アタカーズ・ビジネス・スクール(メルマガ)投稿記事
第1回 経営を会社数字とつなげられる能力=計数感覚を身に付けよう。
第2回 ミナト商事の問題表面化
第3回 銀行からの要求
第4回 厚木本部長の辞表の真相
第5回 新田の試練
第6回 営業の経験を活かして
第7回 営業現場の混乱
第8回 収益性の問題をめぐって
第9回 資本コストを意識した経営
第10回 新田の苦笑い
第11回 収益性のアップの方向
第12回 在庫は悪である理由
第13回 月次業績管理で大切なこと
第14回 運転資金管理の難しさ
第15回 営業キャッシュフローの捉え方
第16回 3つのキャッシュフローと減価償却(08年4月)
第17回 キャッシュフローの動きと経営(08年5月)
第18回 初めての事業計画 (08年6月)
第19回 儲けの意味 (08年7月)
◆第1回 経営を会社数字とつなげられる能力=計数感覚を身に付けよう。
◆第1回 経営を会社数字とつなげられる能力=計数感覚を身に付けよう。
こんにちは。計数マネジメント力基礎講座の講師を担当する千賀(せんが)です。 経営は意思決定の連続です。経験と勘は重要ですが、データが加われば、経営判断はよりスピーディに、正しく行えます。経営活動を会社数字と関係させて考えられる能力(計数感覚)は、 経営能力の一つで、ぜひ身に付けたいものです。今後このメールマガジンで、経営に関連する考え方や計数感覚を磨くコツなどを紹介していきたいと思います。ぜひ経営判断に際して参考にしていただければ幸いです。
■売上高や販売量だけで現場の評価をしたら、どんな問題が出るでしょうか。
この質問は講座の初めに皆さんによくする質問です。受講生が、売上のお金がどのように流れるかをどこまで連想できるか確認するためです。営業担当者がこの流れを連想できれば理想的ですが・・。
■問題が起きたある企業の例で、考えてみましょう。
OA機器販売会社であるミナト商事の若き営業担当の新田は、予算達成に向けて期末(3月決算)の追い込み営業をかけていた。
営業マネジャーの厚木から期末の着地点を打診されたので、新田は予想台数を報告した。現実は厳しい状況だが、「やるしかない」というミーティングの雰囲気から、新田は売れる見込台数ではなく、売るべき台数を報告していた。他の営業も同様な報告をしているようだ。
厚木マネジャーはこれらを集計し、本社に報告した。本社ではこの台数を元にメーカーに発注している。無理な発注が影響し、販売できない台数が増加した。
そんな時、経理部から期末在庫の確認がきた。全営業所の在庫を集計したところ前年と比べ20%も在庫量がアップしている。売上高は10%アップである。本社仕入担当の沢井は、角田営業本部長に呼ばれ在庫増の原因を聞かれた。
「現場の報告を集計しただけなので、わかりません」沢井はそう答えるしかなかった。
問題はさらに大きくなる。新年度に入った4月の中旬のことである。資金金担当の大木が声を荒げて、石田財務部長に走りよって報告した。「預金残高が足りません。これでは仕入代金の支払ができません」さらに問題が起こった。売掛金が5月末時点で前年同期の30%もアップしている。回収できない売掛金が含まれている可能性が高い。新田は、4月、5月と販売先を回り、売掛金の回収に奔走していた。
「これでは、新規得意先の開拓ができず、また出遅れる」新田はため息をつきながら一服していた。
これから先は想像していただきたい。
Q:だれが悪いのだろうか? 何が問題なのだろう?
第1回の数年後の期末
OA機器販売会社ミナト商事の品川営業所・営業マネジャー厚木は、本社の本部長に昇格。新田は営業マネジャー昇進したが、相変わらず期末の追い込みに奔走している。若手営業も増え、新田の指導で新規開拓に走っている。本部では、資金が徐々に不足し、銀行からの借入残高が増加の一途である。
■前回は、何が問題だったのだろうか?
売上増加率よりも、在庫の増加率、売掛金増加率が多いことです。このため運転資金が必要になり、借入増が起こっていることです。しかし責任論など、大きな問題になっていません。新田も厚木も順調に出世しています。誰か問題を意識しているでしょうか。もし意識しているとしたら、資金ショートに気づいた資金担当の大木と石田財務部長です。実は、石田財務部長は、借入残高が増えていることを何度も山田社長に報告しているのです。しかしいつも「任せる」の一言です。社長は急がしいので仕方ありませんが・・。今日も社長は、愛車のベンツ(4ドア)で得意先会のゴルフコンペです。
■話は続きます。
取引銀行の横田支店長もコンペには時々参加している。「御社は、売上高と経常利益の伸びがすごいですね」という横田支店長のあいさつがわりの言葉に、いつも山田社長はご満悦の様子だ。
さて、ミナト商事にOA機器を納入している甲メーカーの営業である大田は、4月以降の納入予定を確認するためにミナト商事の本社に来ていた。営業本部長の厚木と仕入担当の沢井が同席している。「3月は、仕入を少なめにしたい」と沢井が声をあげた。その理由を聞くと「実は在庫がまだかなりある」という回答だ。大田は困ってしまった。なぜなら4月には、新製品が発表になるからだ。「在庫はどのくらいあるのですか?」と聞くと、2ヶ月分は残っているらしい。大田は「3月中に何とか在庫を一層しないと、不良在庫になる」と心配になった。「先月まで売れ行き好調とお聞きしていたので、これほど在庫が残っているとは思いませんでした」と大田は言うと、「年明けから急に売れ行きが悪化してね。営業会議で各営業所長は、予算はいけると言ったんだが?」厚木本部長は悔しそうに話した。大田は新製品の話を切り出した。厚木本部長の顔が赤くなって「それは大変だ。なぜもう少し早くいってくれないなんだ」「すみません。新製品発表は、最近決まったもので・・」「大田君!君が通常より多く仕入れれば、5%以上は戻すと言ったから無理して仕入れたんだよ。困った!」大田を責めるように厚木は強く言い返した。5%というのは販売奨励金である。メーカーや卸が、自社製品の販促手段としてよく利用しているリベートである。販売奨励金を受けるミナト商事では、営業外収益で処理しているため、経常利益へのインパクトがある。銀行が経常利益を重視するので、社内でも処理法で問題になることはなかった。また営業現場は、以前より売上高予算達成が唯一の評価指標である。
■今後が非常に心配になりませんか。増加している借入金は、運転資金として数ヶ月間借りる短期借入金です。このような借入金の増加は、売上高が伸び、利益が出ているときは、あまり問題にならないのです。問題が明らかになるのは、市場環境が変化し、売上高と利益が減少を始めた時です。
そうなると売上高の減少で得意先からの入金が減り、利益の減少が資金の減少に拍車をかけます。しかし営業現場からは、売上予算達成のために販売在庫の確保を本部に要求してきます。仕入先からはシッカリ請求されるので、資金はますます不足します。この状況が明らかになると、銀行は焦げ付きの可能性を懸念し、貸付けに慎重になります。ミナト商事の資金繰りは急速に悪化していきました。
ここで皆さんに問題です。
Q1:問題の本質は何でしょう?
Q2:あなたなら、現時点でどうのような経営判断をしますか?
Q3:次回は新たな展開が待っています。ぜひこの後の展開を予想してください。
第2回の最後に3つの問題を出しました。
Q1:問題の本質は何でしょう?
Q2:あなたなら、現時点でどのような経営判断をしますか?
Q3:次回は新たな展開が待っています。この後の展開を予想してください。
Q1とQ2については、ご回答をいただきました。ありがとうございます。
Q1については、「販売奨励金増額の意味を考えずに仕入れを増やしてしまった事」との回答です。「販売奨励金増額の意味」についてご説明がないので、私の方で解釈するしかありませんが、「甲メーカーの売込に乗ってしまった」という意味ですね。売込みには間違いないのですが、それを長年受けてきたミナト商事には問題がなかったでしょうか?この点を今後考慮してみてください。
Q2については、「今月の仕入れをストップし、販売奨励金増額(5%)を使ってキャンペーンを実施し在庫を売り切る。在庫を残すのは絶対避けたい」との回答です。この考えは一見正しいように思いますが、新たな問題を発生させます。
在庫を売り切った後に、新製品が発売され、在庫を買わされた顧客はどう思うでしょうか。
また売り切る時に注意すべきことは、何でしょう?
