今宵も月は明るくて

りさ様   



がばっ
「ねーねーキールっ、お月見にいこっ」
いきなり背後からいきなり抱きつかれてかけられた声。いるのは気がついていたが何も反応を返さなかったらこれだ。
「お前抱きつくなよな、うざったいから離れろ」
白い頬に血の気がのぼってくるのがわかる。顔を見られない体勢でよかった。しかしその体勢が今キールの頬を赤くさせている原因でもあるのだが。
「じゃ、お月見つき合ってくれる?今日の月綺麗なんだもん」
「それとこれとどういう関係があるんだ!?それにいちいち抱きつくな!」
「いいじゃない、べつに」
ふくれっ面をしながら渋々離れると、メイは腰に手を当てて文句を言った。
「研究ばっかりしてたら目悪くなるでしょ。少しくらいつき合ってよ」
放っておいてもよかったが、これ以上そばで騒がれるのもいやだし、後々機嫌を損ねられても困る。
そう思い、ペンを置くと大きくため息をついた。
「わかった」
言った途端、メイの瞳が輝いた。よっぽど嬉しかったんだろう。
そういえば、最近研究に没頭してあまりかまってやっていなかったかもしれない。
そう、ほんの1ヶ月ほど。
メイは嬉しそうにキールの腕を取ると、グイグイと引っぱる。
「今日は満月なんだよ、いこいこっっ」
やれやれ。今日はもう研究はできないだろう。
内心そうつぶやきながらキールはイスから重い腰を上げた。



引っぱって行かれたのは湖のそば。風が湖を渡り、ただでさえ冷たい風が一層冷たくなってキールとメイに吹き付ける。
「寒い」
思わずそうつぶやいた。
「冬なんだから当たり前じゃない。それに寒い方が星が綺麗に見えるんだからね」
それでもいやなものはいやなんだ。そう思いながら空を見上げたメイにつられて、キールも空を見上げた。
ぽっかりと浮かぶ薄金色の満月。見上げてみて初めて気づく。ここまで来るのに足下が明るかったのはこの月のせいだと。暗いと思っていた夜空が、今夜はとても明るく見える。
星も月の光に隠れ、あまり目には付かない。確かに今日は星見ではなくて月見には最適だろう。
空を見上げるなんて、どれくらいぶりだろうか。
「あっちの世界ではねー、月にはうさぎがいるって言い伝えもあるんだよ。ほら、うさぎが餅ついてるように見えるじゃない」
ぼけーーっと空を見上げていたキールは、メイの言葉にふと現実世界に戻る。
いわれてみてみれば、なるほど、見えないこともない。
「本当にいるのか?」
「いないよ。月には空気がないから。いたら楽しいけどさ。・・・・・でも、不思議だよねー」
「何がだ?」
「だって、あっちの世界と同じ月なんだもん。異世界なのにね」
そう言った途端月の光が、メイの横顔に憂いを秘めたような顔を浮かび上がらせた。
「私の国の昔話にね、月から来て、大きくなったら月に帰っちゃう女の人のお話があるんだよ」
はっと、メイの横顔を見た。月を見上げた顔ははかなく、今にもそこから消えてしまいそうで・・・・・・・・



「キ・キールっっっ!?」
思わずキールはメイを抱きしめた。
「・・・・・・お前が・・・・・」
「え?」
「・・・・お前が・・・・・・・消えそうで・・・・・・・・」
手を離したら今にもいなくなりそうな。そんな足下が崩れ落ちそうな恐怖感が体を包み込んで離さない。
帰るなと言い、帰らないと言った彼女。
それでも不安で不安で。
温かい茶色の瞳をした少女に、いつの間にこんなに捕らわれてしまったのか、もう思い出せない。
きつくメイを抱きしめたまま顔を彼女の肩に埋めたキールを、そっと温かい腕が包みこんだ。
その暖かさに、そっと促されるようにゆっくりと顔を上げる。
見えるのは包み込むような笑顔の大地の娘。
「行かないよ。私があんたのそばにいたくて残ったんだから」
「・・・・・・どこへも行くな。俺から・・・・離れないでくれ」
「離れないよ。もしそうなったとしても、あんたが探し出してくれるんでしょ」
それに大人しく戻るようなメイさんだとでも思ってんの?
そう続けたメイに、思わず笑いがこみ上げる。
たとえ女神が引き離したとしても、こいつなら必ず戻ってくるだろう。この生来のパワーで。
「好きなんだ」
思わず、滅多にいわない言葉が口をついて出た。
それに前から思っていて言い出せなかった言葉も。
「俺のおふくろに会って欲しい」
腕の中の恋人が、頬を少し赤くして、ただでさえ大きい目を丸くした。
「それって・・・・もしかして」
「ああ・・・・・・・・・・・・結婚して欲しい」
言った途端、メイはキールの首に抱きついた。
「いつ言ってくれるか・・・・・待ってたんだからね?」
少し涙声になった声が、首筋から響く。
「悪い・・・・」
「全然悪そうじゃないって」
クスクス笑いながら、メイは首筋にかじりついていた腕をゆるめた。
「で、そろそろ離してくれない?キール」
「いやだ」
お前もよく抱きついてくるだろうが。
そう続けたキールの腕の中で真っ赤になったメイがじたばたし始めた。
「こっちからはいいの!」
腕の中の恋人が愛しい。それこそ世界が変わってしまったくらいに。
こいつさえいれば、自分は無敵になれる、何でもできる。
「メイ」
あごに手をかけ、自分の方を上向かせる。
「もう、キールってば・・・・・でも、好きだよ」
そう言って、耳まで真っ赤にしながら、そっと瞼を閉じた。
そして・・・・・・

       ―――――――月はすべてを見ていた―――――――


end



【あとがきもどきのいいわけ】
おそくなってすみませんっっ。最初はメイをきつく抱きしめるキールが書きたかったのに、いつの間にやらプロポーズしてるし。
思ったよりうちのキールは我が強いみたいです(^^;)勝手に動いてくれましたわ。
うちはキールがメイにベタ惚れです。絶対キールの方がメイを必要としてると思うのね、うん。
こいつらは自分たちからいちゃついてくれるから書いてて楽しいです(笑)

【御崎より】
ああっ、いちゃいちゃだわ!嬉しい!(*^^*)
口では嫌だの面倒だの言ってるくせに、その実メイにぞっこんなキールがとってもツボです!(*^^*)余裕がありそうに見えて、最後でじたばたしてるメイも、卒倒しそうなほどキュート(*^^*)。
本当に、スイートで素敵なお話をありがとうございました!(^_^)