4.個人講義

 藤田君が帰った後、晴香は田中に契約のことを聞いてみた。

 「前にメール頂いた契約のことですが、1000円と言うのは、安くて失礼ですが?」

 「確かに、この金額は世間一般では非常識です。但し、今回は契約の成立が重要なのです。貴女と私の間で契約が成立すれば、私も守秘義務が生じます。これから就活の作戦を立てるとき、個人的な話にも踏み込むことがあるかもしれません。その時守秘義務をきちんとさせるために、契約の形にしておきたかったのです。」

 「解かりました。契約と言う社会人の常識を、教えていただきありがとうございます。」

 「これが直ぐに理解できる、貴女の力も大したものですね。」

 晴香は褒められて少し嬉しくなったが、甘く考えてはいけないと思い直し、正直に不安を伝えた。

 「私の在学している大学は、元々女子大学でしかも入学試験の偏差値が低く、就活でも苦労しています。このような大都市の大学の学生と一緒に話しを聞くと、何か気後れしてしまいます。」

 「失礼ですが、貴女の進学はご両親が決めたことですか?」

 「そうです、家から通える学校しか許してくれませんでした。本当は、京都か大阪の大学に行きたかったのですが・・・」

 「そうでしょうね。ですから、自己PRにそれとなく、『両親の強い指示で地元の学校に進んだ』と書いておくとよいですね。より上の大学に進める可能性があったということです。但し、今後の就職後は勤務地にこだわるかどうかも、きちんと書いた方が良いと思います。」

 「両親は、『成人したら後は勝手にしろ』と言っています。」

 「それは、そのように素直に書けば良いのです。変に飾る必要はありません。ただ読み手が何を知りたいか、それを読んで書けばよいのです。採用側は、自分の会社にしっかり勤めてくれるか、勤務地などでトラブルが起こるかで不安を持っています。総合社屋の場合は、原則勤務地は会社の指定した場所です。『勤務地が何処でないと辞めます』では困ります。」

 「つまり、採用者の不安を消すように書くのですね。」

 「そのとおりです。ただし、単に書くだけでなく実際の裏づけも必要です。例えば、偏差値が低い大学にしか進学できなかった。しかし自分の実力はモットあるというなら、SPI等の能力検査で、高い数値を出せばよいのです。そのための訓練をするのも大切です。」

 「SPIの訓練したって本当の実力がないと空しいのではないですか?」

 「その質問は、半分ぐらい当たっています。しかし、SPI等の適性検査は、一つの癖があります。その癖を、知っているのと、知らないのでは、大きな差があります。まず損をしない手段として、訓練してください。それから、適性検査は文章を早く理解し判断する能力を要求します。このスキルは、繰り返し訓練すれば、伸びるものです。文章を読む、書くというスキルは、社会人として重要なスキルです。このような機会に訓練することは、今後役に立つと思います。」

 「今まで就活指導で適性検査の訓練と言われましたが、このような話は始めて聞きました。」

 「自分が、今していることはなぜしているのか?常に考えると良いですね。また今までしたことの成果をできるだけ、搾り出すようにしてください。」

 「搾り出すとは?」

 「大平さんは何か資格を取っていますか?」

 「日商の簿記2級を取りました。」

 「それをどう活かすかです。2級と言う資格は、1級でないと言う事で、自慢にはなりません。逆に自慢すれば、2級の人材と軽く見られます。最高の資格しか話しにはなりません。しかし、その知識を活かして話しをする。これが使えます。」

 「損益分岐点の話しに入れるのですね。」

 「そうです。但し、2級は大した資格ではないと言う雰囲気で、その時勉強した知識とさりげなく入れればよいでしょう。こうすれば、勉強した知識を活かす方法を知っていると言うことで、好感を得るでしょう。」

 晴香は、この話で少し楽になった。