2点に注意すべきと思います。
@売る時に、新商品情報をシッカリ提供する。
A無理に売らないで、残った在庫は、損してでも早急に現金化する。
この上で、「問題の本質」を見極めて対応することです。
現在、さまざまな業界でリベートを廃止するか、縮小しようとしています。その対応が対処療法なのか、問題の本質を理解した上での戦略なのか、見極めないと、生産、仕入、物流、販売のすべての関係者を道ずれに間違った方向に行ってしまうこともあるのです。この2点を行うという意見が通りにくい会社の雰囲気が、不祥事を引き起こすのです。
あるある大事典の番組捏造の問題、ライブドア問題などは、ミナト商事と違う業界ですが、問題の本質は同じではないでしょうか。
現時点で問題の本質はまだ見えていませんか。第3回の話を続けましょう。
■第2回から数年後のことである。
銀行をとりまく経営環境が変化し、融資先企業の格付けによって、金利を差別化する傾向が強くなっていた。取引銀行の横田支店長が転勤になり、新たに亀田支店長が赴任してきた。ミナト商事の山田社長と石田財務部長は、銀行の支店長室で亀田支店長と話をしている。亀田支店長は「御社の融資残高かなり増えていますね。この資料をご覧ください。御社の財務健全性が非常に悪化しています」
山田社長は格付け表を見た後、石田に目をやった。石田はこの事態はわかっていた。「何度も社長に報告しているだが・・・」と心でつぶやいた。石田は「その数字は前期末のものです。積み残した在庫は4月中には何とか売り切ったので、現在、在庫回転日数は、50日から35日程度に戻っています」亀田支店長が見ているのは確かに前期の決算データに基づくものである。亀田支店長は「御社の財務状況を勘案すると金利を来月融資分から1%引き上げさせていただきたい」と切り出した。「半年後にまた見直しますから、どうか財務の健全化に取り組んでください」と冷たく返すのだった。山田社長は「もう長いお付き合いですから、再考願いませんか」と一押しすると、「よく存じあげていますが、本部の方針なので・・・。今後も私どもをよろしくお願いします」
会社に戻った2人は、銀行が作成した格付け表を見ながら、話し合っていた。
「石田部長、この状況は何だね。財務責任者は君だよ。30億の短期借入金があるから3千万円金利が増えるわけだろう。利益が出ているとはいえ、これではY社になんと説明したらいいんだ」
実は、ミナト商事は昨年に大手商社Yから20%の出資を受けていたのだ。ミナト商事は、Y社の持分法適用会社になっている。事業の拡大を図るY社では、OA機器部門の強化の一環で、販路の拡大をめざすミナト商事と思惑が一致したためである。
財務の健全性の悪化の原因は、在庫だけが原因ではない。売上債権回転日数が100日もある。価格競争の激化で、売上高粗利益率が悪化し、営業利益率が減少の一途で、現在1.5%である。にもかかわらず経常利益率は4%で、業界平均3%よりいいのである。
石田は山田社長に「在庫の削減と売上債権の回収を早めて、短期借入金を減らさないと、今後ますます借入の必要が出てきます」「わかった営業本部長と相談しよう」
営業本部長の厚木は、その後、辞表を提出する。
いったいこれは、どういうことだろう?
Q1:営業本部長に何が起こったのだろうか?
Q2:引き続き、問題の本質も考えてください。
第3回の問題は以下の2点でした。
Q1:営業本部長に何が起こったのだろうか?
Q2:引き続き、問題の本質も考えてください。
今回も多数ご回答ありがとうございます。いくつかご紹介します。
Q1の営業本部長の辞表提出の理由についての推測です。
(Aさんのご意見)
社長から早急な在庫の削減と代金の回収期間を早めるように言われたが、部下に業務命令で伝えたところ、当然に取引先からブーイングがおこり、業績が更に悪化。部下も音を上げ、苦情を言い始めた。そこで社長と部下の板ばさみとなり、限界を感じて辞表を提出するにいたった。
コメント:在庫削減と代金回収の早期化が、お客から見て、納品遅れ、早期支払いということになるので、ブーイングが出たのですね。Aさんは、そのようなご経験があるのでしょう。中間管理職の苦しい立場に耐えかねての退職。厚木営業本部長まで上り詰めた人が、ずいぶん柔ですね。現実には無理して管理職をやっている方が多いので、否定できない現実として考えさせられます。
(Bさんのご意見)
空売りしていた。回収不能先に販売していた。
コメント:空売りはいけませんね。いつかばれますから。回収不能先も同じです。ミナト商事としては最悪のケースですから、これは発覚すれば、辞表も止むを得ないでしょう。会社の粉飾決算などでは、空売りは子会社などを使ってよく行われる手ですね。
(Cさんのご意見)
結論として、矛盾する目標(指標)を会社が営業に与えたためと考える。在庫の削減&売上債権回収サイクル短期化重視は、営業、特に該当ケースの商社系PC再販のディーラーにとっては、売上の減少に直結しうる施策である。
おそらく、従来、特に予算達成を目指した期末月末での、お客様とのリレーションを活かした「営業力」、「押し込み」販売をしているさなか、在庫の削減および
売上債権回収サイクル短期化を管理部門から指導されると、営業本部長としては予算達成の困難化、および部下のモチベーション管理に影響したと考える。
コメント:
実に経験あふれるご意見です。「お客様とのリレーションを活かした「営業力」、「押し込み」販売」という表現ですが、営業力≒押し込み販売と捉えるならば、悪い営業力ですね。営業手段に代金回収条件を使うなら、営業力がない証拠です。
管理部門の指導が正しいならば、部下のモチベーション管理のやり方が間違っていたのでしょう。逆にモチベーションを下げないために、管理部門の指摘を無視すれば、会社はますます悪い方向に向かうことでしょう。
今後、どうすべきかが課題ですね。この矛盾だらけの状況を作り出したのが 厚木なら、仕方ないですが・・?
Q2の問題の本質に対するご意見です。
いくつか列挙します。
@仕入れのために借入金が発生するところに問題
その対策として、得意先への納期が遅くなる分、債権回収をゆっくりにしたり・・
コメント:対策としては、本質的な解決ではありません。対処療法ですね。
A会社としての目指すべき方向、重要な管理指標について明確なビジョンと一貫性がない為と考える。
具体的には、例えばキャッシュフロー管理といった管理会計を会社の主軸として、営業に対する目標設定からインセンティブも、予算(受注売上)達成のみならず、在庫削減や支払いサイト短期化、回収遅延の削減といった指標を設定すべきと考える。(もしくは、会社の方向【PC販売事業】が例えば販売店として規模の最大化であるならば、支払いサイトの短期化は営業に課さない。但し経理部門としてはファクタリングサービス等の活用を検討すべきかもしれない)
コメント:
具体性があって、わかりやすいですね。管理指標に在庫削減や回収サイトを課すやり方は、良いと思いますが、これも本質的な視点ではないですね。
後半の営業が作った売上債権を、経理部門がカバーするやり方は、問題を発生させ続けながら、対処していくイメージで、本質的な議論を生みません。
計数目標は、本質的な問題をクリアーして初めて有効に機能します。売上高日本一を掲げても、店舗数何千店を掲げても、利益最大化を掲げても、社員待遇業界一を掲げても、ミナト商事の問題は起こるでしょう。もっと本質を追求しましょう。
■山田社長と厚木営業本部長が話し合っていた。
厚木は「在庫は、売上予算の達成には必要です。毎年ギリギリの状況で売上予算に追われているので、各営業所からの納品要求に対して即納できるようにしておかないと、現場を納得させられません。」「売上債権については、最後の手段としてある程度認めてください。全社売上予算は一度も未達成はなかったと思います。」
山田社長は「わかったが、このままでは金利がアップして、経常利益が伸びない。Y社に対しても私の立場がない」
石田財務部長が話に入る。「在庫も売上債権も減らさないとだめだ。資金繰りがかなりきびしい。短期借入金をこれ以上増やすと、経常利益を圧迫する」
山田社長は「経常減益では、Y社に対して説明ができない」と戸惑った様子である。
石田は、仕入先に支払いを伸ばす交渉は出来ないかな」と指摘した。
「それは、仕入担当の沢井君がやっている。一度交渉させてみよう」と厚木は何か考え込んでいるようだ。
その後、再び銀行との話し合いが持たれた。経常利益が伸びないと金利1%アップの撤回はないという。しかしこれ以上の販売数量アップはかなり苦しい。
厚木本部長は、甲メーカー(仕入先)との交渉の席に沢井とともにいた。
「仕入高の5%バックをお約束しているのですから、そちらから支払期日が長くなるのであれば、5%を4%に下げてほしい」という。
厚木本部長は、その条件はとても飲めなかった。受取リベートが減って、経常利益予算の達成が厳しくなるからだ。本部長の業績責任は、売上達成とともに、経常利益目標の達成が重要事項あった。
厚木は「これではだめだ。このままだと売上予算も厳しいし、経常利益目標も達成できない」
厚木は山田社長に報告した。「甲メーカーなどの仕入先は、こちらの支払期限の延長依頼には首を立てに振りませんでした」
山田社長は、石田の進言に従い在庫の削減と売上債権の削減を指示するととともに、甲メーカーなどの仕入先との交渉を石田に再度指示した。
その後、厚木本部長は、自ら辞表を出したのである。山田社長は驚いた。
「なぜ君はやめるんだ?」
実は、経常利益予算の達成のために、各営業所など社内で使う事務用機器の購入に際して、仕入先各社にリベートを要求していたのである。このリベートについては、社長に報告していなかった。社内用の事務用機器は、Y社を通して仕入れるという社長方針であったが、それは実行していなかったのである。従来からの流れで、社内用の事務機器も甲メーカーを中心に仕入れ、リベートの水増しを要求していたのである。
厚木が責任をとって退職した後、営業で優秀な成績を上げていた新田が営業本部長に抜擢された。若手の起用を思い切った異例の人事である。しかし新田は思わぬ試練を味わうことになる。
Q:新田の味わう試練とはどういうことでしょうか?
