(いたいた、あそこだ。) ワンフロアに数百人もいるオフィスで目的の部署にたどり着くことは容易ではない。 迷ってしまい本当に疲れた。 壁際に“第三開発部T部長”というプレートが貼ってあった。ここで間違いない。 目指すT部長は在席中で書類に目を落としていた。 「T部長、失礼します。第五営業部のHと申しますが・・・」と 声をかけると、彼は書類を見たまま、「はぃー」とこたえた。 続けて話し掛けようとした瞬間、彼の席の電話が鳴った。 「ちょっと待ってて」と言いながら顔を上げ、チラッと私の方に視線を泳がしてから、 受話器を取り、彼の注意はそちらの方に行ってしまった。 私は右手に持っていたファイルを胸のところにあて、両腕で抱えた。 そのままの姿勢で待った。T部長は、電話の相手と激しく言い争っている。 ちょっと恐い感じ。 しばらく待っていたが電話はなかなか切れない。 (出直そうかなぁ)と考え始めたらやっと終わった。 「あのぉー、よろしいでしょうか?」 T部長は顔を上げ、「お待たせ、なに?」と言った。 「お忙しいところ申し訳ありません。 私、本年度入社のHと申しますが第五営業部に配属になりましたのでご挨拶にまいりました」 私は元気よく言った。 T部長は首をかしげながら「第五営業部? Hさん?」と呟いた。 無理もない。私が配属になった部署とT部長の第三開発部はほとんど仕事上の繋がりはない。 (なんで関係ない部署の新人の女の子が、自分のところに?)って 疑問に思っている様子がありありとわかった。 ちょっと間をおいて、 「あっそうですか、頑張ってください」と言って再び書類に目を落とした。 きっと、忙しいので自分の疑問は後でゆっくり解決しようとでも思ったらしい。 (もうぅ、冷たいんだから・・・。) せっかく探して来たんだからちょっとからかってやれっていたずら心が沸いてきた。 「昔はあんなに誉めてくれていたのに冷たいじゃないですか!」 小さな声で私はT部長に言った。 T部長は顔を上げ、私を見詰め、なにかを一生懸命に考えている。 「見覚えありませんか? 私のステージでタンバリン叩いたことあるでしょ。 わったっしっ、わかる? 舞ちゃん忘れたの?」 T部長はいきなり立ち上がった。かなり動揺している。 「Aちゃん・・・・!?」 彼は大きく目を開き、私を見詰めた後、私に手招きしながら、 「ちょっ、ちょっと・・こっち来て」と慌てて歩き出した。 私も後について行った。 社内の喫茶コーナーでT部長と私は向かい合って座った。 「引退して就職するって言ってたけど、ウチにきたんだ?」 彼は少し天を仰ぎながら言った。衝撃からまだ立ち直っていないのか、落ちつきがない。 「まさか舞ちゃんと同じ会社だなんて夢にも思わなかったよ。 昨日、社員食堂で見つけてびっくりしちゃった。 先輩にきいた、社内でも有名なやり手の部長さんだって聞いて二度びっくり。 いつも劇場でウダウダしていたから仕事なんかまともにしていないと思ってた。 スーツなんか着てさっ、いっぱしのサラリーマンみたい」 私はT部長の姿をまじまじと見て吹き出してしまった。 「こっちも驚きだよ、髪も黒くなっちゃってさぁー。 あの偉大な天才ストリッパーAが・・・・・、これじゃ、まったく初初しい新入社員だよ」 T部長は失礼なことを言う。 「私は初ういしい新入社員です!!」 ちょっと口をとがらせてやった。 「舞ちゃんが同じ会社だなんて、なんだか楽しいOL生活になりそう。 私の新しい仕事も応援してね」 私が上目遣いに笑うと、T部長は頭を掻いて言った。 「タンバリンは叩かないけど、ネ」
[舞太郎](1998.10.22)