One Scene

N星人様     




「今日できることは、明日に伸ばさない」
 これはあなたの言葉。



「魔力付与の原則はー、補助結界内での魔力の等間隔とー、属性の相乗効果計算、っと」
「おい」
「金属に対しては炎系と風系、水系付与の場合はぁ、必ずオーブ使用等で間接的な魔力の注入から始めること」
「お前な」
「あれぇー?この魔法陣の第2外円って、地系と水系の魔力流入を促すスペルよねー?そこを起動用数値で逆展開するとー?」
「これは」
「うーん、わかんないなー、難しいなー、どう計算しても合わないなー♪」
「………絶対に、ワザとだろう」


 恋人同士が、ひとつお部屋に2人きり。
 加えて窓の外は闇夜、月も雲も星空の彼方。
 魔法学徒の集う場所・クライン王立魔法研究院も、ただいまは、静寂の暗さに染め抜かれている。


「ここんとこがスムーズにいかないと、第2中心円で地系魔力がー、あーなるほど、流れ出しちゃうのね」
「…………」
「封印はー、ええと三角錘圧縮法の応用を……あー?あれどうやるんだっけ?」
「……………」
「ああそっかそっか、昨日のテキストに載ってるよね。ページページ、何ページ?」
「俺の」
「あっれ、こっちじゃなかったかなー?しょーがないなあ、魔法辞典から調べ直さないとね♪」
「話を聞けよ、いいかげんっ!」


 適当に乱雑な、研究室のその中で。
 大きなソファに仲良く座り、狭いテーブルいっぱいに本を並べ、青年と少女は何やら魔法陣を書いている。
 訂正。
 魔法陣に向かっているのは茶色い髪の少女だけで、その隣にいる青年の、短い亜麻色の髪と長い緋色の肩掛けは、さっきから落着かない様子で揺れている。
ゆらゆらゆらゆら。傾いては戻り、立ち直っては、また傾く。


「中心円の線引きはこれで正しいからー、あとはスペルの発動よね」
「…そうだ、だから」
「最外円のチェックは終わってるし、インクが乾いたら、第2外円も清書しようっと」
「……インクが乾くのは、早くて明日の朝だ。だから」
「修正箇所はー、ああっ、メモしとかなきゃ忘れるとこだった」
「見ればすぐに分かる場所だ……だから」
「おおっと!しまったなー、新たに間違いを発見♪ヤバイやばい、『今日中に』ちゃんと仕上げておかなくちゃね、『今日中に』、きちんと」
「…………………………」


 楽しそうな、怒っているような、複雑な少女の声音。
 いじけているような、苛立っているような、複雑な青年の表情。
 噛み合わない会話は、「いいかげんにしろよ」と言って少女の肩を抱き寄せた、青年の腕ずくで止められた。


「だーめ。まだ課題が終わってないもん」
「……………」
「あ、『明日にしろ』とか『そんなものどうでもいい』とか言わないよね?だって、アンタが出した課題なんだし」
「……………メイ」
「『今日できることは明日に伸ばさない』。キール、あんたの言葉だからね」


 至近に迫った緑の瞳と薄い唇を、下書きノートでガードして、少女は冷たく言いきった。
 紙束と不本意なキスをした青年は、不興も露わに少女を睨む。…自分以上に強い枯葉色の瞳に、あっさり負けてしまったけれど。


「お前、まだ怒ってるのか?」
「あったりまえよ!!せっかくディアーナが夜会に招待してくれたってのに、アンタったら『今日中にやるべきレポートがある』とかゆって、さっさと断っちゃうんだもん!!エスコートがいなくて、どーしてあたしが行けるってのよ」
「………………」
「あーもう、あたし、行ってみたかったのに!ドレスも着てみたかったよう!!」
「……行きゃ良かっただろ」
「馬鹿たれ。あたしのエスコート権はあんたのものなんだから、他に頼めるわけないでしょ」
「………………」


 さりげなく投げつけられた言葉は、告白と同じ意味。
 一瞬、青年はとても幸せな気分になった。


「苦手なんだよ、ああいう場は」
「わかってるけどさ……」
「研究を理由にしたのは謝る。あれは嘘だった」
「わかってるわよ」
「悪かった」
「……わかってるよ」
「だから」
「…………わかった、OK」


 少女の溜め息を皮切りに、場面は一気に糖度を増す。
 一時停止していたラブシーンが、再び動き出した――



                 END





【あとがき】
ENDマーク付けたとき、「ここで終わっていいのか自分!!」と思わず突っ込んでしまったです……(^^;)

【御崎より】
いいわけないじゃないですか!(握り拳)
……はっ、いえいえ(笑)。いやー、理論的反抗(なんだそれ(笑))に出るメイが新鮮で可愛いですー(*^^*)。こーなると、キールにはもう謝るしか残された道がないっていうのも、あまりにもキルメイらしくて、深く頷いてしまいます(笑)。
なにをしてさしあげてるわけでもないのに、「貢ぎ物」とおっしゃって送ってくださったものを、ちゃっかりと拝領して、いそいそとアップしてしまう私でした(爆)。
Nさん、場面が目に浮かぶような素敵なお話を、本当にありがとうございました!(*^^*)