| 久方蒔様 |
それは、とてもとても、物凄く、大切な一日。 「あう、う、うううう〜〜」 枕に顔をうずめてベッドのうえでのたうち回る少女が一人。 「あうあうあうあう・・・」 意味不明な言葉を呟きながら、ばふばふと枕に噛み付く。 彼女を知る人間がみれば、腹が痛いのか課題が山積みなのかと訊ねるだろう。 ところがどっこい、今日の悩みは一味違った。 (昨日が誕生日ってのは、フェイント〜っ!!) 何がフェイントなのやらさっぱりだが、彼女はとにかく悩んでいた。 ここで少しばかり、話は前日に遡る。 心無い同僚の妨害で、少女を元の世界に帰し損ねた青年は、思い切って彼女に告白。青年を憎からず思っていた少女はそれを受け、棚から牡丹餅――もとい、二人はめでたく両思いとなった。 そして翌日(つまり今日)になって、はたと思いだした事がある。 ―――昨日は彼の誕生日だったのだ! 当初の予定では、懇意にしているアンヘル種族の騎士見習いとこの国の姫君と一緒に、彼の双子の兄と併せてお祝いするはずだったのだ。 だがしかし、帰還魔法の失敗で魔法研究院はごたごたしていたし、それを聞き及んでいたのかメイが買い出しの約束をすっぽかしたにもかかわらず、親友二人も昨日は院には訪れてこなかった。 お祝いは、しなくてはならない――いや、したい。 けれど、どーにもこーにも照れくさくて堪らないのだっ。 アイシュとキールを同時に祝えば、告白された自分の動揺っぷりを周囲に知られるだろうし、二人っきりでお祝いというのも――あまりにも、『恋人』という感じでのたうち回りたくなるくらい恥ずかしい。何しろ、互いに密かに想っていたとはいえ、今までの彼らは『保護者と被保護者』。それが突然ラブラブカップルになれるだろうか、いや、なれないっ。 周りと一緒にお祝いはできない、二人っきりもご勘弁。という状況で。 でもやっぱりお祝いはしたいし、しなければならない。 つまり。 容赦ない程に、彼女はアンヴィバレンツな苦悩の渦に叩き込まれていた。 (渡すだけじゃ、駄目だよねぇぇぇぇ) ちらりと視線を遣るベッドの横のドレッサーの上には綺麗に包装されたプレゼント。 双子の兄とあまりに差別するのも何なので(これを買ったときにはまだ片思いだった)、二人に同じくらいのお値段の眼鏡ケース(ちなみに一応デザインは違う。双子だからといって色違いだけというのはあまりにも芸がない)。 彼は今日も帰還魔法の失敗の後処理で、院への提出書類の作成やら、長老方や王宮からの呼出しで忙しい。 きっと誕生日なんかも忘れてて、祝っている暇などないだろう。 でもやっぱり、 どうしても『特別』で、 ――目いっぱい喜こばせたい。 しかも、お約束のように思いついたのは『プレゼントは、あ・た・し』(爆死)――などという、これは少年マンガか!お前はおやぢかっ!!…と、突っ込みをいれたくなる(実際思いついた瞬間に彼女は頭を壁に打ちつけた)代物で、それがより一層彼女の動揺を深めることに一役買った。 時間は、ない。 ぐずぐずしていれば、用意しなければならない料理を作る時間さえなくなる。 コンコンッ 「うぎゃっ!?」 突然のノックに度肝を抜かれ、あわてて跳ね起きたメイは、びしっと固まった。 もし…このドアを開けてキールがいたら? どんな顔をして、会えというのだ!? 「めぇーい♪ 居ませんの?」 聞こえたのは軽やかな少女の声。ディアーナだ。 「はいはいっ、居るよ!」 ほっとして返事をし、慌ててドアを開ける。 そこには喜色満面と言った感じで胸の前で手を組んでこちらを見るディアーナがいた。 「うふふふ〜、メイ、聞きましてよ(はぁと)」 「は?」 つうっと、何か嫌な予感が背筋を上った。 「しらばっくれても駄目ですわ、お兄さまからお聞きしたんですもの。あなたがずうううっとクラインに居てくださるって(はぁと)。 ふふふふ、つまりは、キールと上手くいったのですわよね〜(さらにはぁと)?」 「(げっ)」 ディアーナの現在の状態はしっぽぱたぱた喉ゴロゴロ。視線が『どうして、どうなったのか聞かせてっ!!』と強く、というか、物凄く訴えている。 多分それは、キールが王宮に伺候した際に、自分の今後の身の振り方の事でクラインに残ることを報告したのだろうけれど、速攻訪ねてくるとは、ディアーナの耳の速さは侮れない…。 「ええっと、それは…(あうぅ、何でこんな時にいぃぃっ(泣))」 「それは?(言うまで逃がしませんわ〜っ)」 後ろ手にドアを閉め詰め寄るディアーナに、この世界に残ることをメイは思わず後悔した。 夕焼け小焼け。 メイの心は疲労困憊。 