映画ジェームズ・ボンド(007)論
映画版ジェームズボンドは、様々な俳優を使い、時代時代にあわせて大きく変わったが、実は、2つのタイプの流れしかない。
原作小説の魅力を再現しようとするか、大人のファンタジーを描こうとするかである。
そして、大人のファンタジー路線をとった俳優の作品は全て成功した。
ショーン・コネリー、ロジャー・ムーア、ピアース・ブロスナン。
一方、原作の味わいを再現しようとした俳優はいずれも短命に終っている。
ジョージ・レーゼンビー1作。ティモシー・ダルトン2作。
この2つの路線の違いを明確に言い表しているのはピアース・ブロスナンである。
「原作のイメージ忠実にやるとしたら、ティモシー・ダルトンを一番に推したいところだね。その意味で彼は素晴らしかった。
でも、結局のところ、それは観客がボンドに期待するキャラクターではないんだ。」
観客が求めているものではないのにも関わらず、チャンスがあれば原作の味わいを表現しようとし続けたのは、ピーター・ハント監督や、ジョン・グレン監督など、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアを知り尽くしたスタッフ達である。
ピーター・ハント監督は、ジョージ・レーゼンビー唯一の主演作となった「女王陛下の007」について、こういった。
「本物のジェームズ・ボンドは、コネリーでも、ムーアでもない!レーゼンビーだ!!」
そして、ティモシー・ダルトンを起用し、「消されたライセンス」を制作したジョン・グレン監督は、こういっている。
「イアン・フレミングのボンドを数十年ぶりに復活させたんだ!私の最高傑作だ!
いつか、時が経てば、見直されるときがくる!」
ここで、原作のボンドと、映画のボンドは何が違うのかをちょっと考えてみよう。
映画のボンドのイメージといえば、華麗で、かっこよく、多数の美女をはべらせ、悠然と構えたスーパーヒーローだろう。
英国諜報部という組織にこそ属しているが、組織のことなど無視して好き勝手やっているようでもある。
一方、原作のボンドはどうか?
原作小説も作品により大きく方向性が異なるが、一貫していることは、もっと真剣であり、常に苦しい戦いを強いられ、最後はボロボロになりながらも、紙一重のところで勝利をおさめる点だろう。あくまで、英国諜報部という官僚組織の一担当でしかなく、上司の査定におびえ、不満を持ち、転職を考えている。
映像作品でいえば、たしかに「消されたライセンス」ラストの、鼻血を出し、ボロボロになり、相手に圧倒されるボンドは、原作のボンドを忠実に再現している。
ちなみに、ボンドは、他の映画作品では、言うまでもなく鼻血など出さない。
それは、かっこいいスーパーヒーローのやることではないだろう。
この違いは、成功した俳優はよく認識していた。
ピアース・ブロスナン
「原作のイメージ忠実にやるとしたら、ティモシー・ダルトンを一番に推したいところだね。その意味で彼は素晴らしかった。
でも、結局のところ、それは観客がボンドに期待するキャラクターではないんだ。洒落たユーモア感覚とかやや軽めのイメージがいつの間にか定着してしまって、それ以外は受け入れられなくなってしまった。」
「 映画に登場するボンドは、原作者のイアン・フレミングが作り出したボンドとはかなり違っている。
原作のボンドはもっとシニカルで暴力的、そして冷酷非情だ。もし映画に登場するボンドが原作と同じように振る舞ったら、過激なバイオレンスやセックス描写がよりリアル感を増して、まるで007がモンスターのように見えてしまうだろう。
そういう映画には絶対したくない、そんな思いが作り手側にはあるのさ」
ロジャー・ムーア
「要するにすべてジョークなのさ。観客は、それを観て笑う。原作のイアン・フレミングは笑いを誘うためにボンド・シリーズを書いたのではないだろう。しかし、ユーモアの魅力のないサディスティックなバイオレンス映画なんて考えたくもない代物さ」
基本的に、映画版ボンドは大人のファンタジー路線であり、スーパーヒーローなのだが、何作かやってマンネリ化してくると、俳優交代を期に原作の世界に戻り、観客の支持が得られず、またファンタジー路線に戻るということを繰り返している。
ショーン・コネリー →ジョージ・レーゼンビー →ロジャー・ムーア → ティモシー・ダルトン → ピアース・ブロスナン
もし、大人のファンタジーとしてのヒーロー、ジェームズ・ボンドが好きなら、ショーン・コネリーか、ロジャー・ムーアか、ピアース・ブロスナンのどれかが気に入るだろう。
一方、007シリーズの映画はつまらないと考えている人には、原作路線の作品、たとえば「女王陛下の007」などを是非見て欲しい。
さて、今度の新作カジノ・ロワイヤルはどうなるだろうか?
順番でいけば、原作路線を意識するところだが・・
ダニエル・グレッグがかっこ良くないため、ファンから反対運動を受けている点からも、今回は、原作路線、短命路線を歩む可能性は十分ある。
どういうボンド像を見せてくれるのか、楽しみに見守りたい。
<追記>
上記の文章は、まだカジノ・ロワイヤル公開前に書いたものです。
カジノ・ロワイヤルを見て、びっくりしました。
上記の観点どおりの原点復帰作品です。
ある程度は予想していましたが、まさか、あそこまで原作路線に戻るとは・・
ショーン・コネリー →ジョージ・レーゼンビー →ロジャー・ムーア → ティモシー・ダルトン → ピアース・ブロスナン →ダニエル・クレイグ
となったわけです。
ダニエル・クレイグが、今まで同様、原作路線=短命路線の道をたどるのか、初めての、原作路線でかつ長期路線の道を築くのか、興味深いところです。
もし、原作路線でかつ長期路線を辿った場合、ジェームズ・ボンド映画のイメージは間違いなく変わっていくでしょう。
どうなることか、期待して見ていきたいと思います。