第4回の問題は「新田の味わう試練とはどういうことでしょうか?」でした。
いろいろなご意見がありましが、次のストーリーから判断してください。
■2つの試練
新田は、ふだん現場から見ていた本部の雰囲気に少し緊張気味である。見ていたというよりは、会議などで時々来ていた程度で、ほとんど本部に来たことがなかった。
在庫確認で、いつも電話で話していた沢井、売掛金の回収遅れの際には迷惑をかけていた資金担当の大木、時々事務的なことで教えてもらっていた営業本部の庶務の相田などを目の前にすると、あらためて「本部に来たんだ」という実感がわいてくる。相田は笑顔が素敵な女性であった。
新田が相田から渡された全社予算書を見ていると、石田財務部長が声をかけてきた。「新田君、栄転おめでとう。これから大変だが、がんばって」「ありがとうございます。がんばりますので、いろいろ教えてください」
石田は続けて、「予算のことだが、営業本部としては、全社の売上予算と経常利益予算の達成に責任を持ってもらいます。仕入れについては、販売計画が優先されるので、営業本部長に権限があります。実際の担当は沢井君がやるので、何かわからないことがあればいろいろ聞くといい」という。
@新田は実はとても戸惑っていた。「経常利益予算なんか、現場では聞いたことがなかったからだ。いったいこれは何だ」
新田は、会計的なセンスはゼロである。営業には自信があるが、利益予算を突きつけられ、非常に不安になっていた。
この時点で、新田は責任の重さより、仕組みの複雑さに戸惑っているのである。聞くに聞けない恥ずかしさから、その日は、同期の菊池を誘って飲むことになった。菊池は新田と同期の経理の担当者である。会計的なことは菊池に聞くしかなかった。菊池に打ち明けた。「困ったよ。実は経常利益予算だが、損益計算書すらいままで見たことがなかったから、経常利益を達成する方法が見えない。さっき本屋で、「経理の本」を買ってきたんだが、読む気がしなくてな」
新田は本当に困っている。しかも全社予算書には、ROA、ROE、資本コストという全社目標があって、これも何のことやらさっぱりわからないのだ。
菊池は、「心配するなよ。俺なんか簿記3級しかないけど、経理部でしっかりやってるよ。慣れてしまえば難しくないさ。そんなこと忘れて、今日は楽しく飲もう」
翌日、全社予算書を読みながら、また戸惑った。在庫削減と回収サイトの短縮が計画されているが、その理由がわからなかったからである。営業の当時、即納の要請から在庫を持つように本部に要請し、売上債権の回収サイトも営業所でコントロールできないと非常に苦しかったのを実感している。またかつてのトップ営業としてのプライドが、在庫削減と売上債権の回収サイト短縮の理由を聞くという行為に踏み込めなかった。
Aそんな新田は、本社の会議で「即納体制のための在庫確保と回収サイトの一定の裁量権を認めてほしい」と懇願してしまう。石田財務部長は反対したが、山田社長は、増収増益が達成を条件に認めてしまう。
その代わり、リベートは商品仕入でしか受け取らないことを決める。しかし、前任の厚木辞任の原因でもあった営業所を拡大するたびに得ていた備品などから発生するリベートはなくなる。これによって経常利益率が0.4%(経常利益1億)減少することになる。この分は、売上増でカバーする必要が出てきた。
新田は、現場とは違う難しさを感じていた。
今回の問題です。
Q:前途多難な新田は、どのような増収増益策を打つだろうか?
さて、第4回の「新田の味わう試練とはどういうことでしょうか?」はわかりましたね。
Aさんの回答が一番的確でした。
「そもそも従来の枠組みの中で優秀な実績をあげてきた、新田自身がゼロベース思考、新しい枠組み&価値感で、思考と行動を変革できるのか?」という指摘です。実に本質を見ていますね。もう少し具体的に書いていただければなおよかったと思います。
営業本部長という役職に、計数感覚のない人がつくと計数計画と営業活動と乖離する恐れがあります。ここに、一つ問題点が見えませんか?
■新たな決意
営業本部長に新田は、購入した「会計の本」を、懸命に勉強していた。経常利益、回転率、ROA、ROE、財務レバレッジ、資本コスト、営業キャッシュフロー、EVAなど、全社予算書に出てくるキーワードの意味、それぞれの関係がまったく理解できなかったからだ。親友の菊池にだけには、聞くことができたが、やはり真に理解するまでには至らない。
新田は、菊池につぶやいた。「全社予算書って、なんて難しい表現が多いんだろう」すると菊池は「それを作っているのは、石田部長のところだよ。あの人たちにとっては普通みたいだよ。以前、自分も資金担当の大木に資本コストについて、質問したんだ。そうしたら何て言ったと思う」と返してきた。
「さあ?」新田は不安げに首を傾げた。
「そんなことも知らないのか、だって」と言われたことを菊池は打ちあける。
「何とか説明してくれたんだが、なにを言っているのかわからなかったね。それから、聞かないことにしたんだ。親会社の考えが、だいぶ入っているみたいだね」
新田は、やばいと思った。品川営業所の当時、資金担当の大木とは売掛金の回収に関して、かなりやりあったからだ。
「君たち現場を知らない人間が、ガタガタ言うんじゃないよ。雨の日も風の日も、身を粉にして営業している。現場の苦労もしらないで・・」と思わず余計なことを言ってしまったことがある。しかし、その点は赴任のとき謝ったのだが。
大木は新田より先輩で、生真面目な男である。営業で大雑把な新田とは、肌が合わなかった。今後、予算のことでは、大木ともやりあわなければならない。経営数字のことで同じ土俵に立つと、とてもかないそうもない。このままでは、議論にすらならないことを新田は感じていた。
その夜、学生時代の友人と飲む機会があった。大手医薬品メーカーで営業をやっている米田という男である。学生時代は、ラグビー選手で体もがっちりしている。米田に予算書のことを相談してみた。米田は「俺も営業だけど、そんな難しいこと知らないよ。そんな数字のことより、実地たな卸しや売出しの時に顧客のドラックストアの手伝いで、人の3倍動いてとても感謝されているよ。営業は体力さ」
米田は体育会系で、人当たりが良く、バイタリティにあふれている。
「でも新田、お前もすごいじゃないか。その若さで営業本部長だなんて。本部長に抜擢されるくらいなら、かなりの営業成績を残したな」
「そうさ、3年連続トップ営業だった」
米田とは馬が合う。やっぱり営業同士はいいな。話も通じる。
米田は「新田が信じた方向でやればいいんじゃないの。立派な営業成績残したんだから。難しいことは考えないで、がんばれよ」
その夜は、遅くまで梯子酒が続いた。
■増収増益策
新田は、割り切った。
「あまり難しく考えないで、自分がやってきたことで、本部長に任命されたんだから、自分を信じてがんばろう」と心に決めたのである。
新田は、営業でよく顧客から要求された「いろいろな製品を比較してから決めたい」という言葉を思い出していた。
ミナト商事では、甲メーカーの製品だけでなく、他社の製品も扱っているが、リベートで有利な甲メーカーの製品を推奨する傾向が強かったのだ。
その体制は、角田本部長以前からあり、厚木本部長と引き継がれていた。新田はここで独自カラーを出そうと考えた。
そこで、新規の仕入先も開拓し、低価格仕入れを徹底することを考えた。新規の取引先なら、仕入価格交渉も徹底できる。支払条件も洗い直せる。その結果、品ぞろえを拡大しながら、粗利益を確保しようと考えたのである。仕入先の開拓には、親会社Y社のルートを活用すればいい。
その上で、販売費・一般管理費を削減して、利益予算も達成する。新田は、経理の勉強をしたことを活かして、こんな策を実行していくことを決断した。
このとき新田は、売上高−売上原価−販売費・一般管理費=営業利益、営業利益+営業外収益−営業外費用=経常利益という損益計算書の構造図を頭に叩き込んでいた。
今回の問題です。
Q:その後、業績はどうなったでしょうか。その理由も考えてください。
第5回の「前途多難な新田は、どのような増収増益策を打つだろうか?」は、わかりましたね。代表的な回答をお知らせします。
多くの方が、「在庫確保と回収サイトの一定の裁量権」を得た新田の権限を利用した策を提案していました。このようなアプローチは、増収につながっても、キャッシュフローの改善、借入の削減につながりません。
その点を踏まえて、回答していただいた方のご意見も紹介します。
対処療法的な施策ではなく、以下の観点を追加すると良いと思う。
@営業活動(計画)の見える化の改善
⇒販売計画の精度アップによる最適在庫の確保依頼(メーカ+社内)
A回収サイト短縮可能なお客様に対しては個別に交渉
B納期&回収サイト(金利)を踏まえた、変動標準提供価格のテーブル作成
⇒理想論?
