北斗は、青森県りんご試験場(現・地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所)が、1970年(昭和45年)に、ふじ陸奥(花粉)を交配・育成し、1980(昭和55)年に選抜したと言われてきた三倍体の品種で〈文献1〉、1983(昭和58)年に品種登録していますが、花粉親は陸奥ではないという遺伝子診断が行われています〈文献2〉
 つまり、北斗は交雑和合性に関する遺伝子座に3つの遺伝子S1・S7・S9をもち、斑点落葉病感受性優性遺伝子Alt をもっています。種子親のふじは交雑和合性遺伝子座にS1・S9はありますが、S7がなく、斑点落葉病感受性優性遺伝子Alt もありません。花粉親と考えられていた陸奥は三倍体で交雑和合性遺伝子はS2・S3・S20でS7がなく、斑点落葉病感受性優性遺伝子Alt もありません。花粉親には遺伝子S7と斑点落葉病感受性優性遺伝子Alt がなければなりませんので、陸奥は花粉親ではないことがわかりました。
 まだ北斗の花粉親をレロ11ではないかという考えもあります。しかし、レロ11でも遺伝子解析の一部に矛盾が生じます。だが、その矛盾点は、レロ11の両親である東光リチャードデリシャスがもつ、もう一方の対立遺伝子で解決されますので、レロ11と同じ交配親をもつ別系統のリンゴの花粉であったのではないかと考えられます。
〈文献3〉

 果重は350gと大きく、600gを越すことも稀ではありません。上手く育成させた果実は、糖度が17%を超え、りんごの中で最高の味を持つものの一つで、熟期は10月下旬です。
 甘酸適和で、芳香があり、蜜が入り、果汁が多く、齧り付くと果汁が口中に溢れ、その果汁を飲んで噛むと、また果汁が口にあふれます。
カビの胞子が果実の子房に入り込み、芯にカビ発生


 成熟すると花梗部の付け根付近の凹部(こうあ=梗窪)に割れ目(ツルワレ)ができることがあります。このような割れ目は、品種によってできにくいものも、できやすいものもありますが、北斗はできやすい品種です。
 ツルワレができたからと言って味が悪いということではなく、樹上で十分充実した証拠なのですが、商品としてはあまりよい評価は得られません。また、右の写真のように、がくあと子房との間に通路ができ、そこから菌の胞子が入り込み、芯にカビが発生することがあります。味には影響ないのですが、見た目が悪く、消費者の評価が悪くなります。
 樹上で完熟したものは販売店での長期展示が難しいので、少し未熟なものを収穫・販売することがあります。未熟果は硬くてまずく、少し収穫を早くやりすぎると、たちまち評価を落としてしまいます。そのためこのりんごの本当の味を知らない人が意外に多いようです。

 このように、この品種は生産者・販売者にとっては扱いにくい品種ですが、これらの欠点も樹が老齢化したり、栽培法を工夫すれば大幅に改善されることがわかっています
〈文献4〉
 また、完熟したこの品種を食べた人は例外なく美味しいといいますし、北斗ファンの消費者がたくさんいます。通信販売で適熟期に送ってくれる生産者にはたくさんの注文が届き、品不足になります。栽培方法や保存方法も進歩したのでしょうか、道の駅などで、味のよい立派な北斗が、1月中旬過ぎまで容易に入手でき、楽しむことができるようになりました。北斗の利用され方、つまり、北斗という品種の生き方・生き残り方が決まってきたようにも思われます。
 10月末から11月にかけて、農産物直売所にはたくさんの北斗が並びます。がくあ(萼窪:萼側の窪み)部分の黄色い果実が店頭にあったら、少し購入して試食してみて、美味しければその生産者の名前を記録しておき、以後はその方の販売ボックスから購入することにしています。
 
2009年6月24日と27日に、七戸町の農産物直売所に立ち寄りましたら、右図のような北斗の果実がたくさん販売されていました。真夏も近い6月末に珍しいと購入し、試食してみました。
 歯ざわりも、香もよく、味も調っていました。購入したものの糖度を測定しましたら、12~14度ほど、甘さ十分でしたが、秋の最盛期のほっぺたが落ちるような味とは違い、酸味が少し不足している果実もありました。しかし、越冬したリンゴとしては優秀で、おいしいと思いました。貯蔵技術の進歩には、目を見張るものがあります。

〈文献〉
1.  リンゴ新品種‘夏緑’・‘北斗’について 山田ほか
            青森県りんご試験場報告 第24号(1987)
2.  遺伝子診断(DNAマーカー)で判るリンゴの親子鑑定・交雑和合性  赤田朝子
            青森県りんご試験場平成15年度試験成果・情報発表会資料2004年2月13日

3  SSR遺伝子型を用いた青森県内で育種されたリンゴ品種の交配親確認
    2006年園芸学会研究発表資料
      阿部佳枝・五十嵐惠・初山慶道・上田高則・鈴木正彦(
青森農林総研グリーンバイオセンター)
      今智之・深澤(赤田)朝子・工藤剛(
青森農林総研りんご試験場)
4. 三上敏弘 リンゴの作業便利帳 農文協 2005年7月15日 第24刷