真の酔っ払いは

りよん様



「だからさ〜、私が言いたいのはぁ・・・ちょっとぉキールっ、聞いてるのっ!」
「・・・聞いている」
こんな会話が聞こえてくる、ここはクラインのメインストリートにある洒落た酒場。
先の会話の二人がラボを開く前祝いとして、親しい者達がささやかな酒宴を開いてくれたのだが、鐘1つ鳴る前にこの有様である。
一目で酔ったことが見て取れる赤い顔の少女、メイ=フジワラという。が青年、キール=セリアンに絡んでいる真っ最中であった。

「・・・嬢ちゃん、意外と酒弱かったんだなぁ」
と、あきれ声でのたまったのはこの酒宴の主催者、シオン=カイナスである。
「だ〜れが、酒に弱いって〜?」
彼の台詞を聞きつけて、メイは絡む矛先をシオンに変える。が、シオンは手馴れた様子であしらった。
「お前さんだよ、お前さん。こ〜んなカクテルの1杯でこんなになってるじゃねーか。しかも絡み上戸」
するとメイはケタケタと笑い出した。
「あはははは〜、この芽衣さんが酔っ払うわけないじゃん〜。こんな甘いもんジュースよ、じゅ・う・す!」
何がツボに入ったのかはわからないが、さらに笑いつづけるメイである。
「・・・笑い上戸もですか〜」
苦笑しつつ正直に感想を述べたのは、キールの双子の兄、アイシュ=セリアンだった。
そんなアイシュの背中をバンバン叩き、メイはごきげんである。
そんな様子をじと目で見つつ、シオンはつぶやいた。
「・・・こりゃ、帰したほうがいいな」


「ちゅうわけで、ちゃんと送れよ、キール」
「気をつけて帰るんですよ〜」
本日の主役2人を送りだし、席に戻るシオンとアイシュ。すると、アイシュがおや?という顔つきになった。
「ん、どしたアイシュ」
「・・・キールの飲んでたのってこれでしたっけ〜?」
アイシュが指した残りの少ないビンはシオン向けのアルコールの強いものだった。どうやら、騒ぐメイに気を取られてる間に、キールが飲んでいたようである。
「?別に多少顔が赤いくらいで、普通だったじゃないか。相変わらず過保護だねぇ」
が、アイシュの顔はだんだん青ざめてくる。
「ああああ〜そうじゃないんですよ〜!さっきまでのキールは妙に口数が少なかったじゃないですか〜!」
「それが?ちょっと酔っただけだろう。そこまで心配するほどのことじゃ・・・」
アイシュにしては珍しく、シオンが喋り終わる前に口を挟む。
「キールは酔っ払うと絡むんですよ〜!それを通り越してるとなると・・・ああ〜どうしましょう〜!」
慌てふためくアイシュを眺めつつ、シオンはグラスに残った酒を注ぎ、のほほんとした声で座るよう促す。
「シオン様〜!」
「もう、送り出しちまったもんはしょうがねぇだろ?心配要らないさ。あ、マスターもう1瓶追加ね」



「あ〜あ、先に帰らされるのってつまんないの。」
外の風にあたり少し酔いが醒めたメイが、どことなくぼんやりしたキールをお供にほとほとと歩いている。春先の冷たい風が火照った頬に心地よい。
「あ〜んな甘い、ジュースみたいなカクテルで『酔った』呼ばわりされるなんて、芽衣さんもやきが回ったもんだわ」
故郷ではもっときついのも飲んだことあるのよ、とつぶやいている。
「たっく、シオンってば横暴よね〜!・・・キール聞いてる?」
反応のない連れをいぶかしげに見る様子が、可愛らしい。
「・・・え。・・・悪い、聞いてなかった」
少し遅れたその答えに、メイがふくれた顔をする。
「だ〜か〜ら、先に主役2人を帰らせるシオンは横暴だっ!っていってるの。わかった?」
「ああ、わかった」
「で?」
「え?」
イライラした様子で続きを促すメイの趣旨がキールは理解できてないのか、間の抜けた返事を返す。
「〜〜、あんたはどう思うのっ!って聞いてんの!」
「・・・ああ、そうか。悪いな」
その返事にメイは脱力した。さっきからどうも的がずれている気がする。酔った頭でそう考えていると、キールの返事が更なる混乱を誘った。
「・・・俺は、嬉しいけど」
唐突な発言は前の会話につながっているとは思えない。
「・・・・は?」
「・・・お前は、嬉しくないのか?」
「だから何が?」
酔ったせいもあってか、かなり大仰に顔をしかめて尋ねてみた。
続いたのは、酔った頭にすら衝撃的な言葉。
「・・・2人でいられるのが」

