私は、初めてヨーロッパに行った時は、ツアーに参加した。
イタリア周遊ツアーで、ローマではヴァチカン美術館に行った。
しかし、現地ガイドの指示が悪く、待ち合わせ場所を勘違いしたツアー仲間がいたために、10分見る予定だったシスティーナ礼拝堂で40分も過ごすことになった。
さて、美術館を出たあと、ヴァチカン自由見学が30分ほど用意されていた。その後は、バスに集合する予定である。
私と妻は、じっくり寺院を見学したあと、さあバスに戻ろうという時になって、宝物館があるのに気づいた。私は、個人的に絶対それだけは見たかったので、時間がないことを意識しながらも、無理矢理妻を引きずって宝物館に入った。ダッシュで見れば間に合うと思ったのである。そこまでして私が探していたものは、ロンギヌスの槍であった。これは、キリストが処刑された時に死を確認するために彼を突き刺した槍である。
ちなみに、槍でつかれたキリストの体からしたたる血を受け止めたのが、いわゆる「聖杯」である。これはまた、最後の晩餐で使われた杯でもある。
アーサー王の聖杯物語のほか、多くの伝説に登場する。「ダ・ヴィンチ・コード」でも、聖杯およびその伝説は最大のキーワードである。
さて、ヴァチカンの宝物館に入ろうと、チケットを買いに並んでいると、秘宝館のチケット売りのヴァチカン職員の一人が、こちらを何度も見る。気にしないようにしていると、われわれがチケットを購入しようとすると同時に、彼は自分の職を放棄して、こちらにやってきた(ちなみに、チケット売りはもう一人の職員が引き受けていた)。何か問題でもあったかな、と考えていると、彼は、私達二人を特別に案内するという。どうやら、彼は日本に以前に来たことがあり、カタコトの日本語が話せた。結局のところ、彼は私の妻が気に入ったのである。ダッシュでかけぬけようとしていたところだったので、断りたかったのだが、時間がないことを伝えたうえで、案内してもらった。
彼の説明は確かに有意義だった。自分たちだけで、かけぬけていたら、ほとんど何もわからずに終わっただろう。彼の説明のおかげで、キリストをさしたロンギヌスの槍、ルカの頭蓋骨、キリストがつけていた十字架(?)、など想像を絶する数々のヴァチカンの秘宝を見ることができた。彼はキリスト処刑の図の下にあるドクロを指さして、「シャレコウベ」と日本語で説明していた。なるほど、ゴルゴダの丘は、語義が頭蓋骨から来ており、それはアダムの犯した罪をキリストの血できよめるという伝説から来ていたんだなーと思いだして感心し、そのことを伝えると、逆に何でこっちがそういうことに詳しいのか驚いていた。理由を聞かれたが、まじめに答える時間もないので、教会学校に通っていたとか、いい加減な嘘でごまかそうとしたが、納得いかなそうであった。
そうこうするうちに、バスの集合時間を過ぎてしまった。彼に時間が尽きたことを説明し、ダッシュで帰ろうとすると、もうひとつだけどうしても説明したいという、何だろうと思うと、17世紀に日本に宣教した際に、大名が法王向けに送った豪華な着物だった。日本人へのサービスなのだろうが、こちらはイタリアに来てまで和服を見てもうれしくない。お礼を言ってさろうとすると、彼は、本当に名残惜しそうに、どさくさにまぎれて(それともイタリアでは許容線?)妻の額にキスをした。彼は結局そうしたいがために、ここまで説明をしていたのだろうか。職場では、彼を他のスタッフが待っており、彼もダッシュで戻っていたところを見ると、やはり仕事をほったらかしてきたのだろう。
さて、こちらもダッシュでバスに戻ると、バスがない!おそらく10分以上は遅れていただろうが、まさか先に行ったわけでもないだろう。さては、集合場所を間違えたか、と、あわててもう一度寺院に戻り、一回り走ってからまたバスのところに来てみる。すると、日本からの引率ガイドが、一人でこちらを見つけて喜んでいた。なんでも、私達が走ってくるのが見えて、バスは近寄ろうとしていたらしい。ところが、動いたせいで、バスは私達から見えなくなり、あせった私達はまたダッシュで寺院に戻ったために、バスも完全に私達を見失ったようだった。
そこで、例の現地ガイドは、きれてしまい、日本からの引率ガイドに「あんたの統率力が無いのが悪いんだから、一人で探して来い」といって、バスは次の観光地(といってもDUTY FREEだが)に行ってしまったそうだ。
結局ツアーに合流できたものの、さすがに周囲に迷惑をかけてこちらも身の細る思いであったが、システィーナ礼拝堂でみんなを待たせた女性二人連れが、「気にすることないよ」とお互い様ということで慰めてくれた。
それにしても、あの現地ガイドに対する怒りと、自由に動けない周遊ツアーのつまらなさという点をふまえ、2度とツアー旅行には入るまいと決意したのであった(他にもツアーが嫌な理由はいくつかあり、それ以来、ヨーロッパ旅行は常に個人旅行としている)。
後に、西暦2000年のイベントのためにヴァチカンを訪れたときは、宝物館は定休日で入れず、残念な思いをした。
<今回の探索の成果:後に続く人たちの調査のために・・>
・ヴァチカンの宝物館には、聖杯伝説には必ず出てくる、キリストを刺したロンギヌスの槍をはじめとし、様々な想像を絶する秘宝が貯えられている。
・ヴァチカンの職員には、日本語を操る者がいる。変に親切に案内してくれる職員がいたら、女性の方は用心した方がいいだろう。
・ヴァチカンの宝物館はおすすめだが、定休日に注意!
・ツアーでは、遅刻するとバスに置いて行かれてしまうことがわかった・・