@は、販売情報をメーカーに提供することで、過剰在庫、在庫不足をなくそうという試みで、多くのメーカーにとってありがたい策ですが、ミナト商事の販売計画の精度をどのように上げるかが課題ですね。
Aこれは、ぜひ行いたい政策です。営業担当者の意識も変わるし、よい機会でしょう。
Bこのような差別化は、今後必要になるでしょうが、実現に向けて多くの課題がありそうですね。業界は違いますが、資生堂が、リベートの支払い方法を、販売実績ではなく、接客改善した特約店優遇する政策を打ち出しています。顧客志向に立つと、もう一ひねり必要でしょうか。
■増収増益策の結果
結果は、売上は伸びたが、粗利益率(売上総利益率)が悪化した。在庫は増える一方であった。なぜなら、取扱い品目が増え、不要なものまで仕入れることになったからである。売上債権については、特別な指示をしなかったために、減るどころか増加してしまった。
新田は財務部長の石田と本社の会議室で向かい合っていた。資金担当の大木も同席している。
「新田君、この3ヶ月で、借入金、特に短期借入の必要性が高まっているんだ。この原因が在庫と売上債権の増加であることは、明らかなんだが、どう考える」と石田が切り出した。
新田は、「売上高も販売数量も、10%は伸びていますよ。予算にはまだ届きませんが、この調子でいけば、売上予算はいけそうです」主張した。
石田は、「短期借入金が、前年同期比20%伸びているから、売上の増加率を超えているんだ。このままだと、黒字倒産だよ。」
2人の会話はかみ合っていないようである。大木が口を挟んできた。「新田本部長。先日お渡しした9月末の経営分析表を見ましたか。運転資金の要調達率(注)が20%です。この意味わかります。常に年商の20%の運転資金が必要になるということです。この財務体質を早急に改善しないと、借入の必要性は上がる一方です。年間10億円売上を伸ばすと、2億円の資金が必要になるんですよ」
新田は、困った。なぜなら大変なことになっているようだが、大木の言った内容がよく理解できていないからだ。「財務部の連中は、これだから困るよな」と思ったが口に出して言うわけにはいかなかった。
「それでは、なんですか。売上予算いかなくていいですか?」と言ってしまった。大木は、「それなら会社が倒産してもいいのですか。売上予算を達成しても、会社がなくなったら、元も子もないですよ」
営業当時、大木と売掛金の回収でやりあったことを、石田は思い出していた。
「とにかく早急に対策を打たないと。社長にも報告するので、対応策を考えておいてくれないか」石田は、なだめるように提案した。
新田は、これ以上は、何も言えなかった。
■営業現場の混乱
営業現場からは、取扱い商品が変化したことで、商品説明がうまくできないという問題が上がっていた。これまでは、甲社を中心に取引の長い企業が多く、商品説明などの資料や研修体制も充実していた。メーカーとの意思疎通もシッカリしていて、フォロー体制も万全だった。しかし、仕入先が増えて、各仕入先に同じような対応を求めることは難しくなっていた。低価格の仕入れも影響しているようだ。その結果、営業担当者の商品知識不足が起こり、OA機器の購入企業やパソコン専門店や家電量販店などの販売先に対して、提案型営業をできず、競合の卸に商品提案力、売り場提案力で競り負けることが多くなっていた。
そのため、競争力アップの源泉が、価格だけに陥って、値引き販売が横行している。仕入ルートにY社経由の取引先が加わったことで、仕入価格が安くなったのものその傾向を助長した。結果、売上総利益率は、数年前の15%から10%まで低下していた。すべてが、悪循環しているようだ。
新田は、営業力のアップのために、営業担当者の商品知識の向上と卸としての提案力のアップが急務であると感じていた。 しかし、財務面の改善が、Y社から強く要望されていた。そのため経営管理室が新設され、Y社から室長として花田が出向でやってきた。
ミナト商事の本社関係者は、経常利益の減少はわかっていたが、さらに意外な点から、収益性の低さを指摘された。
Q:「意外な点から収益性の低さを指摘された」とはどのようなことだろうか?
また、本来、収益性とはどういうことだろうか?
