レジャーランドの経済学
―――夢のビジネスの秘密を探る―――
間仁田幸雄
レジャーランド
レジャーランドとは何でしょうか。広くとれば遊園地だけでなく、動植物園、水族館、博物館、
ヘルスセンターやクアハウスなどの施設や国民休暇村、観光農場や牧場、スポーツランド、そ
れに史跡公園などの大規模な公園も入ります。しかし、普通は遊園地のことをレジャーランドと
いっています。
「レジャー白書」を見ると、遊園地は全国で約300あります。また、遊園地に行く人は平成6年
で延べ3710万人にのぼりますが、遊園地に行った人は36%、その人たちは一年に3.1回の
割合で出かけ、約6000円使っています。それなりに費用や時間がかかるため、遊園地へ行く
人はここ数年来減少気味です。
なお、ディズニーランドだけは別格で、平成7年には過去最高の1620万人を記録しています。
これは新しいファンティリージョンというパレードが好評だったからです。最近も約10億円かけ
て新しいアトラクション「トゥンタウン」を作っています。
いずれにせよ、レジャーランドの売上高は5600億円にのぼっており、映画や演劇の約4倍、
全国のホテル業の半分強という、かなりの規模のビジネスなのです。
ジェットコースターとカリブの海賊
ここではテーマパークを中心に話を進めますが、テーマパークも遊園地の一種です。しかし、
これまでの遊園地とは性格が違います。まず、この二つを比べてみましょう。
遊園地には子供たちのお目当ての乗物があります。「ジェットコースターはどこにあるの。早く
いこうよ」こうせかされながら入っていくでしょう。息子と二人でジェットコースターに乗ってみると、
下で奥さんと娘さんが笑いながら手を振っています。このように遊園地の施設は外から乗ってい
る人が見えるようになっています。
それでは、ディズニーランドではどうでしょう。ここで人気のあるアトラクションは、「カリブの海賊」
や「スターツアーズ」といったパビリオンです。しかし、遊園地とは違って、みんな建物のなかに入
っています。ジェットコースターでさえ「スペースマウンテン」のように全く屋内だったり、「スプラッ
シュ・マウンテン」のように屋内アトラクションがあったりで、外からはあまりよく見えません。
つまり、遊園地とテーマパークでは施設のタイプが違うのです。遊園地にあるジェットコースタ
ー、観覧車、メリーゴーランド、フライング・カーペット、フリーホールなどは全て乗物(ライド)です。
しかし、自動車や電車とは違い、どこかへ行くためではありませんから、スリルがあるとか、高い
ところから景色がみられるとか、何かの魅力が必要です。実用ではなく遊びのためですから、こ
れは遊戯ライドと呼ばれています。これに対して、テーマパークの主な施設はパビリオンですが、
これは建物のなかで行われるアトラクションを楽しむための施設です。
この違いは、お客さの楽しませ方の違いからくるものです。遊園地は体感、テーマパークは感
動をあたえるものです。スポーツと演劇の違いにも似ています。
また、パビリオンは一度作ったら簡単には変えられませんが、遊戯ライドは機械ですから、建
設も簡単で安上がりで、取り替えるのも楽です。こうした違いもあります。
ところで、パビリオンは一種の劇場です。それが30以上もあるのですから、ディズニーランドは
まさに一つの大都市に匹敵するといっても言い過ぎではありません。
しかし、三つの点で違いがあります。第一は、俳優がいないということです。出演しているのは
全てロボットです。これを「オーディオ・アニマトロニクス・システム」といいますが、全体で2000
体あります。全てコンピューターで制御されていて1秒間に24コマの動作を行い、全部で1000
種類の動作が出来る精巧なロボットです。
第二は、徹底的に省力化されているということです。一つのパビリオンには出入口に2人、機
械操作に1人しか配置されていません。これを動かしているのは本部にある中央コンピュータ
なのです。
第三は、アトラクションの時間が非常に短いということです。「カリブの海賊」は11分、「スター
