ミッチナの慰安所 -- 傲慢漫画家の貧困な想像力
ミッチナの慰安所業者と「慰安婦」を米軍が取り調べた報告書は、「慰安婦」の待遇が良かった証拠と称して「自由主義史観」派が好んで持ち出す文書です。ここでは小林よしのりの『新ゴーマニズム宣言』をサンプルとして取り上げますが、彼らがいかに資料中の都合のいい部分だけを取り出して利用しているかがよく分かると思います。ミッチナの慰安所は恐らく数多い慰安所の中でも最も「まし」な部類に属していたでしょうが、同じ報告書を正確に分析するだけで、このミッチナの場合でさえ重大な戦争犯罪/人権蹂躙が行われていたことが判明します。
それにしても、この件でも強く感じられてならないのは、彼らの人間的想像力の貧困(または欠落)です。小林よしのりについて言えば、『ゴーマニズム宣言』を書き始めた初期の頃には、彼も多少はそうした感性を持っていたはずで、それは部落差別問題を扱った章などから読み取る事ができます。しかし、差別され、抑圧された弱者に対する暖かい視線はいつのまにか薄れてゆき、それに反比例するかのように、画力を駆使したイメージ操作のテクニックだけが目立つようになってきました。今では、すっかり想像力貧困な傲慢なだけの漫画家になり果ててしまったようです。
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Subject: ミッチナにおける「慰安婦」の境遇
Date: 07 Nov 1997 03:35:14 GMT
高橋(亨)です。
In article <...> Sieg writes:
>> > 無理矢理慰安婦にされた少女たちの汚辱と悲惨さを思い、私が、「楽しい慰
>> > 安婦生活」を証言する元慰安婦なんかいないと発言したところ
>> > Sieg wrote:
>> > >「楽しい慰安婦生活」を証言した慰安婦もいるし。
>> > fujino wrote:
>> > >インドネシアの例をご存知ですか?
>> > と言う反応がありました。私が不勉強なようです。是非教えて頂きたいと思
>> > います。元慰安婦の証言は信用できないと言われるかたがたですから、十分
>> > 検証にたえるような証言なんでしょうね。
>
>「アメリカ戦時情報局心理作戦班日本人捕虜尋問報告第49号」
>これはビルマを占領したアメリカ軍が慰安婦を尋問しまとめた
>報告書だそうです(新ゴー宣3巻より)。以下その内容。
これ、「慰安婦」の待遇が良かったことの「証拠」と称してよく持ち出
される文書なんですけど、ゴー宣が書いていることは恣意的引用と史料
批判不在のサンプルみたいなもんです。
まず第一に、「慰安婦を尋問しまとめた」というのが間違い。尋問され
たのは朝鮮人「慰安婦」だけではなく、日本人業者*も*です。で、尋問
を担当した日系アメリカ人軍曹は「慰安婦」たちについてこんなことを
書いています:
| 尋問により判明したところでは、平均的な朝鮮人慰安婦は25歳ぐらい
| で、無教育、幼稚、気まぐれ、そして、わがままである。慰安婦は、日
| 本的基準からいっても白人的基準からいっても、美人ではない。とかく
| 自己中心的で、自分のことばかり話したがる。見知らぬ人の前では、も
| の静かでとりすました態度を見せるが、「女の手練手管を心得ている」。
明らかに「慰安婦」たちを馬鹿にしていて、ハナから信用していないこ
とが分かります。慰安所の実態に関して、この調書は「慰安婦」という
よりむしろ業者側の言い分に基づいて書かれている、と見るべきです。
このように、いろいろ問題点の多い調書ではありますが、注意深く読め
ばいくつか貴重な情報をも得ることが出来ます。
>−−−−−−−
> ミッチナでは慰安婦達は、通常、個室のある二階建ての大規模家屋(普通は
>学校の校舎)に宿泊していた。それぞれの慰安婦は、そこで寝起きし、業を営
>んだ。彼女たちは、日本軍から一定の食糧を配給されていなかったので、ミッ
>チナでは「慰安所の楼主」から、彼が調達した食料を買っていた。ビルマでの
>彼女たちの暮らしぶりは他の場所と比べれば贅沢ともいえるほどであった。
>この点はビルマ生活二年目について特にいえることであった。食料・物資の
>配給量は多くなかったが、欲しい物品を購入するお金はたっぷりもらっていた
