高橋亨です。
in [aml 10840] 木村さん wrote:
>[ヒルバーグ説は現実観念が欠けグロテスク]
>
> 決定的な重要性を持つと思われる細部の事実についての証言が、1988年
4月 5日
>と 6日の両日にわたって行われた。証人は、カナダのカルガリー火葬場の監督、イ
>ヴァン・ラガセである。同火葬場はビルケナウと同じようなタイプの設計になって
>おり、同時期の1943年に建造されている。つまり、この証人は、このタイプの火葬
>場の焼却炉の焼き窯の、技術的な制限や、設備維持のための必要事項に関して、全
>体的な説明ができるのである。彼は、火葬作業の中間で、つぎの死体を入れる前に
>、休みを置いて焼き窯を冷やす必要があると証言した。そうしないと、焼き窯の耐
>火煉瓦の被覆が破損するのである。
私はカルガリーの火葬場がどのような構造かは知りませんが、少なくともそれ
が「ビルケナウと同じようなタイプ」で*ない*ことだけは確実に断言できます。
ビルケナウで使われたのは、連続稼動式の大量死体焼却炉です。それは、いっ
たん起動して炉内が十分な高温に到達すればそのまま何日間も連続運転が可能
であり、その間、次々に投入されてくる死体を僅かな灰に変えて排出していく
ことができる、大規模な工業的装置です。そしてこれは、病死家畜の処理や虐
殺された人間を闇に葬る行為には極めて適しているものの、葬送儀礼としての
「火葬」には決して使用できない代物です。
それとも、Lagece氏の火葬場では、複数の遺体を炉内に放り込んで焼却し、遺
灰をごちゃまぜにして遺族に引き渡しているとでも言うのでしょうか?
現実観念を欠き、グロテスクなのはLagace証言の方です。
> ラガセ証人は、ラウル・ヒルバーグの記述に関しての意見を求められた。ラウル
>・ヒルバーグは、その著書、『ヨーロッパのユダヤ人の破壊』(2版)の中で、ビル
>ケナウの 4つの火葬場の46の焼却炉について、その処理能力を、つぎのように言い
>張っている。
>
>《ビルケナウの 4つの火葬場の理論的な 1日当りの処理能力は、4400体以上である
>。しかし、停止や作業の遅れを見込むと、実際の限界は下回る》
>
> ラガセの主張によれば、ヒルバーグの断言は、「馬鹿げ」ており、「現実観念が
>欠如」している。46の焼却炉で 1日に4400体を焼けるなどと言い張るのは、グロテ
>スクである。ラガセは、自分自身の経験にもとづいて、ビルケナウで
1日に焼けた
>のは、 184体だと断言した(同裁判記録)。
Lagaceは、運用条件が全く異なる現代の火葬場をそのままビルケナウの大量死
体焼却施設と比較するという誤りを犯しています。ちょうど、ロイヒターが現
代アメリカの処刑装置をアウシュヴィッツのガス室とそのまま比較してしまっ
たのと同様です。この程度の証言者しか使えないという事実そのものが、ホロ
コースト否定論のレベルの低さを物語っています。
Lageceは1体の死体の火葬に6〜8時間もかかると主張していますが、仮にカ
ルガリーの火葬場では実際にこれだけの時間をかけているのだとしても、1体
の火葬ごとに繰り返される炉の加熱と冷却に要する時間を含むこの値が、連続
処理方式の焼却棟に当てはまらないのは言うまでもないことです。(ちなみに、
通常の火葬の場合でさえLagaceの主張するこの時間は長すぎます。木村さんは
「家族、親族、友人の骨を、かなり拾」った([aml
11089])そうですが、果た
して火葬場で6時間以上も待たされるものかどうか、それこそ経験と常識から
見当がつくはずですが。)
焼却棟の処理能力について聞くべき相手はLagaceなどではなく、ビルケナウで
使われた焼却炉を設計した技術者たちや実際の運用にあたった親衛隊員たちで
す。ビルケナウの焼却炉を建設したトプフ・ウント・ゼーネ社はこのような連
続式大量死体焼却炉について特許を申請しており、それによれば、この焼却炉
が備える各炉室では、1個の死体を約30分で焼却可能です。(この特許は戦後
の1951年になって成立。)[1]
ナチは70kgから100kgの動物の死体を、1個の炉室で処理する「ユニット」と
して想定しましたが、これが体格の良い一人の人間であろうと、やせ細った収
容者や子供三人であろうと、技術的には同じことです。そして、1炉室あたり
2〜3人、その焼却時間が30分程度というのは、目撃証言やナチが残した文書
証拠ともよく一致しています。例えば、ベルリンのSS大将Kammlerに宛てた
1943年6月28日付けのメモ[2]では、第二焼却棟単独での処理能力を1日あたり
1440体と見積もっています。これはつまり、
2(体/炉室)×15(炉室)×24時間×2 = 1440体
という計算です。同じくこのメモによれば、他の焼却棟を合わせた全体として
の処理能力は、1日あたり4756体となります。(ただし、これには焼却穴で処
理される分は含まれていません。)[3]
この見積もりに従うと、焼却棟の処理能力はフル稼動で1ヶ月に14万体以上、
メンテナンス時間を多めに見積もっても10万体以上となります。全体で5万人
の収容者しかいないアウシュヴィッツになぜ1ヶ月で10万体以上もの処理能力
を備えた焼却炉が必要だとナチが考えたのか、否定論者はこの疑問に答える必
要があるはずです。(面倒くさいのであらかじめ答えておきますが、このメモ
が捏造だとする否定論者の主張は、何の具体的証拠も伴っていないので認めら
れません。)
> ラガセの証言は、確実に、プレサックの本に出てくる主張とも違っている。プレ
>サックがパリで1993年に出版した『アウシュヴィッツの火葬場/大量殺人の機械』
>では、 147頁の内の20頁だけしか『ガス室』に当てられていない。しかも、プレサ
>ックは、この本で『ロイヒター報告』を引用すらしていない。プレサックは1990年
>に、いつものようにクラルスフェルド財団の資金援助を得て、『ロイヒター報告』
>に対する「反駁」を試みているのだが、その内容にはロイヒターの分析に釣り合う
>ものがまったくないので、ここではあえて紹介はしない。
ロイヒターの馬鹿げた「分析」に「釣り合った」反駁などを行うのは、プレサッ
クでなくても、誰にとっても困難極まりないことでしょう。
[1] http://www.nizkor.org/features/qar/qar42.html
[2] http://modb.oce.ulg.ac.be/schmitz/Holocaust/furncap.html
[3] http://www.nizkor.org/features/qar/qar45.html