看病

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 朝早く携帯が鳴った。

時計を見ると8時前である。


「舞ちゃん、Jだけど、これから会社?」

「ううん」

「あれっ?  寝てたの?  仕事休み?」


私は昨日から体調を崩していて、今日は会社を休んで寝ているつもりだった。

「風邪ひいて熱もあるから今日は休んで寝てる。ゴホゴホッ」

「来週の予定が決まったんで電話したんだけど、大変そうね」

「うん、大変、ゴホゴホッ」

「だれか看病してくれる人いるの?  そこ寮だっけ?  川崎だよね?」

「うん川崎の寮、だれもいないよ。

  薬飲んで寝てれば治るからだいじょうぶ」

「まったくぅー、家族と離れて生活しているんだから、

  調子の悪い時にねっ、 看病してくれる愛人の一人でもつくっておけばいいのに。

  普段からの心構えが足りないよ」

「無茶言うなよぉ、そんな甲斐性があるわけないだろ。

  悪いけど、治ったら電話するからこれで切るよ。ゴホゴホッ」


私は相手の返事を待ちながら携帯の赤いボタンに指を置いた。


「ちょっと待って、本当に具合悪そうだね、仕方がないから私が看病してあげようか?」

「冗談はやめてよ、ここは男子寮だから女子禁制なの。

  それにJちゃん、今日も仕事だろ?  切るよ」

「だからちょっと待ってよ。 今からタクシーに乗って家においでよ。

  そんなとこで一人で寝てても治んないよ。なんか元気の出るものを作ってあげるからさぁ。

  ねっ、そうしなよ。わたしの家、知ってるよね?」


無茶苦茶なことを言っていると思いいながらも、Jの家はどこだっけと、ぼんやり考えた。


「たしか、東横線の祐天寺だっけ?

  場所はだいたい覚えているけど、Jちゃん仕事はどうするの?」

「仕事は休まないよ。悪いけど、その間は一人で寝ててね。

  今週は新宿だから、ここにいれば、なにかあっても飛んで帰ってこれるし安心だよ。
 
  わたしが仕事に行っている間の食べるものも、ちゃんと作って用意しておくから。

  今からだと、10時くらいにはここに来れるね。

  近くに着いたら電話して待ってるからね、じゃっ切るよ」


私は赤いボタンから指を外して慌てて叫んだ。


「ちょっちょっと、待ってよー。 行けるわけないだろう、いくらなんだって無茶苦茶だ。

  Jちゃんの気まぐれでトラブルに巻き込まれるのは御免だよ。

  うーん、ますます熱が上がってきた・・・」

「余計なこと心配しなくてもいいの。

 舞ちゃんはすぐにタクシーを呼んでここに来ればいいの。

  わかった?  来なかったら絶交だからね。

 さーて忙しくなる、舞ちゃんだからといって、一応はお客さんだし。

 掃除とかしなくっちゃ」


こちらのこたえを聞く前に切れてしまった。ふっー、っとため息をひとつ吐いて考えた。


(なんでこんなに調子の悪い時に、Jちゃんの気まぐれに付合わされなきゃなんないんだろう。

  おまけに絶交だなんて。)


もう一度、ふっー、っとため息を吐いた。

あのおっちょこちょいでお節介のJちゃんが、

汗をふきふき掃除したり食事を作っているところを思い浮かべてみた。


(どうせ、ろくなもん作くんないんだろうなぁ。でも一生懸命やってるんだろうなぁ。)


思わず一人で微笑んでしまった。


「お言葉に甘えて行ってみるか」


私はタクシーを呼ぶことにした。


[舞太郎](1998.10.08)


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