幸福の妖精

N星人様     





 ねがいごとをかなえましょう。
 あなたの望みを、ひとつだけ。


 突然ですが、ボクは幸福の妖精です。ワーランドに暮らす皆さんの、お願い事を叶えて回るのがお仕事です♪
 ・・・あっ!信じてませんね〜?まあ、フツーの人には見えないんですから、当然といえば当然なんですけど。
 ほら、正式なライセンスもちゃんと持ってるんですよ?女神様のハンコ付き!これぞ太鼓判!最近は偽モノも多くって〜、ボクらへの世間の風当たりが冷たくて困るんですよねえ・・・。せっかくお客様のトコに行っても、うさんくさいとか言われて追い返されたりとか、悪魔と勘違いされてエコノミスト・・・じゃない、エクソシストに退治されかけたりとか〜。まったく、迷惑な話ですよぅ。
 ボクらはね、女神様の御加護が必要な皆さんに、ちょっとだけ力を貸してあげるんです。
あんまりたくさんはダメ。人間の幸不幸のバランスは、生まれる前に女神様がお決めになっていますから。それを崩さない範囲で、ボクらは皆さんのお手伝いをするんです。
 幸福になりますように。幸福でありますように。
 幸福へのちょっとした糸口を、皆さんが見つけられますように・・・。

 はえ?まだ信用できませんかぁ!?
 うう・・・あんまり疑り深いと、せっかくのラッキーも逃げちゃいますよっ?
 しょーがないなあ・・・んじゃ、ボクのお仕事見ててください!本物だって、ちゃんと証明してみせますからね〜。


 えーとそれじゃあ、お仕事に取り掛かりますぅ♪
 今日のお願い事はー・・・クライン王国から?また、遠方から来ましたね〜。ワーランドの裏側じゃないですかっ。ボク、長距離飛行は初めてなんですが・・・羽根が痛まないかなあ?
 ふう、やれやれ・・・頑張って飛んでいきますか。
 お客様は神様〜♪

(ぱたぱたぱたぱた・・・)

 到着です。けっこう長い間飛んでしまいましたね〜。
 やっぱり時速4kmだと、時間がかかっちゃいますね。せめて5kmは飛べるよーに羽根を鍛えないと。
 さてさて、お客様は・・・むー、あ、いましたっ!あのお兄さんだっ!
 キール=セリアンさん(19 ♂)、王立魔法研究院に所属・緋色の魔導士・・・うん、調査書に間違いないですね。
 うわ〜、見るからに頭の良さそーなお兄さんです。どきどき。
 さっそくお願い事を叶えに行ってきましょう。
 おはよーございまぁす♪幸福の妖精でーす。

「・・・・・・くう」

 ・・・寝てます。朝の5時ですから、しょーがないですけど。
 気持ち良さそーに寝てます・・・むう。ま、いいですか。寝てようが起きてようが。
 ええと、お願い事は・・・あれれ?このお兄さん、ボクの7777・・・(中略)・・・777人目のお客さんだっ!!
 こ、これはっ・・・出血大サービスしなくては!よしっ、ボクの力のありったけを使って、お願いごとを完璧に叶えちゃえ!
 えいっ♪

(きらきらきらきら・・・)

 よしっ、お仕事完了です。
 いやー、いいことした後は気持ちがいいなあ。目が覚めたら、きっとすごく喜んでくれますねっ。うんうん、ボクも嬉しい。
 ・・・それにしても、変なお兄さん。『こんなやつ、さっさと元の世界に還したい』って女神様にお願いするほど嫌いな女の子と、どーして一緒のおふとんでお寝んねしてたりしたのかなあ。
 うーん・・・クライン王国って、不思議な文化を持ってるんだな〜。ひとつお勉強になったですぅ。


「・・・・・・んっ・・・」
 あ、お兄さんが起きたみたいです。
「・・・メイ?」
 幸福の妖精として、ひとことご挨拶しなくちゃ。
「・・・どこに・・・あれ?」
 お兄さん、おはようございますぅ。ボク、幸福の妖精です。
「・・・・・・・・・」
 お兄さんのお願い事を叶えに・・・って、もう叶えちゃいましたけどー。
「・・・・・・・・・・・・」
 あ〜の〜〜〜?さっきから何をバタバタしてらっしゃるんです?探し物なら、ボクもお手伝いしますけど。
 ってゆーか聞こえてます?ボクの声。何かこー、巧妙に無視されてるよーな気が、さっきからウズウズと。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 お兄さ〜〜〜ん!!
「・・・やかましい、寸詰まり妖精」

 あ、よかった。聞こえてるんですねボクの声。やー、一瞬どうしたものかと焦ってしまいましたよ〜・・・って、また無視しないでくださいよぅ!!
「うるさいぞ、黙ってろ」
 あう。に、睨まれた。
 恐い人だ〜〜!このお兄さん、恐い人だ〜〜〜!!
「・・・服がここにあるのに・・・なんで本人がいないんだ?」
 な、何かブツブツゆってる・・・。
「部屋に帰った・・・のか?あの格好のまま・・・」
 つ、呟きながら赤くなってる・・・。
「・・・・・・・・」
 うう・・・何かよくわかんないけど、こ、怖いから逃げよう・・・今のうちに。
 そーっとそーっと・・・。
「おい、そこの寸詰まり妖精」
 ひ、ひいいいっ!!


