cda-MLの経緯−この本の出来るまで

 この本は、前書きで述べましたように、「メーリングリスト」(ML)というインターネット上の媒体を基盤にしています。MLは、すでにご存じの方も多いとは思いますが、特定のアドレスへのメールを登録者全員に配送するソフトウェアです。これを用いれば、歯科診療上の問題点について、参加者たちがそれぞれの知識・意見を寄せることができます。

 広く歯科医師を対象とするコンピュータネットワークは、以前からニフティサーブのような商業ネットで、または地域の歯科医師会でのBBS運営などが行なわれてきました。しかし、商業ネットでは参加者があまりに散漫な構成になりすぎ、地域BBSでは逆に地域に限定された参加者構成になることから議論が進展しない傾向がありました。これに対し、MLは、インターネットあるいは商業ネットからでも参加することができ、日本全国どころか世界中からメールを送受信することができます。また、地域の制限はありませんが、参加者を無理矢理でも集めなくてはならない商業ネットと違って、参加者を特定することができます。

 このような利点とインターネットの普及をみて、私たち(編者2人+古屋)は、臨床歯科麻酔メーリングリスト(cda-ML :Clinical Dental Anesthesia Maling List)の運営を平成9年の春より開始しました。(プロフィール...cda-MLのホームページを参照)このMLは歯科麻酔あるいは医科の麻酔の研修経験のある歯科医師をメンバーとして、麻酔だけでなく、開業歯科診療所での臨床的な問題を話し合うことを目的としています。歯科麻酔を学んで、大学、病院歯科、開業など一線の臨床で活躍している方々が、日常遭遇する臨床的、社会的なさまざまな問題について意見、情報を交換する機会や場を持つためでした。それに先立つ平成8年から、日本歯科麻酔学会で各年度会長の先生方のご好意により、会場となった新潟市盛岡市長崎市において、「歯科麻酔を考える臨床医フォーラム」を開くことができました。このフォーラムの連絡をかねた関係者のMLを試験的に運営した後に、インターネット上にホームページを開き、さらに学会発表も行なって、広く参加者を募りました。平成11年9月現在、約100人が参加登録されており、メール数は3000を数えています。

 この本は、出版企画が決まった平成10年春までの2000以上のメールの中から、日常の歯科臨床で話題になることの多い、あるいは知っておいた方がよい話題を、選び編集したものです。話題は麻酔そのものよりも、患者さんに心身とも負担を強いる歯科治療をいかにして安全に行なうか、不幸にして患者の容態が急変した時にはどのように対処すれば良いかなど、歯科診療所でもっとも悩ませる問題に絞りました。これは、実際のMLにおいても半数以上を占めた話題でもありました。

 社会的要請からも、寝たきり老人の在宅歯科治療をはじめとし、大きな合併症を持つ患者、アレルギーの既往のある患者、軽度の障害をもつ患者も、一般開業医の診療対象となってきています。もちろん、来院した患者は診療する義務があります。しかし、それと共に大きな診療上のリスクをも受け入れなくてはなりません。こうした問題は、歯科麻酔の研修を受けていても一人だけでは答えることができないものなのです。これを、ML上での問いかけのメールを出すことにより、様々な経験を持つ参加者が、自分の経験からの意見と知識、情報を提供し合っていきました。

 私たちを始めとする参加者にとって嬉しいことに、MLには多様な経験と知識、見解を持つ方が多数参加されていました。私たちは、その方々で交わされたメールの内容のすばらしさをみるにつけ、これを公表する価値が十分にあるではないかと思い至りました。

 インターネットでの情報交換は、すべての人の財産であるという理念があります。学術的なMLではそれをHPとして公表することが一般的に行なわれています。私たちも、その準備をしようと考えたのですが、インターネットが普及したとはいっても、HPを閲覧する人の数は限られています。私たちは、もし可能ならばやはり出版という形をとりたいと思い、出版社に企画を送りましたところ、幸いにも奇特な?編集者に関心を持っていただきました。医歯薬出版社の水島氏、鈴木氏です。

 こうして出版の企画がたちましたが、簡単にまとめればすむのではないかという当初の予想とは異なり、実際編集の作業は非常に手間ひまのいる時間のかかるものでした。これは、出版を予想しないメールの文章を、いかに活字として論理的なものにするなど、これまで誰も経験していない作業だったためです。幸いにも、十数人の参加者にお願いし、話題ごとにメールの取りまとめを引き受けていただきました。ML参加者の先生方、まとめていただいた先生方、また何度も座礁しそうになったこの企画を、呆れながらも優しく導いてくれた編集のお二人、本当に感謝いたしております。ありがとうございました。

 

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