼の背に、腕を回してしがみついたら。
保護者じゃなくて、世話係でもなくて、そうじゃない彼と一緒にいたいと告げたら。
彼の気持ちが、聞けるのかもしれない。
けれど───そうしてたとえば、もしも帰るなと、言われたら?
自分は、何と答えるのだろう。
ここにもいたい。でも、帰りたくないわけでもない。
『帰してやるから』
メイは、堅く目を閉じて、キールの言葉にちいさく、一つだけ頷く。
決めることも選ぶこともできないなら、彼に何が言えるだろう。ただ、頷くことの他に。
頬を伝い落ちた涙が、ぽつりと足元の草の葉の上に散った。

どれくらいの間、互いに何も言わないままそうしていたのだろう。
夕闇がすっかり降りきり、魔導の光だけが淡く周囲を染めている。
不意に、鋭い口笛が闇の中から響いた。妙に品のないその音に、メイはふっと息を飲んで顔を上げた。肩に置かれたキールの手に、僅かに力がこもる。
キールの顔を見上げて、その視線をたどって振り向く。
道の方から、黒い人影が3つ、ばらばらと近づいてきていた。どう見ても礼儀正しいとも小綺麗なとも言えないその風体を見て、メイは顔をしかめる。
「よお、なかなか見せつけてくれるじゃねえか」
見た目にふさわしい声で、ありきたりのそんな言葉が投げかけられた。
「暗くなってからこんなところにいちゃ、危ないぜ?」
もう一人が、へらへらした口調で言う。
(うわー、なんかすっごいお約束なチンピラ)
メイは、キールに寄り添って振り向いた姿勢のままで、胸の中で呟いた。
全然怖くはなかった。こんな連中、ファイアーボールの一発もお見舞いしてやれば、すぐに追い払えるのだ。
キールが、メイの肩に置いた手に軽く力を込めた。ついと彼女を後ろに回すように、前に出る。メイが見上げると、彼は、不愉快そうに──というより、うざったげに眉を寄せていた。
彼の微かな身振りに従って、ふわりと魔導の光が男たちと二人の間に滑る。
男たちが、その光の中で改めて二人を見て、げっ、と妙な声を立てた。
「…ま、魔導士かよ!」
慌てふためいた声で、一人が口走る。さっきまで、メイの陰になってキールの肩掛けが見えていなかったのだろう。
「赤じゃねーか、やばいぞ!」
もう一人は、キールの肩掛けの色の意味を知っていたらしい。その声を合図に、男たちはわっと身を返して逃げ出した。
「待ちなさいよ、この悪党どもー!」
メイは、キールの前へ飛び出しながら、男たちの背中に怒鳴った。もちろん、チンピラたちが待つはずはない。土手を駆け上がっていく連中の後ろ姿に向かって、メイは呪文を唱えた。
「…お、おい、メイ!?こらっ───」
キールが慌てて止めようとする。が、彼の手が彼女に届く前に、メイの呪文は完成していた。
「『ファイアーボール』ッッ!」
闇を鮮やかに染めて、炎の玉が飛び出す。魔法の炎は、さっと周囲の空気を輝かせ、風を切って突き進み───男たちの遙か頭上を通り過ぎて飛び去っていった。
それでも、男たちには十分な脅しになったらしい。うわーとかぎゃーとか、意味不明な叫びを上げながら、彼らは全速力で遠ざかっていった。
メイは、ふん、と息をついて、腰に両手を当てると仁王立ちになってそれを見送る。
「なによ、弱い者いじめしかできないの!?二度とやったらこんなもんじゃすまないわよ!あんたら、顔覚えたからねーーーっ!」
怒鳴る彼女に、キールは、はあ、とため息をついて歩み寄ってきた。
「…まったく、脅かすなよ。本当に当てる気かと思ったぞ」
「当てる気だったわよ」
まだ、思い切り胸を張ったまま、メイはキールの方を振り向く。
「…お前な」
