下に掲載したビラは、横浜市神奈川区内の町内会で警察が回覧させている、「地域安全ニュース」というものである。一見して、思わず目を疑ってしまった。
この「地域」では、中国人(らしく見える)人間は、うっかり携帯電話を掛けることもできない。 車の運転もできなければ、旅行鞄を持って歩くことも、友人宅を訪ねることすらできないのである。 そんなことをすれば、いつこのビラの内容を素直に信じた「住民」に通報され、飛んできた警官から職質を受けて不愉快な思いをさせられるかもしれない。 そこでうまく日本語の受け答えができなかったりすれば、警察署に連行され、さらに何時間も取り調べを受けさせられることにもなりかねない。 こんな差別丸出しのビラを公然と配る警察が、密室内での取り調べで「中国系外国人」に対してどのような侮辱的取り扱いをするか、およそ想像がつこうというものである。
ピッキングによる窃盗事件の多発が問題なら、犯人が日本人だろうが中国人だろうがそんなことには関係なく、窃盗犯の取り締まりに力を入れればいいのである。 「窃盗犯=中国人」という予断と偏見に満ちたこの警察の姿勢は、差別そのものだ。 まさか、日本人の窃盗犯にはピッキングができないとでも思っているのだろうか。
数々の「不祥事」(正確に言えば犯罪)で日本中に名を馳せた神奈川県警だが、このビラは彼らが一連の不祥事から何も学んで来なかったことを明確に示している。 証拠品のフィルムを勝手に持ち出して写っていた女子大生を脅迫した事件や新人警ら隊員への集団暴行事件など、まさに問題の神奈川県警の警官が起こした事件が典型的なのだが、神奈川県警に限らず、多発する警察の不祥事は、警察内部に人権を尊重する意識がまったく欠けていることから生じている。 尊厳を持った一人の人間として扱われることがなく、警察内部の上下関係によって抑圧され、侮辱され続けてきた現場警察官たちが、今度はその憤懣を自分より弱い立場にある部下や被疑者、事件関係者にぶつけてしまったのが、そうした不祥事の本質だったのだ。
何が差別であり、人権侵害であるのか。 それを理解することすらできない警察の不祥事体質が解消される日が来るのは、いったいいつになるのだろうか。
(2001.01.02)
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中国人をピッキング犯容疑者と決め付ける警察の差別チラシは、神奈川県内で配られた上記のものだけではないことが分かった。 お隣りの警視庁もまた、似たような内容の防犯チラシを配っていたのである。[1]警視庁地域指導課がサンプルとして作成し、2000年11月に都内96署に配布したこのチラシは、「あなたの管理するマンション、あなたの部屋が狙われています」と題したもので、空き巣への注意を呼びかけた上で、「中国人かな、と思ったら110番」、「建物内で中国語で話しているのを見かけたら110番」などと記している。 このチラシは赤羽署などによって約700枚がマンション管理人、町内会役員や交番に配布されたものの、抗議を受けて12月に回収、廃棄されたという。
これらの事例は、中国人(に限らず、一般にアジア系外国人全般)を犯罪者予備軍とみなし、取り締まりの対象としか考えない警察の差別体質が、一県警の例外的問題ではなく、全国的な根深い病であることを明白に示している。
(2001.01.24)[1] 朝日新聞 2000年12月26日夕刊 『「中国人かな、と思ったら110番」/警視庁、ビラ配布/ピッキング対策/抗議を受け回収』
警視庁はピッキング犯多発への対策として、侵入者が工具を使ってカギを開けようとする際の振動をセンサーで感知し、携帯電話で自動的に警察に通報する装置数百台を導入、多発地域の事業所や民家に設置する予定であると報道されている。[2]ピッキングに対する有効な対策とは、つまりこういうことなのだ。 捕まえなければならないのは、カギを開けて盗みに入ろうとする泥棒であって、「中国人」ではない。
無用の猜疑心を煽り立て、差別を助長するビラなどまいている暇があったら、警察はこうした有効性の高い対策にこそ力を入れるべきなのである。
(2001.01.24)[2] 朝日新聞 2001年1月12日 『ピッキング多発で新装置の導入へ/警視庁』