第6回の問題で、かなり本文と近い内容をお寄せいただいた方がありましたので、ご紹介します。元ABS受講生の方だそうです。
・多品種を取り扱うことで、在庫が増加する
・新規取引先に不利な支払条件が行き過ぎると、
取引先が、上質なサービス、製品提供を怠ることになり、
顧客満足度低下につながる可能性がある。
あるいは不利な支払条件でしか取引してくれない相手
ばかりになり、これまた顧客満足度低下につながる恐れも。
・経費削減を行うことで、付加価値創造に必要な経費まで
削減してしまう恐れがある。
コメント:仕入先をあまり叩くと、良い商品の仕入れができないばかりでなく、今回の事例のように、よいサポート体制も構築できなくなります。
ミートホープの食肉偽造事件やマルハ子会社の賞味期限切れマグロ使用問題などは、スーパーや加工メーカーなどが、安い原材料を追求しすぎたことが一因ともいわれていますね。業界は違いますが、価格でしか競争力を持たない会社の行き着く結果ではないでしょうか。価格競争の怖さを感じませんか。
ミナト商事はどうなるでしょうか。
(注)運転資金の要調達率
「売上債権+在庫−買入債務」を運転資金の調達高(A)といいます。Aを年間売上高で割った値が運転資金の要調達率です。運転資金の調達高が増加すると資金が不足します。要調達率がプラスで大きいということは、不足する資金が、売上高に対して大きいことを意味します。ミナト商事では、この値が増加しているわけで、借入金が増加する原因をつくっています。
(基本的な考え方を学びたい方は、「新版 経営分析の基本がハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)p96を参照してください)
◆第8回 収益性の問題をめぐって
■営業利益を目標にすべきだ
会議室では、9月の中間決算に基づき、会議が行われていた。
山田社長と新田本部長、石田部長、親会社Y社から出向で来た
花田経営管理室長である。花田が、経営分析表を説明した。
「借入金月商倍率(注1)は2.3倍、運転資金の要調達率20%、
売上高経常利益率3.8%となっています。借入金月商倍率は、
かつて2倍以下でしたが、短期借入金の増加が原因で、悪化しています。
3倍以上の要注意領域に近づいています。そのため運転資金の
要調達率がアップし、売上をアップすればするほど、借入需要が
発生する構造です。支払利息(営業外費用)の増加と受取リベート
(営業外収益)の減少が、売上高経常利益率を低下させています。」
花田は、さらに収益性の低さに関係する点を説明していった。
「この業界では、経常利益を目標にしてきましたが、これからは、
営業利益を重視すべきです」という。
石田がここで口を挟んだ。「受取リベートを営業外収益に入れているので、
経常利益ベースで考えないと、うちの収益性は計れないですよ」
花田は、「なぜ受取リベートを営業外収益で処理しいているのですか?」
と質問した。「それは、いままでの慣行です」と石田は返した。
花田は「それなら、そのルールを変えたらどうですか? 受取リベートは、
仕入に伴うものですから、仕入から控除すべきと思うのですが」と主張する。
「そうすれば、営業利益にプラスに働くので、営業利益は、会社の本来の
儲けを表しますね」
そこに山田社長が入って「銀行は、経常利益を重視しているので、
長年、経常利益を重視してきたんだ。いまさらその処理は変えられないだろう」
という。
花田は「銀行が経常利益を重視してきたのは、金利負担した後の利益を
見たいからではないですか。実際は、営業利益に受取利息と受取配当金を
加算した利益(注2)を支払利息で割って、
インタレスト・カッバレッジ・レシオを出して判断しています。
ミナト商事は、いま3倍ですから、標準値の4倍を下回っています。
銀行が1%金利をアップしてきたのもその辺を見ているからではないですか」
石田は「確かにそうだ。以前は4倍を超えていたからね」という。
ミナト商事では、これまで営業利益が話題になることはなかった。
金融機関が経常利益を重視してきたからである。山田社長と銀行の
支店長との会話でも出ないし、営業部門の全社目標も経常利益で
考えられてきたのである。
売上高営業利益率は1.8%で、最近は営業減益が続いていたが、
受取リベートで経常利益は何とか増益を達成してきたのである。
花田は、この点を問題点として指摘しているのである。受取リベートが、
ミナト商事の営業の質を悪くしていると見抜いているのだ。
■収益性の悪化
運転資金の調達高が増加しているのは、他でもなく、在庫の増加と
売上債権の増加である。この点は、読者の皆さんも、これまでの流れを
読んでいれば理解してもらえるはずで、意外ではないでしょう。
意外なのは、固定資産の増加を花田が指摘してきたことだ。
「なぜ、こんなに備品が増えているのですか」と花田は山田社長に質問した。
山田社長は、石田に回答するように促した。
石田は「これは前任の営業本部長のときに、自社用の事務機器を多めに
購入したことが原因です。今はこのようなことはないですが」と答えた。
花田は「備品の増加は、支店の増強が原因ですか?」
石田は「それもありますが、実はメーカーからリベート欲しさに、
前任の営業本部長が、仕入先のメーカーから、購入を促進したことが
一因なのです」と少し言いにくそうに説明した。
花田は「なるほど」とうなずくだけで、それ以上は何も言わなかった。
花田は、「ここでもか」と問題点を認識したようだ。
「ミナト商事の総資産経常利益率は、以前は6%を超えていたのですが、
4%台に落ち込んでいます」
「その原因は、在庫増、売上債権増のほか、固定資産増が総資産を
押し上げて、収益性を悪化させています。売上高と経常利益だけで
経営を見ていると、収益性の動きはわからなくなりますよ」
花田は、収益性の低下を指摘した。
山田社長は、総資産経常利益率を知らなかった。それを察した石田は
「それは見ていましたが、わが社の目標は、あくまで
経常利益ベースでしたので」と財務専門家らしからぬ言い訳をした。
花田は、気を利かせ、ゆっくりと説明を加えていく。
「収益性とは、投資額に対するリターンの割合です。ミナト商事の
総資産が投資額で、そのリターンを経常利益として見ると、
総資産経常利益率(ROA:Return on Assets)という収益性の指標が
計算できます」
さらに「Y社では連結経営を重視し、資本コストを意識した経営を
しています。関連会社においてもこの点を踏まえた経営をする必要が
あると、親会社は考えています」
山田社長も、新田も目を丸くして聞いていた。売上高や経常利益でしか
経営を見てこなかった山田社長にとって難題であるが、ここはしっかり
受け止めざるを得なかった。
新田は、花田が何を言っているか詳しく理解できなかったが、
これから始まる「何らかの厳しい制約」を感じていた。
問い:「資本コストを意識した経営は、会社経営にどのような
影響を与えるだろうか」
(注1)借入金月商倍率(倍)=(短期借入金+長期借入金+割引手形)
÷売上高(月)
3倍を超えると要注意である。
(注2)営業利益+受取利息+受取配当金=事業利益
事業利益÷支払利息割引料=インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)
インタレスト・カバレッジは、4倍〜5倍以上なら
利息の支払いに余裕があると判断される。
(借入金月商倍率(倍)、インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)の
基本を学びたい方は、
「計数感覚がハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)p94、p144
を参照してください。
また
「新版 経営分析の基本がハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)p109
では、借入金月商倍率(倍)の解説をしています)
さて、前回の問題に対する回答をご紹介します。
問題は、
「意外な点から収益性の低さを指摘された」とは?と
「本来、収益性とはどういうことだろうか?」の2点です。
「意外な点」に関して、元ABS受講生の方の回答は、
「商品を取引先より購入してから、販売し、収益を回収するまでの期間が
長いと指摘された」というものです。
コメント:これは、在庫と売上債権の回転日数が長くなった
ということですが、意外な点ではなく、新田も社長も問題点として
今までも認識してきましたね。
もう一人、メーカー営業職の方の回答は、
「販売収益のみに頼っていて、別のサービス(保守・管理その他)
による追加の収益源がない」というものでした。
コメント:収益性を高める今後の課題ですね。良い提案ですが、
現状の収益性の低さとは別に考えるべきです。今後の課題としても、
販売数量を伸ばすことに力を入れている限り、労働集約的なこの提案は、
受け入れられない可能性もありますね。
収益性については、以下のような意見がありました。
1.収益性とは、投資金額から得られるキャッシュフローの割合。
2.収益性は、投資時から収益が上げられるまでの期間。
3.収益をあげる効率性のこと。
コメント:1が本文の考え方に合致しています。利益ではなく
キャッシュフローを使っている点は、良いと思いますが、
キャッシュフローの種類は何でしょうか?
ぜひ言及いただければと思います。
2は、収益の定義が不明確です。収益は売上高も含みます。
利益という表現の方が的確です。早く利益を出すということは、
収益性(ROA)は高くなる可能性がありますね。
3は、効率性の意味が不明確ですので、詳しく言及する必要がありますね。
◆第9回 資本コストを意識した経営
■資本コストとは
新田は、経理部の菊池を誘って、飲んでいた。
「なあ。この間飲んだとき、資本コストの話をしていたよな。
この間の花田経営管理室長との会議でも出てきたんだが、その後何かわかったか」
新田は、この間の会議で、ほとんど意味がわからなかった資本コストのことを聞こうとしていた。
菊池は「予算書にもあるから、調べてみたよ。資本コストの代表は、
金利だそうだよ。資金調達コストという意味なんだ。
ミナト商事の借入平均金利は、約3%だから、資本コストも3%だ」
「平均金利ってどう求めるんだ」新田は資本コストが少し見えて、
興味がわいて来たようである。
「支払利息総額を借入金残高で割れば出るよ。
ただ、実質金利という考え方があって、支払利息−受取利息を
実質金利として借入残高で考えれば、もう少し下がるかな」
菊池はかなり調べたようである。
「そうか、資本コストを意識した経営とは、金利を意識して、経営を行うということか」
新田はさらに会議での意味が見えてきたような気がしてきた。
「ただ資本コストって金利だけではないようなんだ」菊池はつぶやいた。
「金利以外に、何がある?」新田は聞き返した。
「親会社のY社では、どうも配当もコストと見ているらしいんだ。
Y社は上場しているだろう。だから銀行も株主も資金提供者として同等に考えて、
配当をコストと考えるらしい」菊池はやや納得できない様子だ。
「配当コストは、かなり高く設定されているようで、
ミナト商事の資本コストは、金利より高くなっているんだ。
予算書に資本コストが5%と記してあるのは、どうもそういう理由らしいよ」と菊池は言う。
■教育の必要性
後日、新田は「資本コスト5%をどのように意識して、
われわれは行動すればいいのでしょう」と石田財務部長に聞いてみた。
「株主と金融機関から、平均5%で資金提供を受けていると考えて予算化しているのです。
その資金の活用総額が総資産と考えると、総資産の5%超の利益を生まないと
株主と金融機関に配当や利息を支払えないことになる。
ミナト商事としては、先日の会議で花田君から話があった、
総資産経常利益率(ROA)5%超を達成しなければならないわけです。
Y社からの強い要望を受けての予算なのです」
と石田は、親切に説明してくれた。
石田は、先日の会議後に山田社長からも同じような質問を受け、
これは社内にきちんと説明して、幹部はしっかり理解しておかないと、
親会社との関係でまずいと考えたのである。ここは財務部長の出番である。
石田は続けて、
「不用意に在庫や売上債権を増やしたり、
これまでのようにリベートのために固定資産を増やすと、
ROAの分母である総資産が膨らみ、収益性が低下して、
5%の達成が厳しくなるというわけです」と新田に促した。
新田は、この話で在庫の削減と売上債権の削減が必要な理由に気付いたのである。
「かなりやり方を変えないと、予算書の目標を達成することは難しいな」
と新田は感じていた。
その後何度か、花田室長との会議を進めるうちに、
今後の収益性アップ策をまとめることになった。
花田は、収益性アップのために2つの方向を考えるべきであり、
ミナト商事が今後どの方向に向かうべきかを決めなければならないと提案していた。
また花田は、社内の会社数字に関する知識不足、認識不足に気付き、
社内勉強会を提案した。
石田も必要性を社長に進言し今後、営業社員を中心に研修会を実施することに決まった。
しかし山田社長は、営業担当者の財務研修にはあまり乗り気ではなかった。
商品知識や商品プレゼン力のアップの方が急務で、
会社数字のような財務関連研修の優先順位を営業に行うことは優先順位が低いと考えていて、
研修するなら幹部だけでいいという考えであった。
新田はそんな社長の考えに少し違和感を感じるようになっていた。
Q1:社長の考え方に賛成、反対を述べてください。
Q2:一般的なROAアップの2つの方向性とは何でしょう?
