「あんたさぁ、やっぱり劇場に出入するの、やめてくれない?」 ストリップ界の大御所でもあるKが、同居人に向かって唐突に言った。 こちらは前夜4回目に投げたリボンの巻き取りをしている最中である。 「なんで?」 なんでかは、わかっているけど、こうこたえるしかなかった。 「後輩に、“この間、A劇場で舞ちゃんにリボン投げて頂きました”なんて、 お礼を言われるわたしの気持ちにもなってよ、わかるでしょ? 元客が彼氏だっていうだけでも気が引けるこの業界で、 現役バリバリの客で、それもあっちこっちでフラフラ、 ヘラヘラしてるあんたじゃ、わたしの顔は丸潰れってこと!!」 (いいじゃんいいじゃん、そんなこと、今にはじまったことじゃないし、気にするなよ。) 心の中で思っても口には出せない。 (あ、、絡まっちまってる、早くしないとMちゃんの1回目に間に合わない。) 「仮にね、百歩譲ったとして、ストリップが好きで劇場に行ったとするよ、 なんでタンバリンとかリボン投げとかするの? 後ろの方で大人しくみてりゃいいことでしょ? それになんで若い子に花束なんか持って行くの? 全部わたしが稼いだお金を使っているのでしょ? 信じられない!!」 (ごもっともです。でもちょっとだけ反論。) 「ストリップでKちゃんが稼いだお金を、ストリップ劇場で使うっていいことだよ。 パチンコなんかで使っちゃうより、よっぽどいい。 また巡りめぐってKちゃんのギャラになるんだよ、きっと。」 (劇場で稼いだお金は劇場で使う、素晴らしいことだ!) 「あきれた、ほんと、どうしようもないバカだね。 あんな狭い世界でお金を循環させてどうするの? 外のお金を呼込まなきゃ、ギャラは増えないの! わたしが稼いだお金を劇場で使った方がいいってぇ(怒)」 (やっぱりお金の話はこっちが不利だ、方向を変えようっと。) 「あのさぁ、オレのこと、みっともないと思ってるんだよね? だったら、オレが彼氏だってまわりに言わなきゃいいだろ? 黙ってりゃ、わかんないことだし」 (その方が、ちょっとだけ気が楽だし、チャンスも広がる。) 「そうでも言っとかなきゃ、心配でしょ? あんたぁ、若い子に手ぇ出すでしょ? あんたを信用できないから、周りの子に警戒してもらっているんでしょ」 (やばい、見透かされている。 おっと、まだ、紙テープ残ってたっけ! そろそろ買い足しにいかなきゃなぁ。 Mちゃん3番目だから12時半には劇場に入らないと間に合わないな。) 「もう我慢できない、劇場に出入りするのをやめるか、 わたしと別れるか、今ここではっきり決めてちょうだい!!」 (腹減ったなぁ、なんか食べる時間あるかなぁ?) 「ちょっと!! きいてるの?!」 「えっ、なに?」 「劇場に出入りするのをやめるか、わたしと別れるか、どっちにするの?」 「なに、マジギレしてるの?」 「さぁ、はっきり答えて!!」 (さーてと、これで準備OK! ん、答えなきゃいけないかなぁ?) 「どっちかって? じゃぁ、別れる、しかたないよぉ」 これを聞いたKは、力なく座り込んだ。 「マジにそう思うの? よく考えて言ってるの?」 「だってぇ、オレの劇場通いは病気なんだよ、 やめろって言われてやめられるものでないの、そっちだってわかっているでしょ? そりゃあ、面倒みてもらっている今の立場を考えると、Kちゃんに迷惑かけたくないけど、 それができるんだったら、はじめから面倒みてもらってないでしょ。 劇場へ行かなきゃなんないから仕事ができなくて、Kちゃんの厄介になっている。 劇場へ行かなくて済むなら仕事だってできるし、 Kちゃんの厄介にならなくても大丈夫でしょ。」 沈黙が続いた。 「そろそろ出ないと、Mちゃんの一回目に間に合わないから行くよ。 もうここには帰ってきちゃだめなんだね。 Kちゃんの顔、これ以上潰せないしね」 Kは何も言わない。 私は巻き取ったばかりのリボンを鞄に詰め込んで、家を飛び出した。 さっきまで自分の家だったが、これからは他人の家。 (あーぁ、また住むとこ探さなくっちゃ・・・誰か拾ってくれないかなぁ・・。 そんなことあとで考えようっと。出るの遅れたから急がなくちゃ!!) ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1時間ほどして携帯が鳴った、Kからのメールである。 こっちは必死にリボンを投げている最中で気がつかなかった。 ------------------------ |我慢できなくなったら私| | | |が踊り子を辞めるヨ。こ| | | |っちは病気じゃないから| | | |辞められる。本当にどう| | | |しようもない奴だね、帰| | | |ってきていいよ。鏡見た| | | |ら、私の顔、はじめから| | | |潰れてたから(笑) | ------------------------
[舞太郎](2003.10.17)