 な・・・なんでしょうかっ。ボク、食べても美味しくないです〜〜〜!!
「お前のことなんかどーでもいい。寸詰まりだし。
お前、メイを知らないか?」
 な、何か引っかかる言い方でしたけどー・・・食べられないんですね、ほっ。
 はい、えーと・・・め、めい?
「・・・ここに居ただろ、女がひとり」
 あ、お兄さんといっしょにお寝んねしてたお姉さんですねっ?茶色の髪で、きれーなお肌の・・・。
「・・・お前、見たのか?」
 ひええ、に、睨まないで下さいったら!見てません見てません、そんな気がしただけですぅ!!
「・・・で、メイはどこに行ったんだ?」
 ・・・お兄さん、お顔が赤いです。いったい何を考えていらっしゃったんですか?
「・・・・・・・・・・・・」
 はははははいっ、もう余計なことは言いませんっ!だから睨まないでくださいぃ〜!
「それで、メイは何処なんだ」
 はひ、あのお姉さんならですね〜。
 ボクが責任もって、『元の世界に還し』て差し上げましたですぅ♪
「・・・なんだと?」
 ですからぁ、お兄さんのお願いどーり、『あんなやつ元の世界に還し』てあげました。
「・・・・・・・・・!?」


 あ・・・あの、お兄さん?
 どーしました・・・って、ぎ、ぎゃあああ〜〜〜!!
「寸詰まり妖精ッ!!」
 はや、はふ、ちょ、首、首絞めないで下さい〜〜!!死んじゃいますボク〜〜!!
「今言ったことは本当か!?本当にメイは・・・」
 もち、もちろんですっ!妖精パワー最大で使いましたしっ。間違いなくあのお姉さんは、元居た世界に還ったはずですよ〜!!
 い、いや〜・・・何かちょっと違う気がしますけど〜、喜んでいただけて嬉しいですボク・・・ぐう。
「誰が喜んでるんだ!?」
 はえ?
「勝手に願い事を作るな!誰があいつを還したいって・・・」
え、えええ?
そんな、確かにボクのお願い事リストには書いてあるんですよ?『こんな小煩い奴は、さっさと元の世界に還したい』って。ほらほら。
「・・・何時の話だそれはっ!!
半年も前だ、そんなこと願ったのは」
 そ、そりゃ少しはタイムラグが出ますよぅ。なんてったって、ワーランドの裏側からはるばる飛んできたんですから、ボク。
 ぎええっ、ちょっと、お兄さんッ!!羽根は毟らないでくださいぃぃ!!痛いです、マジで死んじゃいますったら!!
 おち、落ち着いて話をしましょう〜!!


 え、えーと。つまり、お兄さんはもう、あのお姉さんを元の世界に還したいって思ってなかったんですね?
「・・・・・・そうだ」
 そっかあ。いや〜、どーりで変だと思ってたんですよぅ。お兄さんったら、幸せそうにお姉さんを抱っこしてたし。
「・・・嫌いだと思ってる女に、そんなことは、普通はしない」
 いやあ、それは人それぞれかなーっと・・・まま、それは置いておきましてぇ。
 それにしてもお兄さん・・・変わり過ぎですよぅ。半年前は邪魔だって思ってた人を、今は手放したくないって言うなんて、ふつーは考えつかないじゃないですか。
 ボクじゃなくても、間違えますって。うんうん。
「勝手なことを言うな、確認もせずに昔の願い事なんか叶えやがって」
 ・・・うっ。
「どこが『幸福の妖精』なんだよ。不幸のかたまりじゃないか」
 む〜〜!?
 んじゃボクも言いますけどぉ。お兄さんだってずいぶん勝手じゃないですか。
 あのお姉さんを召喚したのは、事故だったって聞いてますぅ。そんで、ちゃんと元の世界に還してあげるってお約束したんだって。
 それを、結局ワーランドに引き止めることになったんでしょう?お姉さんのおとーさんやおかーさんが聞いたら泣きますぅ!『あなた方の娘さんを召喚したのは事故でした。そのうち還すつもりだったんですが、好きになったので還しません』なんて。
「・・・・・・・・・」
 そもそも、『嫌いだから還す』『好きだから還さない』って次元の話じゃないはずですよ
ぅ!あのお姉さんは、本来ワーランドに居ちゃいけない人なんですから、還すのが当たり前で、それ以外は摂理の禁忌に触れますっ!
 世界に、ひどい歪みを引き起こすかもしれないんですよ。
「・・・・・・・・・」
 女神様だって、お許しになるかどーか・・・。
「・・・それでもあいつは、『還らない』って言ってくれた。
俺は、その言葉を信じちゃいけないのか・・・?」


