1.小型船舶の船底についているフジツボなどの貝殻を、上架せずに潜水作業により除去することで維持費を節約することができます。
2.伊豆の多賀で三年間にわたり実験を行った結果、船底塗料を用いることなく、船底をクリーンに維持できました。
3.ジンク交換も潜水作業にて行ったので、上架の必要はほとんどなくなりました。
4.船底塗料を塗ってある場合でも、プロペラおよびシャフトは高速で回転するために、塗料の効果が船底に比較して急速に低下しますので、そこだけを潜水保守することも有意義です。
(潜水作業を行うための法規について)
1.潜水作業を行う場合には、船上にA旗を掲揚することが規則です。これを怠ると万が一、第三者の不注意による事故が起こった場合に、100%相手の過失とは主張できなくなります。
2.潜水作業を行っているときには、必ず、水上に連絡員を配置し、潜水作業者との連絡がとれる体勢が義務づけられています。
連絡の方法は、プロは潜水具に取り付けられた水中電話器を用いますが、レジャーダイビング用の機材の場合には水中電話器などないので、例えば、水上連絡員はバケツを叩いて連絡事項が発生したことを知らせるとか、携帯用の拡声器を水面に向けて呼びかけるとか、各自その場に合った工夫をしたらよろしいかと思います。
水中では、いろいろな音が聞こえるため、かなり大きく特殊な音を用いないと潜水作業者が聞き分けられません。私の場合には、防犯用の携帯ブザーを鳴らし、これを防水のためにビニール袋に入れて水中に沈める方法をとりました。
ロープの一端を潜水作業者のウェイトベルトなどに縛り付け、もう一方の端を水上連絡員が持っていて、連絡時には、連絡員がこのロープを引いて知らせるのも一つの方法ですが、潜水作業中はこのロープがとても邪魔になり、最悪の場合には、水中拘束の原因になるので注意が必要です。
3.潜水作業者が水上連絡員に非常事態の発生を連絡できることも必要です。
水上連絡員は重要な見張り役ですから、水上連絡員から潜水作業者への連絡が第一に重要です。しかし、その次に、潜水作業者が水上連絡員に非常事態の発生を連絡できることも必要です。
潜水作業者は、非常事態が発生した場合には速やかに浮上することで危険を回避できます。しかし、アンカーロープなどに絡まって浮上できなくなるといった事態が発生した場合には、水上連絡員に助けを求める必要が生じます。
レジャーダイビングで使うシグナルフロートをBCDのポケットに常時備えておき、非常時にはこれにエアーを入れて水面に浮かべるのも一つの方法です。
(潜水作業を行うための事前手続きについて)
1.潜水作業を行う場合は、事前にマリーナの許可を得ることは言うまでもありません。特に、漁港に係留している場合には、サザエ、アワビなどの密漁者と誤解されることがないように充分に気を付けてください。
2.マリーナ内は透明度が悪いなどの理由で、マリーナ以外の海域で作業を行う場合には、海上保安庁に事前の届け出を行って許可を得る必要があります。
(海洋汚染防止のための配慮について)
1.マリーナの内外を問わず、船底から除去した貝殻をそのまま海に投棄するのは、海洋汚染防止の立場からすると好ましくありません。
船底から除去されたフジツボなどの生物は、もはや生きて行くことができず、死んで腐敗します。これを大量に放置すれば海洋汚染の原因になります。
小型船舶クラスに付着している程度の量であれば、魚たちが餌として食べてくれる程度の量ですので、実害はほとんどないと思いますが、それでも、マリーナに係留してあるすべての艇が一斉に潜水船底保守を行えば、やはり、無視できない量になります。
これから行おうとする潜水船底保守が自然の浄化能力を越えない範囲で行えるか否かについての配慮が必要です。
残念なことに、プロが行っている大型の貨物船や軍艦などの潜水船底保守をみると、船底から除去した貝殻はすべてそのまま海に投棄しているのが現状です。
2.海洋汚染防止に関する法律的なことについて、海上保安庁に問い合わせて意見を求めてみましたが、このようなことが大きな問題となり、裁判で争われたような実例は未だないらしく、法律的な判断基準が確立されていないようで、統一見解は得られませんでした。
「船底に付着した貝殻はもともと海にあるもので、それが勝手に船底に付着したものを除去するだけであり、船上のゴミを投棄することとは本質的に異なる」
という意見もあれば、
「もともと海にあったものでも、一度、船底に付着したらその時点で、その船のものになり、それを除去するのだから船上のゴミを投棄するのと同じである」
という意見もあります。
とりあえず、厳密には法律に抵触する可能性も否定できませんので、その点はお含みおきください。
3.この点に配慮し、船底から少し下にネットを張ってこれで貝殻を回収する方法を特許出願しました。すでに公開されておりますので、しかるべき場所(※)に行くと自由に閲覧できます。参考にしていただけたら幸いです。公開番号は特開平4−306193号です。ただし、営利目的でこの方法を無断使用することは特許の性質上問題があります。
