機械の基礎知識
歯車(ギア)の話
(3)歯車の作り方
   【 目 次 】
 歯切り   熱処理   仕上げ処理
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August 15, 2005
佐田 守弘

歯車の歯の形がインボリュート曲線である事を前頁で述べた。だが、直線でも円でもない特殊な曲線の形状をどうやって作るのだろうか。実は、歯の形がインボリュート曲線である事を利用して、創り出すのである。これを歯車の創成と呼び、またその加工方法を創成歯切りと呼ぶ。
創成歯切りは精度の高い歯車が作れる半面、コストが掛る。このため安価な歯車では型を使った鋳造や転造で作る場合もある。そして歯切りを行った歯車は、熱処理工程を経て歯車として完成する。
更に特に精度の高い歯車では歯面研摩を行ったり、クラウニングと呼ばれる仕上げ加工を行う。


歯切り

歯車の製作の最も重要な工程は歯切りである。ブランクな円盤を材料として、以下に述べる様な方法で歯切りを行うと、インボリュート曲線の形状をもつ歯車の歯が創られる。

ラック工具による創成歯切り


図版引用 1)
歯車の創成の基本として、ラック工具を使った歯車の創成の原理を説明しよう。ラック工具とは、ラック形状の切削工具である。まず歯車に加工する円盤状の材料を垂直の軸に取り付け、ラック工具を上から下に押し下げる事によって、円盤の周囲を削り込む。1回削ったら、ラックを少し横に移動し、同時に円板状の材料も同じピッチだけ少し回す。そしてまたラック工具を押し下げて少し削り込む。これを何回も繰り返して行くと、円板状の材料は歯車の形状に切削されて行く。

なぜラック工具でインボリュート曲線の歯が創成されるかを示したのが右の図である。この図では円盤を固定してその周囲に少しずつ位置を変えたラックの形状が描かれているが、そのラックの形状による包絡線がインボリュート曲線になっている事が分ると思う。

ピニオンカッタによる創成歯切り

ラックは一定の長さしかないから、左端から右端まで移動させた後は、もう一度ラックを元の位置に戻して歯切りを続けなければならない。もし直線形状のラックではなくて、これが円形であれば、工具を回しながら歯切りを続けて行ける。
円径にしたラック、それは普通の歯車である。ただし余り大きな歯車は不要なので、ピニオンと呼ばれる比較的は数が少ない歯車形状の工具を使う。これがピニオンカッタである。
ピニオンカッタの場合も歯切りの方法はラック工具の場合とほとんど同じである。つまり歯車に加工する円盤を加工台の軸に取り付け、ピニオンカッタを少しずつ食い込ませながら、上下に動かして、円板状の材料を削り込んで行くのである。

ホブ盤による歯切り



ラック工具にしてもピニオンカッタにしても、上下運動による切削であるから、加工速度は余り速くはない。より高速に歯切りを行うために考案されたのがホブである。
ホブとは、ラックの歯形形状をねじの様に1回転させた回転体の形状の工具である。そして所々に切り欠きがあって、この角が切削を行う歯になっている。言葉で説明しても分りにくいので、写真を掲載する。
 (九州産業大学 http://www.ip.kyusan-u.ac.jp/J/kougaku/tm/inoue/kousakukikai.htmより引用)

ホブ盤にこのホブ工具を水平軸方向に取り付けて回転させ、垂直軸に取り付けた円板状の被加工材に当てて切削を行う。ホブの切り刃はねじの様ならせん状になっているので、1回転させる度に歯切りされる材料が1歯分だけ進められる。つまり、ホブは同じ位置で高速回転させておき、そのピッチの進みに合せて材料を回転させれば1周の歯切りが行われる。そして材料をゆっくりと下から上に移動して行けば、歯切りが完成する。
ホブはかなりの高速で回転するので、短時間に歯切りができる方法である。

熱処理

歯車に限らずほとんどの鉄鋼部品は、焼き鈍して軟らかい状態で切削加工を行うのが普通である。加工を終えた歯車は、その後に適切な熱処理(焼き入れなど)を行わないと、必要な強度が得られない。歯車の場合、多くは浸炭焼き入れと呼ばれる歯車の表面部分のみに焼きを入れる方法が採用される。

歯車に掛る力

その理由を理解するには、歯車にはどの様な力が掛るのか、それに耐えるために歯車にはどの様な強度が求められるかを知っておく必要がある。歯車に求められる強度は、主に次に述べる歯元の曲げ強度と、歯面の面圧強度である。
歯元の曲げ強度
時計の歯車の様に単に動きを伝える歯車は別として、一般には歯車の主たる目的は動力の伝達である。自動車の変速機(トランスミッション)の歯車であれば、エンジンの出力をタイヤに伝えるのがその役目である。
歯車は駆動側と従動側の歯が噛み合って回転力を伝える。つまり駆動側の歯が従動側の歯を押す事によって回している。力で押せば、当然の事として、歯の根元に対して曲げる力が働く。もし歯車の歯がもろい材料だとしたら、歯が根元で折れてしまう事になる。
つまり、必要な動力を伝えるだけの力で歯を押しても、根元で折れる事のない強度が必要である。これが歯元曲げ強度である。
歯面の面圧強度
インボリュート曲線の原理で述べた様に、向かい合った2本のインボリュート曲線は、原理的には1点で接触しながら、その接触転が転がる様に移動して行く。歯車は厚みがあるから、噛み合って接触している互いの歯面の接触部分は直線状になる。しかし直線には面積がないから、伝える動力が無限小の面積に集中する事になり、その圧力は無限大になってしまう。
実際にはおそらく、その接触部分はごくわずかに弾性的に凹んで、有限の面積で圧力を受けているのであろう。しかし微小な面積に動力を伝える力が集中するわけなので、その接触面の圧力はかなり大きなものである事は容易に想像できよう。
つまり、噛み合う2つの歯面の接触面に掛る力によって、接触面がつぶれてしまわないだけの強度が求められる。これが面圧強度である。