ツァーズ」はわずか4分30秒にすぎません。パビリオンは建設費がかかりますので、工場と同じ
ように稼働率をあげてコストダウンを図ろうとしているからです。
さらに、お客さんはライドで強制的に移動させられます。自分だけゆっくりとはいきません。パビ
リオンは実に効率的で生産性の高いシステムなのです。
しかし、パビリオンに入って、コンピューターに操られていると感ずる人はいないでしょう。それ
はキャストと呼ばれる若い女性がお客さんを迎えてくれるからです。しかし、出入口のドアの開
閉やアトラクションの操作、ライドの運転まで全て中央コンピューターで制御されていて、キャス
トはそれに合わせて説明したり誘導したりしているだけです。
ディズニーランドには自動販売機がないといいますが、お客さんには人が応対するというのが
ディズニーの思想です。このために、キャストは徹底的に教育されています。お辞儀の仕方か
ら爪の切り方までマニュアルで決められています。このようなマニュアルによる教育とコンピュ
ーター・システムとが一体となって、総合的な運営システムが出来上がっているのです。
夢の世界は作り物の世界
ところで、ディズニーランドの施設は大部分が本物ではなく作り物です。それを、いかにも本
物らしく見せる技術を持っているのです。例えば、南海の無人島に漂着した冒険家が作ったと
いう設定で作られたスイスファミリー・ツリーハウスという木の上の家があります。これはもちろ
ん人工の木で、なんと30万枚の作りものの葉がついています。冬でもジャングルらしく見える
ような工夫がしてあるのです。ディズニーランドでは、こうした研究が進んでいて、建物を古く見
せるエイジングの技術などスゴイものです。
これは、永遠に変わらない美しいものを提供するというのが、ディズニーのホスピタリティ(も
てなし)の思想だからです。パビリオンが自動制御ロボットになっているのも、単にコストや生
産性のためだけではなく、誰が何時来ても同じ状態で同じアトラクションを楽しんでもらえるよ
うにしてあるのです。このために厳しい品質管理基準のもとで、園内全体を一定の状態に保っ
ています。
「何だ。作りものか」と反発を感ずる人がいるかも知れません。しかし、本来ありえないものが
何時行っても見られるメリットもあるのです。いかにもディズニーランドらしいのですが、エコロ
ジーや自然保護が叫ばれている昨今の風潮とは正反対の世界であることも事実です。
ディズニーランドは、デンマークのコペンハーゲンにあるチボリ公園を訪れた時のディズニー
の感動から生まれました。大人も子供も、生きていることや冒険することの素晴らしさを体験し、
みんなが幸せな気分になれる場所を作ろうと決心したのです。この裏にはディズニーの子供
時代の幸せな家庭に対する憧憬があります。
しかし、実はディズニーの子供時代は決して幸せなものではありませんでした。職業を変え
ながら転々と各地を回った父親。それについていった家族。そのディズニー一家がやっと落ち
ついたのが、アメリカ中西部ミズーリ州の殺風景な街マーセリーンでした。しかし、そこでもデ
ィズニーは10歳の頃から新聞配達などのアルバイトを始め、せっかく高校に入っても1年で退
学せざるをえませんでした。
しかし、彼は子供時代がいかにも幸せだったかのように後年語っています。なんとも切ない
話です。彼は現実にあった楽しかった幸せな子供時代を再現したのではなく、本当はなかっ
た「子供時代の楽しい思い出」を実現しようとして、アニメ映画を作り、ディズニーランドを作り
ました。彼は幸せを求めて止まない不幸な男だったのです。
テーマパークを作るには、コンセプトが大切だといわれます。ディズニーランドの場合はディ
ズニーの気持そのものがコンセプトだったといえます。ディズニーの切ないまでの気持が、デ
ィズニーランドをあくまでも完璧なものにしたいという思いに駆り立てたのです。そこにディズ
ニーランドのスゴさと素晴らしさの秘密があります。
楽しさとくつろぎ
ディズニーランドはさまざまな楽しさで一杯です。パビリオンばかりでなく、パレードもあります。
とくにすごいのは、31のフロート(山車)と160人のキャラクターで作られているファンティリュー
