ティールーム
江戸っ子と言えば蕎麦(3)
異色のメニューはカレー南蛮
【 目 次 】
蕎麦の中では異色なカレー南蛮
カレー南蛮のカレーソース
正面玄関
|
別館
|
ティールーム
掲載 December 11,204 (
執筆開始:July 20, 1998
)
佐田 守弘
「木に竹を継ぐ」という言葉がある。木には竹を接ぎ木できないと言う意味から転じて、ちぐはぐな取り合わせの事を言う。
食材でも取り合わせは重要だ。ディッシュの主菜に添えられる副菜や薬味、あるいはハーブ類は、主菜を引き立てる役割を果たす。あるいは複数の料理が組み合わさって、1つのコースを構成する。仮に白身魚のお造りにカレーソースを掛けたとしたら、とても食べる気は起きないだろう。
だがその様な考えられない素材の組み合わせをしたものがある。言ってみれば蕎麦のメニューの1つ、カレー南蛮はその典型的な組み合わせだ。蕎麦といった和風の素材に対して、これとは全く異質なカレーソースとの組み合わせである。考えてみればかなりちぐはぐな取り合わせなのであるが、これが結構旨い。
そばの中では異色なカレー南蛮
そばのメニューには、もり・かけに始まって、花巻、てんぷら、鴨南蛮、おかめなど、様々なメニューがある。だが、その中でひときわ異色なめニューと言えば、何と言ってもカレー南蛮ではなかろうか。何でカレー南蛮が異色なのか。それは、カレーソースを使っているからである。純粋な和風料理とも言えるそばと、謂わば東南アジア地域の代表格とも言えるカレースパイスとの組み合わせが何とも異色なのである。
カレー南蛮(そば)とは、そば台にカレーソースを掛けて、ネギを添えたものである。
まずこの構成から考えてみよう。そばとネギの組み合わせは特に不思議ではない。もりそばにしても、かけそばにしても、大抵のそばには薬味としてネギが付いて来る。唯一、花巻そばだけはネギが添えられていない。これは海苔の香りを消してしまうからである。それ程までにそばとネギとの取り合わせは相性が良いらしい。
ではカレーはどうか。カレーは元来、東南アジアを中心とした気候が熱い地域で食されているスパイスを多用した料理である。しかし日本に伝わったカレーは英国を経由しているので、多分に洋風化されたカレーである。カレー自体は日本人にかなり好まれていて、それぞれ独特の日本風のカレーショップが多数ある。
だが、その様な有名店の美味しいカレーソースを、和食と組み合わせたら果して美味しいであろうか。たとえば真鯛のお造りに銀座の○○店のカレーソースを掛けて果して美味しいであろうか。おそらく真鯛の味もカレーの味も互に殺し合ってしまい、美味しいものにはなり得ないはずだ。それ程までに和食とカレースパイスとは、元来は合わないはずのものではないかと思う。
だが、不思議な事にカレー南蛮は美味しい。
南蛮とは
そばのメニューで「南蛮」と付くものがいくつかある。この南蛮とはネギの事を意味する。一説には明治前後の頃に日本に渡来した外国人(当時は南蛮人と呼んだ)達がネギを良く食べていたので、ネギの事を南蛮と呼び始めたとも言う。
「ネギならかけそばにもてんぷらそばにも入っているではないか?」と思うかも知れない。冒頭にも述べたが、ほとんどのそばメニューには刻みネギが薬味として添えられている。だが、この刻みネギの事を南蛮とは言わない。
鴨南蛮、カレー南蛮などに入っているネギは、ネギの軸方向に対して垂直に輪切りにしたネギではなく、斜め切り、あるいは開いて細切りしたネギである。「それじゃ単に切り方だけの違いか?」と言いたくなるが、本当は切ったネギを油炒め、ないしは油通ししたものを使うのだそうである。油で炒めたネギは、特に鴨肉とは良く合う。
カレー南蛮のカレーソース
実はカレー南蛮に使うカレーソースは、カレーライスのカレーとは違うのである。
それを説明する前に、もし気が向いたら次の様な事をテストしてみると、面白い。それは茹でたそば(生麺でも乾麺でも構わない)に、市販のレトルトカレーを掛けてみるものである。筆者は実際に食べた事はないが、おそらくは美味しくないだろうと思う。続いてもう1つのテストだが、自分で作っても出前で取っても構わないのだが、つゆが掛かっているかけそばの上から、レトルトカレーを掛けてそばつゆに良く溶かしてから食べてみるものである。おそらくこちらの方は、最初のものよりも格段に美味しく、それなりにカレー南蛮風になっているはずである。
両者の違いは何であるか。それはそばつゆが入っているかいないかの違いである。実は、カレー南蛮のカレーソースは、カレーライス用のカレーソースではなく、そばつゆが入ったカレーソースなのである。
カレー南蛮のカレーソースの作り方
正式な作り方がどうであるかは分からないし、また店によっても独自の作り方があると思うが、多くのそば屋さんは、いわゆるカレー粉からカレーソースを作っているらしい。
その作り方の基本は、ひと昔前にカレー粉からカレールーを自作する方法と似た様な方法と考えてよいだろう。つまり、粉(ここでは敢て単に「粉」と言っておく)にカレー粉を適量混ぜ、油を入れて焙焼する方法である。
洋食のルーではバターを使うが、カレー南蛮の場合には植物油脂を使っているのではないかと思う。あるいは天ぷらそばを揚げるのに使う油と同じかも知れない。
さて粉であるが、洋食の場合には強力粉と薄力粉のどちらを使う場合もある。これはシェフの好みである様だ。だが、カレー南蛮のカレーソースには、おそらく使われているとしても薄力粉ではないかと思う。中には小麦粉を使わずに、澱粉だけで作る場合もあるらしい。という事は、薄力粉と澱粉を混ぜて、グルテン量を少なくしている場合もあると考えられる。
焙焼は、洋食のルー程の強焙焼はしていないであろうと思う。洋食の場合には、ソースパンで炒める場合でもオーブンで焼く場合でも、数十分以上の時間を掛けるものである。しかしカレー南蛮のカレーソースの場合には、それ程の時間を掛けてはいないと思う。
そば屋さんにきいた話では、「良く炒める」と言ってはいるが、多分、数分程度、長くても10分以内ではなかろうかと推定している。
炒めたルーは、洋食の場合にはブイヨンで延ばしてホワイトソースにしたり、ミルクで延ばしてクリームにする。しかしカレー南蛮の場合には、おそらくそばつゆ(掛けそばに使う甘つゆ)で延ばしているのではないかと思う。
もし自宅でもしカレールーを作るのが面倒であったら、市販の適当なカレールーを用いても良いのかもしれない。まず先にそばつゆ(市販のそばつゆでよい)を加熱しておき、この中にルーを溶かし込めばよいだろう。
余談
これは余談である。筆者がある時、とあるスタンドそば(駅そば)に立ち寄って、カレー南蛮を注文したことがある。さてこの店ではどうやってカレー南蛮を作るのかを見ていた。何と、かけそばの上にカレーライス用のカレーソースを掛けて出して来たのだ。これにはいささか驚かされた。この店ではカレー南蛮のメニューが出してあっても、カレー南蛮用のカレーソースは作ってないのである。
かけそばにカレーを掛けても、カレーソースをそばつゆに混ぜ込めば、そこそこの味ではあったのだが。