果実の切断面を観察する

 紅玉の果実を切ってみました。縦切りにすると、中央部に硬い部分に囲まれて種子が見えます。その硬くて食べられない芯の部分は削り取るか、食べ残します。津軽ではこの部分を「かまど」といいますが、この部分を含めて果実の構造がよくわかりませんでしたので横断してみました。 
 星型が現れました。部屋が五つあり、各部屋に種子が詰まっています。そして周囲に10個の淡緑色の点が規則的に見られます。養分の通路の維管束と思われます。星型の構造物を取り囲んで、花形の構造が見えるように思われます。

 いろんな品種の果実を横に切って観察してみました。品種ごとに見え方に違いがあり、切断直後に観察した範囲では、紅玉が一番はっきり見えました。
 切断面はそのままでも乾燥すると観察しやすくなりますが、切断面に墨汁を塗り、布でこすりながら水道水で洗い流すと、さらにはっきり見えるようになります。

 別な方法も試してみました。青インクを水で適当にうすめ、切断面を浸しておいてから、流水中で、粗めの硬い布を用いて静かにこすっていると、花形模様の部分の表面だけが削り落とされて、観察しやすくなります。 

 果実各部の名称や構造を調べるため、いろいろな本を参照しましたが、幸い、手持ちの著書に、私の撮った写真とそっくりな図と解説がありましたので<文献1>、それを頼りにして名称を入れ、観察できる範囲で整理したのが右の図です。
 花形模様に見えたのは、花托の髄が成長した部分と書いてありましたのでそのように記入しました。未熟な果実を横断して、ヨード反応でデンプンの有無を調べると、ここにはデンプンがないそうです。


果実の中心部、「かまど」を観察する

 果実をいろいろと切ってみましたが、中心部の星型に見える硬い部分の立体構造がわかりませんでしたので、その部分を果実から取り出して見ることにしました。
 果実の芯の部分を冷凍庫で一晩凍らせ、翌日解凍すると、ベシャベシャと柔らかになりますので、時間をかけて周囲から崩していくと、右図のようなものが出てきました。これはリンゴの子房です。子房を構成する各々の心皮は豆の鞘そっくりでした。

 しかし、豆の鞘は一枚の心皮からなる子房ですが、リンゴは5枚の心皮からできている子房でした。リンゴの果実の真ん中に、豆の鞘と相同な、そして見た目もよく似ている構造が潜んでいたのです。驚きました。取り出した直後はもう少し淡色でしたが、写真を撮るために少し乾燥させましたら図のように褐色になりました。

 それをさらに分解して、下図のような解説図を作りました。
 名称に間違いがあるかもしれませんが、果実の中身、特に「かまど」と称する食べられない部分の構造だけはわかりました。
 このような立体構造をしていたので、縦断面では、中心部がいろいろな形に見えたわけです。

 リンゴの子房をまるごと取り出すのに成功し、一人で満足しています。自分で「馬鹿なことをしてめでたい奴だな」と考えて苦笑しています。
 なお、花托の皮層だとか、心皮という難しい言葉を使いましたが、花と果実の関係は、最後にリンクボタンがありますので、花と果実へをご覧下さい。

  この図で示されている各部の名称は、正しいかどうかわかりません。これとは別の説明をなさるりんごの専門家や参考書があります。ですからこのページは専門の方からお叱りを受けるかもしれません。もし正しい名称と構造をご存知の方がおられましたら教えて下さい。
(注)
 かまどは家庭で火を扱う場所ですから、生活の第一のよりどころ、生活の中心から、リンゴの中心、つまり果実の芯になったようです。東北6県、群馬県、新潟県、岐阜県、長野県の全域または一部で「果実の芯」の意味で使われていた言葉だそうです。青森県では日本海側で現在もよく使われていますが、太平洋側ではあまり使われていないようです<文献2>。


蜜(みつ)

 完熟したりんごを切ると、芯の周辺が黄色く透き通った状態になっていることがあります。蜂蜜のような色合いなので、りんごの“蜜”と呼ばれます。
 蜜が入る品種はふじ北斗デリシャス系などです。一方蜜の入らない品種としては王林、やジョナゴールドつがるなどがあげられます。

 蜜の入る品種でも、蜜の入っている果実とそうでないものがあります。 蜜の多い果実は、一果あたりの葉数が多く、日当たりの良い南向きに結実したもので、完熟したりんごに多く、有袋りんごより無袋りんごに多く発生するといわれています。しかし、その年の天候にも大きく左右されるようです。

 リンゴやニホンナシに見られる「蜜症状」といわれるもので、果実の成熟に伴って果肉または果心部組織の一部が水浸状になる生理的な現象です。
 リンゴやナシなどのバラ科植物では、葉で光合成された糖質はソルビトールの形で果実に移行し、そこでブドウ糖、果糖、蔗糖、デンプンなどに変換・蓄積されます。
 リンゴのふじ北斗デリシャス系の品種では、成熟が進むに従って果実の中でソルビトールを他の糖に変換する能力が低下し、その結果、果実内にソルビトールが集積することになります。このソルビトールが周囲の組織から水分を吸収することにより、その部分が水浸状にみえるのが「蜜症状」と考えられています。
 リンゴの場合、軽い症状のうちは貯蔵中に消えてしまうことがあり、年を越したリンゴから蜜が無くなってしまうことをよく経験します。蜜自体が特に甘いわけではありませんが、蜜は、果実が完熟し、糖分が増し、水分が十分あるという状態の目印なので、蜜入りりんごは美味いと言えるのです。
(注)
 ソルビトールとはブドウ糖の還元によってできる糖アルコールの一種で、ナナカマドの赤い実からブシニョー(フランス人)により約100年前に存在が確かめられたため、ナナカマド属(ソルブスSorbus)の名をとってソルビトールと名付けられました。甘味度は砂糖の60%です。工業的にも生産され、保湿剤、甘味料など食品添加物として使用されています。
 日本で街路樹として植えられているナナカマドの学名は Sorbus amerikana subsp. japonica です。ブシニョーが扱ったナナカマドの学名はわかりませんが、フランスではナナカマドのことを一般的に Sorbier といいます。

<文献> 1.  果樹園芸大百科2 リンゴ 46ページ 横田 清 農山漁村文化協会 2000年2月25日
      2.  日本国語大辞典〔縮刷版〕 小学館 昭和55年4月20日