(ROAと資本コストの関係について学びたい方は、
「計数感覚がハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)p154の
残余利益を参照してください。
EVA(経済付加価値と同様な考え方です。)
さて、前回の問題「資本コストを意識した経営は、
会社経営にどのような影響を与えるだろうか」に対する回答をいただきました。
印刷業のAさんから、とても良い回答をいただきましたのでご紹介します。
資本コストは、最低限の収益性目標になります。
収益性を無視した活動に制約が出てきます。
Aさんのおっしゃる通り、顧客無視になることは注意を要しますね。
⇒投資金額が、将来にわたり、どのくらいのリターンを生むかを意識するようになり、
その分、借り入れにより敏感になり、設備投資などの基準が厳しくなる。
株主利益を優先し、利益重視の経営として、筋肉質の経営へとなることもあるが、
それがいきすぎると、顧客無視の株主至上主義となってしまう。
営業利益や経常利益が出ていないのに、最終利益を稼ぐために、
姑息な帳尻合わせをするようになる。
◆第10回 新田の苦笑い
■研修始まる
営業に対する研修が始まった。
選抜された25名の営業責任者を中心としたもので、
はじめてということもあり、アカウンティングの基本と活用を
2日間で行うというものである。
研修は、外部の機関Q社に依頼している。
研修機関からは、2日間では活用編までは難しいという意見を
もらっていた。
しかしこれまで教育研修をほとんど実施したことがなかったので、
予算を取ることが難しかったのである。
このため何とか2日でやって欲しいと、ミナト商事側から要望を出して
実施にこぎつけたのである。
Q社から、実施1ヶ月前に、事前アンケートが届いた。
この内容で、参加者の意識調査を行って欲しいという。
参加者の
1、職務経験
2、アカウンティングの勉強経験
3、研修に期待すること
の3点である。
25名にアンケートをとったが、2のアカウンティングの
勉強経験がある人間は皆無であった。
よって3の研修に期待することもほとんど記述がない。
実は何を記述していいかわからないのである。
新田自身は、今回は事務局の役目だが、自分も受講するつもりで、
しっかり勉強するつもりだ。新田自身は、在庫や売掛金と収益性の関係を
ぜひマスターしたいと考えていた。資本コストについても理解したかった。
研修は始まった。
■計数感覚の意味
はじめに講師から、「計数感覚の重要性」の話があった。
「計数感覚とは、企業活動と会社数字の関係を理解できる能力」だそうだ。
計数感覚がない社員が多いとどうなるか、例をあげて、講師は説明している。
「売上予算だけを現場に与え、営業評価する会社では、
売掛金や在庫が増加する傾向があります。売上債権や在庫の増加は、
運転資金の不足をもたらし、一時的な借入(短期借入金)の必要が
生まれます。
借入を行っていくと、金利負担が増え、利益を圧迫します。
この状態になっても、売上予算達成のために、売上増加を本部が指示すると、
販売する商品が不足し、販売機会損失を起こす懸念から在庫確保の要求が
出てきます。在庫の増加は、さらに必要運転資金を増加させ、
借入の実施、金利発生、利益圧迫の悪循環に陥ります。
最悪の場合、倒産の危機に陥ることもあるのです」
講師は淡々と説明していくが、新田は苦笑いせざるを得なかった。
ミナト商事の出来事を見透かされているようだからである。
「無理な売上アップ⇒在庫や売上債権増加⇒運転資金の不足⇒
借入金の増加⇒金利増加⇒利益減少という因果関係を
社員は知っておく必要があります」と講師は説明した。
「しかし、この流れを知っておくだけでは、問題は解決しません」という。
「なぜこのような悪循環になったか、真の原因を明らかにしなければ、
同じことを繰り返すことになります」と講師は強調する。
新田は、この真の原因が何であるか、その時はハッキリと気付いてはいなかった。
Q:本文に関連して、運転資金の調達高(売上債権+在庫−買入債務)という指標があります。
これを年間売上高で割って、運転資金の要調達率を求めます。
(運転資金の調達高÷売上高×100=運転資金の要調達率)
運転資金の要調達率が5%ということは、どういう意味があるでしょうか?
わかりやすく説明してください。
(運転資金の調達高については、
『新版・経営分析の基本はハッキリわかる本』(ダイヤモンド社)の
p94-p101を参照してください)
さて、前回の問題、
Q1:社長の考え方に賛成、反対を述べてください。に対する回答をご紹介します。
Q1:社長の考えには反対
1.値引きやリベートがどの程度収益性に影響するのかを知っておくことで、
収益性をコントロールできる。
2.売上高営業利益率が10%であれば、原価、経費をそのままで、
売り上げを1%上乗せすると、営業利益が1割改善する。
3.最前線での、価格コントロールの意味を理解させるためにも
営業に財務を知ってもらうことは意味がある。
4.取引先の与信判断にも必要となる。
⇒なお、賛成という意見はありませんでした。
計数感覚を養成して、企業活動と会社数字の関係を、
営業なども理解しておかないと、本文の講師の例のように、
「無理な売上アップ⇒在庫や売上債権増加⇒運転資金の不足⇒
借入金の増加⇒金利増加⇒利益減少」が起こってしまう点がポイントです。
なお、前回のQ2:一般的なROAアップの2つの方向性とは何でしょう?
