木村愛二さんの投稿(aml 14892)ですが、ロジェ・ガロディのような悪質なホロ
コースト否定派のでたらめを直接にネットワークに流すことは、米国だったら明らか
にhate crimeに分類される行為です。ご自分のWebサイトであれこれいわれるのは自
由でしょうが、このメーリングリストにそれを持ち込むのはやめてほしいと思います。
もとになったロジェ・ガロディの本は、露骨な反ユダヤ主義を基調にしているだけ
でなく、あきれるほど初歩的な間違いに満ちています。
木村さんのamlへの投稿の部分だけを取っても、「アイヒマン裁判の終了後、イス
ラエルの世論は沸騰した。云々」の箇所では、ルドルフ・カストナーをめぐる195
4年の裁判と、1961年のアイヒマン裁判とが完全に混同されて記述されています。
訳者も不勉強で、それにまるで気づいていません。61年の裁判の論評が55年に出
るわけがないという常識さえ、著者と訳者では働いていないのです。こんなクズネタ
をamlに流さないでいただきたい。
また、そこに出てくる「ヒムラーの手先で騎兵将校のクルト・ベッヒャー」という
訳文ですが、ガロディの原文には l'un des executeurs de Himmler, le Standarten
fuehrer Kurt Becherとあります。Standartenfuehrerは親衛隊の階級のひとつで、大
佐に当たります。フランス語のexecuteurは「手先」よりずっと強い意味を持ってい
ます。「ヒムラーの処刑人のひとりで、親衛隊大佐のクルト・ベッヒャー」というの
が正確な翻訳です。ベッヒャーは武装親衛隊の騎兵部隊にいたので確かに「騎兵将校」
ではありましたが、Standartenfuehrerをそう訳すわけにはいきません。ドイツ語のS
tandarteには軍事用語として「騎兵連隊旗」の意味があるので、木村さんは通常辞書
に載っていないStandartenfuehrerの訳に困って、そこから「騎兵将校」をでっちあ
げたと拝察します。
ベッヒャーが親衛隊少尉(Untersturmfuehrer)になったのは1941年です。す
ぐに後方勤務に移った彼が敗戦までに大佐になれるわけがなく、これもガロディの数
多い誤りのひとつです。もとがでたらめなのに、誤訳まで加わるのだから!
もうひとつ。「ナチの中心的な理論家、アルフレッド・ローゼンバーグ」って、ア
ルフレート・ローゼンベルクのことですよね。
とにかく、この種の恥かきはご自分のWebページでどうぞ。
ついでながら、ガロディはもとプロテスタント、やがてフランス共産党のスターリ
ニスト哲学者兼文化官僚になり、スターリン批判のあとには人間主義的マルクス主義
に転向(ルイ・アルチュセールが手厳しく批判しています)、さらに共産党を離れて
カトリックになり、それでも足りなかったらしく、ついにイスラム教に改宗し、いま
ではイスラム原理主義の後押しを受けているホロコースト否定派です。この「華々し
い」経歴から判るように、知的誠実さという点でも、およそ信頼できる人ではありま
せん。もっとも、彼の遍歴はすべて一神教のまわりをうろうろしているだけなので、
そのうちユダヤ教に改宗するかもしれませんね。
つづきがあるならaml-stoveで。
Kaoru Yamasaki (山崎カヲル)
Tokyo Keizai University
ykaoru@tku.ac.jp
http://clinamen.ff.tku.ac.jp/