(※)しかるべき場所とは、東京でしたら特許庁の閲覧室です。地方の方は、その地方の県庁所在地にある大きな図書館に問い合わせてみてください(インターネットの特許庁のHPでも閲覧できます)。
(潜水作業を行う上での注意事項)
1.船底に潜ると暗く、圧迫感がありますので、閉所恐怖症の方には向きません。
2.レジャーダイビングとはかなり感じが異なります。レジャーダイビングで経験が豊富であっても、必ずしも船底で作業できるとは限りませんので、その点は慎重に対応してください。
3.貝殻で皮膚を傷つけますので身体を露出してはいけません。
身体を完全に包み込むウェットスーツまたはドライスーツを着用し、厚手の手袋はもちろんのこと、頭を保護するために厚手のフードをかぶります。フードはヘルメットの役目をしますので絶対に必要です。
4.レジャーダイビングとは異なり、数時間にわたり潜水を行いますが、水深が浅いので減圧症その他の潜水病に対する心配はありません。しかし、浅い所では、水圧の変化率が深い所よりも大きいことはご存知かと思います。したがって、意外に耳抜きを頻繁に行う必要がありますのでご注意ください。
(最も事故が発生しやすい状況について)
1.潜水作業中であることを知らない他のクルーがエンジンをかけてプロペラを回してしまう。
致命傷を負う確率が高い事故です。このような不注意事故を防止するために水上連絡員が必要になります。
水上連絡員を配置した上に、さらにエンジンのキー穴をガムテープでふさぎ、そこに潜水作業中である旨のメモを貼っておくくらいの慎重さが必要です。
2.潜水作業に夢中になり、潮が引いていることに気付かず船底と海底との間に挟まれてしまう。
潮汐表をよく確認し、干潮時間に船底が海底に接触する場所であれば、干潮に向かう時間帯は作業を中止します。
3.桟橋と舷(ハル)との間に、頭などを挟まれてしまう。
フェンダーをよく確認し、桟橋と船体との隙間を充分にとります。特に、強風が吹いて船体が桟橋に押し付けられても充分な隙間が確保できることが必要です。
(具体的方法)
1.スクーバにより行います。水深が浅いので200気圧×10リットルのタンク1本で、2時間程度の作業が可能です。吃水部などの水面近くの部分はスノーケルにより作業することで、タンクのエアーを節約するとよいでしょう。
2.BCDにエアーを少し入れて、その浮力を利用して船底に貼り付くようにしながら作業を行うことがコツです。
水中では、ハエが天井に貼り付くように船底に貼り付いたり、さかさまになって作業することも可能ですから、慣れれば陸上よりもずっと楽に作業できます。
すなわち、陸上では得られない無重力状態を最大に利用することがコツです。
3.道具は、ペンキやサビを除去するために用いる金属製のヘラが最適です。日曜大工の店や塗料専門店で売っています。片手で持てる軽いものを使用します。
4.プロペラを磨くには、ステンレスたわしなどを使用します。
5.給水孔や排水孔の掃除には、バーベキュー用の金串などを使用します。
6.V字が強い船底の場合には、BCDの浮力を利用して船底に貼り付くことが難しい場合があります。その場合には、船底に自分の体を固定するために大型の吸盤を用いるとよいでしょう。
7.船底は暗いので水中ライトを用いるとよいでしょう。両手が自由に使えるように水中用のヘッドライトがあれば最適です。
船底と海底との距離が近い場合には、海底にアルミシート(農業用として販売されているもの)などの光を反射するシートを設置し、自然光を船底に反射させる工夫をするのも一案です。
その他、ご自分の艇の船底形状に適した道具を工夫してみてください。
(作業頻度)
1.作業頻度は、水温、塩分の濃度などの違いにより、場所によってさまざまですが、伊豆の多賀では、貝殻の成長が速い時期(5月〜9月)は毎月一回行い、貝殻の成長が遅い時期(10月〜4月)は隔月一回行えば充分でした。
2.30ftクラスの艇の例では、定期的に作業を行なっていれば一人で2時間以内に作業は完了します。
3.とにかく、貝殻が大きく成長する前に除去することがポイントです。前述したように、除去したフジツボなどの生物の死骸で海を汚さないためにも、こまめな作業が有効です。
(おわりに)
1.船底塗料の原料に錫を使っていた頃は、公害の原因になったので環境汚染に敏感な国では使用が禁止されていました。そんなときには潜水船底保守が盛んに行なわれていたそうです。
2.現在では船底塗料の原料が銅ベースに変わり、低公害になりましたので使用しても海を汚染することは少なくなりましたが、それでもまだ無公害とはいえませんから、船底塗料を使わずに潜水船底保守することは経費節約以外にも有意義だと思います。
以上、小型船舶の潜水船底保守方法について述べました。何か質問があればメー ルをください。