One Scene〜Letter Play〜

N星人様     



「言葉にはきちんと意味があるの」
 お喋りな誰かが言った台詞。


「んじゃあ、次ね。…コレは?」
「"山"」
「お、よーく覚えてるね。コレに、"石"をくみあわせると、何て意味になると思う?」
「…さあ」
「岩だよ。もー、発想力ないなぁ」
「……」
「物覚えはいいのにね」
「うるさい」

胡桃材の机の上に散らばる白い紙。
古いランプの光は、微妙に優しい影を作る。影は2人、青年と少女の姿を歪めて映す。

「"女"。これは女性を表すの。妊娠してる女の人のね、大きなお腹をかかえてる姿が元で…あ、"抱える"はねー」
「"手で包む"。その意味は聞いた」
「ほんっとに、物覚えはいいよね」
「お前は悪すぎだ」

白い紙の上には、黒い文字。
文字?それは文字に見えるだろうか。クラインを含むこの世界の、どの地に住む人間も、それを文字とは言わないに違いない。
 よく言って、絵に近い『それ』は。

「面白いな」
「そう思う?」
「思う。面白い文字を作る、お前の世界の先人は」
「はぁあん、勉強の話になると、よっく喋ってくれるんだねぇアンタって」
「……その皿のような目はやめろ」

少女の手が書き出す無数の『漢字』。
異世界の文字。
学問好きを通りこしマニアの域に踏みこんだ緋色の魔導士には、尽きせぬ興味の対象になる。

「いいけどね別に。あたしがあんたに物を教えることなんて滅多にないからね」
「だったら、やめろ。その皿目」
「さー?夜にさ、彼氏の部屋に来て、こーんな色気のない話に終始してバタンキュー、なーんて、乙女の夢を壊すよね、とか思ってるなんてこと、ないからね」
「変な文脈で話すな」

かつかつ、とペン先が机の表面を叩く。間隔の狭い音は大きくなり小さくなり高くなり低くなり、書物に埋もれた部屋の中を小魚の群のように泳いでいく。

「次を教えろ」
「はいはいっと。
これは前に教えたよね、"さんずい"。水を表す文字になるの、コレを付けると。
で、その横に…、"弱"を付ける、と」
「"おぼれる"、か?」
「お、大当たり!やー、たまには良くなるね、あんたの勘」
「お前、俺が理論だけで生きてると思ってるだろう」
「だって、そーじゃん」
「………」

少しだけ考えて、青年は少女の手からペンを取り上げた。
そして『漢字』で埋まった紙の端に、さらさらと何かを書きつけた。
美しい流線の集合体。

「水に弱いから、"溺れる"だろ」
「まあね。わかりやすいたとえよね」
「……だったらたぶん、こう書いても同じ意味だろう」

さしむけられた紙を見て、ちょっとだけ眉根を寄せた後、少女は嘆息と共にポリポリと頬をひっかいた。

「…リクエストに応えてくれて、ありがとお」
「………」
「じゅーぶん甘くなりました。色っぽい話になりましたっ」
「………」
「どーする?まだ、お勉強する?」
「…いや、もう、今夜はやめる」

互いにうす赤くなった顔、その距離がゼロになれば終止符の代わり。
ランプの油は今日足したばかりだが、灯が消える時はもう近いようだった。

決して口に出しては言えないことを、青年自身も、少女もよく知っている。
『俺はお前に弱い』
なんて台詞は。



【御崎より】
某ファンタイベントの前日(いつの話やら)、ご一緒した折りに「書いてないOne Sceneネタがある」とおっしゃったのをとっつかまえて、その場で書いていただいたお話です(笑)。(←極道)
夜遅く、お茶を飲もうと入ったエスニックレストランの中、「紙もないし」と抵抗するNさんに、コピー本のミスコピー紙の裏を差し出すという鬼畜ぶりでした……ああ、思い出すなあ(爆)。
Nさん、その節はほんとに失礼しましたm(_ _)m。なのに、こんなに素敵なお話をこんなに長い間秘蔵していた私をどーぞお許しください……(^^;)。