に対する回答は、引き続き募集します。
次回にご紹介します。
(収益性の2つの方向については、
「会社数字のコツがハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)の
p140−151の
「街のカレー屋さんとインドカレー専門店のどっちが儲かる?」の
一連の話を読んでいただくとよくわかります)
◆第11回 収益性のアップの方向
■収益性の意味
「企業は収益性を重視します。収益性とは何でしょう?」
という質問があった。
受講生Aは、「売上高利益率のことです」と答える。
講師は、「それは本質的な答え方ではありません」という。
受講生B「在庫を減らすこと」
講師 「質問に答えていませんね」
受講生C「少ない費用で多くの売上をあげることです」
講師 「それは、Aさんの言っていることと同じですね」
このやり取りを聞いていた新田は、以前、経営管理室長の花田に
教えてもらった総資産経常利益率(ROA:Return on Assets)
のことを思い出していた。
そして自分もこの質問には、ついこの間まで明確な考え方を
もっていなかったことを考え、複雑な思いであった。
講師は、「収益性とは、使ったお金、つまり投資したお金に対する
利益の割合です」と説明した。
「たとえば、100万円を銀行に預金して、1万円の金利を受け取れば、
その預金の収益性は1%です。収益性は%で示すのが一般的です。
金利は預金の収益性を示しています」
「会社でいえば、投資したお金、すなわち総資産に対し、
どのくらいの利益を生んだかという割合が、収益性です」
受講生は、収益性の意味を理解できただろうか。新田は心配になった。
■2つの方向
それでは、「収益性をアップするためには、2つの方向を考える
必要がありますが?」と講師は、受講生に質問してきた。
受講生Aは、苦し紛れに「値上げするか、値下げするかです」と回答した。
講師は、「なかなかいいですが、もう少し本質的に考えてみましょう」という。
この講師は「本質」という言葉が好きなようである。
新田は、何か大切なものに気付きそうであった。
講師は、「値上げするとは、売上高利益率をアップすることです。
値下げすることは、販売数量を伸ばすことですね」
「値上げと値下げは、会社の戦略上、同時にはできません。
どちらかに絞る必要があります。売上高利益率アップと
販売数量アップの2つの方向という言い方が本質的な答え方ですね」
と講師は説明する。
■高付加価値戦略
講師は、「2つの方向の例を考えれば、もっとよく理解できるはずです」という。
「売上高利益率のアップは、いわゆる高付加価値戦略です。
しかし値上げすれば高付加価値になるかといえば、否です。
いままで、安売りで集客してきたスーパーが、突然値上げしたら、
客離れを起こすでしょう。高い利益率を維持するためには、
それを前提とした、戦略思考や販売体制を構築する必要があり、
一朝一夕には実現しません。単に値上げするという策は、
戦略が無いに等しいのです。」
「最近のタクシー業界の値上げの動きなどがその例です。
これに対して、トヨタのレクサス販売戦略は、
高付加価値戦略のいい例でしょう。」
■低価格・シェアアップ戦略
「販売数量を伸ばす戦略は、低価格戦略で行われます。
ディスカウントストアがその例です。店舗や什器、人件費などを
省略し、薄利多売します。商品一個当たりの粗利益額は低くても、
多くの量を販売することで利益額を増加できます。
日用品の構成比が大きいドラックストアは、低価格戦略の例でしょう。」
しかし、薬の販売を重視するドラックストアでは、調剤薬局を併設したり、
化粧品のカウンセリングのために美容部員を置いたりすることで、
高付加価値戦略を取り入れようとしています。
同じ業界でも、収益性アップの戦略は、異なるのです」
新田は、なるほどと聞いていたが、
「ミナト商事はこれまで、販売数量アップ戦略であったことは
間違いない。しかし今後はこれでいいのだろうか?」
と考え始めていた。
Q:ミナト商事の今後の進むべき方向を考えてください。
■損益計算書への影響
営業担当に対する研修は、続いている。
受講生Wが質問した。
「在庫が悪であるとよく言われますが、なぜでしょう?」
講師は「誰か、その理由を説明できますか」と逆質問してきた。
受講生A 「在庫が売れ残ると、安売りで在庫処分しようとするので、
粗利益率(売上総利益率)が下がってしまいます」
講師 「わかりやすい意見ですね」
受講生B 「在庫を持つと、破損、陳腐化、盗難などの商品価値の
減少も発生し、売上原価をアップさせます」
受講生C 「在庫スペースが必要になるからです。
その分、家賃などの固定費がかかります」
受講生Cに対して、講師は
「家賃、地代、建物の減価償却費、固定資産税など、
さまざまな費用がかかりますね」と整理して説明してくれた。
さらに「Aさん、Bさん、Cさんの考え方に共通している点は何でしょうか?」
と講師は質問してきた。
受講生の吉田は、
「A君の考えは、売上減少につながり、B君とC君の考えでは、
費用のアップをもたらします。いずれも、利益に悪い影響がある
という点で、共通しています」と自信ありげに回答した。
「なかなかわかりやすい説明で、的を突いていますね」と講師には好感触である。
吉田は、名古屋営業所の責任者で、営業成績もよい。
新田は、「なかなかやるじゃないか」と感心して聞いていた。
講師は、「破損、盗難があると、なぜ売上原価がアップするのですか?」
と受講生Bに質問した。
受講生B 「破損や盗難にあった商品は、在庫にならないので、
その分の商品仕入原価は、売上原価に算入されるからです」
講師 「よく理解していますね。整理すると、破損などで廃棄した
商品は廃棄損として把握し、陳腐化によって、
仕入原価より時価が下がったケースでは、
その差額を商品評価損として把握します。
廃棄損と商品評価損は、ハッキリと認識できますから、
管理は可能です。これに対して、盗難による損失は、
つかみにくいので、計算した結果として売上原価に
算入されてしまいます」
「もっともこれらのロスをきちんと記録していれば・・ですが。
破損などの事実、原因、数量をしっかり記録しておかないと、
金額でどのくらい発生しているかわかりません。
現実にはこのようなケースが多く、
ロスが垂れ流しになってしまいます」
「ロス額が、売上高の1%を超えれば、
利益に対する影響が大きくなります。
年商100億の企業なら、1億円が無駄になっている計算です」
「吉田さん、この金額は御社にとって大金ですか?」
と講師は質問した。
吉田 「社員300名のミナト商事では、一人当たり約33万円ですから、
大変な金額です」
新田は、この話を聞きながら、吉田は、よく勉強しているなと感じた。
さらに在庫のロスをしっかり管理しないと、売上総利益率が悪化する。
うちではどうなっているんだろう、と少し心配になってきた。
■貸借対照表への影響
講師 「それでは、貸借対照表への影響は何でしょう?」
受講生の間に沈黙が続いたが、やはり吉田が、口を開いた。
「在庫が増加することで、追加資金が必要になります」
講師 「追加資金が必要になるとその資金はどうしますか?」
吉田 「手元資金の余裕がなければ、借入が必要になります」
講師 「よい答えです。そのような資金を運転資金と呼んでいます。
短期借入金の調達をすることになります」
「つまり在庫が増加していくと、追加資金が必要になり、
短期借入金が増加して、流動比率などの短期の安全性の指標を
悪化させます。さらに金利の増加、利益の減少というように影響が波及すれば、
自己資本を減少させ、自己資本比率も悪化していきます。」
「利益への影響だけでなく、安全性の指標を悪化させる
ということを、しっかり認識してください」
「流動比率や自己資本比率で、安全性の悪化を検証できますが、
月次の業績管理では、他にチェックすべき経営指標があります。」
新田は、「この話って、うちの問題と同じだ」と気付いた。
受講生にもこの点は気付いて欲しいと考え、後でしっかりフォローしようと決意した。
Q:月次の業績管理で、チェックすべき指標とは何でしょう。
在庫が決算書に与える影響については、「会社数字のコツがハッキリわかる本」
(ダイヤモンド社)のp66、p118−p123をご覧ください。
★さて、前回の問題「ミナト商事の今後の進むべき方向を考えてください」
については、お二人の方から、回答をいただきました。
1.33才 メーカー 営業職
機器導入によるコスト削減や業務効率化のコンサル提案を行なうなど、
より付加価値を高めたサービスを行い、利益を得る
2.28才
独自製品を(提携などで)開発する。
◎コメント:
ミナト商事は、卸売業ですから、第11回の問題は、
卸の成長戦略を提案いただきたいということですね。
1は商品の販売だけでなく、コンサルティング業務を強化し、
そのフィーを収益の柱にしようというものですね。
やっと研修を始めたミナト商事にとって、ハードルが高い業務ですね。
しかし新市場に算入するよりは、シナジーもあり、
このような方向をめざすことは、賛成です。
ただし中期的な戦略のもとに取り入れる必要があるでしょう。
粗利益率のアップにつながり、高付加価値戦略を
めざすということでしょうか。
2は、プライベート商品の開発ということですね。メーカー品より、
品質が劣るというイメージを与えないことが重要ですね。
この点をどうクリアーするが課題ですね。投稿者の方はもちろん、
他の方でも、この課題の解決策の回答もお待ちします。
この他にも、ミナト商事の成長戦略を引き続き募集します。
◆第13回 月次業績管理で大切なこと
■月次業績管理に必要な安全性の指標
「在庫の増加が、資金需要を引き起こし、短期借入金などが増加して、
流動比率などの短期の安全性の指標が悪化していく過程は、
定期的な分析で発見できます。
それでは、安全性のチェックのために、毎月チェックすべき
経営指標がありますが、何でしょう?」
と講師は質問した。
受講生D 「売上高や売上高利益率です」
講師 「それは、収益性の指標です。もちろんこの指標はチェック
すべきですね」
「それでは、安全性の指標では何かありますか」
Dは考え込んで答えた。
「固定比率ではないですか?」
講師 「固定比率も重要ですが、流動比率と同じように
毎月チェックすべき指標ではありません。
短期的には大きな変化が現れないからです」
「ところで、皆さん。安全性を見るということは、
何を見ることですか?」
と講師は、やや心配そうに質問した。
受講生は、全員黙り込んでしまった。
肝心なことをしっかり認識していないようである。
講師 「安全性を見るということは、支払い能力を判断する
ということです。たとえ利益が出ていても、
手元にお金(資金)がなければ、支払いはできません。
流動比率や固定比率が良くても、支払ができなくなる
可能性があります」
受講生D 「それって、黒字倒産のことですか?」
講師 「いいところに目をつけましたね。利益が出ているのに、
支払いができなくなって、事業を継続できなくなることは、
よくあるのです。これが黒字倒産ですね」
吉田 「そうするとチェックすべきは、資金繰りということですか?」
講師は「そういうことですね」といって吉田に微笑み返す。
新田は、「吉田はよくわかっているな」と感じていた。
講師 「資金繰りのためには、3つの勘定科目に注目する必要が
あります。売上債権、在庫、買入債務です。この3つは、
営業活動と共に常に変化し、会社の資金繰りに影響します。
運転資金の調達高(売上債権+在庫−買入債務)の増加は、
営業キャッシュフローを減少させ、資金繰りを悪化させます」
「在庫回転率、売上債権回転率、買入債務回転率などをチェックし、
異常値を監視しましょう。さらに資金部門では、
入金予定と支払予定を立てて、資金ショートしないように
細かい管理が必要です」
「また、借入金対月商倍率(借入金÷月間売上)をチェックして、
借り過ぎにも注意しましょう。借入金対月商倍率は、
1.5倍くらいまでが健全です」
新田は、講師の説明を聞きながら、これまで自分がやってきたことが、
会社の安全性に悪影響を与えてきたことを痛感するのだった。
ふと横を見ると、経営管理室の花田が、新田の隣に座っていた。
花田は、新田にささやくように説明してくれた。
花田 「花田「わが社の最近の借入金月商倍率は2.8倍までアップしている。
運転資金の要調達率(運転資金の調達高÷年間売上高)16%に下がった
けど、売上高経常利益率2.6%に低下したんだ。
借入金月商倍率は、以前は2倍以下だったけど、短期借入金の増加が
原因で悪化して、3倍の要注意領域に近づいている。何とかしないと・・・」
新田は、今回の研修で、自分が一番勉強になっているなと感じていた。
Q:運転資金の調達高の各項目をチェックすべきなのですが、
チェックするには問題があります。どのような問題でしょうか?
