男の調理場
漬物編
 漬物の加工品「かくや漬け」 
   【 目 次 】
 
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March 18, 2005
佐田 守弘

かくや漬け」という名前をご存知であろうか。様々な古漬を細かく刻んで混ぜたものを醤油漬けにしたものだそうである。沢庵や糠漬けの古漬を使って手軽に作れる。言うなればこれは漬物の二次加工品である。
筆者は「かくや漬け」という言葉を知らなかった。知らなかったがそれらしきものを作っていた。そしてある時それがかくや漬けと呼ばれるものである事を知った。それならばといろいろと工夫を重ねて、おいしいかくや漬けの作り方に挑戦してみたのである。

かくや漬けとは

筆者が「かくや漬け」の言葉を見掛けたのは、石川英輔著「大江戸番付事情」(講談社)であった。かくや漬けは同書の「最高級の料理茶屋 八百善」の項に登場する。昔からよく言われている有名な話で、茶漬けを頼んだら、半日ほど過ぎた後にようやく出され、水を取りに行った費用として、高額な料金を請求されたという話である。
この茶漬けに出て来るのが「かくや」で、同著には次の様に記載されている。
 『<かくや>とは、いろいろな種類の古漬を塩出しして細かく刻み、醤油をかけたものだそうだ』(「大江戸番付事情」p23)
これを読んで、どうやら筆者が日常的に作っているものが「かくや漬け」と言うのではないかと思い当たったのである。

そこで辞書やWEBでかくや漬けとは如何なるものであるかを調べてみた。まず国語辞典の広辞苑であるが、残念ながらかくや漬けは記載されていなかった。広辞苑に記載されていないとすれば、余り一般的な名称ではないのかもしれない。

次はWEBでの情報検索である。「かくや漬け」、「かくや茶漬け」の言葉でヒットした情報は案外と少ない。参考になりそうな情報とURLを引用させて頂く。いずれも記載したタイトルは、そのページの表題である。
「お弁当レシピ・かくや漬け」 : http://www.d1.dion.ne.jp/~tarbuu/kakuya-r.htm
  たくあん、きゅうりやなす、大根などの漬物を細切りにし、洗って水気を絞ります。
  みょうがと生姜を千切りにして1に混ぜ、炒りごまをふります。
「ココット相談室」 : http://www.cocotto.net/online/advice/food_soudan/ryouri_58.html
  よくぬかみその古漬けを軽く塩出しして数種類取り混ぜて細かく刻み、しょうがやみょうが、または大葉の千切りと
  混ぜかくや漬けとして食べます。

「お献立夏」 : http://www001.upp.so-net.ne.jp/mimi/cooking.html
  かくや漬けは、ぬか漬けのきゅうりの古漬けを、薄切りにして塩出しをします。(適度の塩分は有った方が美味しいで
  す。)水気を絞って醤油、すりおろした生姜、隠し味の砂糖少々で味付けします。お茶漬けに最高です。
これ以外にも、「かくや漬け」の言葉が登場するページはいくつかあったが、説明が記載されていたのは上記の3つだけである。また漬物を販売するサイトでも調べてみたが、商品として売られているかくや漬けは見当たらなかった。

以上の様に、「かくや漬けとはかくなるもの」といったかくや漬けを定義する様な情報は見当たらなかった。だが、数少ないながらの情報を寄せ集めてみると、かくや漬けとは次の様な漬物であるらしいというイメージが浮かび上がって来る。
 ・材料になるものはキュウリなどの糠漬けや沢庵漬けなど
 ・これらの材料を細かく切り、適度に塩抜きをする。
 ・これらを混ぜて醤油で味を整える。必要に応じて砂糖を加える事もある。
 ・香りの野菜として生姜やみょうがなどを加える事もある。
やはりかくや漬けを一言で言えば、様々な古漬を細かく刻んで醤油漬けにしたものであると言える様だ。

かくや漬けは家庭の漬物か

料理の専門書などに出て来る漬物ではないし、これと言った決まった作り方がない様である事から、かくや漬けとは昔からの家庭料理に端を発したものなのであろうかと思う。
また、「ここがかくや漬けの産地である」といった地域もない様なので、全国各地の家庭で作られていたり、あるいは、古くは茶店の様な飲食店で、店毎に工夫が凝らされて作られていたのではないかと思う。

そうであれば、話は早い。自分なりのかくや漬けの作り方を工夫すればよいのである。というか、筆者自身はそれがかくや漬けなるものであるとは知らずに、昔からその様なものを作っていたのであった。今まで何気なく作っていたものに、「かくや漬け」という名称がある事を知っただけでも前進である。