「あうううううぅぅぅ………」 結局、洗いざらいぶちまけさせられたメイは、冒頭と同じく――ただし疲労で――ベッドの枕に沈みこむことになった。 もう料理は間に合わない。 それはもう仕方ないからいいけれど。 ゴロゴロとベッドの上でのたうち回りながら、ディアーナに言われた言葉を反すうする。 砂糖菓子のように甘くふわふわな親友はにっこり笑ってメイの悩みを一蹴した。 『あらメイ、何を悩むことがありますの?』 『好きな人にお祝いしていただけるだけで、十分『特別』ですのよ? だってわたくしでしたら、好きな人が側にいてくれるだけで、嬉しいですもの』 それは本当。 友達といるのは『楽しい』で、 好きな人――…キールといるのは、『嬉しい』。 だから、お祝いをしたいのは自分で。 キールの喜んだ顔を見たいのは自分。 だから、ぐちゃぐちゃ考えなくても、シンプルに。 「そうだよね、物足りないと思ったら、後でいくらでも追加できるもん!」 これから時間はいくらでもあるし。 明日だって明後日だって、追加でお祝いしたっていい。 至って簡単。 大切なのは、祝いたいという気持ち。 「うしっ! とりあえずプレゼント渡す! でもって足りなきゃ来月のお小遣いでもっと良いもの買うもん!!」 即断、即決、即行動。 メイはプレゼントを手に、キールの部屋へ向かった。 「キール♪ お誕生日おめでとうっ」 部屋に入ってくるなりにっこり笑ってそう言われ、キールは面食らって絶句した。 「っても、1日遅れだけどね。あ、これプレゼント、たいした物じゃなくて悪いけど貰って?」 「ああ…ありがとう」 にこにこにこと、プレゼントを渡され反射で受け取る。 「ご馳走は明日つくったげるね! 何かリクエストある?」 ふっきれたメイはとても清々しい気分で軽やかに聞く。 「いや、別に……」 「もーっ、お祝いなんだから、キールが食べたい物言ってくれなきゃ!」 メイの気分は晴れ晴れ爽やか、だからメイは気づかない。微妙に視線を逸らすキールの様子には。 ぷっくりと頬をふくらませ抗議するメイをもう一度ちらりと見て、キールは心底動揺した。 (……やばい) 可愛い。あまりにも可愛らしい…っ!! ずっと自分の心を戒めていたからこそ反動は大きくて、昨日恋人になったばかりの彼女への想いはふくらむばかり。愛しい気持ちが暴走しそうな自分を自覚していたからこそ、今日一日は会わずに頭を冷やそうと思っていたのに! 出会い頭に笑顔で撃沈。 甘えるような拗ねるような言葉に、彼の理性は悲鳴を上げた。 ちなみにそのころ、メイはちょっとばかし考えた。 そーいえば、ここへ残るとは言ったものの、自分はちゃんと言っていない。 ―――つまるところ、彼をどう思っているか。 少女マンガちっくにも程があるが、誕生日だ(一日遅れではあるが)。 こういうプレゼントもありかもしれない。自分だったら貰って嬉しい、ずばりそれは『愛の告白』。 この時点で彼女は気づいていなかった。 それが既に『プレゼントは、あ・た・し』状態だったことに(激爆)。 「じゃあね、あの、ね。あたし、まだ言ってなかったよね……。 ……キール、大好き」 もじもじと、頬を赤らめ、秘め事を告げる彼女に………当然のことながら、キールは、 切れた。 「……か」 「ん?」 聞こえないほど掠れた声にメイが近寄って聞き耳を立てる。 「もう一つ、貰ってもいいか…」 「んー? 何を…って、ぎゃーーーーーーーーっ!!!」 物音、絶叫。そして……… 「ほー、嬢ちゃんのプレゼントは火炎魔法ってか」 「シオン、笑ってはいけないよ」 自分も笑いを押し殺しながら皇太子が筆頭魔導士を嗜める。 「まー、キールも若いしなー」 報告書に記載されなかった事実を察し、王宮の一室でこんな会話が交わされた。 それは、とてもとても、物凄く、 嬉しいことがあった彼の二十の誕生日の、次の日。 夜間。魔法研究院の一室が見習い魔導士の火炎魔法によって大破した。 【あとがき】 御崎さんとまささ様のファックスやりとりから生まれたネタです……久方の親父っぷり 全開(爆死)。 風邪ひいてます、熱あります。だから許してっ(逃走)。 【まささより】 不憫だ、キール・・・滅茶苦茶不憫だ・・・。 でも私は滅茶苦茶喜んでしまいました。 ・・・好きだなぁ、こういう話(゜ー゜)クスッ。 あのファックスネタで此処まで書けるなんて、 久方さん、凄いですー。 【御崎より】 あんな、ぶっつけ落描きな代物から、なぜこんならぶりぃな創作ができるのでしょう(*^^*)。 悩みまくるメイも可愛いし、喉ごろごろなディアーナには思わず爆笑していまいましたわ! キールはやはり不幸なんですけどねぇ(笑)。楽しいお話をありがとうございました! |