極圧添加剤
機械工学系の専門技術者でなくても、メカに詳しい自動車マニアならこの言葉を聞いた事があるかと思う。
歯車の中でも、特に苛酷な条件で使われる歯車は、自動車の歯車ではないだろうか。自動車の場合、できるだけ小型軽量の歯車で高出力を伝達する必要がある。小型の歯車で大きなトルクを伝えるには、それに耐える歯車の強度が必要になる。しかし歯車の作り方や材質改善だけではどうしても限界がある。
できるだけ大きな面圧強度に耐えさせるために使われるのが極圧添加剤である。極圧添加剤とは高い面圧がかかっても、それを緩和したり、面圧によって歯面が剥がれる様な傷(ピッチングという)を防止する役割を果たす。
自動車のデファレンシャルギアのオイルなどには、この極圧添加剤が入ったオイルが使われている。

歯車に求められる特性

以上の説明で分ると思うが、歯どうしが接触する歯面は、高い面圧強度を得るためには、その表面をできるだけ硬くしなければならない。その一方で、歯全体は曲げられてもポキンと折れたりしない様な粘り強さがなければならない。
鋼材を硬くするには焼き入れをすればよいのだが、歯全体を均一に焼き入れすると、全体が硬くなる代りにもろくなってしまう。そこで、歯車の歯の表面部分だけを硬くして、内部は粘さを残した焼き入れが必要になる。

浸炭焼き入れとは

その様な表面のみを硬くする方法にはいくつかあるが、その1つに浸炭焼き入れ(別名「肌焼き」)法がある。浸炭焼き入れでは、肌焼き鋼と呼ばれる炭素量が0.2%程度の低炭素の鋼材が使われる。
鋼材の最大焼き入れ硬さは、炭素含量によって決まる。高級包丁にも使われる刃物用鋼では炭素を0.9〜1.4%程度含んでいるし、粘さが求められるバネ鋼でも0.5〜0.6%程度、あるいはそれ以上含んでいる。炭素量が少ない肌焼き鋼の場合、そのままでは焼き入れ強度が得られない(つまり焼が入らない)。
浸炭とは、炭素雰囲気化で加熱することによって、肌焼き鋼の表面から炭素を拡散させて表面近くの炭素濃度を高める方法である。浸炭材としては以前は木炭などの個体浸炭材が使われていたが、最近は一酸化炭素(CO)ガスを使うガス浸炭が一般的になって来ている。一酸化炭素の雰囲気化で930℃、3〜4時間の加熱を行うと、約1mm深さまで炭素が浸透する。
この後、正式な方法(JISに規定されている方法)では、一度空冷を行った後、再度一次焼き入れ(900℃)、二次焼き入れ(800℃)にて2段階の焼き入れを行った後は、180〜200℃の焼き戻しを行って熱処理が完了する。

窒化処理

なお、別の表面硬化処理に窒化処理がある。これはアンモニア等の窒素雰囲気化で570程度の温度で加熱する方法で、窒化物と固溶窒素による表面の硬化処理が行われる。浸炭焼き入れでは焼き入れ時のマルテンサイト相への相変化が起きるが、窒化の場合には相変化は伴わない。
窒化は浸炭焼き入れよりも高い表面硬度が得られるが、窒化深さは0.2mm程度に留まる。最近では自動車の歯車の様に、特に苛酷な条件で使われるケースではガス浸炭と同時に窒化処理も行われるケースがある。

仕上げ処理

低速回転で伝達トルクも大きくない歯車であれば、歯切りしただけの状態の歯車でも間に合うが、高速回転・高荷重で使う歯車の場合、歯切り状態の表面粗さでは、より精密な仕上げが求められる。

歯面研摩

熱処理を終えた歯車の表面を専用の研磨機で磨き上げて、表面粗さを小さくし、同時に浸炭焼き入れなどによって生じる歪みを除去するのが歯面研摩である。歯面研摩を行う事によって、歯面が滑らかになり、また寸法精度も高まるので、高速でも静粛な運転が可能になる。

クラウニング

平行軸の歯車であれば、双方の軸は正確に平行でなければならないのだが、実際にはどうしても多少の加工誤差が伴う。歯車の軸が平行からずれていると、狭い方の端面だけが片当りする。
そこで、仮にごくわずか平行でない場合でも、片当りを避けるために、歯すじにそって中央が膨らんで、両端が薄くなるようなごくわずかな曲面に仕上げるのがクラウニングである。しかしクラウニングは付け過ぎると、常に中央付近で片当り状態になるので、却って逆効果になる場合もある。

自動車のならし運転とは
最近は余り聞かなくなった様だが、筆者が自動車の免許を取った1960年代の頃、新車を購入したら最初の3,000kmはならし運転だから丁寧に乗る事が必要だと言われたものである。
製造直後の自動車のエンジンや歯車は、機械加工した表面状態がまだ良くないから、摺動面をなじませるために、低負荷で運転する必要があるというのが、その理由だった。
確かにその当時は、今の様な高度な仕上げ加工技術が行われてなかったのかも知れない。このため、新しいエンジンやトランスミッションなどの歯車は、ならし運転でなじませる様な扱い方が求められたのであろう。