2.講習会場にて

 晴香は、田中の指定時間の10分ほど前に会場に着いた。会場の入口にいた、初老のおじさんが声をかけてきた。

「田中ですが大平さんですか?」

 「はい、大平晴香です。メールではありがとうございました。」

 「それでは、この席についてください。隣の藤田君は、優しい子だから丁度良いでしょう。」

 隣の藤田君は、気が優しいと言われたが、少し太めで、頼りない感じがした。その他、5人の男女子学生が受講していた。

 講義が始まった。

 

<田中の講義>

2.1 総合職とは

こんにちわ。私が今回の講師の田中和夫です。なお、私の経歴や所属に関しては、あえて言いません。皆さんは、私が本日話すことを、自分で評価して、良いと思うものを実行してください。このように肩書きや、経歴で評価しないと言うのは、皆さんの入社試験で学校名を隠してエントリーすると言うのと同じ発想ですね。

 さて、皆さんは、全員文系の大学3年生です。皆さんは就職の条件は、どう考えているでしょうか。総合職での就職を考えていると思いますが如何でしょう。そこで総合職に要求されている能力は、何があるでしょう。単に大学を卒業していると言うだけで、皆総合職と言うのは甘すぎます。

 私が採用側の企業人として、総合職採用を考えるときには、会社の仕事で種々の問題を幅広い知識を総合して、解決する人材です。現在の雇用条件が厳しくなっています。例えば、非正規社員の契約更新停止などの現象に対して、どう思いますか。

 総合職と言うからには、国の政策が悪いと言う前に、自分が勤めている会社で雇用を確保することを、考える必要があります。「どうすれば受注を確保して、仕事量を確保することができるか?」「どうすれば、今の生産量でも、利益を拡大して、社員の雇用を守れるか?」このような難題に対し、答えを出すのが、総合職として働いている人たちの義務です。もちろん、入社して直ぐにこの答えを出すことは、要求されてはいません。しかし、将来には、このような役割を担うのです。そのためには、常に「なぜ?」を考えて、原因追求と説明を行った後、新しい対応を提案する習慣をつけておく必要があります。

 採用する側では、このような能力又は潜在的可能性のある人材を、求めていることを知っておいてください。

 

2.2 自己分析はなぜ必要か

 さて、今回は自己分析の話しです。皆さんは、今までの就活指導で自己分析を行うように、指導されたことがあったと思います。一方、ある種の指導書では、「自己分析など行うな」と書いています。そして、皆さんの正直な感想として、「自己分析に何を書いてよいか解からない」と言うのが、正直な所ではないかともいます。自己分析について、私の答えを先に言っておきます。私は、「正しい方法で行った自己分析は効果がある。」と考えています。

 さて、自己分析はなぜ必要か考えて見ましょう。まず最初に指摘しておきますが、今まで自己分析が使われたのは、それなりの理由があるということです。このように、理由があると考えることが、理由を見出す第一歩です。探す気のない人間には、良いものが目の前にあっても見つけることはできません。

 まず、就職ですから、採用する側の立場で考えて見ましょう。採用する立場で、自己分析を行って、「成果があった」と思うのは、どのような時でしょうか。採用側の立場になって、想像してみましょう。まず、採用側では、良い人材が欲しい。そのための選別手段を色々考えています。またその裏返しで、来て欲しくない人材を、排除したいということです。それでは、来て欲しくない人材とは、どのようなものでしょうか。

 一番来て欲しくない人は、会社の仕事を否定する人です。

「このような仕事はしたくない。」
「社蓄にはなりたくない。」

このような考えで、仕事ができるのでしょうか。次に能力です。これは、学校の成績と言うより、人の話しを聞いて正常に対応するような基礎的なスキルの欠如や、向上心に欠ける人が、困った人になります。また、実力がないのに自分の力を過信する人も、困ります。

 このような人材を選別することが、一つの目的です。

 一方、欲しい人はどのような人か、もう一度考えて見ましょう。今まで言った、ことの裏返しです。まず会社で仕事をすることに、喜びを感じる人です。そして、会社の人間関係に無事適合できる人です。また、自分の状況を客観的に把握して、仕事に必要な能力を、自分で開発できる人を欲しがっています。

 そこで、自己分析に戻って考えて見ましょう。まず、企業と求職者の間で、ベストなマッチングと言うものを考えて見ましょう。例えば、
  「その会社のしていることを、自分でもしたいと考えていて、しかるべき能力のある学生」
と言うのはどうでしょう。これは良いように見えますが、結構落とし穴があります。まず、会社の仕事が、自分が考えているものと同じでしょうか?またその仕事が、継続するでしょうか?特に総合職で終身雇用の条件で考えましょう。あなた方が、60歳の定年まで勤めるのです。そのなかで、世界の状況は大きく変化します。扱う製品の技術も当然変化します。つまり、新しい技術や製品に対応しないといけません。また立場も変化するでしょう。30代では後輩を育てるリーダーの立場、40代では管理職として経営的なセンスも必要になります。さて、ここで先ほどの学生が、自分のやりたいことが出来ない場合には、どのような反応を示すでしょうか。「自分の適職」と言うものに対する思い込みが激しいほど、それ以外の仕事に対する拒絶反応は強くなります。このようなことがあるので、私は「天職」と言う言葉を軽々しく使う気にはなれません。自己分析否定論の根拠には、このような自己分析の弊害があります。