―――なんですと?―――
メイの頭の中は某化粧品の宣伝よろしくの状態に陥った。
今、キールは、なんて言った?いや、それよりも、私の耳がおかしくなったの?いや、それとも・・・・・・。
はてなの洪水、クエスチョンの津波、思考の中のエラーランプはめまぐるしいほど点滅中。
思考停止状態に陥ったメイを現実にかえしたのは、この状態を作った張本人の声だった。

「帰らないのか?」
みると思考が止まった時に足も止まっていたらしく、少し前方にキールが立ってこちらを振り向いている。
「帰るわよっ」
いきり立つメイを不思議そうに見ながら手を差し出す。
「??何??」
「手。
 いつ、離れていくかわからないから、手を」


今日は何かがおかしいのかもしれない。
手を繋ぎ、研究院への帰路を歩きながら考える。

おりしも満月が町を照らし、銀に縁取られた道を現実感も無く歩いてゆく。
何処かふわふわした気持ちを現実だと認識させるのは左手に繋いだ人のぬくもり。
好きな人の、キールのあたたかいぬくもり。
何かを口にする事も躊躇って、とうとう研究院までついてしまった。

自分の部屋の前まで来ても、どこか離れがたい気持ちはなぜだろう?
繋いだ手を、離したくないと思う気持ちは・・・。

「そういえば、お前酔っ払ってたよな」
突如切り出された脈絡の無い言葉にメイの思考は遮られた。
「え?・・・あはは、あたしがあんな甘いカクテルで酔っ払うわけないじゃん!やだな〜!」
なぜか気恥ずかしくなって、誤魔化すように笑ってしまう。
「そんなに甘かったのか?」
「そうよ。もう、ジュースみたいに甘かったんだか、ら・・・?」

ぺろり

「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「本当に甘いな」
少し眉をしかめそんな事を言う。
そんなこというのならこんなことするなっ!と叫びたくなるが口が上手く動かない。
「顔、紅いぞ?早く寝ろよ。おやすみ」
紅くなったのは誰のせいだと思ってるのよ〜!!去っていく背中に向けて精一杯悪態をついてるつもりでも、実際には口がパクパクとしているだけであった。
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
ドアに背をもたれてへなへなと座りこむ。
顔は紅潮しきり、鼓動も早い。
まさか、キールがあんな事・・・・。唇を嘗めるなどとは思いもよらなかったから。
今更に酔いが回ってきたとしか思えない。
そう思い込む事で平静を取り戻そうとしないと心臓がうるさくてたまらない。

顔色も、表情も、普通と変わりなかったけど・・・・
頭を抱えたい思いで言葉が口から滑り落ちる。
「・・・・あいつ、そーとー酔っ払ってたのね・・・・」


翌日、二日酔いに悩むキールの部屋へメイが報復を行いに訪れた事は周知の事実である。



【いいわけ】
初めて飲んだキールから思いつきました。酔っ払いシーン長いですが書きたかったのは
甘い唇だけ(自爆)。
所詮私はこんなもんさ・・・。引き取ってくれただーりんありがとです(^^)。


【御崎より】
うふふふ、心のはにー、りよんさんありがとう〜(^_^)。
無理矢理分捕っちゃってごめんなさいです(^^;)。でももったいないんだもん!
いつもと全然変わらずに泥酔してるキールがさいこーですわ(*^^*)。そうか、泥酔すると
素直になるのか、キール…(笑)。
メイの報復って一体何かしら?だって、騒いでるけど嬉しかったんでしょ?メイも(爆)。