ジョンです。ショーやストリートパフォーマンスも数えきれないほどあります。これらは行列なしに
見られます。いくら素晴らしいパビリオンでも行列していると嫌になってしまいます。そこを見越
しているのです。
また、食事をしたり、買い物をしたりという楽しみもあります。レストランは36あって、他にワゴ
ンサービスもあり、本格的コース料理からハンバーガーまであるのです。ショップは57。ミッキ
ーマウスなど誰でも知っている人気キャラクターのオリジナルグッズが目玉商品です。
このようにさまざまな楽しみがありますが、ディズニーランドの本当の素晴らしさは安心してく
つろげることにあります。
ここには案内センター、遺失物センター、伝言サービス、コインロッカー、ベビーカー・車椅子
サービス、宅配、迷子・ベビーセンター、銀行、救護サービスなどのゲスト・サービスが完備し
ています。身障者や外国人にも十分な配慮をしています。これは、これまでの遊園地にはな
かったことです。さらに、環境も綿密な景観設計のもとにきめ細かく作られています。だから、安
心してくつろげるのです。
このようにまさに都市というのにふさわしい機能が整っています。ある人はディズニーランドは
「8万人の非定住人口を持つ都市」だといっています。
さまざまな仕掛け
ディズニーランドには、こうした楽しさやくつろぎを支えるためのさまざまな仕掛けがあります。
第一の仕掛けは、お客さんのいるところと、従業員が働いているところをはっきり分けている
ことです。前者をオンステージ、後者をバックステージといいます。オンステージは、接客施設、
ゲストサービス施設、広場、道路、駐車場などの施設からなっています。
バックステージには、修理やセントラル・キッチンなどの機能施設、従業員施設、管理事務所な
どがあります。
みなさんは、パビリオンの裏側を見たことはないでしょう。「カリブの海賊」の裏側はカラー鉄
板を張った、まるで倉庫のような建物です。これでは興ざめです。だからお客さんからは見え
ないようにしてあるのです。また、ワールドバザールの2階は普通の人は入れません。ここか
らはミッキーやミーニーが窓から顔を出して手をふりそうに見えます。しかし、外からでは分か
りませんが、ここは倉庫なのです。
以前地下道が張り巡らされているという噂がありました。これは間違いですが、地下道が一
本あるのは事実です。しかし、主な施設はバックヤードから直接裏側へ行けるようになってい
ます。中央倉庫から園内のショップへの商品の運搬は、お客さんのいない開園前と閉園後に
行い、メインテナンスは夜やります。
さらに、オンステージは周りの世界から隔離された別世界になっています。バックステージは
もちろん園外の景色は一切見えないように工夫してあり、外周にはバームという土盛りと防風
林が作られて、完全に外部と遮断されています。これが非日常的な別世界という空間を作り出
しているのです。
第二の仕掛けはレイアウトです。ここのレイアウトは車輪のような形のハブ構造になっていま
す。これは顧客を誘導する仕掛けでもあります。つまり、この車輪に沿って、マグネットと呼ば
れる人気アトラクションがうまく配置してあって、お客さんはごく自然に動いてしまうような仕掛
けになっています。
ところで、シンデレラ城は何故真ん中にあるのでしょうか。実は、これは巨大な標識なので
す。広い園内で自分のいるところが分からなくなったら、シンデレラ城を見れば大体見当がつ
きます。
第三の仕掛けは運営システムです。園内のお客さんの動きを管理するために、パーク長を
トップとする運営組織が、会社の管理組織とは別に動いています。
ゲートやパビリオンの入場者数や行列の長さの情報は、コンピューターで管理されています。
それに、オープンスペースのお客さんの流れの状況や緊急事態へ対処するために、園内パト
ロールがトランシーバーを持って園内を回って、パーク長に常に情報を送りこんでいます。もし、
どこかで混雑が生まれた時には、即座にストリート・パフォーマンスをやったりして、お客さんを
別の場所に誘導するのです。いかにもディズニーランドらしいやり方です。
