5.その後1ヵ月経過

 その後、晴香は毎日日記をつけていた。1ヶ月も書いていると、書くことが苦にならなくなってきた。書く時間も短くなり、少し成長したと思った。しかしながら、日記を書くだけでは、小論文試験の準備には、不十分なように思った。そこで、田中に質問のメールを送った。

 

「田中和夫様
   大平晴香です

  いつも、ご指導ありがとうございます。

  毎日の日記を書いていますが、書く力はついたように思います。しかし、小論文などの試験の対策としては、これだけでは、不十分なように思います。

 次に、行うべきことがありましたら、ご指導ください。ご多忙中恐縮ですが、よろしくお願い致します。これからもよろしくお願いします。」

 

 田中は、このメールを見て、予想通りの反応と微笑したが、晴香のために少し厳しい目の返答を作った。

 

「大平晴香様
   田中和夫です

   大分書く力が身についたようですね。ものを書くことが、簡単にできる力をつけておくことは、社会人として基本的な力です。これは必要条件ですね。

   さて、私が書くように指示したことを、きちんと継続して実行している。これは、『指示されたことを、確実に実行する』と言うことで、一般職としては理想的な行動特性を示しています。しかし、総合職としては、足りませんね。言われたことに、自分でプラス・アルファを付け加える。これが総合職に求められていることです。

 特に総合職は、自分の知識を活用し、提案書にまとめることが要求されています。そのためには、まず新しい知識を整理して身につける、ノート作成の能力が必要です。次に、自分の意見を付け加えて、小論文にまとめる訓練を行うべきでしょう。

 とりあえず、ノートの作成訓練を行ってください。

 参考までに、私の前に作った損益分岐点の説明ノートの例を見てください。

 http://homepage3.nifty.com/manabizz/sonekinote.pdf

 ここで、注意しておきますが、まず教科書のまとめを、左上から書く、次に自分の経験例を付加し、最後に意見を書きます。このような配置にも意味があります。教科書的な情報、事実、そして自分の意見、この三者をきちんと分けることが、論文を書く基本です。

  本当はこれぐらい、自分で調べて私に、これをしたらどうなるか、確認を求めるぐらいの意気込みが欲しいですね。この次を期待しています。

  また疑問があったり、進歩したことがあれば、連絡してください。」

 

 晴香は、このメールを見て、厳しいなと思ったが、改めて総合職での就職を考えると、このような自主性が必要と思い、ノート作成の練習をすることとした。ただ一つ気になることがあったので、確認のメールを返した。

 

「田中和夫様
   大平晴香です

   厳しいご指導ありがとうございました。総合職になるためには、自主的に考えないといけないと言うこと、よく判りました。これから実行していきたいと思います。

   一つ教えていただきたいのですが、日記を書くだけを、実行したのは、総合職を志望する資格はないのでしょうか。」

 

 すると田中から、直ぐに返事が来た。

 

「大平晴香様
   田中和夫です

   この話しは、2つの見方があります。一つは貴女のメールにあるように、最初から自分で全て進める人材を求める場合です。これはどちらかと言うと、入社後も自分で勝手にやって欲しいと言う文化を持った会社です。しかし、日本の企業の多くは、自分の文化があり、ある程度指示に従う行動も、要求しているのです。

   だから、一旦は私の指示に従って、日記書いたと言うのは正解です。まず理屈をこねずに従う。その上で、疑問を感じて、改善行動を行う。このような要求を理解しておけば良いでしょう。あまり、人の言うことを聞かない人間は、いくら有能でも、使えないことが多いですね。

   それでは、がんばってください。」

 

 晴香は、正解といわれて、少し安心して、ノート作成の練習を行うことにした。損益分岐点の話しは、前にも田中に指摘されたことだったので、例題の部分を、自分のコンビニ・アルバイト経験で補うことができた。ノートの書き方を決めるだけで、知識が整理され、人に説明できるようになると、少し驚いた。また、手書き文字に慣れてきたので、ノートを書くことに、今までより抵抗が少なくなったことも実感した。それを、田中に報告した。

 

「田中和夫様
   大平晴香です

  ご指導ありがとうございます。その後、損益分岐点のノートを、自分用に作成しました。ご指導いただいたように、コンビニでのアルバイト経験を例として書き加えました。このようにすると理解が深まったように思います。また、日記を書いていた成果でしょうか、ノートを書くことが、苦にならなくなりました。」

 

 田中からは、次のような返事が来た。

 

「大平晴香様
   田中和夫です

ノート作成時に、自分の経験を書き加えることができたのは、貴方の理解力が向上したからでしょう。別の所で言ったことでも、使えるものは使う。このような能力も会社で成長するためには、大切なことです。特に、日記を書いて、手書きに慣れたら、ノート作成が楽になった。これを自分の体験として、知っておくことは重要です。会社生活では、ものごとを速やかにできるようにするため、基本的なスキル訓練を重視します。例えば、コンビニのアルバイトの時でも、商品を、バーコードリーダーに確実に通すため、何度も練習するでしょう。総合職でも、このようなスキル訓練を、軽視してはいけません。そして、スキルがきちんとした上で、考えを加えるのが総合職です。

さて、もう一つ、今回のノートで大切なことを、確認しておきましょう。教科書の情報・経験した事実・そして自分の意見、この3者をきちんと整理して、説明することが、論理的な話し方の基本です。残念ながら、今までの国語教育では、このような面が弱いですね。その上で、論理的な文章の書き方を、自分で考えてください。大学入試の小論文の参考書で勉強するのも、一つの手だと思います。まず、『三段論法と言うことを、知っている』と言えるようになってください。なお三段論法に関しては、以下の資料を参考にしてください。http://homepage3.nifty.com/manabizz/Ronrikunren.pdf

その次には、色々な観点から議論できるように、いくつかのテーマで小論文を作成する、練習を行ってごらんなさい。」 

 

 晴香は、論理的な文章の基本から、勉強しなおしと気を取り直して、もう一度文章作成訓練をやり直すこととした。