 さて、話を戻してベストマッチングの話について、考えて見ましょう。先ほど言いましたように、企業は喜んで仕事をする人を求めています。しかし、会社の仕事は色々な側面があります。だから、一つのことにこだわらず、適応力のある人材を求めているのです。そこで自己分析との関連が出てきます。あなた方が、今までの経験で、「未知のことにチャレンジし成果を出した」ことがあったとします。このような経験を思い出し、自分の多様な可能性に目覚める。これができれば、自己分析の一つの目的を達成しました。一方、人間関係に関しても、企業は重視します。今までの人生経験を見返して、他の人から受けた好意を想い出す。そこから、他の人の発言を好意的に聞けるようになる。また、苦労に耐えて経験を思い出し、これからの苦労にも耐えることができるようになる。このような効果を、自己分析では期待しています。

 さて、今お話したことは、皆さん自身のためになる話しでもあります。自分の経験を思い出すことで、潜在的な可能性をもう一度引き出しているのです。このような、自分のためになるものを、就活でも見出すことが大切です。会社のためだけでなく、自分のためになる。これをWinWinの関係と言います。この発想ができるだけでも、会社が欲しい人材に近づきます。

 

2.3 自己分析の実行

 さて、自己分析を行うにあたって、
「今までの体験と言っても、何を書いてよいのか解からない。」

と言う不安が生じるでしょう。実際就活の本では、サークル活動での経験を元にして、自分体験談を書けという指示もあります。しかし、企業の方では、「本当に主役で活動したり、自分で苦労したのではない」体験談を読まされるのは、こりごりと言う感じです。

 そこで、皆さんにお勧めの方法を、お伝えしましょう。それは、自分の可能性に気付く体験です。これは、本来の自己分析にもなります。それでは、一つ目のワークを実行してみましょう。

 まず、左手を前に真っ直ぐ伸ばして下さい。これを、折り曲げることができないように頑張ってもらいます。握り拳を作って、手に力を入れてください。それを、右手で外側から、内側に折り曲げてください。

 力を入れたのに、曲がってしまうことも多いと思います。

 さて次は、左手の力を抜き指を伸ばしてください。特に中指を遠い先から引っ張られていると想像してください。そこで同じように右手で曲げてください。

 さて、力を抜いた方が、曲がらなかったのではないでしょうか。これは、筋肉の構造に秘密があります。腕には、内側に曲げる屈筋と、まっすぐ伸ばす伸筋があります。しかし、私達が力を入れるという時には、屈筋を使うことが多いのです。力瘤を作るのも、曲げた時ですね。さて、ここで腕を伸ばすのは、伸筋の働きで、屈筋は邪魔をします。しかし力を入れるという言葉、しかも拳骨を作る動作で、どうしても屈筋が前に出てしまいます。このように、人間の中には無意識の抵抗勢力があるのです。このように、自分の体の中にも、色々未知のものがある。この気付きも一つの体験です。

 さて次のワークは、記憶の訓練です。皆さんは、3日前の夕食は何を食べましたか?思い出せない人も、いると思います。「一々そんなこと覚えているか」と言う意見もあるでしょう。でもここで、私と一緒に時間を遡ってみましょう。まず今日の昼は何を食べました。朝ご飯は何でした。昨日の晩御飯のおかずは何でした。昼は何を食べました。朝は何でした。1昨日に戻って、晩は何を食べました、昼は何を食べました、朝は何でした。そしてその前の日の晩御飯は何でしたか?

 このように遡っていくと、想い出すことができる人もいると思います。このワークの大切なことは、人間の頭の中には想像以上に多くの情報が存在すると言うことに、気がつくことです。ただ単に想い出すことができないだけです。特に近頃の教育では、暗記に対して恐れているような気がします。覚えすぎることに恐怖を感じる必要はありません。人間の脳細胞は、生きている間には10%程度しか使わないのですから、どんどん覚えたらよいのです。

 さて、ここでのワーク二つは、どちらも自分の潜在的な力を引き出すものでした。このように、自分の潜在性を探す経験が大切です。探さない人間は得るものがありません。

 

2.4 今後の活動について

 さて、今までお話したことと加えて、就活で行っておくことがあります。それは、これから能力開発を続けることです。そのためには、読み書きの速度を上げることが重要です。手書きの日記は毎日行って下さい。また、SPI 対策などの知能検査の訓練は、継続して行うことが重要です。

 このようなことを継続する。そして、自分の潜在能力を引き出す経験を積むのも、自己分析で能力開発に熱心と書ける材料でしょう。

 それでは今回の講座は、これで終わります。

<田中の講義終わり>