おいしい「かくや漬け」を自分で作ろう

かくや漬けに定番がないのであれば、自由に作って構わない。だから「工夫しておいしいかくや漬けを自分で作ってみよう。」と思い立ったのである。

かくや漬けに使う材料

まずはどの様な材料(古漬)を使うのが良いか、から始まる。幸いにして、筆者は沢庵も糠漬けも自分の手で作っている。材料に事欠く事はない。
沢庵漬け
沢庵と言っても、市販の沢庵ではだめである。やはり本干しして、糠である程度の期間漬け込んだものでないと使えない。幸いにして筆者は今年は自分で大根を干して沢庵を漬けている。これを刻んで適度に水でさらして塩抜きすれば使えそうである。
自分で干した沢庵は、少し干し過ぎたために、大根の形を保っておらず、ほとんどぺたんこな状態になってしまった。これを戻す事から始まった。水で戻すのも方法であるが、筆者は清酒で戻す事にした。手ごろな大きさのビンに適度な長さに切った沢庵を入れて、たっぷりの清酒を注いでおく。1週間も置いておくと、沢庵が清酒を吸って、普通に売られている沢庵の様な形に戻って来た。多量の清酒につけておいたので、塩加減も適度に下がっている様だ。

糠漬け
糠漬けは、キュウリ、茄子などが利用できる。根生姜も糠に1週間ほど漬けて古漬にしたものを利用すると良い。
その他には、たまたま入手できたのが亀戸大根である。この亀戸大根はなかなな売っていないのが残念である。
なお参考までに言えば、糠漬けで古漬を作る場合、漬け放しにしておくのは好ましくはない。古漬にする場合でも少なくとも1日に1度は糠床をかき混ぜる必要がある。なぜなら、掻き回さずに長期間放置しておくと、乳酸菌が強く働いて、古漬が酸っぱくなってしまうからである。仮に1週間程度漬けて古漬にする場合であっても、少なくとも毎日1回、できればそれ以上の頻度で糠床の手入れを行う事が必要である。

葉もの
葉ものの漬物もかくや漬けに使えるのではないかと試してみた。水菜の塩漬け、亀戸大根の葉の部分の糠漬けである。
だが、結論的に言うと、葉ものは仮に古漬にしてもかくや漬けの材料には適していない様である。もちろんまずいと言う意味ではない。何が適してないかと言えば、色合いと歯ごたえである。
どうもかくや漬けは大根やキュウリ、茄子といった根菜類か果菜類で作った方が良さそうである。

作り方

上記に掲げた情報では、細切りとも記載されているが、筆者は3〜5mm程度のみじん切りにする。これには包丁が良く研いでないと、上手に細かくは刻めない。かといって、フードプロセッサで細かくできる代物ではない。鋭利に研いだ包丁でみじん切りにする事が肝要である。

古漬を細かく刻んだ後は、軽く水に浸して塩抜きをする。塩抜きではあるが、余りに抜き過ぎてしまうと、おいしくなくなってしまうので、適度なところで止める事が必要である。後から醤油を加える事を考慮して、醤油の塩分が入った時に丁度良くなる程度に塩抜きをするのがコツである。
筆者の場合、この塩抜きを一歩手前で止めてから絞って水を良く切り、次いで2度目は清酒で塩抜きをしている。清酒を使うのは1つには防腐効果を期待している事と、もう1つには風味漬けである。もちろん塩抜きしてから清酒を加えて風味漬けするのでも良いであろう。
付け加えればこの時に使う清酒は、コクのある純米酒の方が好ましい。仮に高価な清酒でも水の様な端麗な清酒では合わない様だ。もちろん、味さえ良ければ、料理用の清酒でも構わないが、いわゆる料理酒では食塩が入っているので、その分だけ塩抜きをしておく必要がある。

以上の塩抜きが終ったら、適当な容器に入れて醤油を混ぜればでき上がりである。醤油は好みの醤油を使って構わないのであるが、敢て言わせて頂けば、二段仕込み醤油の様な芳醇で濃厚な風味のある醤油の方が、少量でも適度な色と風味を漬けられるので、好ましい様だ。筆者が使ってみておいしいと思ったのは、「伊勢醤油」であった。もちろん、溜まり醤油を使う事もできると思うが、このあたりは好みで試して頂けばよいであろう。

作り足し

以上の様にかくや漬けは古漬が原料になる。古漬はその性格上、欲しい時にすぐ作れると言うわけには行かない。糠床の中を掻き回してみたら、古漬が出て来たといった事がある。かくや漬けは、作ろうとして古漬を作ると言うよりも、古漬が余ってしまったからその使い道として作るといった事が多いであろうと思う。
であれば、古漬ができたら、その都度細かく刻んで残っている中に足し込んで行くのが便利だ。今日は沢庵、明日はキュウリ、その次は茄子の古漬という様に、その都度異なる材料を足して行くのでも構わないのではないかと思う。もちろん後から足す場合には、その分だけ醤油を加えておく必要がある。

毎回異なる材料型されれば、中味は自然と変わる。そもそもかくや漬けは、「この様なものでなくてはならない」という定義などない様である。何を使っても構わないのである。であれば、毎日少しずつ変化して行くかくや漬けでも構わないはずである。いや、むしろ毎日少しずつ味が変わって行くのも、家庭で作る漬物ならではの楽しみがあるというものだ。