テイラーの科学的管理法の読み方 続編

7.延長戦

 受講生が皆帰った後、晴香は一人残り、田中にもう一度声をかけてみた。

 「貴重なお話しありがとうございました。しかし、これ以外にも読みたいのですが、もう少し教えていただけませんか。」

 すると田中は、少し迷った顔をしたが、説明してくれた。

 「もう少し読みたいという姿勢は貴重ですね。言われたことだけやるだけでは、今の社会では生きていけません。しかし、その読み方を一々教えてくれと言うのでは一寸困りましたね。」

 これを聞いて、晴香は落胆した。しかし田中はすぐに続けた。

 「しかしこの本は奥深い。貴女が簡単に読める本ではありませんね。もう少し、ヒントを出しておきましょう。」

 「ありがとうございます。この次は、全部自分のものとします。」

 「あまり焦らないように。それでは、残りの各部を説明しておきます。

まず、5の『シャベルすくい作業の研究』は、物運びと同様の単純な作業に科学的な手法を適用した結果です。シャベルで1回にすくう量にも、最適な重さがあります。これを見つけるために、有能な人の観察を行いました。そして、1すくい21ポンド(9.5kg)が最適と見つけます。ここで大切なことは、色々な比重の材料でも21ポンドにすると言うことです。このためには、重い鉄鉱石用の小さなシャベルと、軽い米粒炭用の大きなシャベルを準備する必要があります。これらの道具を個人に任せるのではなく、会社が管理する。これは当時としては画期的なことでした。このような管理の効果と重要性を、テイラーは示したかったと思います。」

 「仕事で使う道具を会社がそろえるというのは、今では当たり前ですね。」

 「そうです。しかし当時はそうではありません。これを初めて行い、管理の仕事を確立させたのがテイラーの功績です。ここでは、個人に着目した管理など、味わうべき内容がありますが、貴女が人を管理する立場になったとき、もう一度読み直してください。

  次に、6『レンガ積みにおける検証』は、テイラー自身の研究ではなく、ギルブレスと言う人の研究です。不要作業の徹底した除去と標準化と言う観点で、成果は大きいですが、彼自身の研究ではないので、感動は少ないです。

  そして、7『ベアリング用ボールの検品に対する考察』は、『科学的な視点に基づく人材選定』の重要性です。能力の個人差を見極め、有能な人材だけで仕事をする効果を示しています。しかし、作業者に対する『上から目線』が激しく、あまり好感を持って読めませんね。なお、ここでも休息の重要性を指摘しています。休息の積極的な意味を認めたのは、テイラーの功績です。ただし、あくまで経営者の立場からです。」

 「休息にまで管理されるのは、何となくいやですね。しかしサボっていると見られるよりは、必要休息と言ってもらった方がよいです。」

 「確かに、サボりと必要休息を確り別けるには、科学的視点が有効ですね。当時の管理状況では、このような科学論がある種の効果を持ったのは確かです。さて、8『高度な金属切削業務における探求』の部分です。訳者が『探求』と言う言葉を使ったのも意味深いですね。」

 「何か難しそうですね。」

 「そうです。実はテイラーが一番力を入れたのは、この部分でした。26年の実験といっています。この部分を今回取り上げなかったのは、難しいということで皆に拒絶反応が起りそうなので、あえて外しましたが、本当はこの章を読んで、自分のものにして欲しいのです。」

 「できるだけ頑張ってみます。」

 「ただし、議論の細部は理解できなくてもかまいません。現在では条件が変わっているので、そのままでは使えない話しが多いです。しかしながら、科学を現実に使うという観点では、非常に大きなものを持っています。まずこの部分の改善は、2段階になっていることに注意してください。最初の段階の改善は、有能な作業者の行動を観察し、標準作業として展開する方式です。これは、銑鉄運びやショベル作業、レンガ積みでも行っていることです。次に、観察結果をまとめて、科学的な考察を行う方法です。テイラーの手法は、科学というか工学の一つの模範です。そこでこれを一つひとつ順を追って説明します。まずp120〜p121を見てください。そこでは、削るということに焦点を当てて、検討しています。言い換えると、エンジンをつくのであろうが旋盤を作るのであろうが、削るということ共通と言う観点です。このように焦点を絞ることは、問題を解決しやすくするよい手段です。さて、次に具体的な目標を設定します。p125p128を見てください。

1)作業時間をできる限り短くする、機械の切削速度を求める

2)その時の送り速度をどう設定するか

  この問はシンプルですが、とても経験則では解けません。26年の研究で解ったのは、12物独立変数の影響があるということです。例えば、以下の様な要素があります。なお、この本の翻訳者は機械工作の専門家ではないようですね。訳語に違和感があったので、一部修正しておきました。

 

   a)削る金属の性質、チルド鋳鉄で1、低炭素鋼なら100

   b)バイト(刃物)の種類 

   c)削り切り子の厚さ

   〜

   l)機械の牽引力、切削速度や送り速度の変化

 

   この変数の細部にこだわる必要はないですが、p128に大事な発言があります。

 

   『実験の間、ある要因の影響を確かめるためには残りの11の要因を一定に保たなくてはならず、これには多大の時間がかかった。肝心の影響を探るよりも、11の変数を一定に保っておくことのほうが、はるかに難しかったのである。』

 

   これは、科学的な実験の本質を良く示しています。そしてこれから得た法則を、12の数式で表現しました。しかし、学校の研究ならこの式が終点かもしれませんが、現実の問題に役立てるためには後一歩が必要です。現実に使えるためには、答えを速やかに得る必要があります。そのため、数学者の応援を求めましたが、上手く行かず、結局自分たちの手で計算尺を作ります。現実的な答えは、精密でなくても良いのですが、現場の作業者ができる操作で、短時間で解ける必要があります。

   学校科学から現実の問題に適用するセンスをこれで、理解してもらえれば嬉しいです。」

  晴香は、これが難しかったので一つ聞いてみた。

 「まだはっきり解からないのですが?」

 「これを、自分の問題で考えて御覧なさい。確かあなたは、コンビニでアルバイトしましたね。」

 「はい、それで何か?」

 「そこで、弁当の売れ行きを予測してみましょう。どんな要素を考えますか。」

 「そうですね、天気、温度、それから曜日ですね。当然時間でも売れ筋は変わります。」

 「それを、仕入れの数まで数式化できますか。」

 「店長のパソコンで納入数を決めているので、そこまで考えていませんでした。恥ずかしいです。」

 「そうでしょうね。話し忘れましたが、先ほどのテイラーの計算尺は、現在ではパソコンのソフトになっています。だからますます中味が見えなくなっています。しかし、現実にはこのような条件と数式を考える人材が必要なのです。」

 「解かりました。自分で一度考えて見ます。」

 「そこで一つ注意しておきます。多くの要素を考えないで、できるだけ絞ってください。そして一度出来たモデルに、他の変数を追加する方が良いと思います。そして、一般的な法則で説明するようにしてください。本当は自分の仕事でモデル化して考えることで、テイラーが解ったといえるでしょう。」   

 

<終わり>