生きること死ぬこと

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 夢の中で電子音が鳴っている。

(もう朝かぁ)と思いながらサイドテーブル上の目覚ましを探した。

目をあけるとまだ暗い。

朝の気配との違いから「んっ?」と正気になった。


鳴っているのは携帯電話だった。


「もしもし」と返事をしながら枕元のスタンドを点け、時間を見た。

午前3時7分。


 もう一度、「もしもし」と問いかけた。返事がない。

(いたずら電話か)と思い、切ろうとした瞬間に女性の啜り泣く声が聞こえた。

しばらく耳を澄ましていると、「舞ちゃん、ごめん」とひとことだけ言った。

もうしばらくの沈黙の後、

「疲れて眠っているのにこんな電話して本当にごめんね」


この声でやっとわかった、Eちゃんである。


「どうしたの?  誰かとトラブッたの?」


「違う、知り合いが死んじゃったの。 舞ちゃんの知らない人だけど」


「そう、それはお気の毒に。それで悲しくなっちゃったんだ」


「うん。 わたしね、このところ死のう死のうって考えていたの。

  今日死のうか明日死のうかって毎日考えていたの。

  そんな時に知り合いが死んだって知らせを受けて・・・」


「・・・・・・」

寝ていた頭が完全に目覚めないうちにいきなり重い話題で言葉が出てこない。


「あの人、死んじゃったんだって考えたらわたし腹が立って腹が立って。

  人間ってこんなに簡単に死んじゃうのかと思うと、情けなくって。

  死んだ人のことってしばらくは記憶に残るかも知れないけど、

  それもすぐに風化するでしょ。 人の死って簡単すぎるよ」

Eちゃんはしゃくりあげながらゆっくり言った。


「簡単じゃないよ、大変なことだよ。

  Eちゃんが死んだらほんと大変なことになるよ。

  追っかけさん達だって路頭に迷うしね」


「そんな、心にもないことを言わなくていいの。

  お客なんて、すぐに別の子に乗り換えるでしょ。

  いくらなんだってあの世まで追っかけてくる奴はいないしね。

  仮にそんなのがいたらこっちが引いちゃうよ」

Eちゃんは少しだけ笑った。


「ところでEちゃんはなんで死にたいの?」

私は肝心なことを聞き忘れていたことに気がついた。


「なんで? なんでかなぁ? よくわかんない。  いいことないしね」

理由もはっきりしないのに死にたいと思っているのだろうか?


「Eちゃんが言うように人が生きるってことも死ぬってことも、

  他人から見れば案外簡単なことかもしれないね。

  自分にとっては大きなことなんだけど」


「そうね、やっぱり自分でちゃんと考えなきゃね」


「Eちゃんが本当によく考え、死ぬって決めたら連絡してね。

  苦しまない様に手伝ってあげるから」

私が冗談交じりに言うと、

「アハハッ、舞ちゃんが手伝ってくれるわけないじゃない。  わかった!! 

  『どーせ死ぬんだったらその前に一発やらせろ』って言うんでしょ?」

少し明るい声で言った。


「そんなこと僕が言うと思う?」


「言いそうもないけど、そういう状況だとわかんない」


「そっちが言うんじゃないの『死ぬ前に一発やってくれ』って」


「まさかぁ、あんたの馬鹿さ加減には心底あきれるよ」


「でも、死ぬ前に僕とそんなことしたらこんなに気持ちいいことあるのに、

  死ぬのはもったいないって思いとどまっちゃったりして。

 きっとそうだよ、うん、絶対そうだ」


「あきれた・・・、

 そっちの方が一度死んだほうがいいよ。わたしの方はもう少し生きてみるよ。

  舞ちゃんみたいな馬鹿の相手をしてあげなくちゃならないしね」


 まったく、人を夜中に叩き起こしといて言いたいことを言っている。


 まぁ、とりあえずは一件落着ってとこかな。


[舞太郎](1998.03.05)


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