 ・・・お兄さん、泣いてるんですか?
「・・・誰がだ。別に、泣くようなことじゃない。
還すのが当然なんだろ?・・・お前の言う通りだ」
 でも、ボクの方を見てくれないです〜。
「寸詰まりな妖精なんか見たくないだけだ。目が腐る」
 ひどい言い方ですぅ・・・。
 あ、あの、お兄さん・・・もしかしなくても・・・今、不幸なんですか?
「・・・・・・・・・」
 ボク、幸福の妖精だから・・・お願い事を叶えた人が逆に不幸になったりしたら、アフターケアでもう一回お願いを叶えてもいいって規定があるんですけど。
「・・・・・・・・・」
 時間を巻き戻すのは無理だけど、もう一度お姉さんをここに召喚することなら出来ますぅ。妖精パワーが戻るまで、あと十年くらい待ってもらえたら・・・。
「・・・そうだな・・・いや、もういい」
 ええ?
「もう俺は、女神に願い事などしない。願うこともなくなった」
 で、でも、お兄さん・・・。
「お前も帰れ、寸詰まり妖精。
俺なんかより、よっぽど女神の加護とやらを期待してる奴は、大勢いるだろ」
 そ、そーだろーかぁ?
 ボクの目から見て、いま世界で一番女神様のお慈悲が必要なのは、この打ちひしがれたお兄さんだと思うんだけど・・・
 どーしよう・・・ボクのせいで、お兄さんが死んじゃったりしたら!
 め、女神様!エーベ神様!!ボクはいったいどーすれば〜〜〜!!


(コンコン・・・)

 はりゃ?誰かが扉をノックしてます。
 あの、お兄さん。出なくていいんですか?
「・・・・・・・・・」
 ・・・出たくないんですね・・・はい。
 それじゃ、ボクが誰だか確かめてきてあげます。

(ガンガンガンガンッ!!)

 うわわっ、ちょっと乱暴ですッ!!扉が破れちゃいますよぅ。
 はいはいはいっ、今開けますね〜〜。

(『・・・っと、キール!!いないのー!?』)

 あ・・・あれれ?この人って・・・まさか。

(バタンッ!!)


「ありゃ、なーんだキール、いるじゃない。返事くらいしなさいよね」
「・・・・・・お、前・・・っ!?」
「ん?どしたのキール。目がブラックホールよ」
「・・・メイ、か?」
「はあ?何言ってんだか。こーのプリティキュートなメイちゃんを見忘れたかっ」
「本物、か?」
「ニセモノなんかいるわけないっしょ。寝ぼけてんの?」
「・・・・・・・・・」
「そーよ、聞いてよキール!!今朝目が覚めたらさー、あたしったら何故かディアーナのベッドの中にいたんだよ!?もー、びっくりしたったら」
「・・・・・・・・・は?」
「キールといっしょだった筈なのにさ、目が覚めてみたらネグリジェ姿のディアーナが隣にいるんだもん。どーなってんのこれー!!って、思わず叫んじゃった」
「・・・・・・・・・ほう」
「んで、大騒ぎになりかけたんだけど。『秘密のお泊り会ですわ』ってディアーナが丸く収めてくれてね」
「・・・・・・・・・さすが、姫だな」
「でしょ?んで、急いで服借りて帰ってきちゃった。
もー大変だったわよー!!」
「・・・・・・・・・・ご苦労さん」
「まったくよっ。ねえ、いったい何が起こったのかなあ?あたしってば、夢遊病のケでもあるのかなあ?
 ・・・キール?あれ、どしたのー?なんか、すっごい疲れてない?あんた。
 ちょっと、こらこらっ!もう朝だよー?それにこの服、借りモンなんだからさぁ。皺寄っちゃうと困るんだけど・・・脱げばいいって、そーゆー問題でもないでしょーがっ。
 ・・・もう。今朝のキールは、なんか甘えん坊だね・・・」


 ・・・お願い事の魔法、どーやら失敗してたみたい・・・た、助かったーー!!女神様、大感謝ですぅーー!!
 ううっ、これでライセンスも取り上げられなくて済みます。お兄さんも幸せそうだし、結果オーライってことで、いいですよねぇ?
 お兄さん、ごめんです〜。これに懲りず、また御贔屓によろしくお願いしま〜す。

「んー?今、声がしなかった?」
「聞こえないな・・・黙ってこっち向いてろ」
「んっ・・・」

 え・・・えーと・・・。
 何かボク、忘れられてるよーなんで・・・これで失礼しますぅ。
 それではっ、どうかいつまでもお幸せに〜♪



                END


【あとがき】
理性は死にました(笑)。津軽の海で修行し直したほーが良さそうだぞ、Nよ・・・。


【御崎より】
妖精さんのもたらしてくれた幸福は、私と読み手さんのみなさまの上に(笑)。
何度読み返しても、死ぬかと思うくらい幸せになれます…うふふふふ(*^^*)。
Nさん、ほんとうにありがとうございました!

このお話は、N星人さんが以前「雨模様」という本をお作りになった時、もう
一本の候補として見せていただいたものです。その後、うちにいただけること
になったのを、私がずーーっと隠匿しておりました(爆)。
挿し絵を描きますからとか言ってたくせに、結局単独のアップです(^^;)。
せめてというかなんというか、壁紙はちみちみと自分でこさえてみました…。