「だって、あんな連中、ほっといたらまた別のとこで悪さするじゃん!ぎゅうっと懲らしめてやんなきゃ!」
「何を言ってる、馬鹿」
「だってその方が世のため人のためよ!そーでしょ!?」
拳を振り上げてみせるメイを、キールは半眼になって眺める。
「…どう見ても私怨っぽかったけどな。大体、俺たちは魔導士だ。警備隊でも義賊でもないんだぜ」
「なによ、もー、盛り上がらない奴ねー!」
「こんな事で盛り上がってどうする」
キールは、もう一度ため息をついて、メイの頭をぽんと撫でた。そうして、ふいと向きを変えて歩き出す。
「…帰るぞ」
「う?」
肩越しに投げかけられた言葉に、メイは一瞬ぱちくりと瞬きをする。
「帰るぞ、と言ったんだ」
いつものように素っ気ない口調でそう言って、けれどキールはいつものように先に歩き出そうとはせず、メイを待っている。
「…う、うん」
メイは、たたっと彼の方に駆け寄った。彼女が並ぶのを待って、キールは歩き出す。
魔導の光が、すいと滑って二人の前に出た。メイは、それを見上げてから、ふと思いついてキールの顔を見た。
「…ね、キール」
「ん」
キールは、視線だけでメイを見下ろす。
「このライト、あたしに持たせて?」
「どうしてだ」
「いーじゃん、そうしたいの!」
「妙な奴だな」
キールはちょっと肩をすくめると、短く何か唱えた。
光はふわりとメイの手元へ近寄って、受け止めようと開いた彼女の手のひらに止まった。
「…えへへ」
片手でそっと光をかざして、メイは微笑む。
(…キールの光)
淡く柔らかく、明るいのに目を灼かない、優しい光。
「きれいな光だねぇ、これ」
瞳を細めてそう言うメイに、キールはいつものようにふんと短く鼻を鳴らした。
「お前のライトは、まるで爆発みたいだからな」
「な、なによ、いいじゃん、目つぶしになるし」
「自分の目をつぶしてちゃ、しょうがないだろ」
「うー」
唇をとがらせるメイを、キールはちらりと見下ろしてわずかに微笑む。
しばらく、黙ったまま歩く。やがて、並木はだんだんと数を増してきて、街並が近いことを教えてくれる。
メイが、少し空を見上げて呟くように言う。
「…門限、破っちゃったね」
「……仕方ないさ」
「ごめんね」
「いい」
短く答えを返して、キールはまたメイの頭をぽんぽんと二度撫でた。
彼の手のひらの暖かな感触が嬉しくて、メイは頬を緩めて彼を見上げる。
が、キールはメイに視線を向けて続けた。
「そのかわり、明日の課題は倍にしてやるから」
「……えーーー!?なによ、それ!?」
「そういえば、昨日までの課題もまだだったな」
「う」
「ノートを見たぞ。白紙が5頁と3分の1残ってたな」
「ううう」
「帰ったら、びっしり補習だな」
「ううううう」
萎れかえるメイを見下ろして、キールは少し苦笑する。
「分からないところを、そのまま放っておくなと言ったろ」
いつもよりは、少し柔らかい彼の言い方に、メイは上目づかいにキールの顔を見上げる。
「…聞いたら、教えてくれる?」
「聞けばな」
「…うん」
メイは、こっくりと頭を頷かせた。
キールが側で教えてくれるのなら、少しはがんばろうと思う。
が、それはそれとして。
「…でも、キールの教え方、おーぼーだもんねー」
「文句があるなら、自分でやれ」
「ぶー」
互いへの接し方は、どうにも変えようがないのも、確かなのだった。

夕闇はその濃さを増して、空には白い煌めきが現れ始めている。
夜空を彩るその輝きを見上げながら、来るときは一人でたどった道を、二人は一緒に戻ってゆく。
今はまだ、こうして同じ世界の、同じ空の下、同じ蒼い夜の中を。