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監督・脚本:ウォン・カーワァイ/制作:ジェフ・ラウ/撮影:クリストファー・ドイル/出演:フェイ・ウォン、カネシロ・タケシ、トニー・レオン、ブリジット・リン 香港映画といったらアクションかホラーかコメディというのが通例だけど、この映画はキレイな恋愛映画。部屋で好きな人と二人で見るのも楽しいんじゃないかな。鑑賞の際のお供にはこの佳品を生んだ土地に敬意を表して、香りの良い中国酒を選びたい。 この映画は、それぞれ一組の男女が登場する二話構成になっている。一話目は麻薬密売の仕事をしているらしい女の子と刑事がすれ違う話、二話目ではアルバイトやってる女の子と警官が登場する。つまり合計四人がおもな登場人物になるわけだけど、そのなかでいちばん魅力的なのは二話目にでてくるショート・カットの女の子、フェイさん。この意見にはだれも異論はないはず。フェイはバイト先のファーストフードショップのお客さんである警官を好きになってしまう役回りで、無断で人の部屋に忍び込むわ、その侵入先でかってに留守電を消しちまうわ、電気料金は払わないわで、ほんとに迷惑な人なんだけれども、とてもキュート。 ママス&パパスの名曲「夢のカリフォルニア」を聞きながら、ファーストフード・ショップの床をモップでがしがしと磨く。その無造作な姿をみたら、認識番号633号の警官ならずとも、結局は彼女を気に入ってしまう。フェイはすごく美人というわけではないんだけど、カメラの視線は彼女のいちばんいい表情をつかまえている。 彼女の夢はカリフォルニアに行くこと。でも「夢のカリフォルニア」のフルートの美しいメロディ以外には、カリフォルニアのことなんかたぶん、これっぽっちも知らない。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」だって聞いたことないはず。ただ、ここではないどこかを夢見ていて、そこにいけば今の私ではないワタシが見つかると思っている。こんなタイプの女の子、知ってるよね。一話目の女の子にいたっては、ホントは黒髪なんだろうけど金髪のカツラをかぶってサングラスをかけてて、寝るときでさえもそれを離さない。 そんな彼女たちは、ある種の日本の女の子たちとそっくりにみえる。そして彼女たちの恋愛は、これはまあ、たいていの国で共通のものだから、僕らが知ってるものとそんなに違いはない。男の子のほうは、多くの恋愛の場面で僕らがそうであるように、情けなくておっちょこちょい。こんな点が「恋する惑星」を世界中で共感できる普遍的な恋愛映画として成功させた理由のひとつなんだろう。 また、超近代的な建物から一本うらにはいった路地には不法滞在者であろう外国人がうろつき、ハイテクの最たるものであるはずのコンピュータのパーツを売る店々は、盗掘品か故買品をあつかうあやしげなバザールの記憶を呼び覚ます。それは九十年代以降の日本も含めて、世界中のあちこちで見られるお馴染みの世紀末の風景だ。 それだけでなく、この映画には九十年代後半の香港の特有の運命が刻み込まれてもいて、それは登場人物たちの気持ちに反映している。香港は九七年七月に「期限切れ」になってしまったわけだけど、この物語は九四年のできごと。女の子たちが、ここではないところに居場所を求めたがるのも、一話目の男の子がやたらに期限を気にするのも、香港の「期限切れ」を恐れているからだろう。こんな気分に対する監督のウォン・カーワァイの答えは、この土地でせいいっぱい生きよう、といったものだったんじゃないかな。アヘン戦争以来の統治期限が切れたあとにも、たぶん認識番号223号の刑事はナンパに励むのだし、フェイはふてくされたように床を磨くだろう。 作中で多用されているストップモーションは一瞬を永遠にするためのウォン・カーワァイの仕掛け、僕らは一九九四年の彼ら彼女らの恋愛をいつでも、DVDで確認することができる。
###あらすじ 一軒のハンバーガー・ショップを起点に、ふたつの愛の物語がスタートする。銃弾をすり抜けつつ極彩色のネオンのなかを駆け抜ける金髪サングラスの女、そしてハンバーガーショップで働くカリフォルニアを夢見る女。彼女らと出会うのは認識番号223号の刑事と663号の警官。四人のそれぞれの愛は世紀末の香港を舞台に、すれちがい重なり合う。タランティーノ監督が絶賛したアジアン・ニューウェーブ・シネマの傑作。
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