>ので、彼女たちの暮らし向きは良かった。彼女たちは故郷から慰問袋をもらっ
>た兵士がくれる色々な贈り物に加えて、それを補う衣類、靴、紙巻きタバコ、
>化粧品を買うことができた。
> 彼女たちはビルマ滞在中、将兵と一緒にスポーツ行事に参加して過ごし、
>また、ピクニック、演芸会、夕食会に出席した。彼女たちは蓄音機を持って
>いたし、都会では買い物に出かけることが許された。
>−−−−−−−
ゴー宣が引用しているのはこれだけですが、この調書には実は次のよう
なことも書かれているのです。
| 1942年5月初旬、日本の周旋業者たちが、日本軍によって新たに征
| 服された東南アジア諸地域における「慰安役務」に就く朝鮮人女性を徴
| 集するため、朝鮮に到着した。この「役務」の性格は明示されなかった
| が、それは病院にいる負傷兵を見舞い、包帯を巻いてやり、そして一般
| 的に言えば、将兵を喜ばせることにかかわる仕事であると考えていた。
| これらの周旋業者が用いる誘いの言葉は、多額の金銭と、家族の負債を
| 返済する好機、それに、楽な仕事と新天地−シンガポール−における新
| 生活という将来性であった。このような偽りの説明を信じて、多くの女
| 性が海外勤務に応募し、2、3百円の前渡し金を受け取った。
「慰安婦」たちが就業詐欺によって集められ、シンガポールに着いたと
きには前借金に縛られてもはや後戻りできない状況に陥っていたことが
わかります。
| これらの女性のうちには、「地上で最も古い職業」に以前からかかわっ
| ていた者も若干いたが、大部分は買春について無知、無教育であった。
| 彼女たちが結んだ契約は、家族の借金返済に充てるために前渡しされた
| 金額に応じて6ヵ月から1年にわたり、彼女たちを軍の規則と「慰安所
| の楼主」のための役務に束縛した。
「慰安婦」たちの大半は売春というのがどういうことなのかすら知らな
い素人で(方針としてそういう娘たちを集めたのだからこれは当然)、
軍と業者によって性的「慰安」を強要されたことがわかります。更に、
この調書に記録された「慰安婦」たちの年齢から、徴募時点ではその半
数以上が未成年だったことが判明しています。未成年者を売春目的で
「勧誘シ誘引シ又ハ拐去」することはたとえ「本人ノ承諾ヲ得タルトキ
ト雖」違法であり、国際法[1]で禁じられた犯罪でした。更にミッチナ
の場合、就業詐欺による徴募ですから、「詐欺ニ依リ又ハ暴行、脅迫、
権力乱用其ノ他一切ノ強制手段ヲ以ッテ」勧誘することを禁じた条項に
違反しており、残りの成人女性に関しても違法だったことに違いはあり
ません。
金銭的な境遇はどうだったかというと、「慰安婦」一人につき、月あた
り300円から1500円程度の"売り上げ"があったものの、その5〜6割
は前借金の返済分として業者に渡さなければならず、その他毎月一律
150円を徴収され、更に食料や日用品などを法外な値段で業者が売りつ
けるため、借金は容易に減らなかったことが記録されています。[2]
>どうですか。楽しそうではありませんか?
騙されてはるばるシンガポールくんだりまで連行され、気が付いた時に
はもう逃げ出しようもない状況下で連日多数の将兵を相手に性的「慰安」
を強要される、唯一頼れるものは金だけだが、それも稼いだ端から高利
の借金と巧妙な収奪システムによって消えてしまう、こんな生活のどこ
が一体「楽しそう」なんでしょうね?
ゴー宣にはいかにも「楽しそう」な慰安所生活の絵[3]が描いてあるん
ですが、果たして小林よしのり氏は頭が悪くて目の前の資料に書いてあ
ることすら理解できなかったのか、それとも誰かが例の引用部分だけを
氏に与えて「楽しい慰安所生活」なる解釈を吹き込んだのか、どちらだっ
たのかまでは私にも分かりかねます。
[1]「醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約」
(石出法太・金富子・林博史『「日本軍慰安婦」をどう教えるか』梨
の木舎 p.157)
[2]「募集や管理まで軍が関与 朝鮮人慰安婦 米の資料で判明」毎日新
聞 1992年1月27日付夕刊
[3] 小林よしのり「新ゴーマニズム宣言 第37章」SAPIO 1997年3月12日
号 p.68
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