さらに、入場規制もやっています。ディズニーランドの適正収容人員は3万人から3万5千人
だといわれています。逆に、2万5千人以下だと空いた淋しい感じになります。また、全てのア
トラクションの1時間当りの収容能力は6万4千人、雨天の場合の屋内収容能力は5万7千か
ら8千人です。こうしたことを考慮して、お客さんに快適な気分で楽しんでもらうために、ここで
は入退場客数から園内の滞留客数を予測し、滞留客が多くなり過ぎると予想される場合には
入場規制をしています。
私たちはこのようなさまざまな仕掛けのなかにいるのです。
ディズニーランドの落とし穴
テーマパークは非常に難しいビジネスです。ところが、とかくディズニーランドのマネをすれば
いいと思ってしまいがちです。これは「ディズニーランドの落とし穴」といってもいいでしょう。
テーマパークのビジネスとしての難しさは、まずエンターテイメント、ショップ、レストランなど、
あらゆるサービス産業が入っている極めて複合的なビジネスだというところにあります。とくに
、年間1800万人、毎日5万人も入って、7時間も滞在して楽しむような大規模なエンテーテイ
メントは他にありません。ですから、ここには数々のノウハウや技術が含まれています。
これは簡単にマネできるものではありません。
次は、重厚長大産業だということです。投資の全体額が巨大というだけではなく、高いグレ
ードを実現するために個々の施設の投資額も大きくなっています。遊園地のジェットコースタ
ーならせいぜい50億円ですが、パビリオンは300から500億円もかかります。そのため、ど
うしても入場料を高くせざるをえません。テーマパークの入場料は遊園地の3〜5倍です。し
かし、高くするにも限度があります。そこで飲食や商品販売による収入をあてにします。この場
合滞在時間も問題です。なるべく長くいて、お金を沢山使ってもらいたいのです。園内で2食
してくれればしめたものだといわれています。
そればかりではなく、スポンサーシップによる収入もあてにしています。これは広告媒体として
の価値やキャラクターの広告価値如何によります。ディズニーランドの圧倒的な強さはここに
あります。他でマネするのはなかなか難しいことです。
また、コストをシーズン、季節、曜日などによる変動へ対応できるように弾力的にしておく必
要があります。従業員の約80%はアルバイトになっているのはこのためです。
さらに難しいのはリピーター対策です。施設型サービス業の宿命ですが、テーマパークは食
虫植物のようなもので、お客さんが来るのを待っているしかありません。しかも、圧倒的に多い
のは日帰り圏のお客さんです。ですから、近隣の人々に何度もきてもらう必要があります。そ
のためには需要の一巡に対する対策が必要です。
まず、大きさですが、見残しがあればまた来たくなります。さらに、アトラクションを追加したり、
リニューアルたりして、新しい魅力を増やしていくことが必要で、絶えず追加投資をしていなけ
ればならないのです。なお、最近のディズニーランドはオフィシャル・ホテルを五つも作り、滞在
型への展開を図っていますが、それはあくまでも補完的な対策にすぎません。
テーマパークはこのような難しさをもったビジネスです。とくにディズニーランドのような大きな
仕掛けのマネをするのは大変なことです。横浜ドリームランドは東京ディズニーランドが出来る
前に、アメリカのディズニーランドの真似をして失敗したケースです。
規模が小さく、投資も思い切ったものではなかったため、隣のアパートが丸見えで、とても夢の
王国にはなりませんでした。
ディズニーランドは日本のレジャーランドの概念を変えました。遊園地が子供相手の商売から
大人も含めた本格的なエンターテイメント・ビジネスになったのです。コンピューター・システム
によるアトラクション、清潔な環境作り、マニュアル化されたサービス、徹底した非日常的世界
の形成など、ディズニーランドが日本のレジャーランドにあたえたインパクトは数限りありません。
しかし、テーマパークは以上見たようにすぐにマネができるほど簡単なビジネスではな
いのです。(完)