「ケンちゃんが死んじゃった」 M姐さんからの電話の第一声である。 彼女は震える声で、絞りだすように言った。 ケンちゃんは私のストリップ仲間でM姐さんの彼氏でもある。 そのケンちゃんが死んだというのだ。 「さっき、たまたま楽屋でテレビ見てたらニュースでやってたの。 一週間前から山に入ってたみたい。 下山予定日になっても連絡がつかなくって家族が捜索を依頼したんだって。 そしたら今朝遺体で発見されたんだって」 山男のケンちゃんは暇さえあれば山に登っていた。 若い頃は海外の山をいくつも制覇したスペシャリストでもある。 ときどき劇場にも現れ、私と意気投合してからは親しくつきあっていた。 私も動揺してしまい、言葉が出てこなかった。 M姐さんの話に相づちを打つのが精一杯であった。 「思い切って彼の家に電話して確認したんだけど、まちがいないみたい」 「なんて言ったらよいのか・・・・」 「ケンちゃん、吹雪の中、動けなくなって、雪洞掘って、その中に避難していたらしいの。 そのままじっとしてればよかったのに、なにを血迷ったのか、 素っ裸になって外に飛び出して近くで凍死してたんだって。 家の人もなんでそんなことしたのかわからないって」 私も情景を思い浮かべてみた。あの冷静沈着なケンちゃんらしからぬ行動である。 「わたしもはじめに聞いた時、あのケンちゃんが、 なんでそんなことしたのかわからなかったけど、ふと思い出したことがあるの」 「なんですか?」 「前に、 『いつもお前のショーを見させてもらってるから、 いつかきっと、俺のも見せてやる』って言ってたの。 ケンちゃん、もう駄目だと思った時に、 そのことをふと思い出して約束を果たしたんだと思うの。 じゃなきゃ、吹雪の中、わざわざ裸になって死んでるなんて絶対に説明つかない。 これはやっぱり、わたしにだけ伝わるメッセージだと思う」 (まさかぁ)と思ったが案外当たっているかもしれない。 方角どころか上下の区別もつかない真っ白な猛吹雪の世界で、 あの陽気なケンちゃんが、オープンショーを演じている。 その時間はほんの一瞬だったかもしれないけど、たしかに私にも見えるような気がする。 「あいつ、馬鹿だったからね。 ほんとうに馬鹿だったよ。 プロのわたしに汚いおやじのショーなんか、 見せてくれなくってもよかったのに、うっ・・・。 馬鹿だよね。 寒かっただろうに・・・・」 M姐さんは鳴咽で言葉がつまった。 「あのさぁ、明後日、葬儀があるようなんだけど、 舞ちゃん、わたしの代わりに行ってくれない?」 「もちろん構わないですけど、M姐さんはどうされるのですか?」 「わたしは行けないよ。だってむこうには奥さんや子供さんもいるしね。 わたしがノコノコでかけたら話がややこしくなるから。 最後ぐらい、奥さんとこに返してあげようと思うの。 それにステージに穴をあけるわけにはいかないよ。 そんなことしたらケンちゃんに叱られるしね」 「わかりました」 「さーて、出番だ。馬鹿なケンちゃんに負けないようなステージやらなきゃね」 M姐さんは電話を切った。
[舞太郎](1998.2.9)