さて、前回の問題
「Q.月次の業績管理で、チェックすべき指標とは何でしょう」
については、回答をいただきました。
A.主にキャッシュフロー関係をチェックするべき。
売掛金/買掛金はいくら発生したのか?今月の支払いはいくら必要なのか?
現金は手元にいくらあるのか?を確認し、
支払いが焦げ付かないようにすることが最優先となる。
⇒まさにその通りです。実際に経営をやってみると、
資金繰りには苦労させられますね。ですから、脱サラするには、
ラーメン屋がいいわけです。
詳細は、「会社数字のコツがハッキリわかる本」(ダイヤモンド社)
p96をご覧ください。
◆第14回 運転資金管理の難しさ
■売掛金管理の課題
講師は、質問した。
「運転資金の調達高の各項目を毎月チェックすべきなのですが、
チェックするには問題があります。どのような問題でしょうか?
一つひとつ考えてみましょう。まず売掛金はどうでしょう」
受講生A 「売上代金である売掛金は、毎月チェックして請求しないと、
資金繰り、特に入金管理ができなくなります」
受講生B 「請求漏れという事態です。得意先の会社で、
請求書の発行漏れがあって、翌月の給料の支払いに
支障をきたしたと聞いています。
わが社の請求の流れでも、営業部門から本社への報告を
怠たったり、ミスすると、請求漏れということは考えられます」
花田が口を挟んだ。
「先日もある営業所の売上報告が遅れて、請求が1ヶ月ずれた
事例がありました。商品管理部門が、出荷を管理しているので、
遅ればせながら発見できますが、営業部門の方は、
しっかり意識してください」
受講生Cが花田の話を聞いて、
「わが社は本社からの一括請求ですから、回収結果を
営業部門に教えてもらわないと、回収するという意識が
薄れてしまいます」
講師 「ミナト商事にもいろいろ課題があるようですね。
販売は、売掛金の回収(入金)を持って完了するのですから、
営業部門の方は、しっかり意識する必要がありますね。
そのための仕組み作りが大切です」
新田は営業担当のときに、代金の回収時期をあいまいにして
受注していたことを思い出していた。
受注活動は自分の仕事だが、売掛金の回収活動は本社の仕事だ
という意識が営業担当者にあることが、わが社の問題だと気付いた。
「これは早急に対処しなければ・・」と新田は思うのであった。
■買掛金管理の課題
受講生D 「買掛金の管理は、われわれ営業にはできません。
この点どうしたらいいのですか」
講師 「それは本社購買部門の課題ですね。今月の支払いが
いくらになるかは、資金管理上、とても重要ですが、
確かに営業ではわかりません。営業部門が資金繰りに
興味を持たない理由の一つです」
新田は「これまで商品の販売のことしか頭になかったな」
とあらためて考えさせられた。
講師 「買掛金の管理だけなら、納品書と請求書に基づき、
残高管理をしておけば、意外と容易です。
先方が請求を出し忘れていることもあるので、
この点は気をつけましょう」
講師は続ける。
「支払期限に資金が不足する場合、その資金を調達する
必要がありますが、この業務は一部の管理部門に
任されています。中小企業なら社長の仕事です。
問題は、資金不足がなぜおきるかをしっかり把握して、
事前にしっかり対応策を準備することです」
新田は、支払いという重要な部分を、営業では経験できないという点が、
問題を作り出していると感じていた。
何かいい方法はないものだろうか?
新田の悩みは尽きない。
■在庫管理の課題
講師は、続けて説明する。
「購買部門はできるだけ安く仕入れることを考えます。
これに対して営業部門は、できるだけ早く納品
できるように考えます。両者の考えを同時に満たすと
どうなるでしょうか」
受講生D 「たくさん仕入れると、仕入単価も下がるので、
在庫切れがなくなります。営業部門にとっても良いことです」
受講生E 「それでは在庫の増加を助長しませんか」
受講生F 「E君に賛成です。在庫は悪であると教わったばかりですから」
講師 「仕入れと在庫をバランスよく管理するためには、
どうしたらいいでしょうか」
受講生A 「どのくらい売れるかという情報に基づいて、
仕入れればいいのでは」
受講生C 「どのくらい売れるかわからないので、
本部へは売らなければならない数量を報告していますよ」
これを聞いていた花田が「C君、そんなことをやっているから、
いつも在庫過多で、借金が増え続けているんだよ」
とやや興奮して発言した。
新田は「これだ。わが社の営業の問題だ」と気がついた。
自分も本部からの売上予算達成への圧力で、達成すべき予算を、
販売見込みとして報告していたことを思い出したのだ。
講師は「なぜ在庫が増えるかの本質が見えてきましたね」と言う。
講師 「在庫管理は、どのようにやっているのですか」
受講生D 「半期に一度行っています」
講師 「なぜ毎月行わないのですか?」
受講生E 「毎月、在庫をチェックすると1日営業を
休まなければなりません。活動に影響するので
難しいと思います」
講師は「これは、御社の資金不足の本質的原因ではないですか」と指摘した。
講師は続けて
「大変だからやらない。在庫管理は意外と単純な理由で、
おろそかになっています。運転資金の調達高という重要な
経営指標もデータがしっかりしていないと、役に立ちません。
計数管理では、元データの正確性が、必要なのです。
在庫データに限らず、社員の協力が不可欠です」
すかさず花田が発言した。
「皆さん。在庫は、管理しないと増えるものです。
仕入れと販売が連動していないところが問題です。
この点をこれから改善していかねばなりません」
まるで研修ではなく、社内会議のようである。
新田も、自分の考え方、行動に間違いがあったことにあらためて気付かされた。
ここでは黙っていることにした。
Q:運転資金の調達高(売上債権+在庫−買入債務)の増加が、
営業キャッシュフローを減少させることを説明できますか?
関連説明は、「会社数字のコツがハッキリわかる本」
(千賀秀信著 ダイヤモンド社)のp66-67を参照してください。
さて、前回の問題
「Q.